味の素 ROIC13%超の目標設定 ROICを軸にした資本効率経営への転換と事業ポートフォリオの選択と集中
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2019年5月、味の素が西井孝明社長のもとで、投下資本利益率(ROIC)を中核の経営指標に据え、規模の追求から資本効率の重視へ経営の方針を切り替えた判断。2019年3月期は味の素フーズ・ノースアメリカ社とイスタンブール味の素食品社ののれん、プロマシドール・ホールディングス社への投資と商標権に減損を計上し、営業利益を346億円、親会社の所有者に帰属する当期利益を312億円押し下げた。
これを機に六つの重点事業へ資源を集中し、非重点事業は2022年度までに資産転用・撤退・売却を進める枠組みへ移した。
- 背景
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2014-2016中期経営計画と2017-2019(for 2020)中期経営計画で進めた食品事業のポートフォリオ拡大が、戦力の分散と重点分野への投資の希薄化を招き、主要カテゴリーでの市場創造力とコスト競争力が低下した。売上や利益といった規模を追う経営のもとで、競争力の劣る事業や経済価値を生まない事業にも資源が投じられ、成長への先行投資として進めたM&Aによる資産増加も重なって資産効率が低下した。2017-2019中期経営計画で掲げた財務目標は達成できず、2019年度を次期中期経営計画の準備の年と位置づけた。
- 内容
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資本コストを上回るROICと成長性を基準に、調味料、栄養・加工食品、冷凍食品、ソリューション&イングリディエンツ、ヘルスケア、電子材料の六つを重点事業と定めた。2030年の構造目標をROIC13%超とオーガニック成長率5%に置き、2020-2022年を構造改革フェーズとしてROIC8%、2023-2025年を再成長フェーズとして10-11%を段階の目標とした。
非重点事業は2022年度までに資産転用・撤退・売却を進め、研究開発・マーケティング・設備投資にかかる経営資源の80%を重点事業に振り向ける。中期業績連動型株式報酬も、2020年度からの3事業年度は評価ウエイトの60%をROIC達成率が占める形に改めた。
- 含意
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2019年11月28日の取締役会は基幹職を対象とする特別転進支援施策を決議し、2020年3月期に関連費用65億円を計上した。同年度のROICは3.0%にとどまったが、2021年3月期に6.9%、2022年3月期に7.9%と戻し、営業利益は487億円から1,011億円へ倍増した。
2022年度までの構造改革では約1,300億円規模の事業資産の圧縮と約800億円規模の資源の再配分を終え、この資本効率経営が2023年の中期ASV経営へ引き継がれた。
いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
「額」から「率」へ、味の素が変えた資本配分の作法
この判断の核心は、業績が傷んだなかで、味の素が事業の中身より先に"資本をどう配るか"という作法そのものへ手を入れた点にある。総合食品メーカーとして多様な事業を保有するなかで、売上の大きさや技術的な正しさ、社会的な意義といった物差しは、ときに投下資本の回収という問いを覆い隠してきた。ROICという共通の尺度を持ち込み、事業を"率"で横並びにしたことは、抱えるか手放すかの判断を情や理念から切り離し、資本効率の言葉で語り直す試みであったと思われる。減損という痛みを管理手法の刷新へ転じ、その達成度を役員報酬の6割に結びつけたところに、この転換の本気度がうかがえる。
もっとも、率を追う経営には別の緊張もつきまとう。資産を圧縮して分母を小さくすれば率は上がるが、それは将来の成長のための投資を細らせる面と隣り合わせでもある。基幹職を対象とする特別転進支援施策や非重点事業の整理は、資本効率を高める一方で、組織の活力や現場の納得をどう保つかという問いを残した。2019年度に3.0%だったROICは2022年3月期に7.9%まで戻り、構造改革フェーズの目標にほぼ届いたが、"額"から"率"への転換が長期の成長とどう折り合うかは、投資を細らせずに資本効率を高められるかという課題として残されているのだろう。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
ROIC経営への転換の条件
ROIC経営への転換の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 目標とする経営指標 | ROIC13%超(2030年) | 資本コストを上回る水準として設定。成長性の構造目標はオーガニック成長率5% |
| 段階の目標 | 2022年度8%、2025年度10-11% | 2020-2022年を構造改革フェーズ、2023-2025年を再成長フェーズと位置づけた |
| 転換前の水準 | 2019年度実績 ROIC3.0% | 同年度のオーガニック成長率は△0.5% |
| 重点事業 | 調味料、栄養・加工食品、冷凍食品など六つ | 残る三つはソリューション&イングリディエンツ、ヘルスケア、電子材料 |
| 非重点事業の扱い | 2022年度までに資産転用・撤退・売却 | 成長性または効率性に課題がある事業は立て直しを図る |
| 重点事業売上高比率 | 2020-2022年70%、2023-2025年80% | 2019年5月時点は売上高・資産ともおおよそ60% |
| 重点事業への資源配分 | 研究開発・マーケティング・設備投資の80% | 設備投資2,100億円のうち約64%を重点事業に集中させる |
| 事業資産の圧縮 | 約1,000億円規模 | 2019年5月時点。2022年度までの実績は事業資産約1,300億円と資源再配分約800億円 |
| 3か年のキャッシュ計画 | キャッシュ・イン4,000億円以上 | 成長投資2,900億円(うち設備投資2,100億円)、株主還元1,000億円以上 |
| 役員報酬への反映 | 株式報酬の評価ウエイト60%をROIC達成率 | 2020年度からの3事業年度。目標8.0%。重点事業売上高比率70%にウエイト20% |
| 財務規律 | ネットD/Eレシオ50%を目途 | 連結配当性向は40%へ引き上げ、政策保有株式は段階的に削減する |
出所:味の素 有価証券報告書 第142期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】、2019年3月期決算説明会 質疑応答(2019年5月14日)
投下資本と資産効率の推移
味の素:投下資本と資産効率の推移
| (百万円) | 総資産 | 親会社の所有者に帰属する持分 | 有利子負債 | 営業利益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2014年3月期 | 1,093,165 | 655,507 | 156,078 | 62,548 | |
| 2015年3月期 | 1,255,090 | 669,576 | 141,343 | 74,519 | |
| 2016年3月期 | 1,262,113 | 619,872 | 161,667 | 91,045 | |
| 2017年3月期 | 1,336,931 | 697,773 | 334,046 | 96,852 | 有利子負債の増加は海外食品を中心としたM&Aによる |
| 2018年3月期 | 1,426,230 | 641,445 | 155,578 | 78,706 | |
| 2019年3月期 | 1,393,869 | 610,543 | 148,146 | 53,642 | のれん・商標権・持分法投資の減損で営業利益は前期を255億円下回った |
| 2020年3月期 | 1,353,616 | 538,975 | 132,178 | 48,773 | ROICは3.0%。特別転進支援施策関連費用65億円を計上した |
| 2021年3月期 | 1,431,289 | 620,257 | 152,731 | 101,121 | ROICは6.9%。営業利益は前期の2倍を超えた |
| 2022年3月期 | 1,457,060 | 686,909 | 139,869 | 124,572 | ROICは7.9%で、構造改革フェーズの目標8%にほぼ届いた |
| 2023年3月期 | 1,511,734 | 768,676 | 132,147 | 148,928 | 2020-2022年の構造改革をほぼ計画どおり終え、成長力強化の財務戦略へ移した |
| 2024年3月期 | 1,768,371 | 814,690 | 202,151 | 146,682 | 総資産と有利子負債の増加はフォージ・バイオロジクス社の取得による |
出所:味の素 有価証券報告書 第137〜147期(連結財政状態計算書・連結損益計算書、IFRS)
セグメント別の事業利益
味の素:セグメント別の事業利益
| (百万円) | 日本食品 | 海外食品 | ライフサポート | ヘルスケア | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2015年3月期 | 24,799 | 31,984 | 14,356 | 3,123 | ライフサポートは動物栄養と電子材料、ヘルスケアはアミノ酸と医薬受託を含む |
| 2016年3月期 | 31,390 | 41,969 | 11,810 | 5,415 | |
| 2017年3月期 | 40,854 | 41,742 | 5,874 | 8,126 | |
| 2018年3月期 | 38,899 | 41,491 | 8,082 | 9,373 | |
| 2019年3月期 | 29,896 | 42,312 | 9,579 | 12,079 | 日本食品は冷凍食品とコーヒー類の減益で前期を大きく下回った |
| 2020年3月期 | 32,854 | 48,854 | 7,149 | 12,363 | ライフサポートはアフリカ豚熱の影響で動物栄養の市場が縮んだ |
出所:味の素 有価証券報告書 第137〜147期(連結財務諸表注記 セグメント情報)
同じ問いに直面した会社
同じ問いに直面した会社
参考文献
- 味の素 決算説明会 質疑応答「2019年3月期 決算説明会 質疑応答」
- 味の素 決算説明会 質疑応答「2020年3月期第2四半期 決算説明会 質疑応答」
- 味の素 有価証券報告書「第141期(2019年3月期)【経営成績等の状況の概要】」
- 味の素 有価証券報告書「第142期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
- 味の素 有価証券報告書「第143期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」
- 味の素 有価証券報告書「第145期(2023年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」