リゾートトラスト一般向けホテル「ホテルトラスティ」6施設のスターアジアグループへの譲渡

業態変更か、譲渡か——コロナ後の需要を前に、伏見有貴社長は一般ホテルをどう畳んだか

時期 2022年2月
意思決定者(推定) 伏見有貴 社長
論点 一般向けホテル事業の整理と会員制への資源集中
概要
2022年2月14日、リゾートトラストは一般向けホテル「ホテルトラスティ」6施設の譲渡を公表した。3月15日の取締役会でスターアジアグループが設けたSPCへの固定資産譲渡と、ポラリス・ホールディングス子会社への運営移管を決議し、4月28日に引き渡した。会員制ビジネスとメディカルへ経営資源を寄せる判断であった。
背景
会員権販売と年会費で先に収入が立つ会員制事業に対し、一般向けホテルは日々の客室稼働がそのまま売上になる。コロナ禍で稼働が落ち込み、2021年3月期には一般向けホテル等の減損損失220億円を計上して連結で102億円の純損失に沈んだ。
内容
金沢香林坊・名古屋栄・心斎橋・プレミア熊本の4施設は土地建物ごと合同会社Mon Talismanへ譲渡し、賃借のプレミア日本橋浜町・神戸旧居留地は什器備品の譲渡と運営会社の交代にとどめた。譲渡価額は守秘義務を理由に非開示とし、入札による市場価格と説明した。
含意
一般向けホテルは9施設のうち7施設を手放し、東京・名古屋・大阪の3拠点だけが残った。譲渡は2023年3月期に約90億円の特別利益を生み、同期の純利益は169億円と過去最高を更新した。損失処理ではなく、値がつくうちに資産を市場へ出した整理であった。
筆者の見解

稼げない資産を、値がつくうちに

コロナ禍で立ち行かなくなった事業を畳んだ、という説明では、この譲渡の要点が抜け落ちる。一般向けホテルの損失処理は前年度の減損220億円で済んでおり、6施設の譲渡はむしろ90億円の特別利益を生んだ。伏見有貴社長が2020年10月に語っていたのは、200室のうち50室を会員向けに振り向けるといった業態変更で、一般ホテルを会員制の側へ引き寄せる構想であった。その道を取り下げ、稼働が戻る前に資産を市場へ出したところに、この判断の芯があるとみることができる。

もっとも、これで一般向けホテルから手を引いたわけではない。東京ベイサイド、名古屋白川、大阪阿倍野の3拠点は会員の需要を理由に残り、整理の対象は9施設のうち7施設にとどまった。譲渡価額も守秘義務を理由に開示されておらず、入札の結果がどこまで有利だったかを外から確かめる手立てはない。しかも翌期には宿泊需要がコロナ前を超えて戻り、ホテル事業の利益は41億円へ回復している。売り時の評価は、なお分かれるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

会員制の外側に伸ばした都市型ホテル

リゾートトラストの本業は、「エクシブ」「ベイコート」に代表される会員制リゾートホテルと、その会員権の販売にある。同社はその外側に、一般客が泊まる都市型ホテルを別に築いてきた。1997年5月に名古屋市中区で小口不動産投資型シティホテル「ホテルトラスティ名古屋」を開いたのが最初で、以後は名古屋栄、心斎橋、東京ベイサイド、神戸旧居留地、金沢香林坊と広げ、2019年には日本橋浜町と熊本に上位業態のプレミアを加えた[1]

会員制と一般向けホテルでは、収益の立ち方が違う。会員制は数百万円から1,000万円を超える会員権の販売と、その後の年会費で先に収入が入る。一般向けホテルは日々の客室稼働と単価がそのまま売上になる。2016年当時、会員制の側は好調で、同社の会員権販売額はリーマンショック以降で最高の614億円に届く見通しだと、伊藤勝康社長が語っていた[2]

コロナ禍が分けた二つの収益構造

その差が数字に現れたのが2021年3月期であった。コロナ禍で需要の見通しが立たなくなった一般向けホテル事業などについて、同社は帳簿価額を回収可能価額まで下げ、減損損失220億3,400万円を計上した。会員権販売が伸びて売上高と営業利益はともに増えたにもかかわらず、親会社株主に帰属する当期純損失は102億1,300万円に達し、ROEは8.4%のマイナスまで落ち込んだ[3][4]

稼働の落ち込みは深かった。2020年10月、伏見有貴社長は一般客向けホテル「トラスティ」について、客室稼働率が関西で30%、中部で20%台半ば、東京はまだ10%そこそこにすぎないと述べている。同じ時期、ホテルや医療施設、ゴルフ場などの会員は18万人を数え、会員権の販売は7〜9月に前年並みまで戻っていた。ひとつの会社のなかで、回復の速さがはっきり分かれていた[5][6]

決断

業態変更の構想から譲渡へ

もっとも、この時点で伏見社長が語っていたのは撤退ではなく業態の組み替えであった。激しい価格競争には勝てないとして、客室200室のホテルなら50室を富裕層の会員向け、100室を長期滞在型のシニア向けレジデンスとし、一般客向けは残り50室に絞る案を挙げている。収益モデルとして確立し立地の良い施設が見つかれば、M&Aを展開する可能性も十分にあるとまで述べていた[7]

その構想が譲渡へ切り替わるまで1年4か月であった。2022年2月14日、リゾートトラストは「ホテルトラスティ」6施設の売却を公表する。トラスティの稼働は前年10〜12月も50〜60%で推移しており、以後は主力の会員制ホテルとメディカル事業に注力する方針を示した。3月15日の取締役会では、所有する固定資産をスターアジアグループが設けたSPCへ譲渡し、賃借施設を含む運営をポラリス・ホールディングスの子会社へ移すことを決議した[8][9]

手放した6施設と、残した3拠点

譲渡の対象は、金沢香林坊(207室)、名古屋栄(204室)、心斎橋(211室)、プレミア熊本(205室)、プレミア日本橋浜町(207室)、神戸旧居留地(141室)の6施設であった。前の4施設は土地・建物ごと合同会社Mon Talismanへ渡し、賃借の2施設は什器・備品等の譲渡と運営会社の交代にとどめた。譲渡価額は守秘義務を理由に開示せず、入札による市場価格を反映した価格だと説明している[10]

一方で、9施設あったトラスティのうち東京ベイサイド、名古屋白川、大阪阿倍野の3拠点は、グループの会員などの需要に応えるとして残した。手放す6施設の2022年3月期売上高は約18億円で、連結売上高1,577億円の1%あまりにすぎない。同じ2022年3月にはDeNAとの合弁でウェルコンパスを設立し、7月にはハイメディックとトラストガーデンを合併させて、医療と介護の運営を一本化している[11][12][13]

結果

特別利益90億円と過去最高益

譲渡は損失の処理ではなく、利益を生む取引になった。会社は2023年3月期第1四半期に80億円の特別利益を計上する見込みと説明し、実際に同期の固定資産売却益は90億4,400万円、特別利益の合計は98億6,900万円に達した。売上高1,698億円・営業利益122億円に対し、親会社株主に帰属する当期純利益は169億円と過去最高を更新し、ROEも15.4%へ戻っている[14][15]

整理は6施設では終わらなかった。コロナ禍の影響で2021年1月に営業を終えていた「ホテルトラスティ名古屋」(250室)が残っており、同社は2022年6月14日の取締役会で信託受益権の譲渡を決議し、7月28日に引き渡して約10億円の特別利益を見込んだ。売却した7施設の前期末帳簿価額は合計104億円あまりで、簿価に近い額の利益が上乗せされた計算になる[16][17]

残した事業の側も戻った。2023年3月期のホテルレストラン等事業は売上高897億円・セグメント利益41億6,700万円となり、6施設を抱えていた前期の737億円・2億6,100万円から改善している。会社は行動制限のない環境下でコロナ前を超えるリゾート宿泊需要があり、ホテルの稼働率が急回復したと説明した。手放した6施設分の売上を欠いたうえでの回復であった[18][19]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2016年1月29日号「【第1特集 ホテル激烈】 PART2 ホテル開発バブル シニア人気が牽引する会員制ホテル」
  • 週刊東洋経済 2020年10月24日号「トップに直撃 リゾートトラスト 社長 伏見有貴 「一般向けホテルは業態変更で富裕層を取り込む」」
  • 日本経済新聞(2022年2月14日)「リゾートトラ、一部ビジネスホテル売却へ 会員制に集中」
  • リゾートトラスト ニュースリリース 2022年3月15日「一般向けホテル事業の一部資産譲渡に伴う特別利益の計上に関するお知らせ」
  • リゾートトラスト ニュースリリース 2022年6月14日「固定資産(信託受益権)の譲渡に関するお知らせ」
  • リゾートトラスト 有価証券報告書(2021年3月期・2022年3月期・2023年3月期・連結)

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