上場企業の経営論点>再建・危機対応
不祥事後の信頼回復
不祥事のあとに企業が失った量は、不正の中身よりも、公表を自らの手で行ったかどうかで分かれてきた。追及を退けた側の代償は重い。オリンパスは損失飛ばしを追及した社長を解任し、山一證券は営業特金の含み損を連結対象外の会社へ移していた。東芝では不適切会計の発覚が歴代3社長の引責辞任に及び、西武ホールディングスは有価証券報告書の虚偽記載で上場廃止となり、三菱自動車工業は燃費試験データの改ざんを機に日産自動車の傘下へ入った。先に開示した側は事業を残している。クボタは旧神崎工場の石綿疾病を自主公表して周辺住民へ救済金を支払い、住友商事は銅地金の不正取引で当局への全面協力を最優先した。償いを恒久の枠組みに変えた森永乳業のヒ素ミルク中毒事件まで遡っても、順序は変わらない。発覚から開示までの日数が、経営陣の進退と資本の独立を左右する。
財務諸表のどこを見るか
不祥事は先に内部統制報告書へ出る。開示すべき重要な不備の有無と、その是正が完了した事業年度を最初に確かめたい。次に訂正有価証券報告書の対象年度をたどり、過年度の損益がどこまで遡って修正されたかを押さえる。監査報告書では意見の種類と、監査上の主要な検討事項に当該論点が入ったかを読む。損益では特別損失の調査費用・和解金・課徴金、製品保証引当金や訴訟損失引当金の繰入額を追う。役員の状況にある取締役の異動と社外取締役の人数が、責任の配分をそのまま表す。
2020年代
有価証券報告書の提出延長 全社に及ぶ不適切会計と、子会社における資金横領の露見 ソニー生命の金銭不祥事 開示の遅れを問われたグループの対応 ビッグローブの架空循環取引 子会社広告代理事業の廃止 清水賢治以外の取締役総退任 性加害問題を受けた刷新と、コンテンツを軸に据え直す立て直し 会計不正の発覚 第三者委員会の設置と、目標必達を優先した業績管理がもたらした経営の破綻 貸金庫窃取事件で立て直し 顧客資産をめぐる信用毀損への対応と、内部管理体制の作り直し PDハウスの不正請求発覚 受けた中期経営計画の取り下げと訪問看護体制の全面見直し 海上自衛隊への裏金供与 潜水艦事業の裏金と舶用エンジン検査データ改ざんの露呈、そして統治の立て直し IHI原動機の燃費データ改ざん 「技術を欺いた」不正の露見 ビッグモーター問題と経営刷新 保険金不正の発覚を受けた経営陣の総入れ替えとガバナンスの立て直し 政策保有株ゼロ化 2029年度末までに上場株の残高をなくすと決め、取引関係を株式で結ぶ慣行を捨てた 架空買取・不適切会計発覚 従業員が起こした不正への対応としての特別調査委員会の設置 営業インセンティブ全廃 押し売りの芽を断つ商慣行の見直しと創業者の社長復帰 桜庭省吾体制での再建 歴代2社長の経費私的流用の発覚と引責辞任、ガバナンスの立て直し 不適切会計で決算訂正 売上を前倒しで計上していた過年度分の一括した見直し エンジン認証不正発覚 偽りの露見と、その代償としての過去最大の赤字転落 日興証券相場操縦事件 傘下証券会社の不正を受けた親会社・三井住友FGの引責とガバナンス対応 UL規格不正の隠蔽 2021年から二年に及ぶ品質不正と、四度重ねられた隠蔽の連鎖 杉山武史社長の引責辞任 鉄道車両用空調の架空検査発覚と、漆間啓体制での品質風土改革 MINORI障害の頻発 度重なるシステム障害と行政処分——経営責任とガバナンス改革への転換 小野直樹の事業構成入替 中期経営戦略の策定と、それにもとづく事業構成の組み替え 燃料ポンプ大規模リコール 樹脂製インペラの不具合に伴うグループ横断の回収と、品質費用の計上 975社分の議決権再集計 行使書の先付処理の廃止と、過年度にさかのぼる誤集計の自主公表
2010年代
地面師事件で会長社長交代 分譲マンション用地取引で被った詐欺の引責による経営トップの刷新 かんぽ生命の不適切募集 問題と、経営陣の引責・グループ統治の再建 大田嘉仁氏の会長招聘 不適切な会計処理を受けた取締役会の刷新と、京セラ出身 森山栄治からの金品受領 役員らの金品受領問題の露見と、第三者委員会設置・指名委員会等設置会社移行によるガバナンス再建 リニア談合事件で起訴 事実関係を認めず、公判で全面的に争う徹底抗戦の方針の選択 三菱商事と資本業務提携 総合商社を筆頭株主に迎える資本の受け入れと、TOYO TIREへの改称 ゴーン会長の逮捕 長く君臨した経営者の解職と、一人に集まった権力の解体 燃費・完成検査不正 二度にわたる測定データの偽装の発覚と、再発防止に投じた一七〇〇億円 O121食中毒事故の公表 腸管出血性大腸菌による健康被害の自主開示と、全店の衛生総点検 品質データ改ざんを公表 名門の信頼失墜と、経営刷新による再建への着手 品質データ改ざん発覚 子会社での発覚と自主公表、同時期に各社へ広がった不正の連鎖の一角 フューチャーから人材引抜 競合企業の営業秘密の領得に関与したという事実の表面化 完成検査の無資格発覚 国内全工場の出荷停止と大規模リコールに至った、量産体制への信頼の失墜 WELQ問題で全サイト非公開 キュレーションプラットフォーム事業の全面停止と、事実調査を社外へ委ねた危機対応 高橋まつりさんの死と社長交代 新入社員の過労自殺を機とした働き方改革と社長交代 燃費不正で日産傘下入り 試験データ改ざんの発覚と、自主独立を捨てた資本の受け入れ フンザを115億円買収 モンスト一本足からの脱却を狙ったチケット売買事業への参入と、その閉鎖 杭打ちデータ偽装 子会社・旭化成建材での発覚を受けた全国物件の自主調査と開示 田中久雄氏の引責辞任 不正会計(不適切会計)の発覚と歴代3社長の引責辞任 サラ・カサノバの再建 期限切れ食材の発覚による客離れと、米本社による株式売却検討の凍結 全米リコール拡大を拒否 NHTSAの要請を受け入れず原因究明を優先させる選択 アクリフーズ事件で持株会社解消 農薬混入事件への危機対応と、グループ6社を事業会社へ束ねる純粋持株会社体制の解消 コンプガチャの自主廃止 主力の課金手法を規制の前に手放し、業界6社の自主規制へ移した判断 北越紀州製紙経由で株式取得 創業家との資本関係の解消と、関連会社等株式の買い戻し 姫路製造所の爆発事故対応 アクリル酸タンクの重大災害を受けた安全管理体制の全面的な立て直し ソニーとの資本業務提携 大手からの資本の受け入れと、医療分野での合弁の立ち上げ ウッドフォード氏解任 損失飛ばしの粉飾決算と、それを追及した社長の排除
2000年代
コムスン全介護事業を譲渡 指定取消相当の通知を受けての介護事業からの全面撤退 有価証券報告書の虚偽記載 不正な会計処理に基づく開示と、当時最大規模の課徴金納付命令 創業者リベート受領問題 創業者による不明朗な資金受領の発覚と、それを受けた経営体制の刷新 し尿処理談合で官公需撤退 入札談合の摘発を受けた官公需の建設工事事業からの全面撤退 パターンファイル配信不具合 大規模PC障害と信頼回復への社内改革 旧神崎工場の石綿公表 疾病の自主公表と、周辺住民への見舞金・救済金の支払い 福知山線事故後の安全改革 脱線事故を受けた、利益優先体質から安全最優先へのマネジメントの転換 産業再生機構に支援要請 粉飾決算の発覚と、自主再建を断念して公的枠組みに委ねた選択 株式100分割の実施 投資事業組合を用いた自社株売却益の営業利益計上 ラフテレーンクレーンのリコール 死亡事故を受けた15,278台の届出と、CSR憲章の制定 コクドの虚偽記載で上場廃止 西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載発覚と東証上場廃止 美浜3号機の配管破損事故 全原発停止に至った安全対策の見直しと、保守を担うサポート子会社の再編 ACT'95でガス化溶融炉参入 主力のポンプ事業に依存しない収益源づくりと、ダイオキシン規制下での環境事業への傾斜 12日間の業務停止命令 代理店の違法な生保募集による代理店名の非公表 全農主導での再建受け入れ 市乳事業の切り離しと、農協系資本の下での経営の立て直し 牛肉偽装事件と経営刷新 食肉の産地表示をめぐる不正の発覚と、これを受けた執行部の総入れ替え 国後島不正入札問題 排ガスデータ捏造と併せて突きつけられた、内部統制の全面的な作り直し ファイアストンで自主回収 米国での欠陥タイヤ問題と、大規模なリコールへの踏み切り アンプル生地管の独占販売 独占販売権を用いた輸入品の締め出しと、公正取引委員会の排除勧告 HIT SHOP架空契約発覚 契約実態のない売上計上の露見を受けた携帯電話小売からの撤退
1990年代
融通手形損失と事業仕分けそうや 最大100億円の穴埋めを機に踏み切った、採算による選別とカンパニー制の導入 エヌ・アイ・ファイナンス整理 金融子会社の切り離しと、特別損失1,610億円の計上 泉井事件で会長辞任 山田菊男会長の引責と泉谷良彦社長の続投という責任の分け方 荒川勇二の社外監査役招へい 型破りな社外監査役を招いた取締役会改革 総会屋事件で中村院政終焉 利益供与の発覚が長期支配体制を断ち切り、経営陣の刷新に至った局面 日高啓らの利益供与訴訟が和解 総会屋への利益供与と、株主代表訴訟を全面的に受け入れた和解 利益供与事件で岡田邦彦体制へ交代 総会屋への利益供与事件を受けた経営陣の退任と、不採算店舗の閉鎖・人員削減 総会屋融資の隠蔽発覚 大蔵省検査を機に迫られた経営陣の総退陣と、総務部そのものの廃止 総会屋事件で酒巻英雄辞任 再発と、氏家純一氏社長による二度目の企業統治改革 浜中事件の損失公表 銅地金の不正取引の発覚に際し、当局への全面協力を最優先した危機対応 多角化子会社の整理 バブル期に広げた裾野の縮小と、創業家の外からの社長招聘 有線音楽放送正常化協議会へ表明 電柱の無断共架をやめ、事前許可と共架料支払いへ切り替えた正常化 加藤哲夫の1年研修導入 新入社員研修の2週間から1年間への延長と、支店への「新入営業課」の設置 東京佐川急便事件で退場 創業者・佐川清氏の経営からの退場と、創業者支配の終わり ミサイル部品不正輸出事件 事件をめぐる株主代表訴訟と、そこで確定した取締役個人の責任 東洋信金事件の焦げ付き 架空の預金証書を担保とした料亭経営者への2400億円融資 含み損の簿外飛ばし 営業特金で生じた損失を連結対象外の会社へ移した損益の先送り 田淵義久社長の引責辞任 損失補填の証券不祥事を受けた「新生・野村」への機構改革 美浜2号機の細管破断事故 事故を受けた自主保安体制の立て直し