日野自動車 エンジン認証不正発覚 出荷を止めてでもの不正の公表と、認証という前提からの作り直し
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2022年3月4日、日本市場向けディーゼルエンジンの排出ガスと燃費の認証申請に不正行為があったことを国土交通省と経済産業省へ報告し、公表した。同月29日には不正が確認されたエンジン機種とその搭載車型の型式指定および燃費評価を取り消され、主力車種の出荷が止まった。
2022年3月期は国内認証関連損失400億円と北米認証関連損失273億4百万円を特別損失に計上し、営業利益338億10百万円を確保しながら、親会社株主に帰属する当期純損失は847億32百万円となった。
- 背景
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発端は日本ではなく北米にあった。米国法定エンジン認証試験の過程で課題が生じ、2020年12月23日の取締役会で米国ウェストバージニア工場とカナダ・ウッドストック工場の車両生産を2021年9月末まで止めることを決めている。
この北米での認証プロセス遵守状況に対する社内の課題認識を契機に、外部弁護士とともに日本市場向けエンジンの認証手続きを調べ直したところ、2016年排出ガス規制(ポスト・ポスト新長期規制)対象の複数機種で不正行為と性能の問題が見つかった。現場における数値目標やスケジュール厳守へのプレッシャーに経営が寄り添えず、法令順守や健全な企業風土の醸成が疎かになったことが原因である。
- 内容
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2021年6月に就任した小木曽聡社長が2022年3月4日に不正を公表し、同月25日には別のエンジンの性能の問題も不正行為によると判断して、中型エンジン「A05C(HC-SCR)」搭載の日野レンジャー一部車型のリコールを届け出た。
利害関係のない外部有識者による特別調査委員会に全容解明と真因分析、組織の在り方や開発プロセスに踏み込んだ再発防止策の提言を委嘱している。2022年8月には他の認証申請でも過去の不正行為が追加で判明し、同年9月に二度目の型式指定と燃費評価の取消しを受けた。10月7日に「3つの改革」を公表し、再発防止報告書を国土交通省へ提出した。
- 含意
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損失は公表した期では終わらなかった。2023年3月期は燃費補償費用等を含む国内認証関連損失907億90百万円、2025年3月期は米国当局との和解を織り込んだ北米認証関連損失2,584億13百万円を計上し、当期純損失は2,177億53百万円に達した。日野ブランドのトラック・バス総売上台数は2022年3月期の158.1千台から2025年3月期の127.8千台へ減少している。
2023年5月に三菱ふそうトラック・バスとの経営統合の基本合意書を締結し、2025年6月には経営統合契約を締結して2026年4月1日を統合予定日とした。統合後、トヨタ自動車は親会社でなくなる見込みである。
いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
数字の赤字より、認証という前提をどう作り直すか
この判断の重さは、847億円という赤字の大きさよりも、赤字の出どころにある。2022年3月期の営業利益は338億10百万円の黒字で、本業そのものは利益を出していた。止まったのは商品ではなく、商品を市場へ出すための認証という前提のほうだった。就任から9か月の小木曽聡社長は、自らが関与していない過去の不正を公表し、主力車種の出荷を止める側に立たされている。短期の業績を削ってでも認証の前提から作り直す道を選んだ判断だったとみられる。
もっとも、代償の総量はこの期では確定していなかった。国内認証関連損失は翌期に907億90百万円へ膨らみ、2025年3月期には米国当局との和解を織り込んだ北米認証関連損失2,584億13百万円が乗った。損失は公表から3年にわたって積み上がり、その間に売上台数も戻りきっていない。金銭的負担の全容はなお合理的に見積もれず、ニュージーランドの集団訴訟は係争中で、三菱ふそうトラック・バスとの経営統合も統合予定日を控えた段階にある。認証という一点の綻びが、一社の損益ではなく資本の枠組みまで動かしうることを、この件は示しているのだろう。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
経緯と対応
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 不正の公表 | 2022年3月4日 | 国土交通省および経済産業省へ報告したうえで公表した |
| 調査の端緒 | 北米での認証プロセス遵守状況 | 社内での課題認識を契機に外部弁護士と調査を進め、日本市場向けへ対象を広げた |
| 不正の対象 | 2016年排出ガス規制対象の複数機種 | ポスト・ポスト新長期規制対象の日本市場向け車両用エンジン。排出ガスと燃費の認証申請 |
| 追加の公表 | 2022年3月25日 | 別のエンジンについても、性能の問題が不正行為によるものと判断した |
| リコール | 中型エンジン「A05C(HC-SCR)」搭載の日野レンジャー | 経年変化で排出ガスの規制値を超過する可能性がある一部車型。2022年3月25日に届出 |
| 型式指定の取消し | 2022年3月29日 | 不正が確認されたエンジン機種と搭載車型の型式指定および燃費評価を取り消された |
| 特別調査委員会 | 利害関係のない外部有識者により設置 | 全容解明と真因分析、組織の在り方や開発プロセスに踏み込んだ提言を委嘱した |
| 二度目の取消し | 2022年9月 | 同年8月に他の認証申請でも過去の不正行為が追加で判明したことによる |
| 生産の回復 | 通常稼働時の約75% | 2023年3月末時点。A09C搭載の日野プロフィアとセレガは型式指定を再取得した |
| 国内認証関連損失(2022年3月期) | 40,000百万円 | リコール費用10,030百万円と税制優遇追加納付費用29,970百万円の合計 |
| 北米認証関連損失(2022年3月期) | 27,304百万円 | ディーラー、サプライヤー、顧客との合意に基づく補償損失 |
| 国内認証関連損失(2023年3月期) | 90,790百万円 | 補償損失72,608百万円(うち燃費補償費用等59,160百万円)等を含む |
| 再発防止策 | 「3つの改革」 | 2022年10月7日公表。経営、組織風土、クルマづくりの3つを改革の対象とした |
| 是正命令への対応 | 社内チェック体制の再構築 | 国土交通省の是正命令に対し、コンプライアンスと開発体制の見直しにも取り組む |
| 経営・組織体制の見直し | 2023年2月 | 各機能にCxO・機能長を置いて階層を削減。代表者の役職にCEOを併記し始めた |
| 役員報酬の減額 | 2022年10月7日公表 | 2023年3月期の役員報酬等の総額に反映されている |
| 米国集団訴訟の和解 | 総額237.5百万米ドル | 2023年10月25日締結。2024年4月1日に裁判所の最終承認、同月11日に支払完了 |
| 米国司法省との刑事和解 | 総額5億2,176万米ドル | 2025年1月16日締結。有罪を認めた。2025年3月19日に効力が発生した |
| 米国・カリフォルニア当局との民事和解 | 米国当局へ4億4,250万米ドル | カリフォルニア州当局へは2億3,650万米ドル。2025年5月21日に効力が発生 |
| カナダ集団訴訟の和解 | 総額55百万カナダドル | 2024年11月13日締結。2025年3月期に5,885百万円を特別損失に計上した |
| 豪州集団訴訟の和解 | 87百万豪ドル | 2025年2月14日締結。2025年3月期に8,700百万円を特別損失に計上した |
| 継続中の手続 | ニュージーランドの集団訴訟 | 2025年3月に提起され係争中。欧州法規等の対象エンジンの点検も継続している |
| 資本の枠組み | 三菱ふそうトラック・バスとの経営統合 | 2025年6月10日に経営統合契約を締結。2026年4月1日を統合予定日としている |
出所:日野自動車 有価証券報告書 第110期(2022年3月期)【対処すべき課題】【連結損益計算書関係】・第111期(2023年3月期)【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況等】・第113期(2025年3月期)【事業等のリスク】【連結損益計算書関係】
認証関連損失と最終損益の推移
日野自動車:認証関連損失と最終損益の推移
| (百万円) | 国内認証関連損失 | 北米認証関連損失 | 特別損失合計 | 親会社株主に帰属する当期純損益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2017年3月期 | − | − | 1,021 | 49,408 | |
| 2018年3月期 | − | − | 2,168 | 51,361 | |
| 2019年3月期 | − | − | 5,645 | 54,908 | |
| 2020年3月期 | − | − | 1,814 | 31,467 | |
| 2021年3月期 | − | 14,556 | 15,907 | △7,489 | 計上時の科目は北米案件関連費用。翌期に北米認証関連損失へ科目名称を変更した |
| 2022年3月期 | 40,000 | 27,304 | 70,595 | △84,732 | 国内は不正公表に伴うリコール費用と税制優遇追加納付費用 |
| 2023年3月期 | 90,790 | 1,432 | 110,498 | △117,664 | 国内は燃費補償費用等を含む補償損失72,608百万円が中心 |
| 2024年3月期 | 24,216 | 36,363 | 77,263 | 17,087 | 特別利益に国内認証関連損失戻入益17,000百万円を計上している |
| 2025年3月期 | 598 | 258,413 | 289,252 | △217,753 | 北米は米国当局との和解に伴う制裁金等。別に豪州訴訟和解金8,700百万円 |
出所:日野自動車 有価証券報告書 第105〜113期(連結損益計算書)
売上台数の推移
日野自動車:売上台数の推移
| (千台) | 日野ブランド トラック・バス | トヨタ向け車両 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2017年3月期 | 171.8 | 144.3 | |
| 2018年3月期 | 184 | 150.2 | |
| 2019年3月期 | 204.2 | 152.7 | 日野ブランドのトラック・バスは過去最高 |
| 2020年3月期 | 174.3 | 139.3 | |
| 2021年3月期 | 133.2 | 108.7 | |
| 2022年3月期 | 158.1 | 141.7 | 不正の公表は期末の3月4日で、出荷停止の影響は翌期から表れる |
| 2023年3月期 | 151.9 | 127.9 | 出荷停止と部品供給不足で大中型トラックの販売が減少した |
| 2024年3月期 | 130.6 | 104.3 | |
| 2025年3月期 | 127.8 | 152.5 |
出所:日野自動車 有価証券報告書 第105〜113期(経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析)
報告セグメントの推移
日野自動車:報告セグメントの推移
| (百万円) | 日本 外部顧客への売上高 | 日本 セグメント損益 | アジア セグメント損益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2017年3月期 | 1,168,480 | 43,897 | 17,388 | |
| 2018年3月期 | 1,211,772 | 48,999 | 21,828 | |
| 2019年3月期 | 1,301,537 | 54,789 | 22,887 | |
| 2020年3月期 | 1,228,953 | 36,112 | 15,968 | |
| 2021年3月期 | 1,079,291 | 9,931 | 4,435 | |
| 2022年3月期 | 902,541 | 19,778 | 22,900 | |
| 2023年3月期 | 733,124 | 2,529 | 42,113 | 日本が大きく落ち込む一方、アジアはインドネシア等の台数増で伸びた |
| 2024年3月期 | 786,434 | △15,640 | 31,901 | 日本は減損損失も含めセグメント損失に転じた |
| 2025年3月期 | 951,304 | 28,353 | 24,601 | A09C搭載車の供給正常化で日本の売上高が回復した |
出所:日野自動車 有価証券報告書 第105〜113期(セグメント情報)
同じ問いに直面した会社
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参考文献
- 国土交通省 報道発表 2022年8月2日「日野自動車(株)の排出ガス・燃費性能試験における不正行為について」
- 日野自動車 ニュースリリース「エンジン認証に関する当社の不正行為について」
- 日野自動車 有価証券報告書「第110期(2022年3月期)【対処すべき課題】【連結損益計算書関係】」
- 日野自動車 有価証券報告書「第111期(2023年3月期)【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
- 日野自動車 有価証券報告書「第113期(2025年3月期)【事業等のリスク】【連結損益計算書関係】」
- トヨタ自動車 ニュースリリース「ダイムラートラック、三菱ふそう、日野およびトヨタ、CASE技術開発の加速を目指すとともに、三菱ふそうと日野を統合する基本合意書を締結」