貸金庫窃取事件で立て直し(2025年・三菱UFJFGの決断)

更新:
論点 損なった信用をどう回復するか
三菱UFJFG:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
顧客資産をめぐる信用毀損への対応と、内部管理体制の再構築

何をなぜ決めたか:顧客資産をめぐる信用毀損への対応と、内部管理体制の再構築

概要

2024年11月、三菱UFJフィナンシャル・グループの中核子会社である三菱UFJ銀行は、練馬・玉川両支店で貸金庫を管理していた元行員が、顧客の貸金庫から現金や金を窃取していた事案を公表した。

同年12月16日、金融庁は同行に銀行法第24条に基づく報告徴求を発した。同行は2025年1月16日、報告徴求に基づき、再発防止策等を含む報告書を金融庁に提出している。

背景

窃取は2023年3月から2024年10月まで続き、被害を確認するまでに時間を要した。貸金庫の予備鍵管理や入退室・開閉の管理に不備があり、拠点内・本部・子会社のいずれの牽制も働かなかった。顧客資産を預かるメガバンクの内部管理が、長期にわたり機能していなかった構図であった。

内容

三菱UFJ銀行は、予備鍵の本部一括保管を含む重層的な再発防止策を策定し、拠点内・本部・子会社の牽制強化、人事運営の見直し、法令遵守意識の再徹底を掲げた。

持株会社の報酬委員会は2024年度に役員処分と報酬減額を決定している。取締役会も中期経営計画の主要戦略とあわせ、期中に生じた個別の事案を重点的に審議し、改善対応策を監督した。

含意

金融庁は監督指針を改め、貸金庫での現金保管に留意を求めた。監査委員会は第20期に、真因分析に基づき策定した改善対応策の実行状況等を注視し、第21期ではその浸透及び定着状況へ視点を移している。

2026年3月期には、業績や財務状況に実質的な影響を及ぼす、重要性のある企業倫理関連のリスク事象は確認されていない。効率や規模ではなく、預金者からの信頼という無形の資産をどう再建するかが、事案の後に残された課題であった。

いつ何が起きたか 5件
当時の取締役 15名

当時の取締役(2024年6月株主総会決議)

考察:信頼という無形資産の再建
考察

考察:信頼という無形資産の再建

顧客は現金や金塊を、自宅よりも銀行の貸金庫のほうが安全だと信じて託していた。その信頼を、管理を任された行員自身が、幾重にも用意された監視の網をくぐって裏切った。効率化や収益の議論とは別の次元で、預金者が銀行に寄せる素朴な信頼が、内部から損なわれた事案であったと思われる。

三菱UFJ銀行の対応は、鍵の一括保管という具体策から役員処分、監督当局への報告まで、手順としては一通りそろっていた。ただ、失われた信頼が制度の手直しだけで元に戻るとは限らない。監査委員会の関心が、第20期の「改善対応策の実行状況」から第21期の「浸透及び定着状況」へ移っていることは、この事案の課題が策定から運用へ移ったことを示している。仕組みを構築した後に残るのは、その仕組みを緩ませない日々の運用という、最も地味で終わりのない課題であるのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

経緯と対応

経緯と対応
科目 概要 備考
事案 元行員による貸金庫からの窃取 顧客が貸金庫に預けていた資産を、管理を任されていた元行員が窃取した
事案が生じた会社 株式会社三菱UFJ銀行 三菱UFJフィナンシャル・グループの子会社
報告徴求 2024年12月16日 金融庁が三菱UFJ銀行に対し、銀行法第24条に基づいて発した
報告書の提出 2025年1月16日 報告徴求に基づき、再発防止策等を含む報告書を金融庁へ提出した
役員処分・報酬減額 2024年度に決定 報酬委員会の議案。対象とした事案は記載がない
監査委員会の所見(第20期) 真因分析に基づく改善対応策 その実行状況等が引き続き注視の対象。内部統制システムの監査意見は相当
監査委員会の所見(第21期) 改善対応策の浸透及び定着状況 引き続き注視の対象。内部統制システムの監査意見は相当
再発防止策の徹底 2026年3月期も継続 策定した再発防止策等の徹底を継続している
重要性のあるリスク事象 2026年3月期は確認されず 業績・財務状況に実質的な影響を及ぼす企業倫理関連のリスク事象として
出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書 第20期(2025年3月期)【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況等】・第21期(2026年3月期)【事業等のリスク】【サステナビリティに関する考え方及び取組】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書 第20期(2025年3月期)【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況等】・第21期(2026年3月期)【事業等のリスク】【サステナビリティに関する考え方及び取組】【コーポレート・ガバナンスの状況等】
当時の取締役 15名

当時の取締役(2024年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 金融庁「「主要行等向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について」(2025年5月30日)
  • 三菱UFJ銀行 会社公表資料「元行員の不祥事に関する対応状況・再発防止策等について」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第20期(2025年3月期)【事業等のリスク】」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第20期(2025年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第21期(2026年3月期)【事業等のリスク】」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第21期(2026年3月期)【サステナビリティに関する考え方及び取組】」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第21期(2026年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」

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