三菱自動車 燃費不正で日産傘下入り 試験データ改ざんの発覚と、自主独立を捨てた資本の受け入れ

更新:

時期 2016年5月
当時の社長 益子修
論点 不正発覚後の生き残りと救済先の選択
何をなぜ決めたか
概要

2016年4月20日、軽自動車の型式認証で国土交通省へ提出した燃費試験データに不正な操作が行われていたことを公表した。燃費を実際より良く見せるため走行抵抗値を改ざんし、国内法規で定められたものと異なる試験方法を取っていた。

公表から22日後の5月12日、取締役会は日産自動車との資本業務提携の基本合意書の締結と、同社を割当先とする第三者割当増資を決議した。506,620,577株を1株468.52円、総額2,373億6,187万2,737円で発行し、議決権の34.0%を日産自動車が握る枠組みを決めた。

背景

不正の端緒は取引相手からの指摘だった。次期車の開発にあたり、日産自動車の測定値と届出値に乖離があり、確認を求められた社内調査で走行抵抗値の不正が判明した。対象は2013年6月から生産していたeKワゴン、eKスペースと、日産自動車向けに供給するデイズ、デイズルークスの4車種。2016年3月末で自社販売15万7千台、日産自動車向け生産46万8千台に達していた。

社内調査は軽自動車の外へも広がり、RVR、パジェロ、旧型アウトランダー、ギャランフォルティス、コルトの登録車5車種でも走行抵抗値の改ざんが見つかり、2016年6月17日に国土交通省へ報告した。

内容

2016年4月25日、独立性のある外部有識者のみで構成される特別調査委員会が設置され、事実関係の調査と原因分析、再発防止策の検討にあたった。再発防止策は2017年4月1日までに実施された。顧客への補償額とお詫び代の方針は6月17日に決定・公表している。

増資は2016年5月25日の提携契約を経て10月20日に払い込まれ、発行済株式総数は506,620千株増えた。資本金は1,186億8,093万6,369円、資本準備金も同額近くが増加し、希薄化は51.5%に及んだ。調達資金は戦略商品の研究開発強化、研究開発設備の最新化、ITシステムの刷新へ充てられた。

含意

2017年3月期には燃費試験関連損失として連結1,655億円、単体1,672億円の特別損失を計上し、経常利益は8,944百万円、親会社株主に帰属する当期純損失は198,524百万円となった。損失の中身は顧客・日産自動車・サプライヤーへの支払いと、生産元である水島製作所の固定資産減損である。

統治の枠組みも組み替えられた。2016年1月に決めていた監査等委員会設置会社への移行は、提携先との協議を踏まえて体制を再検討する必要があるとして中止され、2019年6月21日の定時株主総会で指名委員会等設置会社へ移行した。1971年のクライスラー、2000年のダイムラーに続き、三たび他社の資本に生き残りを委ねたことになる。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

三度目の外資・他社依存という選択

この判断の核心は、不正それ自体ではなく、不正が露呈した瞬間に単独での再建をほとんど検討せず、他社の資本へ一足飛びに走った速さにある。公表は2016年4月20日、提携の取締役会決議は5月12日で、その間はわずか22日しかない。特別調査委員会が原因の分析にも着手していない段階で、議決権の34.0%を委ねる枠組みが先に決まっていたことになる。資金調達の使途に挙がったのが戦略商品の研究開発と設備・ITの刷新であったことを併せて読めば、この社がもはや自力では商品も信頼も立て直せないと当事者自身が見切っていた、と考えるのが自然だろう。

もっとも、資本を入れ替えても体質までは入れ替わらない。2016年1月に決めていた監査等委員会設置会社への移行は提携先との協議を理由に中止され、統治の形は出資者と相談してから決めるものになった。指名委員会等設置会社への移行が実現したのは3年後の2019年6月である。1971年のクライスラー、2000年のダイムラーに続く三度目の他社依存は、規律を外から借りるほど自前で律する力は育ちにくいという循環を、最も短い時間で繰り返したものだったと推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
経緯と対応

経緯と対応

科目 概要 備考
不正の公表 2016年4月20日 軽自動車の型式認証で国土交通省へ提出した燃費試験データの不正操作を報告した
不正の内容 走行抵抗値の改ざん 燃費を実際より良く見せる不正な操作と、国内法規と異なる試験方法を取っていた
対象の軽自動車 eKワゴンなど4車種 eKワゴン、eKスペースと日産自動車向けのデイズ、デイズルークス。2013年6月から生産
対象の台数 62万5千台 2016年3月末で自社販売15万7千台、日産自動車向け生産46万8千台
発覚の端緒 日産自動車からの確認要求 次期車の開発で日産自動車の測定値と当社の届出値に乖離があった
追加で判明した車種 登録車5車種 RVR、パジェロ、旧型アウトランダー、ギャランフォルティス、コルト。6月17日報告
特別調査委員会の設置 2016年4月25日 独立性のある外部有識者のみで構成。事実関係の調査、原因分析、再発防止策を検討
補償の方針 2016年6月17日に決定・公表 顧客への補償額及びお詫び代の方針
再発防止策 2017年4月1日までに実施 特別調査委員会による客観的かつ徹底した事実関係の調査を踏まえて策定した
計上した特別損失 連結1,655億円 単体は1,672億円。顧客・日産自動車・サプライヤーへの支払と水島製作所の減損
機関設計の変更 監査等委員会設置会社への移行を中止 2016年1月に移行方針を決めたが、提携先との協議を踏まえ再検討するため中止した
提携の取締役会決議 2016年5月12日 基本合意書(Basic Agreement)を同日締結。提携契約の締結は2016年5月25日
発行する株式数 506,620,577株 第三者割当。割当先は日産自動車で、発行される新株式の全てを引き受ける
払込金額 1株につき468.52円 総額2,373億6,187万2,737円。当社株式の市場価格を勘案して合理的に決定した
増加する資本金 1,186億8,093万6,369円 資本準備金も1,186億8,093万6,368円増加する
議決権比率 34.0% 発行済株式総数に対する割合も34.0%。主要株主である筆頭株主に該当する
株式の希薄化 51.5% 2016年3月31日現在の発行済株式総数983,661,919株、総議決権数9,833,737個に対する割合
払込 2016年10月20日 普通株式の発行済株式総数が506,620千株増加した
調達資金の使途 研究開発と設備・ITの刷新 戦略商品研究開発強化、研究開発設備最新化及びITシステムの刷新に係る費用
既存の親密先への影響 三菱重工業の持分法適用関連会社でなくなる 希薄化による。三菱重工業・三菱商事・三菱東京UFJ銀行の譲渡制限の確認に変更はない

出所:三菱自動車工業 有価証券報告書 第47期(2016年3月期)【事業等のリスク】【対処すべき課題】【重要な後発事象】・第48期(2017年3月期)【事業等のリスク】【株式の総数等】【連結財務諸表注記】

連結業績の推移

三菱自動車:連結業績の推移

(百万円) 売上高経常損益親会社株主に帰属する当期純損益 備考
2012年3月期 1,807,29360,90423,928 当期純損益の表記で、親会社株主に帰属する当期純損益の区分は未導入
2013年3月期 1,815,11393,90337,978
2014年3月期 2,093,409129,472104,664
2015年3月期 2,180,728151,616118,170
2016年3月期 2,267,849141,02772,575 燃費試験関連損失引当金を計上した期。不正の公表は期末後の2016年4月20日
2017年3月期 1,906,6328,944△198,524 燃費試験関連損失として連結1,655億円を特別損失に計上。日産自動車の出資を受けた期
2018年3月期 2,192,389110,127107,619
2019年3月期 2,514,594119,850132,871
2020年3月期 2,270,276△3,843△25,779
2021年3月期 1,455,476△105,203△312,317
2022年3月期 2,038,909100,96974,037
売上高と経常損益率
売上高(百万円)経常損益率(%)

出所:三菱自動車工業 有価証券報告書 第46期・第50期・第53期(主要な経営指標等の推移)

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

救済型の買収2004年鐘紡粉飾決算の発覚と、自主再建を断念して公的枠組みに委ねた選択会計不正の露呈と経営再建の選択
2002年雪印メグミルク市乳事業の切り離しと、農協系資本の下での経営の立て直し赤字事業の切り離しと資本の受け入れ先
1967年栗田工業粉飾決算の露見と、増資引受を受け入れての再出発粉飾決算の後始末と経営再建
1972年汽車製造7年に及ぶ累積粉飾の発覚を受けた、単独での存続の断念累積粉飾の破綻と独立経営の帰趨
2016年日本製鉄鋼材デフレ下での国内4位の取り込みによる高炉再編国内高炉再編と供給過剰への対応
不祥事後の信頼回復2016年DeNAキュレーションプラットフォーム事業の全面停止と、事実調査を社外へ委ねた危機対応メディアの品質・著作権と経営責任
2016年富士通東京電力事案の発覚後に自ら社内調査を開始し、中部電力事案を課徴金減免申請で自主申告した独占禁止法違反の発覚と再発防止
2017年富士フイルムニュージーランド・豪州の販売子会社で判明した不適切な会計処理と、第117〜120期に及ぶ連結決算の訂正海外子会社の不適切な会計処理と、グループ内部統制の立て直し
2017年三菱マテリアル連結子会社5社で相次いだ不適合品の出荷と、グループガバナンスの立て直しグループ子会社の品質保証と内部統制
2017年NEC排除措置命令と課徴金納付命令を受け、公正取引の審査と教育を組み直した対応独占禁止法違反と再発防止
参考文献
出典・参考
  • 三菱自動車工業 有価証券報告書「第47期(2016年3月期)【重要な後発事象】」
  • 三菱自動車工業 有価証券報告書「第47期(2016年3月期)【事業等のリスク】【対処すべき課題】」
  • 三菱自動車工業 有価証券報告書「第47期(2016年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • 三菱自動車工業 有価証券報告書「第48期(2017年3月期)【事業等のリスク】」
  • 三菱自動車工業 有価証券報告書「第48期(2017年3月期)【株式の総数等】【連結財務諸表注記】」
  • 三菱自動車工業 特別調査委員会 調査報告書「燃費試験における不正行為に関する調査報告書(要約版)」
  • 日産自動車 ニュースリリース「日産自動車、三菱自動車株の34%を取得しアライアンスを強化」

免責事項およびポリシー