サンウェルズ訪問看護の不適切請求問題を受けた中期経営計画の取り下げと訪問看護体制の全面見直し
医療保険を積み上げた収益構造をどう作り替えるか——不正請求の認定を受けた中期経営計画の撤回
- 概要
- 2025年、サンウェルズは主力のホスピス住宅「PDハウス」における訪問看護の診療報酬について、特別調査委員会から総額約28億円の不正請求を認定された。これを受け、苗代亮達社長は同年5月の決算説明会で中期経営計画を取り下げ、全施設で訪問看護の運営体制を見直す方針を示した。医療保険売上を積み上げる収益構造の作り替えを迫られた経営判断である。
- 背景
- PDハウスはパーキンソン病患者を受け入れ、居室への訪問看護で医療保険を適用する仕組みを収益の柱としてきた。経営戦略部は入居者一人あたりの月額診療報酬に「合格ライン」を設け、施設数を140まで増やす中期経営計画のもとで急成長を遂げていた。
- 内容
- 2025年2月7日に受領した特別調査委員会の調査報告書は、ほぼ全施設での不正請求を認定した。苗代社長は同年5月に中期経営計画を正式に取り下げ、夜間の訪問を含む訪問看護計画を全施設で作り直すとともに、東証プライムからグロースへの市場区分変更も検討すると表明した。
- 含意
- 過剰な訪問を正せば一床あたりの医療保険売上は下がり、2025年3月期は当期損益が赤字へ転落した。数を追う成長を支えた収益源が不正の温床でもあった構造を、介護報酬を中心とした水準へ組み替える作業が続いている。
数を追う成長が残したもの
この判断は、制度の抜け穴を突いた不正の後始末という言葉には収まらない。取り下げられた中期経営計画は、医療保険による訪問看護収入を最大限に積み上げ、施設数を140まで増やす前提で組まれていた。経営戦略部が入居者一人あたり月81万円という「合格ライン」を現場に課し、九割超の入居者が一律に毎日三回の複数名訪問を受けていた事実に照らせば、計画の撤回は不正の是正であると同時に、成長の設計図そのものを描き直す作業であったとみることができる。数を追う成長を支えた収益源が、そのまま不正の温床でもあった構造に、この事案の難しさがある。
もっとも、作り替えの重さは、その後の数字に表れている。訪問を適正化すれば一床あたりの単価は下がり、2025年3月期に続いて翌期も赤字が残り、苗代社長は自社へ10億円を投じて財務を繕った。役員を絞り込んで単独経営の色合いを強めた体制が、パーキンソン病特化という独自の強みを保ったまま、介護報酬中心の収益で立て直せるかは、なお見通せない。急成長のさなかに膨らんだ収益の一部が制度の逸脱に支えられていた事業では、体制の作り替えは事業モデルの作り替えと切り離せない——サンウェルズの中期経営計画の取り下げは、その一例として読むことができる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
医療保険を組み込んだPDハウスの収益構造
サンウェルズが全国で展開するホスピス住宅「PDハウス」は、神経難病のパーキンソン病患者を中心に受け入れる住宅型有料老人ホームである。利用者は七、八畳の個室で暮らし、その居室が制度上の「居宅」とみなされる。施設には訪問看護と訪問介護の事業所が併設され、看護師やヘルパーが居室を訪ねてサービスを提供するたびに報酬が生じる仕組みであった。一般の介護施設とは異なり、在宅医療の枠組みを施設のなかへ持ち込んだ点に特色があった[1]。
パーキンソン病は、厚生労働省が訪問看護で医療保険を適用する「別表七」の疾患に含まれる。主治医の指示書があれば、要介護度による限度額に縛られず、最大で週七日・一日三回の訪問が認められる。サンウェルズはこの仕組みを使い、介護報酬に医療保険による訪問看護収入を組み合わせて、一床あたりの月次売上を高く保ってきた。医療保険売上が収益の柱となる構造が、パーキンソン病特化という独自の位置取りを支えていた[2]。
140施設を掲げた急成長
この収益モデルを追い風に、サンウェルズは急成長を遂げた。2022年6月に東証グロース市場へ上場し、2024年7月にはプライム市場へ移った。単体売上高は2021年3月期の約54億円から2025年3月期には約265億円へと、四年で五倍近くに伸びた。中期経営計画では、2030年3月期までにPDハウスを140施設まで増やす目標を掲げ、施設数の拡大がそのまま成長の物差しとなっていた[3][4]。
決断
不正の認定と2月の説明会
拡大を支えた医療保険売上の計上に、疑義が向けられた。不正に診療報酬を請求しているとの報道を受け、サンウェルズは2025年2月7日に特別調査委員会の調査報告書を受領した。委員会は、ほぼすべてのホームで不正な請求があったと認定し、その試算額は総額で約28億円に上った。複数名で訪問した際に、加算に値する看護行為がないまま加算を請求していた事例などが並んだ[5][6]。
不正の温床は、現場に課された数字にあった。報告書によれば、サンウェルズの経営戦略部は入居者一人あたりの月額診療報酬に「合格ライン」を設け、2022年にはその水準を81万円に置いていた。この目標を満たすため、入居者の九割超が一律に毎日三回、複数名での訪問看護を受ける運用が常態化した。看護師が居室を数秒巡回しただけでも一回の訪問として記録される例もあったという[7]。
中期経営計画の取り下げ
2025年2月14日、苗代亮達社長は臨時のオンライン決算説明会で、中期経営計画の施設数を見直す可能性に触れた。事業拡大の速度が速く、現場の声を聞きづらくなっていたとして、2030年3月期までに140施設という目標の達成は難しいとの認識を示した。施設数を成長の軸に据えてきた計画そのものが、不正の構図と切り離せない位置にあることを、経営側も認めざるをえなかった[8]。
見直しは、計画の取り下げへと進んだ。2025年5月の決算説明会で、苗代社長は中期経営計画を正式に取り下げ、訪問看護の運営体制を全面的に見直す方針を示した。全施設で訪問看護の計画を作り直し、夜間の入眠中にまで及んでいた訪問を改める内容で、社長は請求に対する認識が甘かったと陳謝した。数を追う成長から、一件ごとの請求の妥当性を確かめる運営へと転じる判断であった[9]。
結果
収益構造の作り替えと市場区分
体制の見直しは、そのまま収益の縮小を意味した。過剰と認定された訪問を正せば、一床あたりの医療保険売上は下がる。2025年3月期は売上高こそ約265億円と前期を上回ったものの、当期損益は約9億円の赤字へ転落した。医療保険を最大限に積み上げる前提で組まれていた収益構造を、介護報酬を中心とした無理のない水準へ組み替える作業が、業績の下押しとして表れた[10]。
制度の側も動きつつあった。2026年度には訪問看護の診療報酬改定が控え、集合住宅型の訪問への減算や、訪問一回ごとではなく包括して支払う方式への切り替えが取り沙汰された。苗代社長は、東証プライムからグロースへ市場区分を変更する検討にも言及した。急成長を頼りに駆け上がったプライム市場から、事業規模の見直しに合わせて退く可能性を、経営側が自ら口にする状況となった[11][12]。
創業者への依存
業績の穴は、創業者個人が埋めた。2025年3月期に約9億円だった当期損失は、翌2026年3月期には約16億円へと膨らんだ。苗代社長は財務基盤の強化を理由に自社へ10億円を寄付し、単年度の決算を下支えした。急成長期に膨らんだ本社の管理機能は絞り込まれ、役員構成も苗代氏を軸とする最小限の体制へと縮んだ。創業以来の単独経営の色合いは、不正の発覚を経てかえって濃くなったとみられる[13]。
- 週刊東洋経済 2025年4月19日号「介護、大格差 Part2 28億円不正のサンウェルズは氷山の一角」
- サンウェルズ「施設増設計画、見直しの可能性」苗代社長(日本経済新聞, 2025年2月14日)
- サンウェルズ、看護不正の調査報告書受領 加算行為なく請求(日本経済新聞, 2025年2月8日)
- 社長「認識甘かった」不正請求でサンウェルズ 決算説明会で陳謝(北國新聞, 2025年5月)
- 株式上場先の変更検討 サンウェルズ社長、不正請求巡り(北國新聞, 2025年2月)
- サンウェルズ、苗代社長が同社に10億円寄付 財務基盤強化目的に(日本経済新聞, 2026年2月)
- サンウェルズ 有価証券報告書(2025年3月期・単体)