西日本旅客鉄道 福知山線事故後の安全改革 安全性向上計画から安全基本計画へ、安全の経営計画の根幹への据え直し
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何をなぜ決めたか
- 概要
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2005年4月25日、福知山線塚口・尼崎間で列車事故が発生し、106名のお客様の尊い命が失われ、500名を超えるお客様が負傷した。二度と同じ事故を起こさないため安全性向上計画を策定し、同年5月31日に国土交通大臣へ報告した。
計画の柱は、風土・価値観の変革に向けた取り組み、「事故の芽」等の報告に対する対応方の是正、教育・指導のあり方の見直し、情報伝達・共有のあり方の見直し、組織の体制整備や機能強化、運行面・設備面での安全対策、新たな経営理念の策定と全社員への浸透、安全を支える投資計画の8つである。2006年3月には企業理念と安全憲章を制定し直した。
- 背景
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事故が起きたのは完全民営化の翌年だった。連結の経常利益は2002年3月期の700億円から2005年3月期の959億円まで伸び続け、営業収益は1兆2,208億円に達していた。収益は運輸業に偏り、事故の期にあたる2006年3月期でも連結営業収益1兆2,401億円のうち8,508億円を運輸業が占める。
事故後の枠組みは社内だけで組まれたのではない。2005年6月に社外有識者6名で構成する社長の諮問機関として安全諮問委員会を設置し、その提言を踏まえて2006年6月に安全研究所を新設した。2006年10月に施行された改正鉄道事業法に基づいて鉄道安全管理規程を制定し、安全に関する監査で重要な課題を抽出する態勢を敷いた。
- 内容
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設備面では曲線部における速度超過防止を図るATSの整備、踏切設備の保安度向上、高架橋柱の耐震補強工事に取り組んだ。2006年3月にはアーバンネットワークを中心に在来線のダイヤを改正し、ご利用実態を踏まえた停車時分の見直しと、余裕を考慮した運転時分の設定を盛り込んだ。
連結の設備投資額は2006年3月期の1,610億円から2011年3月期の2,827億円へ増え、うち運輸業は1,402億円から2,270億円となった。2009年3月期以降はATS-P整備区間の拡大工事が運輸業の設備投資の主要項目として毎期挙がる。2008年4月には安全基本計画を策定してグループ中期経営計画の根幹に位置づけ、「お客様の死傷事故ゼロ、社員の重大労災ゼロへ向けた体制の構築」を目標に掲げた。
- 含意
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事故に伴う支出額は2006年3月期の特別損失に4,245百万円が計上された。今後も補償などの支出は見込まれるものの、金額等を合理的に見積もることは困難であるとして、その後も毎期同じ記載が続いている。
刑事責任については、2009年7月8日に神戸地方検察庁が業務上過失致死傷罪で代表取締役社長(当時)を起訴処分とし、2010年4月23日には神戸第一検察審査会の議決に基づき指定弁護士が元代表取締役社長3名を起訴した。いずれもその後に無罪が確定している。2009年9月28日には事故調査委員会の調査の過程で発生したコンプライアンス上の重大な問題について国土交通大臣から実態調査と改善措置の報告を命じられ、同年11月18日に企業倫理・リスク統括部と企業倫理委員会の設置を含む改善措置を報告した。
いつ何が起きたか 11件
筆者の見解
目標に足したのではなく、根に据え直した
この改革の芯は、安全を経営の目標に加えたことではなく、経営計画の根に置き直したことにあるだろう。2008年4月の安全基本計画はグループ中期経営計画の根幹と位置づけられ、「お客様の死傷事故ゼロ」という到達点が中期の経営目標そのものへ書き込まれた。目標の一覧に並べるのではなく、他の目標がそこから派生する位置へ動かしたということである。投資も同じ方向へ動き、連結の設備投資額は2006年3月期の1,610億円から2011年3月期の2,827億円へ増えた。社外有識者の委員会と専任の研究所を置いて外の目を常設したことも、判断の質を自前だけに委ねない構えの表れだろう。
もっとも、仕組みを組み替えることと、それが現場の隅々まで届くことは同じではない。2009年9月、事故調査委員会の調査の過程でコンプライアンス上の重大な問題が生じ、国土交通大臣から実態調査と改善措置の報告を命じられている。事故から4年を経て、事故そのものの調査をめぐって再び行政の命令を受けたという順序は重い。刑事責任を個人へ帰す手続はいずれも無罪の確定で終わり、組織の事故を誰がどう引き受けるのかという問いは司法の側からは閉じられなかった。効率への圧力が再び安全を後ろへ回さないか——その問いは常設の課題として残されているとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
経緯と対応
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 事故の発生 | 2005年4月25日 | 福知山線塚口・尼崎間で列車事故が発生した |
| 被害 | 死者106名・負傷500名超 | 106名のお客様の尊い命を奪い、500名を超えるお客様を負傷させた |
| 安全性向上計画の報告 | 2005年5月31日 | 国土交通大臣へ報告。風土の変革、教育・指導の見直し、運行面・設備面の対策、投資計画が柱 |
| 安全諮問委員会の設置 | 2005年6月 | 社外有識者6名で構成する社長の諮問機関。あわせて社長直属の社長特別補佐を置いた |
| 企業理念と安全憲章の制定 | 2006年3月 | 安全に関する具体的行動指針である安全憲章を大幅に見直した |
| ご被害者対応本部の設置 | 2006年3月 | 被害に遭われた方々への対応をより一層充実させるための専任の組織 |
| ダイヤ改正 | 2006年3月 | アーバンネットワーク中心に停車時分を見直し、余裕を考慮した運転時分を設定した |
| 事故に伴う支出額 | 4,245百万円 | 2006年3月期の特別損失「その他」に含まれる。今後の補償は合理的な見積りが困難とした |
| 安全研究所の設置 | 2006年6月 | 安全諮問委員会の提言を踏まえ、安全に係わる研究等に専任で取り組む |
| 鉄道安全管理規程の制定 | 2006年10月 | 改正鉄道事業法の施行に基づく。安全に関する監査で重要な課題を抽出する |
| 鉄道事故調査報告書の公表 | 2007年6月 | 航空・鉄道事故調査委員会。「建議」「所見」をはじめとする指摘を受けた |
| 安全基本計画の策定 | 2008年4月 | グループ中期経営計画の根幹に位置づけ、お客様の死傷事故ゼロ、社員の重大労災ゼロを掲げた |
| 刑事責任の起訴 | 2009年7月8日 | 神戸地方検察庁が業務上過失致死傷罪で代表取締役社長(当時)を起訴処分とした |
| 元社長3名の起訴 | 2010年4月23日 | 神戸第一検察審査会の議決に基づき指定弁護士が元代表取締役社長3名を起訴した |
| コンプライアンス問題の命令 | 2009年9月28日 | 事故調査の過程で生じた重大な問題。国土交通大臣が実態調査と改善措置の報告を命じた |
| 改善措置の報告 | 2009年11月18日 | 企業倫理・リスク統括部と取締役会の諮問機関である企業倫理委員会を設置した |
| ATS-Pの整備 | 整備区間の拡大を継続 | 2009年3月期以降、運輸業の設備投資の主要項目として毎期挙がる |
出所:西日本旅客鉄道 有価証券報告書 第19期(2006年3月期)〜第24期(2011年3月期)【事業の状況】【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況】【設備の状況】
連結営業収益と運輸業の営業収益
西日本旅客鉄道:連結営業収益と運輸業の営業収益
| (億円) | 連結営業収益 | 運輸業 営業収益 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2002年3月期 | 11,906 | − | |
| 2003年3月期 | 11,656 | − | |
| 2004年3月期 | 12,157 | − | |
| 2005年3月期 | 12,208 | − | 事故の前期。経常利益959億円で4期続けての増益だった |
| 2006年3月期 | 12,401 | 8,508 | 2005年4月25日に事故。運輸業は在来線京阪神が減収となった |
| 2007年3月期 | 12,629 | 8,649 | 前期に事故による運休があったことなどで運輸収入は140億円の増 |
| 2008年3月期 | 12,902 | 8,613 | |
| 2009年3月期 | 12,753 | 8,561 | |
| 2010年3月期 | 11,901 | 7,974 | 景気の急激な悪化を受け、運輸業は前期比6.9%の減収 |
| 2011年3月期 | 12,135 | 8,064 |
出所:西日本旅客鉄道 有価証券報告書 第19期・第24期(主要な経営指標等の推移)、第19〜24期(事業の状況)
設備投資額の推移
西日本旅客鉄道:設備投資額の推移
| (億円) | 連結設備投資額 | うち運輸業 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2006年3月期 | 1,610 | 1,402 | 曲線区間における速度超過防止対策など安全性の向上に資する投資を重点的に実施 |
| 2007年3月期 | 1,834 | 1,461 | 分岐器等の速度超過防止を図るATS-SWの整備とATS-P整備区間の拡大 |
| 2009年3月期 | 1,977 | 1,604 | ATS-P整備区間の拡大工事、車両新造工事などに運輸業で1,604億円 |
| 2010年3月期 | 2,463 | 1,983 | |
| 2011年3月期 | 2,827 | 2,270 |
出所:西日本旅客鉄道 有価証券報告書 第19〜24期(設備投資等の概要)
同じ問いに直面した会社
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参考文献
- JR西日本公式サイト 安全性向上計画(https://www.westjr.co.jp/safety/fukuchiyama/plan_improvement/)
- 西日本旅客鉄道 有価証券報告書「第19期(2006年3月期)【事業の状況】【事業等のリスク】【連結財務諸表注記】」
- 西日本旅客鉄道 有価証券報告書「第20期(2007年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況】」
- 西日本旅客鉄道 有価証券報告書「第22期(2009年3月期)【事業の状況】【設備の状況】」
- 西日本旅客鉄道 有価証券報告書「第23期(2010年3月期)【事業等のリスク】」
- 西日本旅客鉄道 有価証券報告書「第24期(2011年3月期)【設備投資等の概要】」
- 西日本旅客鉄道 企業サイト「福知山線列車事故について」