ビッグモーター問題と経営刷新(2024年・SOMPOHDの決断)

更新:
論点 不正の経営責任をどう明確化するか
SOMPOHD:業績の推移
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
保険金不正の発覚を受けた経営陣の総入れ替えとガバナンスの立て直し

何をなぜ決めたか:保険金不正の発覚を受けた経営陣の総入れ替えとガバナンスの立て直し

概要

2024年1月25日に金融庁が損害保険ジャパンと親会社SOMPOホールディングスへ保険業法に基づく業務改善命令を出したのを受け、両社が翌26日、経営陣の刷新を発表した経営判断。損保ジャパンの白川儀一社長が1月末で引責辞任し、13年間グループのトップを務めた櫻田謙悟会長兼グループCEOが3月末で退任、奥村幹夫社長兼COOが後任のグループCEOに就任した。

背景

中古車販売大手ビッグモーターの組織的な保険金不正請求をめぐり、損保ジャパンは他社が事故車の入庫紹介を止めるなかで単独で再開に踏み切っていた。命令が指摘したのは、適切な企業文化の醸成に向けた取組みが不十分であること。ビッグモーター、ビーエムホールディングス、ビーエムハナテンの3社への対応が対象となった。

内容

損保ジャパンの白川儀一氏に加え、13年トップを務めた櫻田謙悟氏も事実上の引責辞任として経営から退いた。後任には損保ジャパンが石川耕治氏、SOMPOが奥村幹夫氏を充てた。2024年2月29日に関係する役員を処分して経営責任の所在を明確にし、3月15日に業務改善計画を金融庁へ提出。損保ジャパンは4月1日付で監査等委員会設置会社へ移行し、社外取締役を置いた。

含意

指名委員会等設置会社への移行など形式を整えてきた統治が、実態としては一人のトップへの集中と現場からの情報遮断を許していた。危機のなかで手を入れた点で、平時の統治改革とは異なる重さがある。もっとも、業務改善計画を遂行している最中の2025年3月24日、損保ジャパンは保険契約情報等の不適切な管理で重ねて業務改善命令を受けている。

いつ何が起きたか 11件
当時の取締役 14名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

考察:側近人事という影
考察

考察:側近人事という影

この判断が映し出すのは、機関設計を先端の指名委員会等設置会社まで進めながら、実質としては一人のトップへの集中と現場からの情報遮断を許していたという、形式と実態の乖離である。命令が突いたのが担当者個人の過失ではなく「適切な企業文化の醸成に向けた取組み」であったこと、そして再発防止策の筆頭に執行のトップが取締役会議長を担う形態の見直しが置かれたことは、問題の根を仕組みと風土に見ていたからだろう。危機に追われるなかで統治の骨格を組み替えた点に、平時の改革とは異なる緊張感がうかがえる。

もっとも、刷新の実質はなお問われている。国内損害保険事業の当期純損益は業務改善命令を受けた2024年3月期に1,097億円へ戻し、2026年3月期の当期利益は2,681億円まで伸びた。数字は回復した一方で、業務改善計画を遂行している最中の2025年3月24日、損保ジャパンは保険契約情報等の不適切な管理で重ねて業務改善命令を受けている。統治の体制を替えることと、意思決定の中身まで替えることは同じではない——その答えは、なお両社の実務の積み重ねに委ねられていると思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 2表

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図と表

SOMPOHD:国内損害保険事業の収入と利益

SOMPOHD:国内損害保険事業の収入と利益
(百万円) 国内損害保険事業 正味収入保険料(日本基準)国内損害保険事業 当期純損益(日本基準)国内損害保険事業 保険収益(IFRS)国内損害保険事業 当期利益(IFRS) 備考
2019年3月期 2,198,702139,821−−
2020年3月期 2,235,82595,445−−
2021年3月期 2,196,574136,744−−
2022年3月期 2,217,148138,288−−
2023年3月期 2,290,59655,084−− 自然災害や大口事故の多発で保険引受利益が減益となり、純利益は550億円
2024年3月期 2,247,927109,7702,585,678192,477 業務改善命令を受けた期。第15期でIFRSへ移行し、同期の値は組替後も併記される
2025年3月期 −−2,634,47858,338 第15期からIFRS。正味収入保険料の開示はなく、保険収益に替わった
2026年3月期 −−2,730,572268,112 火災保険や新種保険の収支改善でE/Iコンバインド・レシオは93.9%
出所:SOMPOホールディングス 有価証券報告書 第9〜14期(報告セグメントごとの経営成績の状況・国内損害保険事業・日本基準) / SOMPOホールディングス 有価証券報告書 第15〜16期(報告セグメントごとの経営成績の状況・国内損害保険事業・IFRS)
出所:SOMPOホールディングス 有価証券報告書 第9〜14期(報告セグメントごとの経営成績の状況・国内損害保険事業・日本基準) / SOMPOホールディングス 有価証券報告書 第15〜16期(報告セグメントごとの経営成績の状況・国内損害保険事業・IFRS)

経緯と対応

経緯と対応
科目 概要 備考
問題の内容 自動車保険金不正請求等への対応 ビッグモーター、ビーエムホールディングス、ビーエムハナテンの3社が対象
金融庁の業務改善命令 2024年1月25日 SOMPOに保険業法第271条の29第1項、損保ジャパンに同法第132条第1項
命令での指摘 適切な企業文化の醸成に向けた取組みが不十分 二度と起こさないための再発防止策を掲げた業務改善計画の提出を求められた
経営責任の明確化 2024年2月29日に役員を処分 保険金不正請求への対応と不適切な保険料調整行為の両問題が対象となった
役員報酬への反映 2023年度の業績連動報酬で調整 重大な不祥事案にかかる経営責任等を踏まえ、報酬委員会が支給率と支給額を決議
業務改善計画の提出 2024年3月15日 保険料調整行為に関する計画は先立つ2024年2月29日に提出している
計画の進捗報告 四半期ごとに金融庁へ報告 2024年6月14日・9月13日・12月13日、2025年3月14日・6月13日に実施した
社外調査委員会 提言事項を再発防止策に反映 業務改善命令の指摘事項と併せ、業務改善計画に掲げた再発防止策の土台とした
ガバナンス態勢の見直し 執行のトップが取締役会議長を担う形態を原則見直し 持株会社からの取締役派遣を増強し、執行と監督の分離を進めた
担当役員の新設 コンプライアンス担当役員と内部監査担当役員 業務改善計画の進捗を含むグループの内部監査を統括する役員を新たに選任
損保ジャパンの機関設計 2024年4月1日に監査等委員会設置会社へ移行 社外取締役を設置。持株会社兼任取締役と業務執行取締役を同数程度とする
情報連携の再整備 子会社の重要事項の報告ルールを再整備 持株会社が能動的に子会社の重要情報を入手できる態勢を整えるとした
重ねて受けた処分 2025年3月24日の業務改善命令 損保ジャパンの保険契約情報等の不適切な管理。計画は2025年5月30日に提出
保険料調整行為の課徴金 6億4,798万円 2024年10月31日に公正取引委員会から排除措置命令とともに納付を命じられた
出所:SOMPOホールディングス 有価証券報告書 第14期(2024年3月期)【対処すべき課題等】【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況等】・第15期(2025年3月期)【対処すべき課題等】・第16期(2026年3月期)【対処すべき課題等】
出所:SOMPOホールディングス 有価証券報告書 第14期(2024年3月期)【対処すべき課題等】【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況等】・第15期(2025年3月期)【対処すべき課題等】・第16期(2026年3月期)【対処すべき課題等】
当時の取締役 14名

当時の取締役(2023年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 金融庁 行政処分「損害保険ジャパン株式会社及びSOMPOホールディングス株式会社に対する行政処分について」
  • SOMPOホールディングス 有価証券報告書「第14期(2024年3月期)【対処すべき課題等】【事業等のリスク】【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
  • SOMPOホールディングス 有価証券報告書「第15期(2025年3月期)【対処すべき課題等】」
  • SOMPOホールディングス 有価証券報告書「第16期(2026年3月期)【対処すべき課題等】【経営者による分析】」

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