日本M&Aセンター 不適切会計で決算訂正 期ずれで計上した83件の一括訂正と、内部統制の再構築

更新:

時期 2022年2月
当時の社長 三宅卓
論点 企業統治と会計の信頼性(四半期業績の達成を優先する営業現場の規律)
何をなぜ決めたか
概要

連結子会社である日本M&Aセンターの売上の期間帰属等をめぐり、過去の社内報告に不適切な報告があることが判明した。外部の弁護士・公認会計士を含む調査委員会が2016年4月以降に売掛金計上された全案件を調べ、2022年2月14日、2018年4月以降の83件が期ずれ等により不適切に会計処理されていたとの報告を出した。訂正の結果、2021年3月期の連結売上高は1,335,275千円、営業利益と経常利益はそれぞれ1,072,181千円、親会社株主に帰属する当期純利益は736,877千円減少した。

背景

従来の売上計上は、案件担当者が株式譲渡契約書・基本合意書のコピーを入手し、それを証憑として計上する仕組みだった。担当者の手元にある写しだけで売上が立つため、そのコピーを改竄することで不適切な報告をする余地があった。

再発防止策として真っ先に挙がったのが、総合的な人事評価の採用と四半期業績達成に関する経営管理手法の見直しであり、成約が四半期をまたぐときの規律が問われた事案だったことを示している。

内容

2021年12月20日に調査の開始を公表し、2022年2月14日に調査委員会の報告を受けて、第30期の有価証券報告書と内部統制報告書、第30期第1〜第3四半期および第31期第1〜第2四半期の四半期報告書について訂正報告書を同日提出した。2022年3月期には過年度決算訂正関連費用205,494千円を特別損失に計上している。2022年3月31日現在の財務報告に係る内部統制は、全社的な内部統制と業務プロセスに関する内部統制に開示すべき重要な不備があるため有効でないと評価された。

含意

対応は組織と業務フローの両面に及んだ。売上計上は、売り手と買い手それぞれから契約書の写しを入手し、かつ双方から当該契約が締結されたことを明記した確認書の原本を入手するフローへ2022年3月に改めた。同年3月1日付でコンプライアンス統括部と文書管理課を新設し、チーフコンプライアンスオフィサーと内部監査部門の専担者を7月に迎えた。営業組織も4月1日付で営業部門のトップと事業部長・部長陣を再編成した。重要な不備は2023年3月期末に解消されたと判断されている。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

期ずれの小ささと、規律の重さ

この事案の核心は、失われた金額の大きさにはない。前倒し計上は売上を期をまたいで先取りする"期ずれ"であり、本来の期へ戻せば累計の損益はおおむね元に戻る。実際、訂正で消えたのは2021年3月期の売上高1,335,275千円、全体の3.7%にすぎない。にもかかわらず83件が積み上がったのは、担当者の手元にある契約書の写しだけで売上が立つ仕組みが、四半期ごとの達成を求める営業の求心力と噛み合っていたからだと思われる。個々の出来心ではなく、仕組みと規律の接点に穴があった。

もっとも、会社の対応はその穴を素直に認めるところから始まっている。売上計上を売り手と買い手の双方に確認させるフローへ改め、人事評価に倫理観の項目を入れ、四半期業績達成に関する経営管理手法そのものを見直した。2022年3月期末に「有効でない」と自ら評価した内部統制は、翌期末に不備が解消されたと判断されている。信頼を商品とするM&A仲介にとって、不正の中身よりも、それを認めて作り直す速さのほうが問われた。従業員数が2024年3月期に1,043名まで減ったあと、2026年3月期に売上高・営業利益ともに過去最高へ届いたことが、その再建の帰結を示している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
経緯と対応

経緯と対応

科目 概要 備考
社内調査の公表 2021年12月20日 売上の期間帰属等に関する社内報告の不適切が判明し、調査の開始を公表した
調査委員会 外部の弁護士・公認会計士を含む調査委員会 従業員による不適切な業務執行を含む内部統制上の問題の疑義が生じたため設置
調査報告書の受領 2022年2月14日 2016年4月以降に売掛金計上された全案件が調査の対象
不適切な会計処理 83件 2018年4月以降の案件で、期ずれ等により不適切に会計処理されていた
訂正報告書の提出 有価証券報告書1通・四半期報告書5通・内部統制報告書1通 いずれも2022年2月14日提出。対象は第30期と第31期第2四半期まで
売上高の訂正(2021年3月期) 1,335,275千円の減少 訂正後の連結売上高は34,795,191千円
営業利益・経常利益の訂正 それぞれ1,072,181千円の減少 訂正後の連結営業利益は15,336百万円、経常利益は15,468,631千円
当期純利益の訂正 736,877千円の減少 総資産は1,448,203千円、純資産は736,877千円それぞれ減少
過年度決算訂正関連費用 205,494千円 2022年3月期の特別損失に計上。2023年3月期の計上はない
内部統制の評価 開示すべき重要な不備があり有効でない 2022年3月31日現在。2023年3月期末に不備は解消されたと判断された
責任の明確化 社内規程に則り厳正な処分を実施 2022年4月1日付で営業部門のトップと傘下の事業部長・部長陣を再編成した
売上計上フローの再構築 双方から契約書の写しと確認書の原本を入手 売り手と買い手の双方に契約の締結を確認させる。2022年3月から実施
体制の新設 コンプライアンス統括部と文書管理課 2022年3月1日付で新設。CCOと内部監査室長は同年7月1日入社

出所:日本M&Aセンターホールディングス 有価証券報告書 第31期(2022年3月期)【追加情報】(不正な財務報告の訂正)・【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

売上高と営業利益の推移

日本M&Aセンター:売上高と営業利益の推移

(百万円) 売上高営業利益 備考
2017年3月期 19,0699,046
2018年3月期 24,62511,605
2019年3月期 28,46312,533
2020年3月期 32,00914,247
2021年3月期 34,79515,336 過年度決算の訂正後。訂正前の売上高は36,130、営業利益は16,408
2022年3月期 40,40116,430 訂正報告書を提出した期。特別損失に訂正関連費用205百万円を計上
2023年3月期 41,31515,298 営業利益は1,131の減少。内部統制の重要な不備はこの期末に解消
2024年3月期 44,13616,066
2025年3月期 44,07716,715
2026年3月期 50,25718,761 売上高・営業利益ともに過去最高
売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:日本M&Aセンターホールディングス 有価証券報告書 第27〜35期(主要な経営指標等の推移・経営成績の分析)

連結従業員数の推移

日本M&Aセンター:連結従業員数の推移

(名) 連結従業員数 備考
2017年3月期 283
2018年3月期 337
2019年3月期 451
2020年3月期 582
2021年3月期 810
2022年3月期 972
2023年3月期 1,083
2024年3月期 1,043 前期から40名の減少
2025年3月期 1,086
2026年3月期 1,062
連結従業員数
連結従業員数(名)

出所:日本M&Aセンターホールディングス 有価証券報告書 第27〜35期(従業員の状況)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 日本M&Aセンターホールディングス 適時開示「調査委員会の調査報告書の受領及び公表に関するお知らせ」
  • 日本M&Aセンターホールディングス 調査委員会 調査報告書「調査報告書」
  • 日本M&Aセンターホールディングス 有価証券報告書「第30期(2021年3月期)訂正報告書・内部統制報告書訂正報告書」
  • 日本M&Aセンターホールディングス 決算説明資料「2022年3月期 決算説明資料」
  • 日本M&Aセンターホールディングス 有価証券報告書「第31期(2022年3月期)【追加情報】(不正な財務報告の訂正)」
  • 日本M&Aセンターホールディングス 有価証券報告書「第32期(2023年3月期)独立監査人の監査報告書及び内部統制監査報告書」

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