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日本M&Aセンターの実質減収決算と「量から質」への転換

2025年実施

審査厳格化とミッドキャップ重視が成約件数を押し下げるなか、三宅卓率いる持株会社は高成長の踊り場をどう説明したか

時期 2025年4月
意思決定者 三宅卓(代表取締役社長)
論点 成長鈍化と量から質への転換
概要
2025年4月30日、日本M&Aセンターホールディングスは2025年3月期決算を開示し、連結売上高が前期比0.1%減の約441億円と、高成長を続けてきた同社としては珍しい実質的な減収に転じたことを明らかにした。成約件数の減少を主因としつつ、経常利益は過去最高を更新した。
背景
2021年12月の不正会計発覚後、同社は審査体制と品質管理を強化し、事業会社の日本M&Aセンターでは竹内直樹社長が「第二創業」を掲げて立て直しを進めていた。品質を優先する運用は個別案件の成約までの期間を延ばし、需要側の慎重化や仲介会社の増加も重なって、成約件数が伸びにくい局面に入っていた。
内容
成約件数は1,078件と前期から68件減った一方、1件あたりのM&A売上高は37.2百万円から39.6百万円へ上がった。件数を追わずミッドキャップ案件と質を優先する路線を続けた結果であり、売上高はほぼ横ばいながら経常利益は約169億円と過去最高になった。翌2026年3月期は売上高46,300百万円(5.0%増)の緩やかな成長を見込む計画を示した。
含意
成約課金型の仲介モデルでは、審査の厳格化がそのまま成約の遅れと売上計上の後ろ倒しに直結する。減収でありながら増益・過去最高益という異例の決算は、量から質への転換の途上を映したものであり、翌期の二桁増収・過去最高益での回復が、その路線の妥当性を後から裏づけた。
筆者の見解

減収でも増益、という決算が示すもの

この決算の核心は、売上高の実質的な減少そのものではなく、成約課金型の仲介業が抱える質と量のトレードオフが、初めて明確に数字として表面化した点にある。不正会計を経て審査と品質を厳しくすれば、成約までの摩擦は増え、件数は鈍る。それでも単価の高いミッドキャップ案件へ軸足を移したことで、減収でありながら経常利益は過去最高を更新した。量の指標である成約件数と、質の指標である一件あたり単価とが逆方向に動いたこの決算は、同社が「量から質」への転換の途上にあることを端的に映したものとみることができる。

減収の開示は、高成長を前提に評価されてきた企業にとって、説明の難しい場面であった。三宅卓社長の持株会社は、件数を追って短期の売上を取り繕うのではなく、品質重視の路線を続ける選択を優先した。その判断の当否は、翌2026年3月期の二桁増収・過去最高益という回復によって、ひとまず裏づけられた形である。信頼回復と成長をどの順序で両立させるか——この決断は、信用を土台とする仲介業において、短期の数字よりも運用の質を先に立て直すという経営の優先順位を示した事例として位置づけられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

高成長の踊り場と品質重視への転換

日本M&Aセンターは、社会的に認知されていなかった中小企業のM&A仲介という市場を自ら切り開き、2006年の株式上場以降はほぼ一貫して増収増益を重ねてきた。その高成長の歩みは、2021年10月の持株会社制への移行の直後、同年12月に発覚した不正会計で一度大きく揺らいだ。過大なノルマと成約偏重の評価制度が問題視され、会計事務所や地方銀行との信頼を土台とする同社にとって、品質への疑義は事業の根幹に関わるものであった[1]

以後、同社は審査体制と品質管理を強化し、事業会社の日本M&Aセンターでは2024年に竹内直樹社長が「第二創業」を掲げて立て直しを進めた。品質を優先する運用は、個別案件の検討や顧客への説明に時間を要し、成約までの期間を構造的に延ばした。成約課金を基本とする仲介業では、この遅れがそのまま売上計上の後ろ倒しに直結する。信頼の回復と短期の売上確保という、方向の異なる二つの要請が同時に経営へのしかかった[2]

慎重化する経営者と、増える仲介会社

外部環境も逆風となった。竹内直樹社長は統合報告書で、中小企業庁に登録されたM&A支援機関が約3,000社、うち仲介専門会社が約700社に達したこと、多くの仲介会社によるダイレクトマーケティングで中小企業経営者にM&Aが浸透した一方、日々届くダイレクトメールに経営者が疲弊して反応率が低下していること、不適切な譲受け企業をめぐる報道で経営者が慎重になっていることを挙げた。市場の拡大とともに、案件を成約へ導く難度もまた上がっていた[3]

品質重視という内側の選択と、慎重化という外側の変化が同時に働くなかで、受託や相談といった先行指標が一定の水準にあっても、成約に至るまでの摩擦が増えれば成約件数は伸び悩む。同社の成長は、上場以来の勢いから踊り場へと入りつつあった。実際に会社は、2025年3月期の業績が自らの当初計画に「もう一歩及ばない結果」であったと決算で認めることになる[4]

決断

量を追わず、質とミッドキャップを優先する

こうした環境で同社が選んだのは、成約件数を無理に積み増すのではなく、案件の質と規模を優先する路線の継続であった。審査を緩めて件数を確保する誘惑を退け、売上高10億円以上または利益5千万円以上のミッドキャップ案件の成約に注力した。不正会計を経た同社にとって、件数偏重の評価へ回帰することは信頼回復の趣旨に反する。質を守りながら一件あたりの価値を高める方向に、経営資源を振り向けた[5]

その結果、2025年3月期の成約件数は1,078件と前期から68件減った一方、1件あたりのM&A売上高は37.2百万円から39.6百万円へ2.4百万円上がった。件数の減少を単価の上昇で補う構図であり、量から質への移行が数字に表れた。成約件数という量の指標と、一件あたり単価という質の指標が、逆の方向へ動いた決算であった[6]

実質減収でありながら過去最高益という決算

2025年4月30日、三宅卓社長が率いる持株会社の日本M&Aセンターホールディングスは、2025年3月期の連結決算を開示した。売上高は前期比0.1%減の44,077百万円となり、高成長を続けてきた同社としては珍しい実質的な減収に転じた。件数を追わない路線を選んだ以上、成約件数の減少が売上に映るのは避けがたく、会社は数字の背景を説明する立場に立たされた[7]

一方で、経常利益は前期比2.1%増の16,918百万円となり、過去最高を更新した。営業利益も約167億円を確保している。減収と過去最高益が同居する異例の決算であり、あわせて翌2026年3月期については、売上高46,300百万円(当年度実績比5.0%増)、経常利益17,000百万円(同0.5%増)という緩やかな成長計画を示した。件数の回復を織り込みつつも、慎重な見通しにとどめた内容であった[8]

結果

市場の受け止めと、翌期の回復

市場の反応は慎重であった。会社が示した翌2026年3月期の純利益見通しが前期比0.4%増にとどまったことを、日本経済新聞は市場予想の平均を下回るものとして報じた。実質的な減収に転じた事実と保守的な見通しは、長らく高成長企業として評価されてきた同社の成長鈍化を、投資家の目に見える形で可視化した[9]

もっとも、質と単価を優先した路線は、翌期に成果として表れた。2026年3月期の売上高は前期比14.0%増の50,257百万円、経常利益は同13.2%増の19,154百万円となり、いずれも過去最高を更新した。ミッドキャップ重視で押し上げた一件あたりの単価が、成約件数の持ち直しと重なり、二桁の増収増益につながった。減収に転じた前期は、結果として成長の断絶ではなく踊り場であったことになる[10]

出典・参考
  • 日本M&Aセンターホールディングス 2025年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)(2025年4月30日)
  • 日本M&Aセンターホールディングス 2026年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)(2026年4月30日)
  • 日本経済新聞 2025年4月30日「日本M&Aの2026年3月期、純利益0.4%増 予想平均下回る」
  • 日本M&Aセンターホールディングス 統合報告書2025
  • 日本M&Aセンター 有価証券報告書【沿革】/(役員の状況)