グッドウィル・グループコムスンの指定取消相当通知を受けたグループ全介護事業の外部譲渡
一括か分割か——連座制で継続の道が閉じたなかで、折口雅博会長は譲渡の条件に何を選んだか
- 概要
- 2007年6月、グッドウィル・グループが、傘下コムスンの訪問介護事業所8カ所で指定取消処分相当の事実を厚生労働省老健局から指摘されたことを受け、グループ内の全介護事業および介護関連事業を外部へ譲渡する基本方針を決めた経営判断。同年11月に在宅系、12月に居住系の事業承継が完了した。
- 背景
- 2006年4月施行の改正介護保険法は、一事業所でも不正が確認されれば法人全体が5年間にわたり指定の許可・更新を受けられない連座制を導入していた。コムスンは処分前の廃止届と傘下会社への事業移管で難を逃れようとしたが、監督官庁と世論がこれを認めず、利用者6万5000人・従業員2万4000人を抱える事業の受け皿を外に求めるほかなくなった。
- 内容
- 譲渡先は介護業界の会社を最優先とし、UIゼンセン同盟の要請を受けて一括譲渡を条件に据えた。折口雅博会長兼CEOは「ファンドは100%ありません」「譲渡価格は二の次です」と述べ、従業員と利用者の継続を売却代金より上に置いた。
- 含意
- 一括譲渡という条件は結果としては保たれず、居住系はニチイ学館へ210億円で渡り、在宅系や関連会社は会社ごとに複数の相手へ分かれた。1997年3月のコムスンへの資本参加から10年、折口会長自身が「これまで介護の収益は上がっていない」と述べた事業からの退出であった。
選べなかった撤退と、選べた条件
厚生労働省老健局が8事業所の指定取消処分相当を都道府県へ通知した時点で、コムスンを抱えたまま介護を続ける道は連座制によって閉じていた。折口会長が「そうすべき客観情勢」と語ったとおり、全介護事業を外に出すこと自体は選択というより結論であった。裁量が残ったのは条件のほうで、折口会長はUIゼンセン同盟の求める一括譲渡を受け、ファンドへの売却を「100%ありません」と排した。譲渡先を介護業界の会社に限り、価格を最後に置くという条件は、買い手の候補をあらかじめ狭めた。
居住系はニチイ学館に集まり、在宅系や関連会社は会社ごとに複数の相手へ分かれた。渡邉美樹社長が危ぶんだ1社集中と、地域ごとの分割が同時に起きた。価格を二の次に置けたのは、折口会長自身が認めたように介護がグループの利益を稼いでいなかったからでもある。自己資本比率が2.6%まで落ちた会社にとって、10年間一度も利益を上げなかった事業の売却は、資本を立て直す手段でもあった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
指定取消相当の通知と連座制
2007年6月6日、厚生労働省老健局は、コムスンの全国8カ所の訪問介護事業所で指定取消処分相当の事実が確認されたとして、指定の許可・更新を行わないよう都道府県に通知した。確認された事実は、事業所の指定申請時に他事業所の職員など雇用実態のない職員を書類へ記載した虚偽申請である。コムスンは利用者6万5000人、従業員2万4000人を抱える業界最大手であり、通知は開始から7年を経た介護保険制度そのものを揺るがした[1]。
一事業所の不備を法人全体に及ばせる仕組みは、前年に施行された改正介護保険法が用意していた。2006年4月の改正で罰則が強められ、一事業所でも不正が確認されれば、その法人すべてが以後5年間にわたり指定の許可・更新を受けられない連座制が導入されていた。各都道府県の監査で虚偽申請が判明すると、コムスンは先回りして8事業所すべてで処分前に廃止届を提出した。樋口公一社長も、この提出が処分逃れであったと認めている[2]。
継続の道が閉じるまで
廃止届による処分逃れが通らないと分かると、コムスンは傘下の日本シルバーサービスへ全事業を移す案に転じた。厚労省老健局の幹部は「道義的にこうしたことが許されるかどうかは普通に考えればわかるでしょう」と不快感を示し、世論もこれを認めなかった。事業譲渡は凍結され、折口雅博会長兼CEOは「総合的な客観情勢から許されなくなった」と語った。有価証券報告書の沿革には、同年6月にコムスンが保有する日本シルバーサービス株式の全部を関係会社へ移した記録が残る[3][4]。
もっとも、介護はグループの稼ぎ手ではなかった。1997年3月にコムスンへ資本参加して介護に加わってから10年、前年秋に買収した人材サービス会社の売上も加わって2007年6月期の連結売上高は5090億円に達したが、その9割と利益のすべては人材サービス関連が稼いでいた。折口会長は取材に「これまで介護の収益は上がっていない。それ以外の利益で賄ってきた」と述べている[5][6]。
決断
全介護事業を外へ出すという方針
2007年6月、グッドウィル・グループはグループ内全介護事業および介護関連事業の事業譲渡に関する基本方針を決定した。折口会長は6月12日の単独取材で、介護事業すべてを売却するのかと問われ「そうすべき客観情勢と考えています」と答えた。当初は続けたいと語っていたではないかと重ねて問われると、「許されない状況にあるということです」と述べた。全面譲渡が自らの発意ではなかったことを、売り手自身の言葉が示している[7][8]。
一方で折口会長は、不正の性質についての見方を変えなかった。虚偽申請と介護報酬の不正請求が詐欺罪にならないかと問われて「まったくあたりません」「これは事務処理ミスなんですね」と答え、「私の経営手法そのものが全部悪いかというと、そうは思っていません」と述べた。これに対し、東京都福祉保険局の堅多敦子指導第一課長は「とても過失とはいえないケースがあった」「微罪と言われるのは心外」と反論した。両者の見立ては終始かみ合わなかった[9][10]。
一括譲渡という条件と、その異論
譲渡そのものが外から迫られたものであっても、条件の設計には裁量が残った。折口会長は労働組合のUIゼンセン同盟から一括譲渡を条件とする書類を受け取り、「たいへん重いものと考えます」と述べた。譲渡先は介護業界の会社を最優先とし、譲渡後が不安定になって従業員が安心感を持てないことを理由に、ファンドへの売却を「100%ありません」と排して「譲渡価格は二の次です」と続けた。株主に返る代金よりも、利用者と従業員の継続を上に置いた[11]。
この条件には異論もあった。介護に参入していたワタミの渡邉美樹社長は、全国約450社の事業者団体と連携して全介護事業を引き受ける意向を示し、「ニチイ学館へ一括譲渡されてガリバーが生まれるのは、利用者のことを考えれば疑問。日本の介護の将来に大きな禍根を残す」と述べた。1社に集めれば、採算の取れない地域は切られるという見立てである。野村証券の繁村京一郎シニアアナリストも、訪問介護の採算が悪化したなかでの一括譲渡にはファンドの力が要ると指摘していた[12][13]。
結果
決まった譲渡先と、分かれた受け皿
8月27日、コムスンが保有する施設介護事業の売却先が業界最大手のニチイ学館に決まり、翌日には譲渡金額210億円が発表された。認知症対応のグループホーム183施設と有料老人ホーム26施設が移り、ニチイ学館は在宅系と施設系の双方で首位に立った。引き受けた側の介護事業も2005年度以来実質赤字が続き、ニチイ学館自身も不適正な介護報酬請求で東京都から業務改善勧告を受けていた。寺田明彦会長は会見で「なくてもいい細かな規制がありすぎる」と述べた[14]。
一括譲渡という条件は、結果としては保たれなかった。9月にはコムスンが保有するコティとグレースの株式がアートコーポレーションへ、日本シルバーサービスとコムスン関東の株式がニチイ学館へ渡った。10月にはクリスタル介護センターがエルダリーケアサービス、クリスタル介護施設センターがケアファーストへ移った。会社ごとに相手が分かれたまま、在宅系サービス事業は11月、居住系サービス事業は12月に事業承継を終えた。1997年3月の資本参加から10年で、グループは介護から退いた[15]。
撤退後に残ったもの
撤退の会計上の帰結は、2007年6月期の決算に現れた。連結売上高は5090億円へ伸びた一方、当期純損失は407億円に達し、自己資本比率は前期末の35.4%から2.6%へ下がった。増資による調達額は当初見通しの半分程度、113億円にとどまった。8月末の決算発表で会社は今期の業績見通しを示さず、例年開いていた記者会見も開かなかった。年初に11万円台で推移した株価は、6分の1程度まで下がっていた[16][17]。
在宅系事業の譲渡先が決まった9月4日の会見で頭を下げたのは、すでに辞意を表明していたコムスンの樋口社長であり、折口会長は姿を見せなかった。介護から退いても、日雇い派遣の賃金から天引きしたデータ装備費をめぐる集団訴訟や、1年前の3倍にあたる2000億円弱の有利子負債は残った。グループは2008年10月に商号をラディアホールディングスへ変更し、2009年6月期には投資金融業のPromontoria Investments I B.V.が親会社となった[18][19]。
- 週刊東洋経済 2007年6月23日号「スペシャルリポート コムスン問題だけではない もはや四面楚歌「折口帝国落日」」
- 週刊東洋経済 2007年6月30日号「ニュース最前線 このひとに5つの質問 渡邉美樹 ワタミ社長 ニチイへの一括譲渡では介護の将来に禍根を残す」
- 週刊東洋経済 2007年9月8日号「ニュース最前線 介護 コムスン買収が決定 盟主ニチイの試金石」
- 週刊東洋経済 2007年9月15日号「ニュース最前線 介護 介護撤退でも暗雲晴れぬ「折口帝国」」
- ラディアホールディングス(旧グッドウィル・グループ) 有価証券報告書【沿革】
- ラディアホールディングス(旧グッドウィル・グループ) 有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」(連結)