姫路製造所の爆発事故対応(2012年・日本触媒の決断)

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論点 姫路製造所の爆発事故と安全管理体制の再構築
売上高(億円)営業利益率(%)
アクリル酸プラントの全面停止と、社是を最上位に据え直した安全管理の立て直し

アクリル酸プラントの全面停止と、社是を最上位に据え直した安全管理の立て直し

概要

2012年9月29日、姫路製造所のアクリル酸製造プラントエリアで爆発・火災事故が発生し、消火にあたった消防副士長1人が死亡、36人が負傷した。危険物製造所等一時使用停止命令により、姫路製造所と隣接する関係会社の全プラントが停止した。

アクリル酸及びアクリル酸エステル、高吸水性樹脂、特殊エステル、洗剤原料用などの水溶性ポリマーは2013年3月末時点でも操業を停止したままで、爆発火災事故に係る損失は2013年3月期に8,882百万円、2014年3月期に8,323百万円を特別損失へ計上した。

背景

姫路製造所は、アクリル酸からその誘導品である高吸水性樹脂までを一貫して生産する中核拠点であった。2012年3月期の基礎化学品事業の売上高は1,365億円、機能性化学品事業は1,607億円で、連結売上高3,207億円の大半をこの2事業が占めていた。

生産を一か所へ集めていたため、停止の影響は製品群を横断した。2013年3月期の売上高は前年度比511億8千3百万円減の2,695億2千万円、営業利益は210億6千5百万円減の100億3千4百万円と、いずれも事故の影響による減少であった。

内容

使用停止命令は2012年11月1日以後、数次にわたって解除された。同年11月に自動車触媒を含む触媒関連と塗料用樹脂、12月に電子情報材料と樹脂改質剤、2013年1月に無水マレイン酸とコンクリート混和剤用ポリマーが生産を再開し、同年6月にアクリル酸と高吸水性樹脂、7月に特殊エステルと水溶性ポリマー、8月にアクリル酸エステルが続いた。

2013年12月18日に全ての停止命令が解除され、2014年2月に最後まで停止していたアクリル酸プラントが再開して全プラントが復旧した。事故調査委員会の最終調査報告書は2013年3月27日に受領し、同月29日に公表した。

含意

2010年度から進めていた中長期経営計画「テクノアメニティ2015」は、2015年度に売上高4,000億円・経常利益300億円を掲げていたが、2013年度は事故からの復旧を最優先とする単年度計画に切り替えられた。

2014年3月期には、社是「安全が生産に優先する」を企業理念・経営理念と並ぶ最上位に置くことを改めて明示した。高吸水性樹脂は2013年にインドネシアで9万トン、2014年に中国で3万トンを増設し、海外グループ会社の生産能力を27万トンへ広げる計画が並行して進んだ。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解 一か所に集約した強みが、そのまま止まった
筆者の見解

一か所に集約した強みが、そのまま止まった

この事故が突きつけたのは、アクリル酸から高吸水性樹脂までを姫路製造所へ集めた生産構造そのものであっただろう。爆発火災事故に係る損失17,205百万円は2期にわたる特別損失として姿を現したが、実際に効いたのは本業の側である。2013年3月期の営業利益は100億3千4百万円で、前年度から210億6千5百万円を失った。一つの製造所が止まったことで、連結の営業利益の3分の2が消えた計算になる。製品が違っても原料と工程でつながっている以上、停止は事業を横断して波及する。効率のために統合したものが、事故のときには同じ束のまま失われたのだといえる。

もっとも、会社が事故後に置き直したものは安全の体制だけではなかった。社是「安全が生産に優先する」を企業理念・経営理念と並ぶ最上位に明示する一方で、高吸水性樹脂の生産能力はインドネシアと中国の増設によって海外で27万トンへ広がった。姫路に集めた構造は、復旧と同時に外へ分散する方向へ動き出していたと読める。ただし全プラントが再稼働した2014年2月から刑事責任が確定する2018年までに要した歳月は、設備が戻ることと事故が終わることが別であることを示している。安全管理をどう恒常的に更新し続けるかという問いは、判決の後にも残されたままである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

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事故の経緯と対応

事故の経緯と対応

科目 概要 備考
発生日 2012年9月29日 姫路製造所のアクリル酸製造プラントエリアで発生した爆発・火災事故
人的被害 死亡1名・負傷36名 死亡したのは消火活動にあたっていた姫路市消防局の消防副士長
行政処分 危険物製造所等一時使用停止命令 姫路製造所と隣接する関係会社の全プラントが停止した
停止命令の解除 2012年11月1日以後、数次にわたり解除 2013年12月18日に全ての停止命令を解除する旨の通知を受けた
操業を再開できなかった製品 アクリル酸・高吸水性樹脂ほか アクリル酸エステル、特殊エステル、水溶性ポリマーも2013年3月末時点で停止
全プラントの復旧 2014年2月 最後まで停止していたアクリル酸プラントが再開し、全プラントが再稼働した
事故調査委員会の報告 2013年3月27日に最終調査報告書を受領 同月29日に公表。提言された再発防止策を踏まえて安全対策を実施した
爆発火災事故に係る損失 8,882百万円(2013年3月期) 2014年3月期に8,323百万円を追加計上し2期で17,205百万円。主に休止事業の製造固定費
受取保険金 8,231百万円(2013年3月期) 2014年3月期は受取保険金9,179百万円と保険差益2,275百万円を計上した
火災未決算 2,176百万円 焼失したたな卸資産・固定資産の帳簿価額と罹災した資産の修繕費等。流動資産に計上
再発防止の位置づけ 社是「安全が生産に優先する」を最上位に 企業理念・経営理念と並ぶ最上位に置くことを2014年3月期に改めて明示した

出所:日本触媒 有価証券報告書 第101期(2013年3月期)・第102期(2014年3月期)【業績等の概要】【対処すべき課題】【事業等のリスク】【連結損益計算書関係】

事故が連結業績に与えた影響

日本触媒:事故が連結業績に与えた影響

(百万円) 売上高営業利益爆発火災事故に係る損失受取保険金 備考
2008年3月期 302,66918,379−−
2009年3月期 289,102622−−
2010年3月期 244,31713,881−−
2011年3月期 288,34529,813−−
2012年3月期 320,70431,100−− 事故の前年度。受取保険金1,105百万円は東日本大震災と米国関連会社の事故によるもの
2013年3月期 269,52010,0348,8828,231 9月29日に事故が発生。売上高は511億8千3百万円減、営業利益は210億6千5百万円減
2014年3月期 302,13613,7528,3239,179 保険差益2,275百万円を含む特別利益合計は11,512百万円
2015年3月期 374,87326,133−− 事故に係る損失の計上はなく、特別損失合計は1,008百万円
2016年3月期 323,12431,234−−
2017年3月期 293,97021,151−−
2018年3月期 313,93925,610−−
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:日本触媒 有価証券報告書 第94〜106期(連結損益計算書・業績等の概要)

姫路製造所が担う2事業のセグメント業績

日本触媒:姫路製造所が担う2事業のセグメント業績

(百万円) 基礎化学品 売上高基礎化学品 セグメント利益機能性化学品 売上高機能性化学品 セグメント利益 備考
2008年3月期 109,3316,721155,8928,769
2009年3月期 117,9021,589139,862△1,895
2010年3月期 99,3295,328131,5149,161
2011年3月期 125,05213,986141,55313,323
2012年3月期 136,56213,387160,76216,526
2013年3月期 113,8622,097137,0126,779 アクリル酸・アクリル酸エステル・高吸水性樹脂とも販売数量が大幅に減少した
2014年3月期 129,8423,250146,8578,239 海外での設備新増設と再稼働が販売数量の減少を抑えた
2015年3月期 147,9767,820200,96717,286
2016年3月期 117,6438,851177,79821,422
2017年3月期 107,5808,207159,96112,119
2018年3月期 131,08413,558173,27411,529

出所:日本触媒 有価証券報告書 第94〜106期(セグメント情報)

参考文献
出典・参考
  • 日本触媒 有価証券報告書「第101期(2013年3月期)【業績等の概要】【対処すべき課題】【事業等のリスク】【連結損益計算書関係】」
  • 日本触媒 有価証券報告書「第102期(2014年3月期)【業績等の概要】【対処すべき課題】【連結損益計算書関係】」
  • 日本触媒 有価証券報告書「第103期(2015年3月期)【連結損益計算書関係】」
  • 日本触媒 ニュースリリース「姫路製造所における爆発・火災事故について(第11報)」
  • 日本触媒 ニュースリリース「姫路製造所における爆発・火災事故に関する判決について」

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