買収・合併後の統合
合併の発表で決まるのは、商号と持株会社の体制、そして役員の配分までである。しかし実際の業務は、どちらか一方の仕組みを選ばなければ動かない。勘定系のシステム、人事制度と賃金表、購買の条件、工場ごとの生産品目。二つを並存させたままでは費用は減少せず、統合の目的だった規模の効果も出ない。調達も物流も、量をまとめて初めて単価が下がる。
仕組みの一本化を難しくするのが、統合後も人員を大きく削減しないという前提である。両社の従業員がそのまま残れば、制度の一本化は処遇の一本化を意味する。役員も双方から出すため、どちらの制度を採るかに利害を持つ者が意思決定の場に並ぶ。銀行の勘定系のように、一方へ寄せる以外に選択肢がなく、しかも移行に失敗すれば業務が止まる領域もある。
日本の統合が一本化に年月を要してきたのは、対等の形式をとる案件が多かったためである。どちらが主導するかを決めずに統合を成立させれば、その決定は一本化の局面へ持ち越される。発表の場で対等を掲げた統合ほど、どちらかへ寄せる判断は掲げた形式と矛盾するため、公には示しにくい。加えて関わる人員が多く、制度の選択が処遇に直結するため、先送りされた選択ほど決めにくい。さくら銀行、DDI・KDD・IDOを一社に統合したKDDI、コニカミノルタ、光洋精工と豊田工機によるジェイテクトは、いずれも合併そのものより後の一本化に年月を要した。統合の成否は発表時の比率ではなく、一本化に要した期間の長さに現れる。
一方、買収企業と被買収企業が明示されている案件では、どちらの仕組みに寄せるかという問題は小さい。花王は4,100億円でカネボウ化粧品を取得し、後発から国内2位へ進んだ。この案件では、誰の流儀に寄せるかが取得の時点で決まっていた。逆の選択もある。日本板硝子は自社の2倍近い規模の相手を買収した後、ピルキントン出身者を社長に据え、委員会設置会社へ移行した。取得企業が自社の仕組みを廃止し、被取得企業の制度を採ったのである。
一本化で問われるのは、どちらの仕組みが優れているかではない。決める権限が誰にあるかである。決定権の所在が明示されている統合は早く終わる。したがって対等の形式で始まった統合では、経営陣の最初の仕事が決定権の所在の確定になる。
財務諸表のどこを見るか
統合が実務まで進んだかは、セグメントの区分に現れる。買収した事業が独立したセグメントのまま残っていれば別会社として運営されており、既存セグメントへ吸収されていれば一本化が進んでいる。従業員数と平均年間給与の推移では、両社の処遇差がいつ揃ったかを追える。のれんの減損は統合の失敗が数字になった瞬間で、注記の減損の経緯に理由が書かれる。システム統合の費用は特別損失に一時に立つことも、無形固定資産として資産計上されることもある。
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