はごろもフーズ乾物メーカー・マルアイ他2社の全株式を44億5000万円で取得

シーチキン依存を脱するために隣の棚を買うか——後継者のいない削り節メーカーを傘下に収めた判断

時期 2005年1月
意思決定者(推定) 後藤康雄(社長)・取締役会
論点 多角化とグループ経営
概要
2005年1月24日の取締役会で、はごろもフーズが「花かつお」で知られる削り節メーカーのマルアイと関係会社マルアイ商事・愛食興産の全株式を44億5000万円で取得することを決議し、同年4月1日付で議決権100%を取得した。
背景
1990年代から続く「シーチキン依存からの脱皮」という課題に対し、無菌包装米飯やパスタといった自前の設備投資は成果に届かなかった。マルアイ側では前社長から後継者がいないとして譲渡の申し出があった。
内容
取得資金44億円余は金融機関からの長期借入金40億円で賄った。取得価額がマルアイの純資産を下回ったため連結調整勘定(負債)25億18百万円が発生し、5年均等で営業外収益に振り替えられた。
含意
乾物・ギフトという隣接カテゴリーは連結売上の15%ほどを占めたが、独立した収益源にはならなかった。2017年4月にマルアイは本体へ吸収され、2023年3月期には乾物製品群の設備に8億78百万円の減損損失が計上された。
筆者の見解

依存を減らすことと、稼ぐことは別であった

この買収は、単一商品への依存を数値の上で下げるという目的については達している。乾物とギフトを加えたことで、連結売上に占めるツナの比率は45%台まで下がった。売り手から持ち込まれた事業承継案件を、純資産を下回る価格で引き受けた点も、取引としては不利な条件ではなかったとみることができる。買収直後の5年間、負ののれんの償却益が経常利益を押し上げたことも、財務上の余裕をもたらしたであろう。

ただし、比率が下がることと、新しい柱が稼ぐことは別の話である。買収前から利益率の低かった削り節・海苔の事業は、はごろもフーズの傘下でも収益力を取り戻せず、販売部門の再編、本体への吸収合併、そして工場の減損という順で整理されていった。缶詰で築いたブランドと流通の強みが、原料も売り方も異なる乾物にはそのまま効かなかったとみられる。依存の是正を目的に据えた多角化が、何をもって成功とみなされるのか——この判断は、その基準を測り直す材料として残っているといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

自前の投資では育たなかった第二の柱

シーチキンに依存した収益構造をどう変えるかは、1990年代からはごろもフーズが抱えていた課題であった。2000年2月の東証2部上場の際、後藤康雄社長は家庭用缶詰・業務用製品・パスタ・ペットフード・フィッシュエキスの5つを柱に挙げ、家庭用缶詰、とりわけシーチキンの比重が高いことを自ら認めたうえで、新しいブランドと製品の育成に全社で取り組むと述べていた。公開で得た資金は無菌包装米飯の工場に投じられた[1]

その自前投資は成果に届かなかった。2006年3月期、はごろもフーズは物流センター用地、無菌包装米飯製品製造工場、パスタ製品製造工場の土地・建物などについて減損損失を計上している。工場を建てて新分野を興す方法では、缶詰以外の収益源が育つ前に投じた資本が傷んだ。買収という手立てが検討されたのは、この経路の限界がはっきりした時期にあたる[2]

後継者のいない削り節メーカー

相手は名古屋のマルアイであった。かつお削り節「花かつお」で知られ、味付海苔やギフトセットも手がける。製造拠点は名古屋市熱田区の熱田工場と、三重県桑名郡木曽岬町の木曽岬工場である。労働組合を持ち、買収前の売上高は118億35百万円、経常利益2億45百万円、当期純利益1億34百万円で、純資産は66億76百万円、総資産は101億17百万円であった。規模はあるものの、利益率は低い会社であった[3][4]

話は売り手側から持ち込まれた。マルアイの社長であった名田守善氏から、後継者がいないとして株式譲渡の提案があったと日本食糧新聞は伝えている。買い手が探して口説いた案件ではなく、事業承継に行き詰まった同業他社の申し出を受けた案件であった。缶詰と削り節はいずれも和食の基礎材料であり、ギフト市場という売り場も重なる。隣の棚を丸ごと引き受ける機会が、外から届いたかたちになる[5]

決断

44億5000万円での全株式取得

2005年1月24日、はごろもフーズは取締役会でマルアイ、マルアイ商事、愛食興産の3社の株式を44億5000万円で取得することを決め、株式譲渡契約を結んだ。取得は4月1日付で実行され、3社の議決権100%がはごろもフーズに移った。愛食興産は同年9月1日にマルアイへ合併され、傘下はマルアイとマルアイ商事の2社に整理された。缶詰専業のメーカーが、初めて外部から事業をまとめて取り込んだ判断にあたる[6][7]

資金は市場からではなく銀行から調達した。株式の取得資金として金融機関から長期借入金40億円を引き出し、関係会社株式は44億62百万円増えている。取得価額はマルアイの純資産を下回り、連結調整勘定(負債)が25億18百万円発生した。これを5年で均等に償却し、初年度は5億3百万円を営業外収益に計上している。純資産に対して割安に買った取引であり、その差額が当面の連結利益を押し上げる構造をあわせ持っていた[8][9]

乾物とギフトという隣接カテゴリー

買収によって加わったのは、缶詰とは原料も工程も異なる乾物の製品群であった。買収初年度である2006年3月期の連結製品群別売上をみると、花かつお・海苔・ふりかけ類が67億98百万円で構成比8.3%、ギフトセット・その他食品が56億63百万円で6.9%を占めた。首位のツナは370億29百万円・45.2%である。単一商品への依存度は、買収によって数値の上では確かに下がった[10]

統合の体制も同時に組まれた。はごろもフーズの常勤監査役であった藤枝衛氏が2005年1月31日付で監査役を辞し、4月1日付でマルアイの社長に就く人事が決められている。買収初年度の有価証券報告書では、マルアイへの役員兼任は6名にのぼった。経営課題としても「マルアイとのグループ化によるシナジー効果の発揮」が掲げられ、買収は資本の取得にとどまらず、人を送り込んで運営に関与する前提で始まった[11][12]

結果

負ののれんが支えた最初の5年

買収初年度の連結決算は、この取引の性格をよく表している。2006年3月期の連結営業利益は6億10百万円にとどまったが、連結調整勘定の償却益5億3百万円を営業外収益に加えたことで経常利益は16億25百万円となった。マルアイ単体の経常利益2億45百万円を上回る金額が、会計上の差額として5年間グループの利益に上乗せされる形であり、事業そのものの稼ぐ力とは切り離して読む必要があった[13]

一方で連結の最終損益は赤字であった。同期は減損損失25億74百万円を特別損失に計上し、当期純損失は12億9百万円となっている。売上高は819億5百万円へ膨らんだものの、為替の円安と原魚・容器包装材料の値上がりで売上総利益は伸びず、販売費及び一般管理費は272億1百万円に達した。買収で規模を得た初年度は、そのまま利益の改善には結びつかなかった[14]

12年かけた統合と、乾物工場の減損

独立した子会社としての運営は長続きしなかった。2010年5月、はごろもフーズはマルアイの販売部門をはごろもフーズとマルアイ商事へ事業譲渡し、販売体制を組み替えた。2017年4月にはマルアイ本体を吸収合併し、買収から12年で法人としての独立を終えている。マルアイ商事は2018年4月にはごろも商事へ商号を変え、2021年3月にこれも吸収合併された。乾物事業はグループの一製品群として本体に収められた[15]

収益面の決着は2023年3月期に付いた。三重県桑名郡木曽岬町の乾物製品製造工場等について、収益性の低下を理由に帳簿価額を回収可能価額まで減額し、8億78百万円を減損損失として特別損失に計上した。内訳は建物及び構築物4億86百万円、機械装置及び運搬具1億74百万円、土地2億16百万円である。同期の連結売上高は704億52百万円、営業損失11億33百万円、当期純損失13億20百万円であった。2005年に取得した生産設備は、18年を経て簿価を落とした[16][17]

出典・参考

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