この判断の核心は、自力の素材開発では短期に埋めにくい空白を、その領域で世界上位にある企業ごと取り込むという発想にあった。高周波部品やセンサー、自動車向けモジュール、そして欧州という販路は、いずれもTDKが長く弱点として抱えてきたものである。有報が統合の理由として記す「製品分野及びマーケットにおける重複部分が少なく、互いに補完する関係にある」という一文は、そのまま買収の設計図でもあった。取得価額の総額1,637億円は、前期末に手元にあった現金及び現金同等物1,661億円とほぼ同じ規模で、手持ちの現金を一度に吐き出す買い物であった。
もっとも、買った直後に来たのはシナジーではなく不況である。2009年3月期の連結は売上高7,274億円・営業損失543億円・当社株主に帰属する当期純損失631億円に沈み、有報の仮定情報は、仮に期首から結合していたとしても結合ベースの当期純損失は641億円に達したと記す。受動部品セグメントも初年度は326億円の損失で始まり、2011年3月期にいったん245億円の黒字へ浮上したのち、2012年・2013年3月期には再び損失に戻っている。それでも、この買収で立てた311億円ののれんには、2014年3月期まで一度も減損が計上されていない。同じ期間に減損が出たのは磁気応用製品の15億円とその他の5億円であり、買った事業そのものの価値は帳簿の上で維持された。受動部品は2014年3月期に売上高4,716億円・利益154億円へ戻り、以後の車載・スマートフォン向けの拡大を担う事業になった。