三菱UFJフィナンシャル・グループ モルガン・スタンレーと証券合弁 国内証券を共同出資の2社体制とし、議決権と経済的持分を別々に設計した統合
更新:
何をなぜ決めたか
- 概要
-
2010年5月1日、三菱UFJフィナンシャル・グループとモルガン・スタンレーは日本における証券業務を統合し、共同出資による証券会社2社を発足させた。三菱UFJ証券ホールディングスの国内事業と、モルガン・スタンレー証券のインベストメントバンキング部門を吸収分割で合わせたのが三菱UFJモルガン・スタンレー証券であり、同証券に残るセールスアンドトレーディング部門と資本市場部門を担うのがモルガン・スタンレーMUFG証券である。
2008年10月のモルガン・スタンレーへの出資で結んだ資本の縁を、国内証券という日々の事業へ参入させた判断であった。
- 背景
-
2009年3月26日、三菱UFJ証券とモルガン・スタンレー証券の統合を2010年3月までに行うことを目指す覚書を締結した。同年11月18日には統合の形を共同出資2社とすることを公表し、2010年3月30日に統合契約書を結んだ。
掲げた狙いは、グループの本邦での総合金融ネットワークおよび広範な顧客基盤と、モルガン・スタンレーのグローバル・リーチおよび質の高い商品・サービスの両者を有機的に結び付けることにあった。日本での顧客基盤と、助言・調達で世界に通じる相手の力量を、一つの現場で組ませる構えである。
- 内容
-
設計は二重になっている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券は三菱UFJ証券ホールディングスが議決権の60%を、モルガン・スタンレーMUFG証券はモルガン・スタンレー・ホールディングスが51%を直接保有し、双方が自社側の会社の過半を握る。そのうえで残りの株式をともに民法上の任意組合MMパートナーシップへ現物出資し、組合出資持分を60対40とすることで、2社の経済的出資持分をそろえた。
組合を介したモルガン・スタンレーMUFG証券の持分取得は取得原価293,721百万円、のれんは106,764百万円で20年間の均等償却となった。
- 含意
-
発足直後から業績は荒れた。初年度にあたる2011年3月期、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が多額の特定取引損失を計上し、証券セグメントの損益は504億円の損失に沈んだ。前年度の287億円の利益からの転落であり、業務運営とリスク管理態勢の強化が課題として掲げられた。
立ち直りは早い。証券セグメントの利益は2012年3月期に165億円へ戻り、2014年3月期には977億円まで伸びた。持分法で取り込むモルガン・スタンレーMUFG証券の投資利益も、統合前の2億円から2012年3月期に302億円へ跳ねている。
いつ何が起きたか 9件
筆者の見解
議決権を区分し、持分をそろえる
この判断の芯は、支配と分配を切り離したところにある。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の議決権は三菱UFJ側が60%、モルガン・スタンレーMUFG証券の議決権はモルガン・スタンレー側が51%。それぞれが自社側の会社の舵を握りながら、任意組合への現物出資を挟むことで、2社の経済的出資持分はどちらも60対40にそろえた。国内の顧客基盤を持つ側が主導する会社と、世界の商品供給力を持つ側が主導する会社を並べ、稼ぎだけは同じ比率で分ける——対等な提携と、指揮系統の明確さを同時に立てるための設計だと考えてよい。
もっとも、二つの文化を一つの現場に置く代償は早々に表れた。発足初年度の特定取引損失で証券セグメントは504億円の損失に沈み、リスク管理態勢の立て直しが課題に据えられた。それでも三年後には977億円の利益まで戻し、持分法で取り込む相手側証券の投資利益も統合前の2億円から二桁億円台に定着した。106,764百万円ののれんを20年で償却するという時間軸は、この提携が一度の取引ではなく、長く抱えて育てる関係として設計されたことを示している。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
証券合弁の条件
証券合弁の条件
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 覚書の締結 | 2009年3月26日 | 三菱UFJ証券とモルガン・スタンレー証券の統合を2010年3月までに行うことを目指す内容 |
| 統合契約書の締結 | 2010年3月30日 | 統合の形を共同出資2社とすることは2009年11月18日に公表済み |
| 発足日 | 2010年5月1日 | |
| 発足した会社 | 三菱UFJモルガン・スタンレー証券/モルガン・スタンレーMUFG証券 | いずれも事業内容は金融商品取引業 |
| 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の議決権保有比率 | 三菱UFJ証券ホールディングス60% | モルガン・スタンレー・ホールディングスが40%。うち40%分は組合を通じ実質取得 |
| モルガン・スタンレーMUFG証券の議決権保有比率 | モルガン・スタンレー・ホールディングス51% | 三菱UFJ証券ホールディングスが49%。組合を通じて実質的に取得した分 |
| 経済的出資持分 | 2社とも三菱UFJ側60%・モルガン・スタンレー側40% | 配当請求権の比率も同じ60対40 |
| 統合ストラクチャー | 民法上の任意組合(MMパートナーシップ) | 双方が過半の議決権株式を直接保有したまま、残る株式を組合へ現物出資した |
| 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の組成方式 | 会社分割(吸収分割) | モルガン・スタンレー証券のインベストメントバンキング部門を承継 |
| 中間持株会社への移行 | 2010年4月1日 | 三菱UFJ証券が国内の金融商品取引業等を吸収分割で切り出し、商号を変更した |
| 組合出資金 | 353,152百万円 | 三菱UFJ証券ホールディングスがMMパートナーシップへ拠出した額 |
| モルガン・スタンレーMUFG証券持分の取得原価 | 293,721百万円 | 現物出資した種類株式の時価291,139とアドバイザリー費用等2,582の合計 |
| のれん | 106,764百万円 | 将来の超過収益力から発生。20年間で均等償却 |
| インベストメントバンキング部門統合ののれん | 426百万円 | 無対価の吸収分割。重要性が乏しいため一括で費用処理 |
| 持分変動利益 | 1,096百万円 | 現物出資による持分比率の減少で発生し、特別利益に計上 |
| モルガン・スタンレーMUFG証券の会計処理 | 持分法で全額取込 | 配当請求権の100%を組合が保有。モルガン・スタンレー側の40%は少数株主損益へ |
| 連結に含まれる業績の期間 | 2010年5月1日から2011年3月31日まで |
出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書 第5期(2010年3月期)【経営上の重要な契約等】・第6期(2011年3月期)(企業結合等関係)
証券セグメント(三菱UFJ証券ホールディングス連結)の推移
三菱UFJフィナンシャル・グループ:証券セグメント(三菱UFJ証券ホールディングス連結)の推移
| (百万円) | 経常収益 | セグメント利益 | 持分法投資利益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2010年3月期 | 365,450 | 28,748 | 228 | 統合前の三菱UFJ証券。第6期有報の前期欄で、主要エンティティー基準へ組替後 |
| 2011年3月期 | 283,941 | △50,440 | 12,712 | 5月に合弁2社が発足。多額の特定取引損失で損失に転落 |
| 2012年3月期 | 358,479 | 16,583 | 30,268 | 持分法投資利益はモルガン・スタンレーMUFG証券の取込みが通年で効いた |
| 2013年3月期 | 395,605 | 46,946 | 24,221 | |
| 2014年3月期 | 529,311 | 97,781 | 24,506 | |
| 2015年3月期 | 516,057 | 50,995 | 15,197 | |
| 2016年3月期 | 487,969 | 41,926 | 19,578 |
出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書 第6〜11期(セグメント情報/報告セグメントごとの経常収益、利益又は損失、資産その他の項目の金額に関する情報)
同じ問いに直面した会社
参考文献
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ/モルガン・スタンレー ニュースリリース「株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループとモルガン・スタンレーの日本における証券会社の統合について」
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第5期(2010年3月期)【経営上の重要な契約等】」
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第6期(2011年3月期)(企業結合等関係)」
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第6〜11期(セグメント情報)」