三菱UFJフィナンシャル・グループ アユタヤ銀行をTOB買収 タイ大手行の取り込みによるアジア商業銀行基盤の獲得

更新:

時期 2013年7月
当時の社長 平野信行
論点 海外成長市場への進出と収益基盤
何をなぜ決めたか
概要

2013年、三菱UFJフィナンシャル・グループは連結子会社の三菱東京UFJ銀行を通じ、タイの大手商業銀行アユタヤ銀行を公開買付けで子会社化した。買付け価格は1株39タイバーツ、応募株式数は43億7,371万株で、取得した議決権比率は72.01%。買付けに要した資金は約1,706億タイバーツ(約5,360億円相当)で、取得に直接要した費用を加えた取得原価は5,382億円にのぼった。成長するアジアで自前の商業銀行基盤を持つ判断に踏み込んだことになる。当時のMUFG社長は平野信行氏。

背景

国内は超低金利で預金と貸出の利ざやが細り、既存の法人取引だけでは稼ぐ力を保ちにくくなっていた。三菱東京UFJ銀行のバンコック支店は1962年の開設以来50年以上にわたり主に法人向けの支援に従事し、2014年3月末時点でタイにおける外国銀行のなかで最大の資産規模を持っていたが、個人と中小企業を相手にする現地の営業網は持たなかった。 アジアにおける総合的な商業銀行プラットフォームの構築を目指すなかで、アユタヤ銀行への出資を、タイにおける成長戦略の重要な布石に据えた。

内容

株式応募契約はアユタヤ銀行株の約25.33%(15億3,836万5千株)を保有するGEキャピタルとの間で2013年7月2日に結ばれ、同社の持ち分は全株が公開買付けに応募された。買付けは11月7日から12月13日まで行われ、18日に決済が完了して企業結合日となっている。 企業結合日に受け入れた資産は4兆1,227億円(うち貸出金2兆672億円)、引き受けた負債は3兆5,920億円(うち預金2兆4,888億円)。取得原価の配分では、のれん1,666億円のほかに顧客関連資産1,238億円とコア預金598億円が無形固定資産へ振り分けられ、いずれも11年で償却される。

含意

タイ中央銀行のOne Presence Policyに従い、2015年1月5日、三菱東京UFJ銀行はバンコック支店の事業をアユタヤ銀行へ現物出資し、支店を相手方へ差し出す形で一つの銀行にまとめた。対価として受け取ったのは普通株式11億4,322万株で、この持分変動により資本剰余金は111億円減少している。 連結の貸出金残高に占めるアユタヤ銀行は、子会社化した2014年3月期末の2兆672億円から2019年3月期末には4兆2,746億円へ、約2.1倍に伸びた。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

支店を差し出してでも、現地の基盤を取りにいった

この判断が普通の海外進出と違うのは、既にある法人取引の延長を選ばず、個人と中小企業の預金と貸出を抱える現地の銀行そのものを買い取った点にある。技術や商品を持ち込むのではなく、成長するタイ市場の顧客基盤を丸ごと取り込む。しかも取得の翌々期には、タイの一行主義に従って自前のバンコック支店をアユタヤ銀行へ現物出資した。この支店は開設から50年以上を数え、タイにおける外国銀行のなかで最大の資産規模を持っていた。買った側の看板を相手方の看板の下に収めるこの順序こそが、稼ぐ現場を成長市場へ移すという選択の実体だった。

もっとも、1,666億円ののれんを20年かけて償却する買い方は、為替と信用と規制の危険をまとめて負うことでもある。アユタヤ銀行の貸出金は2019年3月期末までに子会社化時の約2.1倍へ伸びたが、タイ経済が減速に転じるとオートローンを中心に延滞が増え、中古車市場価格の下落に伴う担保処理時の損失も現れた。買い取った顧客基盤は、そのまま現地の景気循環の影響を受ける。この判断の評価は、成長市場の銀行を持ち続ける覚悟がどこまで続くかで定まるのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 Bank of Ayudhya Public Company Limited タイ王国バンコク市の商業銀行。1945年設立、発行済株式総数6,074,143,747株
取得の法的形式 株式取得による子会社化 実施主体はMUFGの完全子会社である三菱東京UFJ銀行
取締役会決議 2013年7月2日 同日、GEキャピタルとの間で保有株式に関する株式応募契約を締結
公開買付期間 2013年11月7日〜12月13日
買付け価格 1株につき39タイバーツ
応募株式数 4,373,714,120株 うちGEキャピタルの応募が1,538,365,000株(約25.33%)
取得した議決権比率 72.01%
買付に要した資金 約1,706億タイバーツ 約5,360億円相当。1タイバーツあたり3.142円換算
企業結合日 2013年12月18日 決済完了日も同日。みなし取得日は2013年12月31日
連結に含めた業績の期間 2014年3月期は含まない みなし取得日現在の財務諸表を基礎に連結決算を行うため
取得原価 538,200百万円 取得の対価535,934百万円と取得に直接要した費用2,266百万円の合計
受け入れた資産の額 4,122,741百万円 うち貸出金2,067,243百万円
引き受けた負債の額 3,592,066百万円 うち預金2,488,862百万円
のれん 166,634百万円 20年間で均等償却。将来の超過収益力により発生したもの
のれん以外の無形固定資産 206,314百万円 顧客関連資産123,836百万円・コア預金59,891百万円。償却期間はいずれも11年
通期換算した影響額 経常収益5,477,241百万円 経常利益1,716,498百万円・当期純利益990,245百万円。監査証明を受けていない
バンコック支店の統合 2015年1月5日 支店統合契約に基づく現物出資。対価は普通株式1,143,221,782株

出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書 第9期(2014年3月期)【経営上の重要な契約等】【企業結合等関係】・第10期(2015年3月期)【企業結合等関係】

貸出金残高とアユタヤ銀行の内訳

三菱UFJフィナンシャル・グループ:貸出金残高とアユタヤ銀行の内訳

(億円) 貸出金残高うち海外店うちアユタヤ銀行 備考
2009年3月期 920,568142,543− この期の海外の内訳は「うち海外支店」の区分
2010年3月期 848,806116,678− この期の海外の内訳は「うち海外支店」の区分
2011年3月期 801,423117,984−
2012年3月期 846,400149,879−
2013年3月期 914,032186,919−
2014年3月期 1,020,385225,65420,672 12月にアユタヤ銀行を子会社化。連結の貸出金は前期末比10兆6,353億円増
2015年3月期 1,094,807260,27535,722 1月にバンコック支店の事業を現物出資しアユタヤ銀行へ統合
2016年3月期 1,139,068273,45634,683
2017年3月期 1,092,094284,84436,628
2018年3月期 1,083,977272,63940,224
2019年3月期 1,077,731258,66542,746
海外の貸出金残高
うちアユタヤ銀行(億円)うち海外店(億円)

出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書 第4〜14期(財政状態の分析・貸出金残高(末残))

のれんの推移

三菱UFJフィナンシャル・グループ:のれんの推移

(百万円) のれん 備考
2009年3月期 570,664
2010年3月期 512,515
2011年3月期 450,965
2012年3月期 418,401
2013年3月期 469,331
2014年3月期 552,655 アユタヤ銀行の取得で166,634が加わった
2015年3月期 309,119 企業結合会計基準の変更で未償却残高が減少。前期とは基準が非連続
2016年3月期 278,628
2017年3月期 267,389
2018年3月期 258,417
2019年3月期 237,310
のれんの残高
のれん(百万円)

出所:三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書 第4〜14期(連結貸借対照表)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ/三菱東京UFJ銀行 プレスリリース「Strategic Investment In Thailand ~BTMU/KRUNGSRI Strategic Partnership~」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ/三菱東京UFJ銀行 プレスリリース「Results of a Voluntary Tender Offer by BTMU to Krungsri」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第9期(2014年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第9期(2014年3月期)【企業結合等関係】」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書「第10期(2015年3月期)【企業結合等関係】」
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ 決算説明会質疑応答「MUFG Investors Day 2024 質疑応答」

免責事項およびポリシー