インドネシア・バンクダナモンの段階取得と94%子会社化
2019年実施国内で利ざやが細る大手銀行は、なぜ純資産の約2倍を払ってインドネシアの銀行を段階的に丸ごと抱え込んだのか
- 概要
- 2017年12月、三菱UFJフィナンシャル・グループは平野信行社長のもと、インドネシア第5位の商業銀行バンクダナモンの株式を3段階で取得する条件付契約を結び、2019年4月に約94%を握って連結子会社とした経営判断。総額はバンクビーエヌピー分を含め6,000億円を超え、タイ・アユタヤ銀行に続くアジアの成長取り込みを狙った。
- 背景
- 国内の預金と貸出の利ざや縮小を受け、MUFGはタイ・アユタヤ銀行やベトナム・ヴィエティンバンクなど東南アジアの有力銀行を傘下や提携先に加えてきた。50年の営業実績を持つインドネシアでは地場の顧客基盤が薄く、リテールと中小企業に強いダナモンの獲得を求めた。
- 内容
- 売り手はシンガポール政府系ファンド・テマセク傘下のアジア・フィナンシャル。第一段階で19.9%、第二段階で計40.0%、第三段階で54.0%を積み増し、バンクビーエヌピーとの合併を経て94.1%へ到達した。各段階を関係当局の認可を条件とする組み立てとした。
- 含意
- 取得はバンクダナモンの純資産の約2倍という価格でのれんを積み、直後の株価下落で2020年3月期に2,128億円の一括償却を招いた。事業そのものは底堅く、東南アジアのパートナーバンク網にインドネシアの一角を組み込む狙いは残った。
高い入場料と、抱え込みの理屈
この判断をどう読むかは、のれんの減損だけを見るか、その先の事業を見るかで分かれる。純資産の約2倍という値付けは高く、株価が下がれば会計上の損失が出ることは初めから見込みうる話であった。それでもMUFGがダナモンを丸ごと取りにいったのは、国内で利ざやが細るなか、成長するインドネシアのリテールと中小企業の基盤を、提携ではなく連結の内側に置く必要があったからにほかならない。アユタヤ銀行で試した「現地の有力銀行を子会社に収める」手法を、東南アジアの最大市場へ当てはめた一手であった。
残された問いは、6,000億円を超える資本を寝かせた見返りを、この銀行がいつ生むかにある。減損は帳簿を軽くする一方で、以後の利益からのれん償却の重しを外す働きも持つ。タイ・ベトナム・フィリピン・インドネシアと現地銀行を並べたMUFGの東南アジア網は、国内の低金利が長引いた時期に、数少ない成長の稼ぎ手として育ってきた。丸ごと抱えたダナモンが人口2億超の市場でその一角を担えるかどうかに、この高い買い物の是非は懸かっている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
東南アジアへ広げた現地銀行の網
三菱UFJフィナンシャル・グループが海外へ資本を向けた背景には、国内の預金と貸出の利ざやが細り続ける市場があった。同社は2013年にタイのアユタヤ銀行を約77%まで取得して子会社に収め、ベトナムのヴィエティンバンクに約20%、フィリピンのセキュリティバンクに約20%を出資し、東南アジアの有力銀行を面で押さえる布陣を組んでいた。成長率の高いASEANの現地銀行を傘下や提携先に束ね、国内で稼ぎにくくなった収益をアジアの人口増と経済拡大で補う——その延長線上に、インドネシアが空白として残っていた[1]。
インドネシアそのものは、MUFGにとって縁の薄い土地ではなかった。同社はこの国で50年の営業実績を持ち、2017年時点で三菱UFJ銀行がジャカルタ支店とスラバヤ出張所、ほか9つの出張所を構えていた。ただしその機能は日系企業向けの法人取引が中心で、2億人を超える人口を抱えるASEAN最大の経済で膨らむ個人や中小企業の資金需要には届いていなかった。現地の預金と貸出の基盤を持つ銀行を丸ごと取り込む以外に、この市場へ本格的に入る近道は見当たらなかった[2]。
買収対象バンクダナモンと、手放すテマセク
標的となったバンクダナモンは、1956年に生まれたインドネシア屈指の商業銀行で、当期利益では国内第5位に位置し、約1,200の拠点と3万人を超える行員を抱えて二輪・四輪の販売金融や中小企業融資に強みを持つ。日系企業取引や資本の厚みというMUFGの持ち味と、地場のリテール網というダナモンの持ち味は、互いの欠けを埋め合う関係にあった。株式を手放す側は、シンガポール政府系ファンドのテマセクで、その傘下のアジア・フィナンシャルが合計73.8%の持ち分の受け皿をMUFGへ渡す取引となった[3][4]。
決断
73.8%を狙う3段階の条件付契約(2017年12月)
2017年12月26日、MUFGは平野信行社長のもとでこの取引を公表した。三菱東京UFJ銀行が売り手のアジア・フィナンシャルらから、バンクダナモン株式の合計73.8%を取得することを目的に、関係当局の認可を条件とする条件付株式売買契約を結んだ内容で、取得は3段階に分けて実行する組み立てとした。完了すれば同行はダナモンの筆頭株主となり、いずれ子会社に収める道筋を描いていた。海外の銀行を段階を追って丸ごと抱え込む選択であった[5]。
第一段階として、三菱東京UFJ銀行はダナモン発行済株式の約19.9%を一株8,323ルピアで買い取った。総額は15.9兆ルピア、日本円でおよそ1,334億円にのぼり、価格はダナモンの純資産のおよそ2倍に当たる水準であった。純資産を超える値付けは、地場の顧客基盤と将来の成長を見込んだ対価で、その差はのれんとしてMUFGの帳簿に積み上がる。高い買い物という評価と、成長市場の入場料という見方が、同時に付いて回る出発であった[6]。
40%への引き上げと持分法適用(2018年8月)
約8か月後の2018年8月3日、MUFGは第二段階を実行した。三菱UFJ銀行——同年4月に三菱東京UFJ銀行から改称——が20.1%を追加で買い取り、保有比率は40.0%へ上がった。取得額は約1,323億円で、これでダナモンはMUFGの持分法適用会社となり、同行はインドネシアの法制上の支配株主に立った。残る過半はなおアジア・フィナンシャルが握り、子会社化には第三段階と当局の認可という関門が残っていた[7]。
結果
94%への到達と、その後の減損
最終の関門は2019年4月29日に越えた。この年から三毛兼承が平野に代わってMUFG社長に就いており、三菱UFJ銀行は第三段階として既存株主から54.0%を買い増し、ダナモンの保有比率を94.0%へ引き上げた。第三段階だけで取得額は約3,970億円、三段階を合わせた投資は6,000億円を超えた。あわせて傘下アコムが持つバンクビーエヌピーを約241億円で取り込み、同年5月1日にダナモンへ吸収合併させたことで、MUFGの持ち分は94.1%に固まり、連結子会社の形が整った[8]。
買い物の代価は、まもなく数字に表れた。ダナモン株は取得価額に比べ2020年3月末に50%以上下がり、MUFGは2020年3月期にのれんを一括で償却する。バンクダナモン分の償却額は2,128億円、同時に減損したタイ・アユタヤ銀行分と合わせて3,433億円にのぼり、この処理を主因にグループの純利益は5,281億円へ落ち込み、期初目標に届かなかった。MUFGはこの償却が取得価額に対する株価下落を映したもので、規制資本には響かないと説明した[9]。
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ ニュースリリース(2017年12月26日)「インドネシア大手商業銀行バンクダナモンへの戦略出資について」
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ ニュースリリース(2018年8月3日)「インドネシア大手商業銀行バンクダナモンへの戦略出資について(第二段階)」
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ ニュースリリース(2019年4月29日)「インドネシア大手商業銀行バンクダナモンへの戦略出資について(第三段階)」
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ 2019年度決算 投資家説明会(2020年5月20日)
- 三菱UFJフィナンシャル・グループ 有価証券報告書(2018年3月期)