プラットフォームの構築
自社で開発した技術を他社に使わせない。製品の優劣で競う市場では、これが原則である。特許は排他権であり、独占期間中は高い価格を設定できる。ところが互換性が商品の価値を決める領域では、この原則が逆に働く。買い手が見るのは一台の性能ではなく、その方式を採用する会社が何社あり、対応する商品がどれだけ揃うかである。したがって採用企業が少なければ、性能で優位に立っていても市場全体を失う。
規格の主導権争いが事実上の標準をめぐる争いとして意識されたのは1990年代半ばで、通信とパソコンで標準が問われてからである。しかし、その二十年以上前に、同じ判断は時計と録画機で下されていた。セイコーは世界初のクオーツウオッチの特許を公開して独占を放棄し、機械式時計を置き換える市場そのものを創出した。日本ビクターはVHSを他社へ広く供与して規格争いを制し、シチズン時計はムーブメントを競合へ外販して生産数量で世界首位となった。いずれも自社の取り分を先に圧縮し、供与先の数を優先した判断だった。
争点が移ったのは、商品の価値を決めるものが部品から、その上で動くソフトへ変わったときだった。ソニーがPlayStationで参入し、任天堂がソニーとの提携を解消した1990年代半ば以降、競争優位を決めたのは本体の性能ではなく、開発者がどちらの陣営に集まるかである。本体を低価格で販売しても、開発者が集まればソフトの供給が拡大し、ソフトが揃えば本体の販売がさらに伸びる。ゲーム機の外でも、ダイキン工業が冷媒R32の特許を無償開放したのも、独占による値幅より普及の速さを選んだ判断だった。
収益源も同じ方向へ変わった。セブン銀行は預金と貸出の金利差ではなくATM受入手数料で収益を得る銀行として設立され、東日本旅客鉄道はSuicaで交通以外の決済を収入に変えた。どちらも自社の顧客から利幅を取るのではなく、他社の取引が自社の設備を通るたびに少額の手数料を受け取る仕組みである。一件あたりの取り分は薄い。しかし薄いからこそ他社が利用し、利用回数が増加する。
財務諸表のどこを見るか
売上高の計上が総額か純額かをまず確かめる。他社の取引を仲介する事業では、収益認識の注記に代理人取引としての純額表示が書かれ、取扱高と売上高が大きく乖離する。その差額が場を提供して得た手数料にあたる。規格や技術を開放した企業では、営業外収益の受取ロイヤリティと無形固定資産の特許権が対価の所在を示す。参加者を集める側の投資は無形固定資産のソフトウェアに積まれるため、償却年数と除却の有無を追う。セグメント区分の新設や名称変更も、収益源が移った時期の目印になる。