米SGL GE社を取得(2017年・東海カーボンの決断)

更新:
論点黒鉛電極で欧米の拠点を買収するか
東海カーボン:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
アジア・北米・欧州にまたがる黒鉛電極3極体制の構築

何をなぜ決めたか:アジア・北米・欧州にまたがる黒鉛電極3極体制の構築

概要

2017年9月28日、東海カーボンは臨時取締役会で、ドイツSGL社の黒鉛電極事業を承継した米国法人SGL GE Carbon Holding LLCの全株式を取得すると決議し、同年10月2日に株式譲渡契約を締結した。取得原価は現金13,376百万円(118,184千米ドル)で、11月7日に取得を完了して社名をTOKAI CARBON GE HOLDING LLCとした。アジア・欧州に加えて北米に生産拠点を得て、黒鉛電極の3極体制を構築した。

背景

東海カーボンの黒鉛電極事業は市況低迷が続き、2016年12月期は電極・ファインカーボンの減損を含む特別損失110億円で創業以来最大の純損失を計上した。国内首位ではあったが生産拠点はアジアと欧州にとどまり、世界最大の電炉鋼市場である北米に足場を欠いていた。

内容

昭和電工が独SGL社の黒鉛電極事業SGL GEを買収する過程で、米国競争当局の承認は米国事業を第三者へ譲渡することを付帯条件としていた。東海カーボンはその譲受先となり、連結子会社TOKAI CARBON US HOLDINGS INC.を通じてSGL GE Carbon Holding LLCの議決権100%を取得し、北米の生産・販売拠点を一括で得た。2017年2月公表の3か年中期経営計画「T-2018」で設定した約500億円の戦略投資枠を充てている。

含意

買収直後の2018年12月期は電極市況が急騰し、黒鉛電極事業は単独でセグメント利益560億円を稼いで連結営業利益731億円を牽引した。同じ戦略投資枠からは2018年5月にTokai Carbon Korea、同年8月に米Sid Richardson Carbonも取得している。もっとも電極市況はほどなく反転し、2020年12月期には黒鉛電極事業が57億円のセグメント損失へ転落するなど、取得時期の幸運と後の調整が背中合わせとなった。

いつ何が起きたか7件
考察:好機の取得と、市況に委ねた成否
考察

考察:好機の取得と、市況に委ねた成否

この買収を"先見の明"とだけ評すると、話を単純にしすぎる。北米という空白を埋める好機は、東海カーボン自身が仕込んだものではなく、昭和電工のSGL GE買収に米当局が付けた譲渡条件から偶然生まれたものであった。長坂一社長の判断の芯は、創業以来最大の赤字を計上した直後に、他社案件の副産物として現れた134億円の拠点へためらわず手を挙げた点にある。低迷で守りに入ってもおかしくない時期に、供給網の空白を突く攻めを選んだところに、この判断の輪郭がうかがえる。

もっとも、この取得を成功と呼べるかは、取得後に訪れた市況の激しい上下で割り引いて見る必要がある。2018年の過去最高益は電極価格の急騰という外部要因に負うところが大きく、その市況はほどなく反転して黒鉛電極事業を営業赤字へ突き落とした。3極体制もやがて拠点整理の対象となった。北米の足場を得た戦略的な意義と、市況の波にさらされ続ける電極事業の宿命とは別の話であり、拠点をどう持ち替えていくかという問いは、取得の時点ではなくその後の長い運営に委ねられたと思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

東海カーボン:のれんと無形固定資産、総資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
東海カーボン:のれんと無形固定資産、総資産の推移
(百万円)のれん無形固定資産総資産備考
2012年12月期0438166,668連結貸借対照表にのれんの計上はなく、無形固定資産はソフトウエアが主
2013年12月期0464183,427
2014年12月期7,58114,103210,439
2015年12月期6,13511,324184,074
2016年12月期5,60410,534158,824
2017年12月期9,51016,343184,730SGL GE取得でのれんを暫定7,405百万円計上。翌期の確定で5,377百万円へ
2018年12月期29,74961,805329,868Tokai Carbon KoreaとSid Richardson Carbonの取得が加わる
2019年12月期64,543141,966462,8722018年の2件の暫定的な会計処理が確定し、のれんと顧客関連資産が増加
2020年12月期60,316133,349459,709
2021年12月期55,553123,349512,503
2022年12月期52,837118,839576,465
出所:東海カーボン 有価証券報告書 第152期〜第161期(連結貸借対照表。翌期有報で見直し後の金額があるものはそれによる)
出所:東海カーボン 有価証券報告書 第152期〜第161期(連結貸借対照表。翌期有報で見直し後の金額があるものはそれによる)

東海カーボン:黒鉛電極事業の売上高とセグメント利益

売上高(百万円)セグメント利益率(%)
東海カーボン:黒鉛電極事業の売上高とセグメント利益
(百万円)売上高セグメント利益備考
2015年12月期26,9602,539第154期より黒鉛電極事業を報告セグメントとして独立させた
2016年12月期20,714△1,290電極市況の低迷で減損を含む特別損失を計上し、連結で創業以来最大の純損失
2017年12月期23,6101,354TOKAI CARBON GE HOLDINGの寄与はみなし取得日以降の2か月分
2018年12月期102,07556,040電極市況の急騰で売上高が4.3倍。連結営業利益731億円の大半を占める
2019年12月期91,31739,388
2020年12月期37,879△5,766
2021年12月期40,619△400
2022年12月期59,6308,032
出所:東海カーボン 有価証券報告書 第154期〜第161期(セグメント情報。売上高は外部顧客への売上高)
出所:東海カーボン 有価証券報告書 第154期〜第161期(セグメント情報。売上高は外部顧客への売上高)

買収の条件

買収の条件
科目概要備考
被取得企業の名称SGL GE Carbon Holding LLC独SGL GE Holding GmbHの米国事業を担う子会社
被取得企業の事業の内容黒鉛電極の製造・販売・研究開発
企業結合を行った主な理由アジア・欧州・北米の3極体制の構築世界最大の電炉鋼市場である北米での自社プレゼンス向上と生産体制の最適化
取得の決議日2017年9月28日臨時取締役会で決議。株式譲渡契約の締結は同年10月2日
企業結合日2017年11月7日みなし取得日は10月31日。業績は11月1日から12月31日までを連結
企業結合の法的形式現金を対価とした株式取得連結子会社TOKAI CARBON US HOLDINGS INC.を通じて取得
取得した議決権比率100%
結合後企業の名称TOKAI CARBON GE HOLDING LLC2017年11月7日付で名称を変更
取得原価13,376百万円118,184千米ドル。全額が現金。翌期の支払対価の調整で1,202百万円増加
取得関連費用409百万円アドバイザー等に対する報酬・手数料等
受け入れた資産11,810百万円流動資産4,796百万円、固定資産7,013百万円(104,366千米ドル)
引き受けた負債5,841百万円流動負債2,330百万円、固定負債3,511百万円(51,625千米ドル)
のれん(暫定値)7,405百万円65,443千米ドル。2017年12月期末は取得原価の配分が未了
のれん(確定値)5,377百万円2018年12月期に確定。有形固定資産・顧客関連資産等への配分で2,028百万円減
のれんの償却方法と期間10年間にわたる均等償却発生原因は今後の事業展開により期待される超過収益力
通期換算の影響(2017年12月期)売上高7,826百万円営業利益は△1,144百万円。監査証明を受けていない概算額
譲渡側での譲渡価額13,945百万円昭和電工の有価証券報告書による。米国競争当局の承認の付帯条件で譲渡
出所:東海カーボン 有価証券報告書 第156期(2017年12月期)【経営上の重要な契約等】(企業結合等関係)・第157期(2018年12月期)(企業結合等関係)/昭和電工 有価証券報告書 第93期(2017年12月期)(企業結合等関係)
出所:東海カーボン 有価証券報告書 第156期(2017年12月期)【経営上の重要な契約等】(企業結合等関係)・第157期(2018年12月期)(企業結合等関係)/昭和電工 有価証券報告書 第93期(2017年12月期)(企業結合等関係)
参考文献

参考文献

参考
  • 東海カーボン 有価証券報告書「第156期(2017年12月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 東海カーボン 有価証券報告書「第156期(2017年12月期)(企業結合等関係)」
  • 東海カーボン 有価証券報告書「第157期(2018年12月期)(企業結合等関係)「企業結合に係る暫定的な会計処理の確定」」
  • 東海カーボン 有価証券報告書「第152期〜第161期(連結貸借対照表・セグメント情報)」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第93期(2017年12月期)(企業結合等関係)」

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