1993年4月、創業者の髙島勇二氏は家業の有限会社高島屋衣類店に入り[1]、同社のなかでパソコン(DOS/V自作機)の製造販売事業を立ち上げた。この会社は後に有限会社タカシマ、さらにマウスコンピュータージャパン株式会社へと社名を変え、最終的にMCJへ吸収合併[2]されている。1998年8月、有限会社エムシージェイを設立して[3]、マウスコンピュータージャパンの製造卸部門を分社化した。創業時の資本金は300万円で[4]、1999年3月には約300ドルの低価格PC『Easy-300』を発表した。
2000年9月、有限会社エムシージェイは株式会社[5]エムシージェイへ組織変更し、株式会社化を経た。2001年4月にはマウスコンピュータージャパンと1:1で合併し[6]、旧親会社との組織統合を済ませた。2003年11月、株式会社MCJへ商号変更で現在[7]の社名が定着した。創業から5年余りの期間で持株会社的な機能を整え、子会社のマウスコンピューターによる製造・販売を継続する体制ができあがった。
2004年6月、東京証券取引所マザーズへ上場[8]した。創業から6年弱、株式会社化から3年余りで新興市場上場まで到達した歩みは、PC市場の急成長期と重なった。同年1月にはゲーミングPCブランド『G-Tune』を立ち上げ、性能を重視するゲーマー向けセグメントを開拓した。上場により調達した資金は事業領域拡大のM&A原資にも回された。創業期の直販BTO・量販店併用・低価格訴求というモデルは、上場後の拡大期にも引き継がれ、ゲーミング・法人向け・クリエイター向けへとブランドを分けて展開する多角化の前提となった。
2005年4月、株式会社シネックス(現テックウインド)[9]の株式を取得して流通子会社化し、PC周辺機器の流通機能を社内へ取り込んだ。同年12月には株式会社秀和システムの株式取得で出版分野[10]へも参入を試みた。2006年1月には株式会社イーヤマ販売・株式会社ウェルコムの2社買収を実行し[11]、PCディスプレイブランドのイイヤマを取得した。これによりMCJ傘下にPC本体(マウスコンピューター)・PC周辺機器流通・ディスプレイの3軸が揃った。同年2月には欧州子会社iiyama Benelux[12] B.V.の株式取得でディスプレイ事業の海外拠点を取り込んだ。
2006年10月、会社分割により純粋持株会社へ移行[13]した。マウスコンピューターを新たに設立して連結子会社として位置付け[14]、MCJ本体は持株会社・経営戦略立案機能に専念する体制へ組み替えた。同年10月には株式会社iriver japanを設立してオーディオ事業[15]の展開を試み、2007年5月にはアロシステム(現ユニットコム)の株式取得でPC専門店リテール事業を加えた[16]。短期間で複数事業を取り込むM&A拡張期となり、純粋持株会社体制が事業ごとの裁量と本社統制を切り分ける役割を担った。マザーズ上場後の拡大期にM&Aを相次いで実行する流れは、上場による資金調達と事業領域拡大の時系列が重なっている。
2008年9月のリーマンショックの影響でPC市場の伸びは鈍化したが、MCJはユニットコム経由のリテール販売・マウスコンピューター経由の直販BTO・イイヤマブランドのディスプレイ販売という3軸構造で底堅い業績を維持した。2009年から2010年にかけては、不採算子会社の整理と本業のBTO事業への集中を進める一方、PC量販店ルートでの売上比率を抑えてEC・直販ルート比率を高める販売モデルの組み替えが進んだ。2016年3月期の連結売上は1033億円規模で、創業から17年で1,000億円企業へ到達する成長軌道に乗った。営業利益率も同期間で5%前後の水準を維持した。
2011年2月、法人向けPCブランド『MousePro』の販売を開始した。家電量販店向け量産モデルとの差別化を狙い、企業ITサポート・カスタマイズ対応・サポート保証パッケージを組み合わせる法人セグメント開拓が始まった。2015年から2018年にかけては東南アジア・国内子会社の整理が続き、株式会社ワールド情報システム・株式会社秀和システム・ティアクラッセ株式会社などの売却[17]で出版・アパレル等の非中核事業から撤退した。一方、2015年8月には東証マザーズから市場第二部へ昇格し[18]、本則市場での流通株式の安定を狙った。
2016年2月、クリエイター向けPCブランド『DAIV』を立ち上げた。動画編集・写真現像・3DCG等の創作用途を想定した高性能セグメントを開拓し、G-Tune(ゲーミング)・MousePro(法人)と並ぶ3つ目のブランド軸とした。BTO・直販モデルを基盤に複数セグメントへブランドを分ける戦略は、規模の経済を取りにくいニッチ需要への対応として組織に定着した。2018年1月にはR-Logic International Pte Ltdの株式取得でシンガポール子会社を取得し[19]、東南アジア拠点を取り込んだ。同年7月には株式会社アークの株式取得でユニットコム傘下の自作PCパーツ[20]専門店事業を広げた。
2010年代後半、PC市場は法人需要と高性能PC需要が回復軌道に乗り、MCJの連結業績は伸びを取り戻した。2016年3月期の連結売上1033億円・経常利益50億円から、2019年3月期には1373億円・経常利益97億円まで規模・利益率の両面で改善した。ゲーミング・クリエイター・法人の3軸ブランドを直販BTO体制で運営する手法が、家電量販店向け量販モデルとは異なる利益構造を生んだ。一方、出版・アパレル等の非中核事業からの撤退と、ユニットコム・マウスコンピューター中核子会社への経営資源集中が、事業ポートフォリオの整理として進んだ。
2019年12月から拡がった新型コロナ感染拡大は、PC市場にとって在宅勤務・オンライン教育・eスポーツ需要の急増という追い風として作用した。2020年3月期の連結売上は1537億円・経常利益138億円で、前年度1373億円・97億円から約12%増収・約42%増益となり、ゲーミング・法人・クリエイター向けPCの需要拡大が業績を押し上げた。BTO・直販モデルがコロナ禍の供給制約期に在庫管理・カスタマイズ対応で利点となり、家電量販店ルート依存の競合との差が広がった。半導体不足の局面でも直販ルートで顧客への納期説明と価格転嫁を行う体制が稼働した。
2020年9月には日本eスポーツ協会とのオフィシャル契約を締結し、G-TuneブランドのeスポーツPC市場での存在感を強化した。同月、JPX日経インデックス400銘柄に選定され[21]、東証上場企業としての評価を得た。2021年3月期の連結売上は1742億円・経常利益155億円・純利益100億円と、創業以来の最高水準を更新した。コロナ禍の在宅需要が一巡する2022年以降の業績を心配する見方もあったが、ゲーミング・クリエイター需要の継続と法人PC更新需要の取り込みで、2022年3月期以降も連結売上1900億円規模を維持した。
2022年4月、東京証券取引所市場区分の見直しでスタンダード市場へ移行した[22]。プライム市場ではなくスタンダード市場を選択した経営判断は、流通株式時価総額・株主構成・MCJの事業規模を踏まえた現実的な選択だった。創業者の髙島勇二氏が大株主として34.36%の株式を保有[23]する構造は変わらず、創業者主導のオーナー経営とBTO直販モデルの組み合わせが2010年代を通じて維持された。コロナ禍を経た2020年代前半までに、MCJは創業から四半世紀を超えて連結売上2000億円規模の中堅PCメーカーへ到達した。
2022年から2024年3月期にかけて、半導体不足・原材料高・円安の影響を取り込みつつもMCJの連結業績は底堅さを保った。2022年3月期の連結売上1912億円・経常利益137億円から、2024年3月期は1875億円・経常利益171億円、2025年3月期は売上2072億円・経常利益200億円・純利益141億円と、コロナ禍の追い風が剥落した後でも収益性は高まった。BTO直販モデルの粗利率改善と、ユニットコム・マウスコンピューターの直接販売チャネル比率の高さが、PC量販店向け同業他社と比べた高収益体質を支えた。
法人向けMousePro、ゲーミングG-Tune、クリエイター向けDAIVの3ブランドはそれぞれが1,000億円規模の事業に育つ可能性を持ち、PC市場全体が縮小局面でも特化セグメントの取り込みで売上を伸ばせる構造ができあがった。一方、Apresio(ネットカフェ運営)など非PC事業はコロナ禍で打撃を受けて回復が遅れた領域もあり、事業ポートフォリオは引き続きPC関連事業へ寄せる方向で整理が続いた。創業者の髙島勇二氏は2021年6月に代表取締役社長を譲り、安井元康氏[24](経営共創基盤出身)が代表取締役社長最高執行責任者として後任に就いた。髙島勇二氏は代表取締役会長最高経営責任者として継続[25]した。
2025年1月には大阪・関西万博シグネチャーパビリオンへの協賛を発表し、創業30周年(2023年4月)以降のブランド露出投資が拡大した。2026年中期経営計画(2026〜2028)が公表され[26]、ボルトオンM&Aによる事業拡張・海外展開・新サービス領域への踏み込みが3本柱として掲げられた。同計画の発表からほどなく、Bain Capital傘下のBCPE Meta Cayman LPによるMBO[27]の動きが2026年2月に公表され、株式市場の短期変動に左右されない経営体制への移行が検討課題として現れた。
2026年2月6日、Bain Capital傘下のBCPE Meta Cayman LPがMCJ株式[28]に対する公開買付(TOB)を開始した。買付価格は1株あたり2,200円で、公表前日終値1,589円に対して38.45%プレミアム[29]を付した条件だった。買付総額は約2,079億円、対象株式は約9,450万株(最低買付株数[30]6,278万株)の規模となった。公開買付期間は2026年2月6日から3月24日まで、決済日は2026年3月31日に設定された[31]。MCJはBain Capitalによる買収完了後に東京証券取引所スタンダード市場から上場廃止となる方針が公表された。
創業者で大株主の髙島勇二氏(保有比率34.36%)[32]は保有株式全てを応募した上で、買収完了後も経営に関与する方針を示した。MBOの戦略的合理性として、短期的な株価変動に左右されない経営体制の構築と、既存事業とのシナジーを重視したボルトオンM&Aの推進、海外展開・新サービス領域への投資強化が示された。創業以来オーナー経営者として28年間経営を率いてきた髙島勇二氏が[33]、株式市場から離れた非公開企業の形でPC事業の継続的拡張を選択した経営判断は、上場メリットよりも経営の柔軟性を優先する選択として位置付けられた。
1998年の有限会社エムシージェイ設立から28年を経て[34]、MCJは創業者主導のオーナー経営とBTO直販・3軸ブランド・連結売上2000億円規模という構造を保ったまま、株式市場から離れた非公開企業へ位置付けが変わる節目を迎えた。Bain Capitalの傘下に入ることでM&A原資と海外展開の支援を得つつ、創業者の経営への関与を続ける体制が組み上がる予定である。1998年創業の有限会社から始まり、安井元康社長と創業者の二頭体制[35]で2020年代後半のPC市場縮小局面に向かう構図が、東証スタンダード市場最後の数年間の姿として残った。
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|---|---|---|---|---|
| 1998〜2010年マウスコンピュータージャパン分社から東証マザーズ上場までの黎明期 | エムシージェイを設立 | ★★ | ||
| エムシージェイに組織変更 | ★ | |||
| マウスコンピュータージャパンと1:1で合併 | ★★ | |||
| MCJに商号変更 | ★ | |||
| 東京証券取引所マザーズ上場 | ★ | |||
| シネックスの株式取得 | ★ | |||
| ウェルコムとイーヤマ販売の株式取得 | ★★ | |||
| iiyama Benelux B.V.の株式取得 | ★ | |||
| 浅貝武司 | 会社分割による純粋持株会社へ移行 | ★★ | ||
| 浅貝武司 | アロシステムの株式取得 | ★ | ||
| 髙島勇二 | マウスコンピューターがiiyamaと合併 | ★ | ||
| 2011〜2020年ゲーミング・クリエイターPC事業の拡張とコロナ禍の需要急増 | 髙島勇二 | ユニットコムがグッドウィルの株式を取得 | ★ | |
| 髙島勇二 | エムヴィケーとユニティが合併しアユートに商号変更 | ★ | ||
| 髙島勇二 | アイエスコーポレーションの株式取得 | ★ | ||
| 髙島勇二 | ユニットコムがコムコーポレーションの株式を取得 | ★ | ||
| 髙島勇二 | 東京証券取引所市場第二部に指定替え | ★ | ||
| 髙島勇二 | 秀和システムの株式売却 | ★ | ||
| 安井元康 | R-Logic International Pte Ltdの株式取得 | ★ | ||
| 安井元康 | MIDを設立 | ★ | ||
| 安井元康 | ユニットコムがアークの株式を取得 | ★ | ||
| 安井元康 | コムコーポレーションの株式売却 | ★ | ||
| 2021〜2026年Bain Capital MBOによる東証スタンダード市場からの撤退 | 安井元康 | スタンダード市場へ移行 | ★ | |
| 安井元康 | ベインキャピタルと組んだ創業会長のMBOと非公開化 2026年2月、パソコンの『マウスコンピューター』などを擁するMCJが、創業会長で筆頭株主の髙島勇二氏と米ベインキャピタルが組むMBOによって株式を非公開化すると発表した経営判断。1株2,200円のTOBは対抗提案のないまま成立し、株式併合を経て、MCJは2026年6月16日に東証スタンダード市場を上場廃止した。 詳細を読む | ★★★ |
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事実根拠:出所(MCJ)