ジャスダックの子会社化(2008年・日本取引所グループの決断)

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論点 新興市場の再編を自ら仕掛けるか
日本取引所グループ:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
公開買付けによる傘下入れと、分立していた新興市場の統合

何をなぜ決めたか:公開買付けによる傘下入れと、分立していた新興市場の統合

概要

2008年12月25日、大阪証券取引所が公開買付けで株式会社ジャスダック証券取引所の議決権76.1%を取得して子会社化し、2009年9月24日に完全子会社化、2010年4月1日に吸収合併したうえで、同年10月にヘラクレス・JASDAQ・NEOを市場統合して新JASDAQ市場を開設した一連の経営判断。米田道生氏が社長を務めた時期にあたる。

背景

新興市場は東証マザーズ・大証ヘラクレス・ジャスダックが並び立って競合していた。有価証券報告書はヘラクレスとJASDAQ市場を大証グループの中核事業と位置づけたうえで、主な競合市場に東証の開設する市場を挙げている。大証は現物株の地盤沈下と、東証が主導する取引所再編への警戒を抱えていた。

内容

取得原価は5,860百万円で、内訳は株式取得対価5,327百万円とデューデリジェンス費用等533百万円。全額を現金で支出した。受け入れた資産13,419百万円が引き受けた負債4,492百万円と取得原価を上回り、負ののれん933百万円が生じて3年間で均等償却された。2009年9月には完全子会社化と、ジャスダックによる大証システムの利用開始が同じ月に重なっている。

含意

企業結合を行った理由として有価証券報告書が挙げたのは、両社の新興市場をグループ化して国内新興市場のリーディング・マーケットを形成することであった。合併した2011年3月期には抱合せ株式消滅差益2,013百万円を特別利益に計上し、ジャスダックから引き継いだ繰越欠損金の充当もあって当期純利益は前期比45.4%増の9,156百万円になった。もっとも2013年に東証と経営統合して日本取引所グループが発足すると、対抗していた両者は同じ傘のもとに収斂していった。

いつ何が起きたか 8件
考察:対抗軸が、同じ傘に収まるまで
考察

考察:対抗軸が、同じ傘に収まるまで

この買収は、東証主導の再編を待つのではなく、地盤沈下の続く現物・新興市場で自ら主導権を取りに行った一手として読める。取得原価5,860百万円に対し受け入れた資産と引き受けた負債の純額が上回り、負ののれん933百万円が生じたという数字は、相手が割安に手に入る状態にあったことを示している。デリバティブで稼ぐという確かな足場を持つがゆえに、大証は現物の弱さを補う相手を選び、システムの利用を一本化し、完全子会社化から吸収合併、市場統合までを2年足らずで進め切ることができた。乱立した新興市場を一つへ集約した点で、この判断は当時の証券市場が抱えていた重複と非効率に対する、大証なりの回答であったのだろう。

もっとも、取引所同士の競争は、国内での主導権争いの先に、もう一段の再編を控えていた。提出会社の営業収益は合併後の2011年3月期に229億円まで伸びたものの、2013年3月期には186億円へ戻っている。国際的な地位の低下という共通の危機感を前に、対抗軸であったはずの東証と大証は2013年に経営統合し、日本取引所グループの傘下へともに収まっていった。大証が新興市場で握った主導権は、より大きな再編のなかへ吸い込まれていったともいえる。一つの市場を集約する判断が、次の統合の布石にもなっていく——取引所という装置の再編は、どこかで完結するというより、環境の変化に押されて続いていくものなのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

日本取引所グループ:大阪証券取引所(提出会社)の営業収益

営業収益(百万円)
日本取引所グループ:大阪証券取引所(提出会社)の営業収益
(百万円) 営業収益 備考
2004年3月期 9,921
2005年3月期 9,882 連結営業収益は10,029百万円。翌期から連結子会社がなくなり連結財務諸表を作成していない
2006年3月期 13,323
2007年3月期 16,093
2008年3月期 18,689
2009年3月期 18,902 ジャスダックを子会社とし連結を再開。連結営業収益は20,051百万円
2010年3月期 18,080 連結営業収益は23,021百万円。ジャスダックの通年が加わった唯一の期
2011年3月期 22,984 2010年4月の吸収合併で提出会社に一本化。以後は個別財務諸表のみ
2012年3月期 22,494
2013年3月期 18,643 2013年1月に日本取引所グループが発足し、大証は持株会社の子会社となった
出所:大阪証券取引所 有価証券報告書 第5期・第8期・第12期(主要な経営指標等の推移、提出会社の経営指標等)
出所:大阪証券取引所 有価証券報告書 第5期・第8期・第12期(主要な経営指標等の推移、提出会社の経営指標等)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 株式会社ジャスダック証券取引所 取引所金融商品市場の開設に係る業務等。市場施設の提供と相場の公表を行う
企業結合を行った主な理由 国内新興市場のリーディング・マーケット形成 両社が開設・運営する新興市場をグループ化し、市場の質の向上に努めるため
企業結合日 2008年12月25日 連結財務諸表に含めた業績の期間は2009年1月1日から3月31日まで
企業結合の法的形式 公開買付による株式取得 買付価格・買付期間・応募株券数の記載は有価証券報告書にない
取得した議決権比率 76.1% 結合後企業の名称は株式会社ジャスダック証券取引所のまま
取得原価 5,860百万円 株式取得対価5,327百万円とデューデリジェンス費用等533百万円。全額が現金
発生した負ののれん 933百万円 時価で算定した資産・負債の純額が取得原価を上回った差額。3年間で均等償却
受け入れた資産 13,419百万円 流動資産4,761百万円、固定資産8,658百万円
引き受けた負債 4,492百万円 流動負債3,358百万円、固定負債1,134百万円
通期換算した営業収益 4,091百万円 期首に結合したと仮定した概算。営業損失971百万円、経常損失437百万円
完全子会社化した日 2009年9月24日 少数株主からの株式取得。共通支配下の取引として処理
完全子会社化の取得原価 1,673百万円 ジャスダック証券取引所の普通株式の取得対価
吸収合併の期日 2010年4月1日 唯一の連結子会社を吸収合併し、以後は個別財務諸表のみを作成
合併で計上した特別利益 抱合せ株式消滅差益2,013百万円 2011年3月期。繰越欠損金の充当もあり当期純利益は前期比45.4%増
市場統合 2010年10月 ヘラクレス・JASDAQ・NEOを統合し新JASDAQ市場を開設
出所:大阪証券取引所 有価証券報告書 第8期(2009年3月期)・第9期(2010年3月期)・第10期(2011年3月期)【企業結合等関係】【沿革】
出所:大阪証券取引所 有価証券報告書 第8期(2009年3月期)・第9期(2010年3月期)・第10期(2011年3月期)【企業結合等関係】【沿革】
参考文献

参考文献

参考
  • 大阪証券取引所 有価証券報告書 第8期(2009年3月期)【企業結合等関係】【沿革】
  • 大阪証券取引所 有価証券報告書 第9期・第10期【企業結合等関係】【沿革】【業績等の概要】
  • 大阪証券取引所 有価証券報告書 第5期・第8期・第12期(主要な経営指標等の推移)
  • 大阪証券取引所 有価証券報告書「第8期(2009年3月期)【企業結合等関係】【沿革】【業績等の概要】」
  • 大阪証券取引所 有価証券報告書「第9期(2010年3月期)【企業結合等関係】【沿革】【事業の内容】」
  • 大阪証券取引所 有価証券報告書「第10期(2011年3月期)【沿革】【業績等の概要】」
  • 大阪証券取引所 有価証券報告書「第5期・第8期・第12期(主要な経営指標等の推移)」

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