トヨタ自動車 2010年グローバルビジョンの策定 市場予測の積み上げではない世界シェア15%を旗印に据えた、海外生産能力の先行拡大

更新:

時期 2002年4月
当時の社長 張富士夫
論点 国内市場の停滞下での成長目標の設定と海外生産の拡大
何をなぜ決めたか
概要

2001年のトヨタ自動車の世界シェアは10%で、同社はこれを5割増しの15%とする目標を2002年4月の「2010年グローバルビジョン」に書き込み、達成の時期を2010年代の早い段階とした。社会への貢献で信頼を得ることも、このビジョンのもう一つの柱に据えられた。

売上高16兆542億円、当期純利益9,446億円。発表をはさむ2003年3月期の連結の数字で、どちらも過去最高である。リース用車両を除く設備投資も9,935億円に達していた。

背景

国内市場はデフレのなかで伸びが止まり、需要はコンパクト車へ移っていた。台数とシェアを拡大すれば収益が伴うという従来の筋道は、国内ではもう成り立たなくなっていた。連結の車両販売台数は1998年3月期の445万6千台から2002年3月期の554万台(12か月換算)へ増えている。

原価の足場は先に固めていた。2000年に始めたCCC21は、総部品調達額の90%以上を占める主要170品目のそれぞれで世界一の価格競争力を狙う活動で、部品メーカーと社内の調達・設計・生産技術の各部門が組み、2003年までに目標到達の見通しを立てている。

内容

15%の性格について、張富士夫社長は 『市場予測に基づき厳密に積み上げたものではありませんが、次の大きな夢として取り組みたいと考えています』 と位置づけ、トヨタグループ共通の旗印とした。数字を支える手は地域ごとの生産の積み増しで、中国では第一汽車を新たな提携相手に得て2010年頃に市場シェア10%を狙い、チェコではPSAプジョー・シトロエンとの合弁工場を2005年の生産開始に向けて建てた。

2004年からはピックアップトラックと多目的車を新興国の拠点から世界へ供給するIMVプロジェクトを始め、北米ではテキサスで2006年から大型ピックアップトラックを造る計画を置いた。意思決定を速めるため、2003年6月には取締役会を絞って非取締役の常務役員を新設し、外国人3名を登用している。

含意

海外生産は2003年3月期の168万8千台から2008年3月期に338万7千台へ倍増し、同期の連結車両販売台数は891万4千台、当期純利益は1兆7,179億円まで伸びた。同じ期の設備投資はリース用資産を除いて1兆4,803億円である。張富士夫社長は2004年の時点で 『世界シェア15%は、トヨタが地道な努力を積み重ねていった結果達成されるものであり、シェア数値のみを目的化した経営をする考えはありません』 と、目標の読まれ方を正していた。

ただ翌2009年3月期に連結生産は705万1千台へ17.5%減り、北米の生産は27.5%、欧州は32.3%減少した。当期純損失は4,369億円となり、積み上げた海外の能力がそのまま重荷に転じている。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

旗印が先に動かした海外の能力

このビジョンの中身は、シェアの目標というより、海外の生産能力を先に積むという約束だったと読める。15%は市場予測から導いた数ではないとされ、実際に動いたのは中国・チェコ・テキサスの工場とIMVの供給網への投資だった。国内で台数が収益を連れてこなくなった局面で、成長の場を海外へ移すための合図として数字を置いたのだろう。海外生産を5年で倍にした速さは、その合図が現場の投資判断まで届いた結果として受け取れる。

もっとも、旗印には降ろす時機が書かれていない。需要の伸びに合わせて海外の能力を積み続けた結果、2009年3月期には北米と欧州の生産が3割前後落ち、増やした固定費がそのまま赤字の側へ回ったと思われる。社長自身は数値だけが先に読まれることを戒めていたが、拡大の速度をどこで緩めるかを決める手立てまでは、このビジョンに組み込まれていなかったのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

業績の推移
ビジョンで掲げた目標と生産拠点への投資

ビジョンで掲げた目標と生産拠点への投資

科目 概要 備考
発表 2002年4月 「2010年グローバルビジョン」として公表した
世界シェアの目標 15% 2001年の実績10%を図に示し、達成は2010年代の早期に置く
目標の位置づけ トヨタグループ共通の旗印 市場予測から厳密に積み上げた数字ではないと社長が説明した
併せて掲げた方針 積極的に社会に貢献し信頼される存在になる
原価低減 CCC21(2000年開始) 総部品調達額の90%以上を占める主要170品目で世界一の価格競争力を狙う
中国の目標 2010年頃に市場シェア10% 第一汽車を新たな提携相手に得た
新興国の供給体制 IMVプロジェクト(2004年開始) ピックアップトラックと多目的車を世界規模で供給する新体制
欧州の新工場 チェコ(2005年生産開始の予定) PSAプジョー・シトロエンとの合弁会社
北米の新工場 テキサス(2006年生産開始の予定) 大型ピックアップトラック。TMMTXの設備投資は2006年3月期に62,965百万円
経営制度 2003年6月末に導入 取締役会を絞り常務役員(非取締役)を新設。常務役員に外国人3名
設備投資(決断の期) 9,935億円 2003年3月期。リース用車両を除く。日本基準
設備投資(5期後) 1,480,280百万円 2008年3月期。リース用資産1,279,405百万円は外数。米国基準

出所:トヨタ自動車 アニュアルレポート2003「社長インタビュー」・アニュアルレポート2004「社長メッセージ」/2003年3月期 中間決算説明会資料(2002年10月30日)/連結決算参考資料(2003年5月8日)/有価証券報告書 第102期・第104期【設備投資等の概要】

連結の車両販売台数と地域別の車両生産台数

トヨタ自動車:連結の車両販売台数と地域別の車両生産台数

(千台) 車両販売台数国内生産海外生産 備考
1998年3月期 4,4563,422811 日本基準。海外生産の内訳は北米562・欧州114
1999年3月期 4,6953,4541,004 ダイハツは連結となった後半期分のみを含む
2000年3月期 5,1823,8631,139
2001年3月期 5,5204,0981,177 販売台数は552万台の公表値
2002年3月期 5,5434,0291,277 米国基準で組み替えた値。日本基準は15か月決算を含み販売5,784
2003年3月期 6,1134,1621,688 ビジョンを発表した期。米国基準。日本基準の販売台数は6,246
2004年3月期 6,7194,2842,229
2005年3月期 7,408−− 生産台数は会社の公表資料で照合できていない
2006年3月期 7,9754,6853,027 この期から有報の生産実績。海外は北米・欧州・アジア・その他の計
2007年3月期 8,5255,1013,080
2008年3月期 8,9145,1603,387 翌2009年3月期は販売7,567・生産7,051へ減少
地域別の車両生産台数と車両販売台数
国内生産(千台)海外生産(千台)車両販売台数(千台)

出所:トヨタ自動車 決算説明会補足資料(連結決算)(2000年・2002年10月) / トヨタ自動車 連結決算参考資料(2002年5月13日・2003年5月8日・2004年5月11日) / トヨタ自動車 アニュアルレポート2004「車両生産台数及び販売台数」 / トヨタ自動車 第101期 事業報告書 / トヨタ自動車 有価証券報告書 第102期〜第104期【生産、受注及び販売の状況】

意思決定の前後5期の連結業績

トヨタ自動車:意思決定の前後5期の連結業績

(億円) 売上高当期純利益 備考
1998年3月期 116,783− 日本基準。当期純利益は会社の公表資料で照合できていない
1999年3月期 127,490−
2000年3月期 128,795−
2001年3月期 134,244−
2002年3月期 151,0626,158 欧州等の連結子会社の15か月決算を含む
2003年3月期 160,5429,446 日本基準。米国基準では売上高155,015・当期純利益7,509
2004年3月期 172,94811,621 この期から米国基準
2005年3月期 185,51511,713
2006年3月期 210,36913,722
2007年3月期 239,48116,440
2008年3月期 262,89217,179 翌2009年3月期は売上高205,296・当期純損失4,369
連結の売上高と当期純利益率
売上高(億円)当期純利益率(%)

出所:トヨタ自動車 決算説明会補足資料(連結決算)(2000年) / トヨタ自動車 連結決算参考資料(2002年5月13日・2003年5月8日・2004年5月11日) / トヨタ自動車 有価証券報告書 第104期・第105期【主要な経営指標等の推移】

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出典・参考

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