テルモ CSL Plasmaとの原料血漿採取の協業 初めて入る原料血漿採取の市場を、CSL Plasma 1社の米国280超の採取センターへRikaを一斉に入れる契約で立ち上げる単一顧客型の参入

更新:

時期 2021年4月
当時の社長 佐藤慎次郎
論点 初めて入る原料血漿の市場を、多くの事業者へ売り込んで開くか、1社との大型契約で一気に立ち上げるか
何をなぜ決めたか
概要

2021年4月、テルモは子会社のテルモBCTを通じて、米国のCSL Plasmaと原料血漿採取における協業を始めた。CSL Plasmaが米国内で運営する280以上の血漿採取センターに、自社で開発した原料血漿採取システム「Rika」と、ITプラットフォーム・現場支援までを一体で供給する。原料血漿の採取はテルモにとって初めて参入する領域で、受け皿としてテルモBCTのレイクウッド(コロラド州)に原料血漿採取関連の生産設備を2018年11月から積み上げていた。

協業から5年半後の2026年10月、両社は供給契約を移行期間の終了後に解除することで合意し、テルモは米国の生産拠点の設備や製品技術に約4.5億米ドル(約720億円)の減損を見込んだ。

背景

受け皿となったテルモBCTは、2011年4月に2,625百万米ドルで全株を取得した米国のカリディアンBCTを母体とする。成分採血システムに強みを持つ同社を得て、テルモは輸血関連で業界首位の地位の獲得を狙い、レイクウッドに血液事業の拠点を得た。5カ年の成長戦略GS26は、血液・細胞テクノロジーカンパニーの柱の1つに「Blood and Beyond」を置き、採血業務の効率化に寄与する原料血漿採取システムを米国からスタートさせ、米国以外の市場にも広げる道筋を描いた。Rikaは、拡大する血漿分画製剤の需要に応えることを目的に開発された。

内容

Rikaは採血時間を平均35分以下に抑え、体外に循環する血液量を200mL以下にとどめる構造を持ち、2022年3月に米国食品医薬品局(FDA)の510(k)認証を取得した。協業の開始にあたり、テルモは事業規模について 『現時点で、3桁億円の事業規模になるとみている』 と見通しを示した。切り替えは全米の採取センターの装置を一斉に入れ替える形で進み、販売費の少ないBtoBの取引として、カンパニーの利益率を押し上げる狙いがあった。

レイクウッドの設備計画は、初めて公表した2021年3月期の総額521億円から、2025年3月期には772億円まで膨らみ、既支払額は751億円に達した。2022年には原料血漿採取システムの新拠点となるリトルトン工場も竣工した。

含意

血液・細胞テクノロジーカンパニーの売上収益は、2021年3月期の1,095億円から2026年3月期には2,310億円へ伸び、2025年3月期と2026年3月期の増収は北米の血漿イノベーションビジネスの展開加速が牽引した。ただし、2023年5月の時点でロールアウトの速度はCSL Plasma側が決める段階に入っており、2026年5月の決算説明会で萩本仁CFOは 『われわれにとって CSL 社の売上というのは、もちろん Rika にとってはそれがほぼ全部ということになっております』 と、Rikaの売上がほぼ1社に依存することを認めている。

5か月後の2026年10月、テルモは供給契約の解除に合意し、減損約720億円に加え、移行期間中の事業損失と事業再編の費用など約1.6億米ドル(約255億円)を2027年3月期に計上する見込みを開示した。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

1社に預けた新市場の値段

この協業は、原料血漿の市場へ入る決断というより、CSL Plasma 1社の採取センター網を丸ごと請け負う受注の決断であったと読める。レイクウッドに積み上げた既支払額751億円と、契約の解除で見込む減損約720億円はほぼ重なり、専用に組んだ生産設備の価値が、1社の契約の存続にそのまま懸かっていたことを示している。装置を一斉に入れ替える形は立ち上がりが速い反面、ロールアウトの速度も終わり方も相手に委ねる形でもあり、その代償が2027年3月期の損失として表に出たとみられる。

もっとも、同じ5年間で血液・細胞テクノロジーカンパニーの売上収益は2倍を超え、調整後営業利益も191億円から336億円へ伸びた。この伸びのうちRikaがどれだけを占めたかは開示がなく、解除の後に残る事業の厚みは数字からは測りきれない。カリディアンBCTの買収で得た成分採血の基盤は残るため、問われるのは、原料血漿を米国以外へ広げるというGS26の道筋を、1社に頼らない形で組み直せるかどうかだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年10月

業績の推移
血液・細胞テクノロジーカンパニーの売上収益と調整後営業利益

テルモ:血液・細胞テクノロジーカンパニーの売上収益と調整後営業利益

(百万円) 売上収益調整後営業利益 備考
2017年3月期 94,48315,173 IFRSの値(第103期の前期欄)。日本基準のセグメント利益は△2,906
2018年3月期 104,69715,072 第103期。この期から国際会計基準
2019年3月期 104,98415,673
2020年3月期 107,15615,053
2021年3月期 109,49119,088
2022年3月期 120,58620,841 2021年4月にCSL Plasmaとの協業を発表。2022年3月にRikaがFDA認証
2023年3月期 147,60511,163 北米の成分採血装置の需要などで22.4%の増収、調整後営業利益は減益
2024年3月期 168,32816,394
2025年3月期 200,28026,482 北米の血漿イノベーションビジネスの展開加速などで19.0%の増収
2026年3月期 231,03733,635 北米の血漿イノベーションビジネスが牽引し15.4%の増収
血液・細胞テクノロジーカンパニーの売上収益と調整後営業利益率
売上収益(百万円)調整後営業利益率(%)

出所:テルモ 有価証券報告書 第103〜110期【経営成績等の状況の概要】【セグメント情報】 / テルモ 有価証券報告書 第111期(2026年3月期)【セグメント情報】

レイクウッドの原料血漿採取関連の生産設備の投資計画

テルモ:レイクウッドの原料血漿採取関連の生産設備の投資計画

(百万円) 既支払額計画総額 備考
2021年3月期 25,18352,100 表への初出。完了予定は2026年3月
2022年3月期 33,98456,484 CSL Plasmaとの協業を始めた期
2023年3月期 54,94368,561 完了予定を2027年3月へ延ばす
2024年3月期 64,39873,160 完了予定を2026年3月に戻す
2025年3月期 75,12077,227 既支払額は計画総額の97%
原料血漿採取関連の生産設備の既支払額と計画総額
既支払額(百万円)計画総額(百万円)

出所:テルモ 有価証券報告書 第104〜111期【設備の新設、除却等の計画】

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • テルモ 臨時報告書「臨時報告書(財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に著しい影響を与える事象)」
  • テルモ 決算説明会資料「2021年3月期 決算説明会資料」
  • テルモ 決算説明会 質疑応答「2021年3月期 決算説明会 質疑応答要旨」
  • テルモ 決算説明会 質疑応答「2023年3月期 決算説明会 質疑応答」
  • テルモ 決算説明会 質疑応答「2026年3月期 決算説明会 質疑応答」
  • テルモ 有価証券報告書「第96期(2011年3月期)【重要な後発事象】・第97期(2012年3月期)【企業結合等関係】」
  • テルモ 有価証券報告書「第106〜110期(2021年3月期〜2025年3月期)【設備の新設、除却等の計画】」
  • テルモ 有価証券報告書「第107期(2022年3月期)・第108期(2023年3月期)【研究開発活動】」
  • テルモ 有価証券報告書「第111期(2026年3月期)【経営成績等の状況の概要】【セグメント情報】」

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