日本精工との経営統合と共同持株会社の設立

2026年進行中

単独では稼ぐ力を取り戻しきれないなか、100年のライバルとなぜ手を組むのか——軸受2強の統合をめぐる選択

更新:

時期 2026年5月
意思決定者 鵜飼英一 社長
論点 単独での生き残りと業界再編
概要
軸受(ベアリング)で国内首位級の日本精工とNTNが、2026年5月12日に経営統合を発表した経営判断。共同持株会社を設立して両社がその傘下に入り、国内外の競争法審査と2027年6月の株主総会承認を経て、同年10月の持株会社上場を目指す。過大な設備投資の後始末に追われ、単独での収益力に課題を抱えるNTNが、100年競い合ってきた相手と組む道を選んだ。
背景
NTNは自動車の等速ジョイントなどを主力とする軸受大手だが、先々の需要を見込んだ過大な設備投資が減損を招き、鵜飼英一社長のもとで不採算拠点の統廃合を進める構造改革の途上にあった。EVシフトや中国勢の台頭、原材料高という業界の逆風は日本精工にも共通し、両社とも利益率は世界首位のSKFに大きく水をあけられていた。
内容
両社は共同株式移転により持株会社を新設し、その傘下に並ぶ。新持株会社の社長CEOは日本精工が、会長はNTNが指名する。統合が実現すれば売上高は1.7兆円規模となり、2024年の世界シェア単純合計は約24%で、首位のスウェーデンSKF(約18%)を上回る計算になる。株式移転比率は今後の最終契約で定めるとされ、発表時点では未定であった。
含意
「製品では負けていないが、ビジネスとして勝てているか」という鵜飼社長の問題意識が、単独での自立から再編による規模の追求へと舵を切らせた。もっとも統合比率もシナジーの中身もこれからで、発表直後の市場では日本精工株が軟調に転じ、アナリストからは統治の枠組みへの疑問も出た。本稿の時点で統合の実像は定まっていない。
筆者の見解

自立の限界と再編の賭け

この統合の核心は、単独での「稼ぐ力」の回復を掲げてきたNTNが、その延長線上ではなく、100年のライバルとの合流に活路を求めた点にある。過大投資の後始末を「自分がケリをつける」と語ってきた鵜飼社長にとって、再編は自立の完成ではなく、自立だけでは届かない規模と収益力を外に求める選択であった。技術では世界の先頭を争いながら、利益率でSKFに大きく水をあけられてきた構図は、日本の部品メーカーが長く抱えてきた「良いものを作れば報われる」という前提の揺らぎを映しているとみることができる。

もっとも、規模がそのまま収益に転じる保証はどこにもない。時価総額でも利益率でも劣るNTNが、対等の精神をうたう統合のなかで発言の重みをどう保つのか、株式移転比率や統治の配分という具体の条件は、これから詰められる。過去にも両社は業務提携や合弁で近づいては、カルテル処分を機に離れた歴史を持つ。近づいては離れてきた2社が、今度は持株会社の一つ屋根の下で弱みを補い合えるのか——製品で勝ってきた名門が、ビジネスでも勝つ形へ生まれ変われるかという問いを、この統合は生きた形で突きつけている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

過大投資の後始末と「稼ぐ力」の課題

NTNは軸受で世界有数のメーカーであり、自動車の動力をタイヤに伝える等速ジョイントやハブベアリングを主力に据えてきた。2004年3月期には構造改革「NP21」で過去最高益へ復活した経緯を持つが、その後の同社を長く縛ったのは、先々の自動車需要を見込んだ設備投資の重さであった。鵜飼英一社長は、顧客の自動車メーカーから3年先の生産計画に合わせた対応を求められ、想定した数量が出ないと設備の減損を計上せざるをえなかったと振り返っている。2021年に就任して以降、同氏は過大投資を「負の遺産」と呼び、その一掃を自らの役割に定めていた[1]

収益力の立て直しは道半ばであった。2025年度の営業利益率は3.7%で、顧客の自動車生産が好調だった頃の水準には戻っていなかった。NTNは2026年度までの3年間で350億円を投じ、世界で不採算拠点の統廃合や固定資産の圧縮を進め、値上げや利益率の高い補修部品市場へのシフトで採算改善を図っていた。それでも株価は300円を割る低迷が続き、2024年の株主総会で鵜飼社長の信任率は69.7%にとどまった。「製品としては負けていないが、ビジネスとして勝てているか」という同氏の言葉に、単独での自立の難しさがにじんでいた[2]

100年のライバルと、業界に吹く逆風

相手の日本精工は1916年設立、NTNは1918年設立で、創業の時期は1年半ほどしか違わない。両社は古くから磁石のような間柄で、バブル崩壊後に距離が縮まった。1999年に技術・生産面で業務提携を結んで相互のOEM供給を広げ、2002年には投資負担の重い大型軸受事業で合弁会社の設立へと踏み込んだ。もっとも2012年、ベアリング上位4社の価格カルテルが明るみに出て両社に巨額の課徴金処分が下ると、その後は距離が離れていった。近づいては離れる関係が、100年を通じて続いてきたとみることができる[3]

両社を再び引き寄せたのは、業界に吹く逆風であった。EVシフトによる部品点数の削減、中国勢の台頭、原材料高が重なり、自動車と産業機械のいずれでも既存市場の拡大が描きにくくなっていた。利益率の低下を受けて構造改革を断行してきた点で、日本精工とNTNの置かれた状況はよく似ていた。日本精工も欧州で生産拠点の統廃合や1,000人規模の削減を進め、課題を抱えるステアリング事業では単独での生き残りは難しいとの方針を崩していなかった。2社に共通する弱みが、統合という選択の土台を成していたといえる[4]

決断

共同持株会社という枠組み

2026年5月12日、日本精工とNTNは経営統合すると発表し、共同株式移転による基本合意書を締結した。両社は新たに共同持株会社を設立してその傘下に並び、国内外の競争法審査を経たうえで、2027年6月の株主総会で承認を得て、同年10月に持株会社の上場を目指す。新持株会社の社長CEOは日本精工が、会長はNTNが指名すると定められた。統合の対価となる株式移転比率は、6カ月以内をめどに結ぶ最終契約で決めるとされ、発表の時点では明らかにされなかった[5][6]

統合が実現すれば、その規模は業界の地図を塗り替える。合算の売上高は1.7兆円規模となり、トヨタ自動車系のジェイテクトを引き離す。2024年の世界シェアは日本精工が13.3%、NTNが10.7%で、単純に足せば約24%となり、首位のスウェーデンSKF(約18%)を上回る計算であった。両社が長く見上げてきた世界首位に、数の上では並ぶ位置へ進む構図といえる。原材料となる鋼材などの価格が上がるなか、規模の拡大で生産や調達のコストを抑える狙いが、この統合には込められていた[7]

「製品で勝ち、ビジネスでも勝つ」

統合の狙いを、両社のトップはそれぞれの言葉で語った。日本精工の市井明俊社長は「おそらく両社とも同じようなことを考えていた。経営統合が企業価値を上げていく意味で大切な一歩になるという思いが、つねに一致していた」と明かした。NTNの鵜飼英一社長は「われわれ日本を代表する2社は、製品としては負けていないが、ビジネスとして勝てているかというところが大きな課題」と述べた。技術で築いた地歩を、収益の力へ変えきれずにいるという自己認識が、統合の動機の根にあったとみられる[8]

目標に据えたのは、世界首位のSKFであった。同社の2026年度第1四半期の営業利益率は12.1%で、日本精工の4.2%、NTNの3.7%とは大きな開きがあった。SKFは今後、自動車向け軸受事業を分離する予定で、利益率はさらに高まるとみられていた。国内でも小径ベアリングのミネベアミツミが、HDD用や航空機向けで高い採算を上げていた。規模でSKFに並んでも、利益率で見劣りする現実は残る。統合の掲げる「製品で勝ち、ビジネスでも勝つ」という標語は、その隔たりを埋める決意の表明であったとみることができる[9]

結果

市場の反応と残された論点

発表を受けて、市場の評価は割れた。NTN株はプレミアムへの期待から大幅続伸し、9営業日続伸で年初来高値を連日更新した。一方、統合の翌日に開かれた日本精工の決算説明会では、複数の証券アナリストから「統合は正直、ショックだ」との声が経営陣にぶつけられ、同社株は軟調に転じた。発表前の時価総額は、NTNの約2,500億円に対し日本精工が約6,800億円で、およそ2.7倍の開きがあったが、その差は縮まった。統合比率がまだ定まらないなかで、どちらの株主がどれだけの取り分を得るかという綱引きが、株価に映り始めていた[10][11]

統治の枠組みにも疑問が残った。大和証券の田井宏介アナリストは、新持株会社の社長とCFOをともに日本精工が指名するとされる点を指して、「それぞれから指名する選択肢もあったのでは」と述べた。時価総額で劣り、利益率でも見劣りするNTNが、対等の統合と呼べる関係を保てるかは見通せない。統合は国内外の競争法審査と両社の株主総会という関門を控え、株式移転比率という最も肝心な条件も未定のままであった。本稿の時点(2026年7月)で、この統合が両社の弱みを補い合う果実を生むのか、その実像はなお定まっていない[12]

出典・参考