JTIロシア事業の暫定管理(2026年・JTの決断)

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JT:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)

何をなぜ決めたか:連結売上の1割超を占める事業の保有継続と所有権移転の再判断

概要
概要

2026年11月5日、ロシアのプーチン大統領は、JTの海外子会社JTインターナショナル(JTI)のロシア国内事業をロシア企業の暫定的な管理下に置く大統領令に署名した。JTは遅くとも2023年3月には、同事業を経営から分離する選択肢の検討を明らかにしており、大統領令の7日前にあたる2026年10月29日の時点でも、所有権の移転を含めて検討中で、業績への影響は合理的に見積もれないとしていた。本稿は執筆時点で結論の出ていない判断を扱う。

判断は筒井岳彦社長の経営陣に委ねられる。選択肢は筆者の整理で3つある。所有を維持して管理の解除を待つ、所有権を移転する、支配を失ったとみて連結から外す、である。いずれを採っても、2025年12月期の連結売上収益3兆4,677億円の1割超を占める販売に影響が及ぶ。

背景
背景

ロシアの基盤は2度の買収で築かれた。1999年5月にRJRインターナショナルを取得した際、JTは世界市場の成長の牽引役としてロシアを含むCISを挙げていた。2007年4月には、2000年にロシアのLiggett-Ducatを傘下に収めていたGallaherの買収を完了した。ロシアのシェアは旧JTIの18.5%から、2006年の合算で33.9%へ上がり、2007年には35%で首位に立ち、2025年も36.9%を維持している。

現地のリスクも早くから表面化していた。2004年7月に現地法人が約24億ルーブル(当時約88億円)の課税通知を受け、裁判を経て2007年10月に無効の判決を得た。2013年2月には広告や陳列を制限する包括的たばこ規制法が成立した。2022年3月に新規投資とマーケティングを停止した後も、Megapolisグループ向け売上収益は2021年12月期の2,584億円から2025年12月期の4,975億円へ増加した。

内容
内容

影響は開示値から試算するしかない。JTはロシアの売上も利益も開示していない。手掛かりはロシア国内の物流会社TC Megapolis向け売上収益4,443億円と、ロシア等で物流・卸売を営むMegapolisグループ向け4,975億円である。前者にEMA地域の利益率28.4%を、後者にたばこ事業全体の利益率29.9%を当てると、ロシア関連の調整後営業利益は年1,262億〜1,488億円となり、全社の9,022億円の14〜16%に相当する。2026年1〜9月の販売数量でも、ロシアの599億本は全体の4,374億本の13.7%を占める。

株主への影響も試算できる。2026年1〜9月の税引前利益に対する親会社帰属の四半期利益の比率70.6%を当てると、税引後の利益は年890億〜1,050億円となる。1株当たりでは50〜59円で、2026年12月期予想の372.88円の13〜16%である。この利益がすべて消えた場合、予想配当272円の配当性向は73%から84〜87%へ上がる。

沿革:意思決定前後の出来事12件
考察:収益が狭めた撤退の出口
考察

考察:収益が狭めた撤退の出口

なぜJTは4年以上ロシアから撤退しなかったのか。撤退すれば、連結売上収益の1割超を占める販売と、2025年に36.9%あった市場シェアを失う。一方で、新規投資とマーケティングを止めたまま事業を続けても、Megapolisグループ向けの売上収益は2,584億円から4,975億円へ増加した。たばこの需要は急には消えず、保有を続ければ利益が積み上がる。保有の継続には、この収益という合理性があったと思われる。

ただ、同じ収益が出口を狭めた。収益の大きい事業ほど譲渡するときの損失は大きく、検討を続けるあいだにMegapolisグループ向けの比率は11.1%から14.3%へ上がった。しかも、連結に載る利益と、日本へ戻せる資金は別のものである。検討の継続は、選択を先送りする判断でもあった。今回の大統領令で、いつ、誰に、どの条件で渡すかという主導権の一部は、JTの手から離れた可能性がある。

決着は2つの判断で決まる。1つ目は、暫定管理を支配の喪失とみるかどうかである。喪失とみれば年1,262億〜1,488億円の試算利益が連結から外れ、換算差額の振替を含む一時損益も生じるだろう。2つ目は配当272円の扱いである。配当性向は84〜87%まで上がるが、予想の調整後営業利益1兆790億円からみれば、耐えられない規模ではない。本当の争点は損益の大きさより、所有権と資金をどこまで回収できるかにあるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年11月

数字で見る

数値:意思決定前後の事業数値3件

JT:ロシア関連の販売先向け売上収益と営業債権の推移

TC Megapolis向け売上収益(百万円)Megapolisグループ比率(%)

Megapolisグループ向けの比率は2021年の11.1%から2025年に14.3%へ上昇

JT:ロシア関連の販売先向け売上収益と営業債権の推移
(百万円)TC Megapolis向け売上収益Megapolisグループ向け売上収益TC Megapolis向け営業債権連結売上収益備考
2021年12月期219,135258,36251,6852,324,838
2022年12月期347,288387,54261,4422,657,8323月に新規投資とマーケティングを停止
2023年12月期321,006370,97065,0022,841,077
2024年12月期369,568416,18674,9593,149,759連結売上収益は当時の開示値で医薬事業を含む
2025年12月期444,326497,48890,7343,467,675医薬事業を非継続事業へ区分した後の開示値
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第37〜41期(連結財務諸表注記)
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第37〜41期(連結財務諸表注記)

JT:ロシア関連の利益規模の筆者試算(2025年12月期の開示値から)

試算の調整後営業利益は全社の14〜16%に相当する

JT:ロシア関連の利益規模の筆者試算(2025年12月期の開示値から)
(億円)売上収益調整後営業利益税引後利益備考
全社の実績34,6779,0225,102税引後利益は親会社の所有者に帰属する当期利益
試算の下限4,4431,262890TC Megapolis向け売上×EMA利益率28.4%×税後比率70.6%
試算の上限4,9751,4881,050Megapolisグループ向け売上×たばこ事業利益率29.9%×税後比率70.6%
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)の値から筆者が計算。ロシア単独の損益は開示がない
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)の値から筆者が計算。ロシア単独の損益は開示がない

JT:開示から見えるロシア関連の資産(2025年12月末)

見える資産の合計1,111億円は連結総資産の1.3%にとどまる

JT:開示から見えるロシア関連の資産(2025年12月末)
(百万円)金額備考
TC Megapolis向け営業債権90,734
LLC Petroの設備の帳簿価額20,360従業員数1,042人
持分法で会計処理されている投資(全社)82,205TC Megapolis(持分23.0%)の額は内訳に示されていない
連結の資産合計8,419,240
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)(連結財務諸表注記・主要な設備の状況・関係会社の状況)
出所:日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)(連結財務諸表注記・主要な設備の状況・関係会社の状況)
人物:意思決定前後の取締役10名

取締役10名(2026年3月株主総会議決)

区分役員名役職
取締役業務執行担当領域
業務執行兼務中野恵取締役:代表取締役業務執行:副社長担当:
嶋吉耕史取締役:代表取締役業務執行:副社長担当:
寺畠正道取締役:取締役業務執行:担当:
岡本薫明官僚取締役:取締役業務執行:副会長担当:
岩井睦雄取締役:取締役業務執行:会長担当:
長嶋由紀子取締役:取締役業務執行:担当:
独立役員木寺昌人官僚取締役:取締役業務執行:担当:
庄司哲也取締役:取締役業務執行:担当:
山科裕子取締役:取締役業務執行:担当:
朝倉研二商社取締役:取締役業務執行:担当:
この一覧は2026年3月の定時株主総会の直後に提出された有価証券報告書の【役員の状況】による。
参考文献

参考文献

参考

  • 山陽新聞(共同通信配信)2026年11月5日
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第38期(2022年12月期)【事業等のリスク】
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)【役員の状況】
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)【連結財務諸表注記】
  • 日本たばこ産業 Annual Report 2000 International Tobacco Operations
  • 日本たばこ産業 Gallaher社 統合計画 説明会資料(2007年8月10日)
  • 日本たばこ産業 Gallaher社 統合計画 説明会資料(2007年8月10日)/アニュアルレポート2008/Integrated Report 2026
  • 日本たばこ産業 アニュアルレポート2008 訴訟に関する記述
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)【事業等のリスク】
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第37期(2021年12月期)・第41期(2025年12月期)【連結財務諸表注記】
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)【連結財務諸表注記】セグメント情報
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】の値から筆者が計算
  • 日本たばこ産業 アニュアルレポート2008
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第37期(2021年12月期)【事業等のリスク】
  • 日本たばこ産業 2022年12月期 第3四半期決算説明資料(2022年10月31日)
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第38期(2022年12月期)【連結財務諸表注記】
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第37〜41期(連結財務諸表注記)
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)の値から筆者が計算。ロシア単独の損益は開示がない
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書 第41期(2025年12月期)(連結財務諸表注記・主要な設備の状況・関係会社の状況)
  • 山陽新聞(共同通信配信) 報道「ロシア大統領、JT事業の暫定管理命じる」
  • 日本たばこ産業 決算短信「Consolidated Financial Results for the Nine Months Ended September 30, 2026」
  • 日本たばこ産業 決算説明会資料「2026 Third Quarter Earnings Report」
  • 日本たばこ産業 決算説明会資料「2022年12月期 第3四半期決算説明資料」
  • 日本たばこ産業 決算説明会資料「Gallaher社 統合計画 説明会資料」
  • 日本たばこ産業 統合報告書「統合報告書2022 CEOメッセージ」
  • 日本たばこ産業 統合報告書「アニュアルレポート2008」
  • 日本たばこ産業 統合報告書「Annual Report 2000」
  • 日本たばこ産業 有価証券報告書「第37〜41期(2021〜2025年12月期)【事業等のリスク】【連結財務諸表注記】【主要な設備の状況】【関係会社の状況】」

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