ライフネット生命保険auじぶん銀行との業務提携による団体信用生命保険事業への参入

一件ずつネットで集めるか、住宅ローンに組み込んで集めるか——直販一本の生保が持った二つ目の集め方

時期 2022年8月
意思決定者(推定) 森亮介 社長
論点 販売チャネルの多重化と収益構造
概要
2022年8月、ライフネット生命保険がauじぶん銀行と団体信用生命保険(団信)に関する業務提携契約を締結し、2023年7月から同行の住宅ローン利用者に向けて団信の提供を始めた経営判断。森亮介社長のもとで、開業以来の個人向け直販に加え、銀行を契約者とする団体保険の引受という二つ目の事業を持った。
背景
インターネットで個人から一件ずつ申し込みを受ける売り方では、契約を取るたびに広告費が先に出て、保険料は契約期間を通じて少しずつ入る。この構造のもと日本基準の当期損益は赤字が続き、第16期(2022年3月期)も33億1,900万円の純損失であった。
内容
団信は借り手が保険会社を選ぶ商品ではなく、住宅ローンに付帯して売られる。2023年7月1日、auじぶん銀行の引受保険会社がクレディ・アグリコル生命保険からライフネット生命保険へ切り替わり、同時にがん50%保障団信へ4疾病保障が加わるなど保障が広げられた。
含意
加入者を集めるのは銀行の住宅ローン営業となり、生保に残るのは集団の死亡率と罹患率を値ぶみする仕事に移った。獲得費用を負わない代わり、誰の窓口で売るかは提携先の事情に左右される。2025年11月には京都信用金庫とも提携し、その一社依存をゆるめにかかった。
筆者の見解

集める仕事を渡すということ

団信で変わったのは、扱う保障の中身ではなく、客をどこから連れてくるかであった。直販では契約を1件取るたびに広告費が先に出る。団信では、住宅ローンを売るauじぶん銀行の営業がその役目を担い、ライフネット生命保険に残るのは、集まった集団の死亡率と罹患率を値ぶみする仕事となった。初年度に6億円の赤字を出しながら引受を手放さず、2024年7月の料率更新で立て直せたのは、1年ごとに料率を直せる団信の仕組みがあったからである。低い入口の値ぶみは、この仕組みの上ではじめて成り立つ。

集める仕事を渡せば、集め方を決める権利も相手に渡る。auじぶん銀行が2024年11月末に一般団信への誘導を始めた一手で、受け取る保険料の伸びは提携先の判断に左右される位置に置かれた。京都信用金庫との提携には、その一社依存をゆるめる意味がある。開業18年目の初黒字も団信だけが押し上げたわけではなく、個人保険の新契約が7万件台から8万件台へ戻ったことと重なっている。二つ目の集め方を得た代わりに、二つ目の相手先を探し続ける仕事が生まれた。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

一件ずつ集める商売の採算

ライフネット生命保険は2008年の開業以来、営業職員も店舗も持たず、インターネットで個人から直接申し込みを受けてきた。保険料等収入は第16期(2022年3月期)に254億2,000万円まで伸びた一方、当期純損失は同期33億1,900万円、第17期51億300万円、第18期47億2,000万円、第19期30億5,200万円と続いた。契約を1件取るたびに広告費が先に出るのに対し、保険料は契約期間を通じて少しずつ入る。この時間差を抱えたまま新契約を積むかぎり、日本基準の損益は赤字を脱しなかった[1][2]

直販だけに頼らない道は、すでに探られていた。2016年4月にKDDIを通じて「auの生命ほけん」を、2021年7月にマネーフォワードを通じて「マネーフォワードの生命保険」の販売を始め、提携先のサイトやアプリから申し込みを受けるパートナービジネスを広げていた。ただし、これらも個人が自分の意思で保険を選び、一件ずつ申し込む点では直販と変わらない。集める場所が増えただけで、集め方そのものは変わらなかった[3]

住宅ローンに付帯して売られる保険

団体信用生命保険は、住宅ローンの借り手が死亡または高度障害の状態になったとき、借入残高が保険金で清算される保険である。借り手が保険会社を見比べて選ぶ商品ではなく、住宅ローンを借りるときに付いてくる。保険契約者は銀行であり、加入者には銀行が集めた住宅ローンの顧客がそのまま乗る。生命保険会社から見れば、客を一人ずつ探す手間を銀行の住宅ローン営業が肩代わりする形になる[4]

相手となるauじぶん銀行は、2015年に住宅ローンの提供を始めたKDDIグループのネット銀行である。ネット銀行各社は金利の引き下げが限界に近づくなか、団信の保障を厚くすることで住宅ローンを売り込んできた。auじぶん銀行の団信はもともとクレディ・アグリコル生命保険が引き受けており、その引受を取れば、伸び盛りの住宅ローンにそのまま乗れる相手であった[5][6]

決断

2022年8月の業務提携契約

2022年8月、ライフネット生命保険はauじぶん銀行と団体信用生命保険に関する業務提携契約を締結した。同社にとって団信の引受はこれが初めてで、保障性の個人保険だけを売ってきた会社が、銀行を契約者とする団体保険の世界へ入ることを意味した。2023年4月3日にauじぶん銀行が引受保険会社の変更を告知し、同年7月1日、クレディ・アグリコル生命保険からライフネット生命保険への切り替えが実行された[7][8]

切り替えにあわせ、保障の中身も広げられた。2023年7月から、がん50%保障団信に急性心筋梗塞・脳卒中・肝疾患・腎疾患の4疾病保障が加わり、がん100%保障団信の上乗せ金利は年0.10%から年0.05%へ、同プレミアムは年0.20%から年0.15%へ引き下げられた。借り手が負担する上乗せ金利を下げながら保障を厚くする組み立てで、住宅ローンの売り物としての団信は一段と手厚くなった[9]

客を集めるのは銀行、値ぶみをするのは生保

直販では、契約を1件取るごとに広告費が出る。団信では、加入者を集めるのは銀行の住宅ローン営業であり、ライフネット生命保険に残るのは、集まった集団の死亡率と罹患率をどう見積もるかという仕事に移る。団信の保険料率は契約ごとに1年単位で変更できる仕組みで、見立てが外れても翌年に直せる。獲得費用を負わない代わりに、値ぶみの精度で稼ぐ商売である[10]

実際、入口の値ぶみは低めに置かれたとみられる。銀行関係者は「割安な保険料で引き受けたようだ」と語り、過去の契約を中心に想定を上回る保険金の支払いが生じて、団信は2023年度に6億円の赤字となった。初年度から利益を取りにいくのではなく、まず引受を取って規模を作る入り方を選んだ。1年ごとに料率を直せる仕組みが、この入り方を支えていた[11]

結果

料率の更新、提携先の拡大、そして提携先の事情

2024年7月、ライフネット生命保険は団信の保険料率を更新した。団信の保有契約年換算保険料は2025年3月末に前期末比229.7%の76億4,000万円へ跳ね、2026年3月末には112.2%の85億7,100万円となった。商品と提携先も広がり、2025年1月にauじぶん銀行の住宅ローン利用者向けのペアローン連生団体信用生命保険の提供を始め、2025年11月には京都信用金庫と業務提携契約を結んで2026年7月からの提供を予定した[12][13]

一方、提携先の一手で流れが変わる面も表れた。auじぶん銀行は2024年11月末、保障の狭い一般団信を選んだ利用者に業界最安値の年0.344%を出すと発表し、団信の厚さではなく金利で客を呼ぶ売り方へ振った。保障範囲を狭めることでライフネット生命保険に支払う保険料を抑える思惑もあったとされる。資本の面でも、2026年4月にauフィナンシャルホールディングスが保有株式の全てを日本航空へ譲渡し、資本提携が解消された[14][15]

開業18年目の初黒字と、その分け前

開業から18年目にあたる2026年3月期、同社は提出会社の日本基準で経常利益28億5,700万円、当期純利益34億600万円を計上し、開業以来はじめて黒字となった。保険料等収入は第16期の254億2,000万円から第20期の512億1,700万円へ二倍になっている。IFRSによる連結の当期利益も第17期の35億6,200万円から第20期の80億4,100万円へ伸び、日本基準の赤字と併存してきた二つの数字が、この期に同じ向きを示した[16][17]

初黒字を団信だけの功績とみることはできない。第20期の保険収益343億8,800万円のうち団信は80億1,800万円で、残りは個人保険が占める。個人保険も、直近2年は新契約件数が年7万件台で頭打ちだったところ、第20期は前期比118.7%の86,990件へ反転した。新契約1件当たりの保険獲得キャッシュ・フローは13.3万円から12.0万円へ、経費率は16.7%から15.1%へ改善し、社債の金利収益が増えて金融損益も2億6,600万円の黒字となった。いくつもの改善が同じ期に重なった[18][19][20]

出典・参考

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