上場企業の経営論点

親子上場の解消

日本の大企業は、子会社の株式の一部を市場で売却し、親会社と子会社がともに上場する形を長く保ってきた。子会社株式の一部だけを売却すれば、親会社は売却代金を得ながら議決権の過半を維持できる。取引先と主力銀行が株式を持ち合っていた時代には、総会の票は事前に決まっており、子会社の少数株主の利益が親会社の方針と対立しても、その対立が票決で問われる場面は少なかった。日立製作所の上場子会社は、2009年3月の時点で22社あった。

この形を支えた条件は、1990年代末から順に変わった。1997年の改正独占禁止法で持株会社が解禁された。株式交換や株式移転を使えば、親会社は自社株を対価に少数株主の持分を取得できる。1999年、ソニーは上場子会社3社を株式交換で取り込む計画を進め、東証二部のソニーケミカルも上場を廃止した。2005年には、イトーヨーカ堂・セブン-イレブン・ジャパン・デニーズジャパンが共同株式移転でセブン&アイHDの完全子会社となった。続いて株主構成が変わり、持ち合いの解消で外国人株主が増加した。2015年のコーポレートガバナンス・コードは、機関投資家に議決権行使の説明を求めた。子会社の少数株主と親会社の利害の衝突は、どちらの株主にも説明の立たない問題になった。

日立製作所は2009年に787,337百万円の当期純損失を計上し、上場子会社5社を完全子会社化した。その後は日立化成・日立建機・日立金属などの株式を譲渡し、上場子会社をゼロにした。NTTは2020年にNTTドコモを完全子会社化し、売渡対価は4兆2,531億円に達した。2025年にはNTTデータグループも完全子会社としている。

取り込みの条件では、少数株主に支払う価格が争点になった。伊藤忠商事はファミリーマートの非公開化を、対象会社の応募推奨を得ずに進めた。SCSKは、住友商事が6度の価格引き上げを経たTOBに賛同している。トヨタ主導の豊田自動織機の非公開化でも、買付価格は1株16,300円から20,600円まで引き上げられた。住友電工は住友電設を売却し、住友理工を完全子会社とした。取り込むか売却するかを、上場子会社ごとに分けて判断した例である。

現在は、上場子会社を保有し続ける理由も問われる。ハウス食品グループ本社は、資本コスト約6%を下回るROEを背景に、壱番屋の非公開化を含む選択肢の検討を2026年8月に開示した。議決権51.00%を保有したまま上場を維持して、10年余りが過ぎていた。親会社は、子会社の持分を資本コストと比べ、保有と取り込みと売却のどれを選ぶかを株主に示す必要がある。

財務諸表のどこを見るか

有価証券報告書の「関係会社の状況」で、上場子会社の議決権所有割合を確かめる。少数株主の持分を取得すると、連結株主資本等変動計算書の資本剰余金と非支配株主持分が減少する。株式交換なら発行済株式数と自己株式の増減を、売却なら関係会社株式売却益と連結の範囲の変更の注記を見る。

親子上場の解消の事例

2026年宝HDタカラバイオをTOB子会社化上場子会社を取り込んでの親子上場の解消と、意思決定の一本化2026年ハウス食品G本社壱番屋の非公開化検討ROE低迷下での過半保有子会社の見直し2026年クリエイト・レストランツHDSFPホールディングスの吸収合併上場子会社の買収ではなく合併による持株会社2社の一本化2026年JX金属東邦チタニウムの完全子会社化自社株対価の親子上場解消とチタン事業への日本製鉄の参画検討2026年三菱ロジスネクスト日本産業パートナーズが非公開化公開買付けの成立によるスタンダード市場からの上場廃止2026年壱番屋ハウス食品による非公開化検討親会社が議決権51.0%を保有したまま続いた上場の見直し2025年ワールドライトオンを株式交換で完全子会社化再生途上のジーンズ店の上場廃止と、ワールド株による取り込み2025年住友化学田中化学研究所の完全子会社化株式交換による正極材子会社の上場廃止と一体運営への移行2025年住友電工住友電設の売却と住友理工の完全子会社化設備工事の上場子会社の売却と自動車部材の上場子会社の完全子会社化2025年豊田自動織機トヨタ主導で非公開化グループ主導で進めた上場からの退出2025年NTTNTTデータの完全子会社化上場子会社の完全買収による親子上場の解消とグループ統治の一本化2025年SCSK住友商事によるTOBへの賛同6度の価格引き上げを経た応募推奨と、親子上場の解消2024年パソナGベネフィット・ワン売却公開買付けへの応募ではなく自己株式取得による全保有株の売却2024年キリンHDファンケルをTOBで子会社化少数株主の持分取得による完全子会社化と、グループへの一体化2022年日立建機日立製作所の保有株売却伊藤忠・日本産業パートナーズ連合の出資と米州販売への支援確保2022年日立製作所日立金属株式の譲渡上場子会社群の売却と親子上場構造の解体2022年光通信シック・HDの完全子会社化上場子会社を完全子会社化してグループに取り込む資本政策2021年キユーピーキユーソー流通システムの連結除外株式2%の売却による物流事業の分離と、食品事業への資源の集中2021年ENEOS HDNIPPO談合と親子上場の解消舗装子会社の非公開化とゴールドマン・サックスとの共同保有2020年J.フロント リテイリングパルコを完全子会社化公開買付けと株式売渡請求による、親子上場という状態の解消2020年日立化成昭和電工がTOBで買収1株4,630円の公開買付けへの賛同と、東証1部上場の廃止2020年ソニーフィナンシャルHDを完全子会社化3,967億円を投じた公開買付けによる上場子会社の取り込み2020年昭和飛行機工業ベインキャピタル傘下入り三井E&Sホールディングス保有株の売却と、公開買付けを経た上場廃止2020年伊藤忠商事ファミリーマートの非公開化対象会社の応募推奨を得ずに進めた、親子上場の解消と経営の一体化2020年NTTNTTドコモの完全子会社化完全子会社化による親子上場の解消2019年三菱ケミカルG田辺三菱製薬の完全子会社化4,918億円で上場子会社の少数株主持分を取得した、親子上場の解消2019年アルプスアルパインオアシスと合併比率対立株式交換による2社の経営統合の押し切りと、条件をめぐる攻防2018年博報堂DYHDDACの完全子会社化D.A.コンソーシアムホールディングスの公開買付けによる完全子会社化2018年りそなHD関西みらいFG設立関西みらいフィナンシャルグループの創設と完全子会社化による関西リテール基盤の集約2018年オリックス大京をTOBで買収マンション大手・大京のTOBによる完全子会社化2016年ダイハツ工業トヨタの完全子会社化株式交換による上場廃止と、独立した資本の放棄2014年日本瓦斯東日本ガスなど4社を株式交換都市ガス子会社4社を株式交換で完全子会社化しグループの意思決定を一本化2013年東急不動産HD東急リバブル等三社を非公開化持株会社体制への移行と、東急コミュニティーを含む三社の一斉上場廃止2013年ダイエーイオンの完全子会社化独立した上場企業としての歴史の終わりと、上場廃止の受け入れ2013年イオンダイエーの完全子会社化完全子会社化が示した流通の世代交代2011年大東建託ハウスコムの単独上場賃貸仲介子会社の単独上場と、14年後の親子上場の解消2011年三井住友FGプロミスの完全子会社化銀行が消費者金融を全面的に抱えた再編2011年千葉銀行ちばぎん証券を完全子会社化株式交換による証券子会社の取り込みと、証券業務の内製化2010年ビックカメラソフマップの子会社化時間をかけた段階的な取り込みと、完全子会社化への到達2009年日立製作所社会イノベーション事業への集中製造業最大の赤字を受けて上場子会社を取り込み、主力事業に集中した再建2007年カルピス味の素の完全子会社化上場の放棄と引き換えにした、筆頭株主との経営の一体化2007年三菱ケミカルG三菱樹脂の完全子会社化株式交換による取り込みと、機能商品の持株会社直下への集約2006年SBIHDイー・トレードの集約傘下のネット証券と対面証券の一社への統合と、上場子会社の解消2006年阪急阪神HD阪神電気鉄道を完全子会社化TOBと株式交換による経営統合と、阪急阪神ホールディングスへの商号変更2005年セブン&アイHDセブン&アイHDを設立3社共同株式移転による持株会社化と親子上場の解消2005年フジ・メディアHDニッポン放送の完全子会社化ライブドア・パートナーズの買収と、逆立ちした資本関係の解消2005年スクウェア・エニックスHDタイトーの完全子会社化株式公開買付けによる完全取得と「100%保有戦略」の始動2002年ジャパンエナジー日鉱金属と持株会社設立共同持株会社・新日鉱ホールディングスの傘下入りと、自社株式の上場廃止2000年デクセリアルズソニーの完全子会社化株式交換による東証二部からの上場廃止