味の素の完全子会社化(2007年・カルピスの決断)

更新:
論点上場を捨てて筆頭株主と一体になるか
カルピス:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
上場の放棄と引き換えにした、筆頭株主との経営の一体化2007年6月11日、カルピスと味の素はそれぞれの取締役会で、株式交換によりカルピスを味の素の完全子会社とすることを決め、同日に契約を締結した。カルピスの社長は、味の素の代表取締役専務執行役員から2005年3月に転じた石渡總平氏である。交換比率はカルピス株1株に味の素株0.95株で、効力発生日は10月1日とした。

何をなぜ決めたか:上場の放棄と引き換えにした、筆頭株主との経営の一体化

概要

2007年6月11日、カルピスと味の素はそれぞれの取締役会で、株式交換によりカルピスを味の素の完全子会社とすることを決め、同日に契約を締結した。カルピスの社長は、味の素の代表取締役専務執行役員から2005年3月に転じた石渡總平氏である。交換比率はカルピス株1株に味の素株0.95株で、効力発生日は10月1日とした。

完全子会社化は上場の終わりを伴った。カルピス株は9月25日に上場を廃止し、8月29日の臨時株主総会で契約の承認を得る段取りを組んだ。カルピスは独立の株式会社として残り、味の素グループの飲料事業の中核に置かれ、当面は経営陣も変えないとした。

背景

両社の関係は、株式交換の時点で長い歴史を持っていた。味の素は1990年にカルピスの筆頭株主となり、同年10月からは酒類を除くカルピス製品の国内の総発売元を務めてきた。飲料事業の統合のほか、タイとインドネシアでは飲料の合弁を組み、2006年には「乳酸菌×アミノ酸」の共同プロジェクトも始めていた。

決める前の2006年12月期、味の素の持株比率は24.98%で、2位の国分株式会社(4.34%)を大きく上回った。業績が悪化していたわけではない。連結売上高は120,445百万円、当期純利益は4,726百万円で、自己資本比率は58.0%だった。同年9月にはチルド飲料の製造・販売をやめ、カルピス味の素ダノンとの契約を終えている。

内容

味の素が保有する19,672,750株には新株を割り当てず、残りの株主にだけ0.95株ずつ交付した。交付する株のうち150万株までは味の素の自己株式を充て、超える分は新株を発行した。比率は、味の素がJPモルガン証券、カルピスがドイツ証券にそれぞれ算定を頼み、交渉で決めた。味の素は簡易株式交換とし、株主総会を開かなかった。

掲げたシナジーは6項目である。健康機能性飲料・食品の共同開発、アジアを中心とした海外事業、乳酸菌とアミノ酸の研究開発、カルピスブランドの食品分野への展開、既存事業の強化、営業・物流・調達・管理部門の経費削減を並べた。早期の実現に向け、両社の取締役と幹部によるシナジー検討委員会を設置した。

含意

子会社となった後、生産と販売の組み替えが続いた。2007年12月にアサヒ飲料と自動販売機事業を統合する会社を共同で設け、2008年6月までに相模工場の生産を群馬工場などへ移して東西各1拠点にした。味の素では、カルピスを連結した2008年3月期に売上高が85億円増加し、営業利益は5億円減少した。

一体化は5年で終わった。2012年1月にアサヒグループホールディングスから譲渡の提案を受けた味の素は、5月の取締役会で全株式の売却を決め、10月1日にカルピスはアサヒグループに移った。2009年6月には、社員の家族が統合の未公表情報で株を買った疑いについて、証券取引等監視委員会の調査に協力すると公表している。

いつ何が起きたか12件
考察:総発売元の次に残った一手
考察

考察:総発売元の次に残った一手

なぜカルピスは上場の廃止を選んだのか。業績が悪かったわけではない。2006年12月期の連結当期純利益は4,726百万円で、自己資本比率も58.0%あった。理由は、すでに販売の入口を味の素に預けていたことにあると思われる。1990年から製品の総発売元は味の素で、社長も味の素から来ていた。販売と経営の両方で味の素に寄りかかりながら、資本だけは24.98%の持分にとどめていた。完全子会社化は、実態に資本を合わせる手続きだった。

もっとも、資本を合わせることは、カルピスの行き先を味の素の判断に委ねることでもあった。上場を続けていれば、少数株主が残り、会社の売却には市場の目が届く。完全子会社になれば、親会社は取締役会の決議だけで株を売却できる。掲げた6項目のシナジーは、味の素が飲料を持ち続けることを前提にしていた。その前提が崩れたとき、カルピスに選択の余地は残らない。一体化の利点と、行き先を自ら決められない弱さは、同じ契約の両面だった。

結果は5年で出た。単体の経常利益は2012年3月期に6,122百万円と、上場最後の2006年12月期の4,873百万円を上回った。収益の面では、統合は効いたといえる。しかし味の素は2012年5月、コア事業への集中を理由に全株式をアサヒGHDへ譲渡すると決めた。味の素の飲料事業の中核として一体化する狙いは、5年で途切れた。この完全子会社化は、収益を立て直した点では成功し、味の素との一体化を続ける点では失敗した、部分的な成功である。

Yutaka Sugiura, 2026年10月
数字で見る1表

数字で見る

図と表

カルピス:カルピス(単体)の売上高と経常利益の推移

売上高(百万円)経常利益率(%)

単体の経常利益は2012年3月期に6,122百万円と、上場最後の期の1.3倍になった

カルピス:カルピス(単体)の売上高と経常利益の推移
(百万円)売上高経常利益備考
2002年12月期113,1503,871
2003年12月期110,9643,440
2004年12月期111,1014,758
2005年12月期110,4144,536
2006年12月期107,8414,873
2009年3月期112,1722,594
2010年3月期105,6263,263
2011年3月期110,6694,775
2012年3月期107,4036,1225月に味の素がアサヒGHDへの全株式の譲渡を決議
出所:カルピス 有価証券報告書 第60期(2006年12月期)【主要な経営指標等の推移】(提出会社の経営指標等) / カルピス 第63期〜第66期 決算公告(2009年6月〜2012年6月)
出所:カルピス 有価証券報告書 第60期(2006年12月期)【主要な経営指標等の推移】(提出会社の経営指標等) / カルピス 第63期〜第66期 決算公告(2009年6月〜2012年6月)
参考文献

参考文献

参考
  • カルピス 有価証券報告書 第60期(2006年12月期)【役員の状況】
  • カルピス 中間決算短信(2007年12月期)【利益配分に関する基本方針及び当期の配当】
  • カルピス 有価証券報告書 第60期(2006年12月期)【経営上の重要な契約等】
  • カルピス 有価証券報告書 第60期(2006年12月期)【大株主の状況】
  • カルピス 有価証券報告書 第60期(2006年12月期)【主要な経営指標等の推移】
  • 味の素 有価証券報告書 第130期(2008年3月期)【経営上の重要な契約等】
  • アサヒ飲料「カルピス経営史 6 アサヒ飲料との経営統合へ」(2022年)
  • アサヒ飲料「カルピス経営史 5 創立90周年と味の素との経営統合」(2022年)
  • 味の素 有価証券報告書 第130期(2008年3月期)【財政状態及び経営成績の分析】
  • 味の素 有価証券報告書 第130期(2008年3月期)【沿革】
  • カルピス 有価証券報告書 第60期(2006年12月期)【主要な経営指標等の推移】(提出会社の経営指標等)
  • カルピス 第63期〜第66期 決算公告(2009年6月〜2012年6月)
  • 味の素・カルピス 適時開示「味の素株式会社の株式交換によるカルピス株式会社の完全子会社化に関するお知らせ」
  • カルピス 適時開示「自己株式の消却に関するお知らせ」
  • カルピス 決算短信「平成19年12月期 中間決算短信」
  • カルピス ニュースリリース「本日の一部報道について」
  • カルピス 決算公告「第63期〜第66期 決算公告(2009年3月期〜2012年3月期)」
  • カルピス 有価証券報告書「第60期(2006年12月期)【主要な経営指標等の推移】【経営上の重要な契約等】【大株主の状況】【役員の状況】」
  • 味の素 有価証券報告書「第130期(2008年3月期)【沿革】【経営上の重要な契約等】【財政状態及び経営成績の分析】」
  • 味の素 有価証券報告書「第134期(2012年3月期)【重要な後発事象】」
  • アサヒグループホールディングス 有価証券報告書「第89期(2012年12月期)【企業結合等関係】」
  • アサヒ飲料 社史「カルピス経営史 5 創立90周年と味の素との経営統合/6 アサヒ飲料との経営統合へ(2022年)」

次に読む決断

免責事項およびポリシー