味の素飲料事業部の統合(1991年・カルピスの決断)

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論点単独での再建か味の素との提携か
自力での多角化に代わる、販売の委託と飲料事業の規模の拡大カルピス食品工業は1991年2月1日付で、味の素から飲料事業部を引き受けた。前年の1990年8月に味の素と開発・生産・販売にわたる業務提携契約を締結し、10月からは酒類を除く製品の総発売元を味の素が務めていた。この年に味の素はカルピスの筆頭株主となっている。

何をなぜ決めたか:自力での多角化に代わる、販売の委託と飲料事業の規模の拡大

概要

カルピス食品工業は1991年2月1日付で、味の素から飲料事業部を引き受けた。前年の1990年8月に味の素と開発・生産・販売にわたる業務提携契約を締結し、10月からは酒類を除く製品の総発売元を味の素が務めていた。この年に味の素はカルピスの筆頭株主となっている。

提携と組で経営陣も入れ替わった。味の素の専務だった稲森俊介氏が1990年10月に顧問として経営全般の指揮を執り、1991年3月に社長に就任した。統合の初年度、カルピスは両社の飲料の販売体制を刷新し、コンク飲料とギフトを1つの事業部に、ストレート飲料を独立した事業部にまとめた。

背景

提携の前、カルピスは自力の多角化に行き詰まっていた。1987年を初年度とする中期経営計画「ACT'92」の多角化は手詰まりとなり、天候不順や消費税の導入も重なって、1988年から3期続けて営業赤字を計上した。1988年12月期は営業損益8億円の赤字、経常利益は前期比90.6%減の2億円となる見通しとなり、福井高行社長は11月に社長を退任して顧問となり、塩川義人氏を後任に指名した。

市場では再編が進んでいた。果汁の輸入自由化が決まり、ビール4社が清涼飲料に本格的に参入し、大塚製薬とネッスル日本も提携した。主力の「カルピス」は量販店で集客用の安売り商品にされ、希望小売価格440円の商品が250円から260円台で売られていた。

内容

統合で扱う飲料は両社合わせて180品目に増加し、カルピスはこれを売れ筋と戦略商品に絞り込んだ。重点に定めたのは、栄養・機能性飲料、「カルピスソーダ」などの乳性飲料、「エビアン」などの健康・自然志向の飲料、新しいブランドのコーヒーの4分野である。両社の自動販売機6万台は、10万台体制へ広げる方針とした。

統合と同じ2月に発売した「カルピスウォーター」は、想定の400万ケースを6月末に超え、8月末には1,000万ケースに達した。稲森俊介氏は4月に生産設備の増強と物流センターの建設を決め、6月には東京カナダドライの買収で売り先を増やした。

含意

統合の年に業績は持ち直した。売上高は1,000億円規模となり、前年まで赤字だった営業損益は黒字に転じた。1991年の単体営業利益は15億8,600万円で、2004年には44億6,800万円と約3倍になった。1992年1月には約30億円を投じて相模工場の生産能力を年1,500万ケースへ3倍に広げた。

提携はその後も深まった。1992年11月には味の素・ダノンと合弁でカルピス味の素ダノンを設け、タイとインドネシアでも味の素と飲料の合弁を組んだ。この関係は2007年の株式交換で、カルピスが味の素の完全子会社となるところまで進んだ。

いつ何が起きたか12件
考察:自力の多角化から規模の飲料へ
考察

考察:自力の多角化から規模の飲料へ

なぜカルピスは、自力の再建ではなく味の素との提携を選んだのか。1980年代を通じて「脱カルピス」の多角化を続けたが、1988年から3期続けて営業赤字となった。ビール4社が清涼飲料に参入し、業界は大手への集約が進んでいた。単独で品目を増やしても、販売網と自販機の数で大手に並ぶのは難しい。味の素の販売網と飲料事業を一度に得ることが、規模の差を埋める最短の道だったと考えられる。

もっとも、規模を得る代わりに、カルピスは販売の入口と経営の主導権を味の素に預けた。総発売元は味の素となり、社長には味の素の専務だった稲森俊介氏が就任した。味の素は筆頭株主にもなっている。販売と経営と資本の三つが同時に味の素へ寄ったことで、カルピスが独立した会社として飲料の方針を決める余地は狭まった。再建の速さと、経営の独立性は、同じ提携の両面だった。提携は、自力で立ち直る時間がもう無いという判断の表れでもあった。

提携から30年以上がたち、結果は明らかである。統合の年に営業損益は黒字に転じ、単体営業利益は1991年の15億8,600万円から2004年に44億6,800万円へと約3倍になった。「カルピスウォーター」の成功と相模工場の増強が、飲料の規模を支えた。一方で提携は2007年の完全子会社化へ進み、カルピスは独立の上場会社ではなくなった。味の素との統合は、業績の再建では成功し、独立した会社として存続する選択肢を閉じた決断だった。

Yutaka Sugiura, 2026年10月
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図と表

カルピス:カルピス食品工業(単体)の営業利益

カルピス:カルピス食品工業(単体)の営業利益
(百万円)営業利益備考
1991年12月期1,5862月に味の素の飲料事業部を統合。営業黒字に転換
出所:アサヒ飲料「カルピス経営史 3・5」(2022年) / 日経ビジネス 1988年12月19日号 p108-112
出所:アサヒ飲料「カルピス経営史 3・5」(2022年) / 日経ビジネス 1988年12月19日号 p108-112
参考文献

参考文献

参考
  • 総合食品 1991年4月号「味の素飲料事業部との統合初年度 カルピス食品工業に聞く今年の販売政策」
  • アサヒ飲料「カルピス経営史 3 味の素との業務提携と「カルピスウォーター」のヒット」(2022年)
  • 日経ビジネス 1991年8月19日号 p80-81
  • 日経ビジネス 1988年12月19日号 p108-112
  • アサヒ飲料「カルピス経営史 5 創立90周年と味の素との経営統合」(2022年)
  • アサヒ飲料「カルピス経営史 3・5」(2022年)
  • 味の素・カルピス 適時開示「味の素株式会社の株式交換によるカルピス株式会社の完全子会社化に関するお知らせ」
  • カルピス 有価証券報告書「第60期(2006年12月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 味の素 有価証券報告書「第130期(2008年3月期)【沿革】」
  • アサヒ飲料 社史「カルピス経営史 3 味の素との業務提携と「カルピスウォーター」のヒット/5 創立90周年と味の素との経営統合(2022年)」

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