MWH機軸の積極M&A(2025年・大林組の決断)

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論点 北米を軸に買収攻勢へ転換するか
売上高(億円)営業利益率(%)
佐藤俊美体制の始動と、北米を軸に据えた買収攻勢への転換

佐藤俊美体制の始動と、北米を軸に据えた買収攻勢への転換

概要

2025年4月1日、大林組は通算14年の海外勤務を経て本社財務部長・本社経営企画室長を歴任した佐藤俊美氏を代表取締役社長兼CEOに据えた。2023年12月には米国の水処理関連施設建設会社MWHを取得原価21,307百万円で子会社化しており、就任後もデータセンター建設のGCON、豪州・英国・カナダのMultiplexと海外の同業を相次いで取り込んでいる。国内でのM&Aの具体像は本稿の時点で示されていない。

背景

米国の水関連インフラ建設市場は景気動向の影響を大きく受けにくく、都市部の人口増加やインフラ老朽化を背景とした公共投資の増加が予測されている。大林組は北米建設事業の発展に寄与する有望安定市場として従前より本格参入を目指し、2023年11月6日の取締役会で、100%出資の米国現地法人・大林USAを通じたMWH株式の取得を決議した。佐藤俊美氏は2011年1月から海外支店北米統括事務所副所長を務めている。

内容

2024年12月23日の取締役会で社長交代を決議し、2025年4月1日付で蓮輪賢治氏から佐藤俊美氏へ引き継いだ。交代の理由には、中期経営計画2022追補で定めた「国内建設事業を中核とし、それ以外の事業が国内建設と同等以上の業績を創出」への取り組みを加速することを挙げている。就任直後の決算説明会では、本社にM&Aを検討するチームを立ち上げ、北米事業の次のグランドデザイン策定とオセアニアでのM&A検討を進める方針を示した。

含意

会社自身がM&A戦略上の課題として挙げるのは、買収先の実際の持ち主がファンドである大型案件では、支払った買収額がそのままのれんとして計上されるという点である。MWHの場合、のれんは10,927百万円にのぼり、10年間で均等に償却される。海外建設の売上高は2015年3月期の3,935億円から2025年3月期の7,574億円へと伸び、MWHを加えた海外土木も2,586億円と前期比2.2倍に達した。焦点は、こうして買い集めた企業群をひとつにまとめ、利益に結び付けられるかどうかに移る。

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筆者の見解 買収の巧者から統合の巧者になれるか
筆者の見解

買収の巧者から統合の巧者になれるか

MWHを売り渡したのはOaktreeのファンドがつくった投資ビークルで、取得原価21,307百万円のうち半分近い10,927百万円がのれんだった。買収先の実際の持ち主がファンドである大型案件では払った額がそのままのれんに計上されることを、会社自身もM&A戦略の課題に挙げている。北米駐在ののち本社財務部長と本社経営企画室長を務めた人物を社長に起用したのは、現場の施工力ではなく買収価格の値決めを担わせる布陣であり、買った会社の中身より「誰から、いくらで買ったか」を経営の中心に置く人事だったのだろう。

もっとも、数字はすでに動いている。海外土木の売上高は2025年3月期に2,586億円と前期の2.2倍になり、前期の3,782百万円の損失から8,277百万円の利益へ転じた。一方でMWHののれんは10年間の均等償却で、当期償却額1,317百万円が毎期の利益を削り続ける。同じ期に国内建築では別の子会社ののれん3,050百万円を減損しており、買収の巧拙は買った直後ではなく数年後の減損の有無に出る。GCONとMultiplexを続けて取り込む体制が、その検算に耐えるかはこれからである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

数字で見る 3表
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 MWH(MWH US Acquisitions, Inc.) 米国コロラド州。水処理関連施設のプレコンストラクション、CM及び設計・施工
取得の法的形式 現金を対価とする株式の取得 100%出資の米国現地法人・大林USAが取得。同社は130百万米ドルを増資
取締役会決議日 2023年11月6日 契約締結日は11月10日、株式取得実行日は12月31日を予定していた
企業結合日 2023年12月15日 みなし取得日は12月31日。第120期は貸借対照表のみを連結している
取得した議決権比率 90.4% 結合直前の所有比率は0%。公表時の予定は90%だった
取得原価 21,307百万円 対価は全額現金。公表時の予定額は126百万米ドル(約188億円)
取得関連費用 495百万円 アドバイザリー費用等。公表時の概算額は4百万米ドル(約6億円)
受け入れた資産 35,629百万円 流動資産30,687百万円、固定資産4,941百万円
引き受けた負債 28,664百万円 流動負債26,619百万円、固定負債2,044百万円
のれん 10,927百万円 取得時の暫定額は15,011百万円。第121期の確定で4,084百万円減った
のれんの償却 10年間の均等償却 発生原因は今後の事業展開によって期待される将来の超過収益力
通期換算した売上高 98,345百万円 期首に結合したと仮定した場合の概算額
通期換算した営業利益 2,312百万円 同じ概算で親会社株主に帰属する当期純利益は2,292百万円
株式の取得先 MWH Intermediate Holdings, L.P. Oaktree Power Opportunities Fund V, L.P.が組成した投資ビークル
結合の理由 米国の水関連インフラ市場への本格参入 景気動向の影響を受けにくい安定市場で、公共投資の増加が予測されている

出所:大林組 有価証券報告書 第120期(2024年3月期)・第121期(2025年3月期)【企業結合等関係】 / 大林組「米国建設会社「MWH社」の子会社化に関するお知らせ」(2023年11月6日)

海外建設事業の売上高とセグメント利益の推移

大林組:海外建設事業の売上高とセグメント利益の推移

(百万円) 海外土木 売上高海外土木 利益海外建築 売上高海外建築 利益 備考
2019年3月期 58,8701,967408,7156,746
2020年3月期 72,2154,216398,56410,773
2021年3月期 72,004△210304,3883,445 海外建築が減収。海外土木は210百万円の損失
2022年3月期 89,6352,052298,818818
2023年3月期 103,9213,451343,8944,992
2024年3月期 115,396△3,782457,81812,759 みなし取得日が12月31日のため、MWHの業績はこの期に含まれない
2025年3月期 258,6788,277498,77713,299 MWHの通期寄与で海外土木が2.2倍。従業員は1,242名から1,378名へ
2026年3月期 336,00015,238507,99211,415 海外土木は増収増益で利益率4.5%へ。海外建築は増収ながら減益。従業員は1,378名から1,601名へ
海外土木 売上高(百万円)海外建築 売上高(百万円)海外土木 利益率(%)

出所:大林組 有価証券報告書 第115期〜第122期(セグメント情報、外部顧客への売上高及びセグメント利益)

のれんと無形固定資産の推移

大林組:のれんと無形固定資産の推移

(百万円) のれん無形固定資産総資産 備考
2019年3月期 1374,9972,214,512 のれんは連結貸借対照表に区分掲記されず、セグメント注記の未償却残高
2020年3月期 06,3672,230,297 償却が終わり、のれんの未償却残高は無くなった
2021年3月期 7116,4372,272,628
2022年3月期 1,2378,6482,422,085
2023年3月期 5,03617,9322,609,929 2023年2月にサイプレス・スナダヤと資本提携し連結子会社化した
2024年3月期 15,89638,5373,019,118 うちMWH分は海外土木の10,927百万円。第121期の確定処理を反映した額
2025年3月期 13,00737,1163,042,778 海外土木は11,853百万円へ。国内建築で子会社ののれん3,050を減損
2026年3月期 23,00363,1113,143,449 のれんが9,996百万円増えた
のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)

出所:大林組 有価証券報告書 第115期〜第122期(連結貸借対照表、報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報)

参考文献

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