佐藤俊美体制の始動と北米MWH機軸の積極M&A戦略

2025年進行中

縮む国内建設を超えられるか——海外・非建設の拡大で描く売上高1兆円構想

更新:

時期 2025年4月
意思決定者 佐藤俊美 社長兼CEO
論点 M&A戦略による海外・非建設事業の拡大
概要
2025年4月、大林組は財務・経営企画畑を歩み北米駐在経験を持つ佐藤俊美氏を9代目社長兼CEOに据え、2023年に取り込んだ米MWH社を軸とする積極的なM&A戦略を本格化させた。就任後もデータセンター建設のGCON社、豪州のマルチプレックス社と海外買収を重ね、連結売上高1兆円構想を掲げるが、実現の時期や国内M&Aの具体像は本稿の時点で定まっていない。
背景
2007年度から2014年度にかけて国内建設投資が40兆円台で低迷したのを受け、大林組は海外建設事業や新領域事業での多角化を志向し、2018年就任の蓮輪賢治社長のもとで四つの収益事業体制やデータセンター参入を進めた。2023年11月には北米の水インフラ建設会社MWHを約188億円で買収し、後に社長となる佐藤俊美氏自身の北米での人脈が実を結んだ案件となった。
内容
2024年12月に次期社長人事が発表され、2025年4月1日、佐藤俊美氏は創業家以外では初となる事務系出身の社長兼CEOに就任した。本社にM&A検討チームを設置し、北米事業のグランドデザイン策定やオセアニアでのM&A検討を掲げるとともに、自己資本1兆円水準の維持と1,000億円の自己株式取得を財務面の方針として示した。
含意
就任後、2025年10月に米データセンター建設のGCON社、2026年6月に豪州・英国・カナダで展開するマルチプレックス社を相次いで買収し、海外建設売上高は10年で倍増した。佐藤氏は「1兆円規模まで拡大できる」と語り、国内M&Aの可能性にも言及しており、本稿の時点で、買収した企業群を統合し利益へ結び付けられるかがこの先の焦点となる。
筆者の見解

買収の巧者から統合の巧者になれるか

佐藤俊美体制の積極M&A戦略の核心は、財務・経営企画・北米駐在という佐藤氏自身のキャリアが、そのままM&A巧者としての社長就任理由になった点にあるとみることができる。技術系・創業家出身の経営者が主流だったゼネコンにあって、事務系出身の社長が現場感覚ではなく資本の目利きで海外の同業を選び取っていく手法は、建設業の経営者像そのものの転換を映しているといえる。MWHとの縁を自ら語り、GCON・マルチプレックスへと畳みかける展開は、個人の人脈と組織の戦略が重なった珍しい例とみられる。

もっとも、連結売上高1兆円という数字は、あくまで市場が堅調に推移した場合の見立てにとどまり、買収を重ねるほどのれんや統合コストの負担も膨らむ。国内でのM&Aへの言及も、具体像を伴わない段階のままである。海外・非建設への急速な拡大が、大林組という一世紀を超える建設会社の輪郭をどこまで変えるのかは、買収した企業群を実際に統合し利益に結び付けられるかという、これから数年の実行力にかかっているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

縮む国内建設、多角化路線への転換

大林組は1892年の創業以来、建設を祖業としてきたが、2007年度から2014年度にかけて国内の建設投資額は40兆円台で伸び悩んだ。市場の頭打ちを見据え、同社は縮小する国内建設事業を海外建設事業で補完する路線を強めていった。2018年に就任した蓮輪賢治社長は、建築・土木の2本柱に加えて開発・新領域を含む四つの収益事業を掲げ、再生可能エネルギーや都市開発への多角化を進めた[1]

2018年7月、蓮輪社長は建築・土木の2本柱に加え、開発・新領域の四つの収益事業を伸ばしていく方針を示し、木質バイオマスや洋上風力といった再生可能エネルギー発電事業へも参入した。2024年11月には新会社ミタサンを設立し、都心のビルを改修してデータセンターとして提供する都市型データセンター事業に参入すると発表し、10年間で1,000億円を投じる計画を示した。国内建設以外の収益源を積み上げる方針は、この時点で既に明確になっていた[2][3]

北米での布石——MWH買収と佐藤俊美氏の土地勘

海外多角化の中核となったのが、2023年11月に発表した米コロラド州の上下水道プラント建設会社MWHの買収であった。大林組は大林USAを通じ株式の9割を約188億円で取得し、同年12月31日付で連結子会社化した。米国の水インフラ市場は景気循環の影響を受けにくく、都市人口の増加や老朽インフラの更新で公共投資の伸びが見込まれる分野であり、大林組はMWHを足掛かりに上下水道関連建設事業を本格展開する体制を整えた[4]

この買収の背景には、後に社長となる佐藤俊美氏個人の北米体験があった。佐藤氏は2011年から海外支店北米統括事務所副所長として現地に駐在し、テキサス州オースティンの浄水処理施設建設工事でMWHと協業した経験を持つ。当時から目にかけていた会社だったと後に振り返っており、財務・経営企画を歩んだ事務系出身の副社長が、自らの人脈と土地勘を生かして温めてきた案件という色彩を帯びていた[5]

決断

佐藤俊美氏、9代目社長兼CEOに就任

大林組は2024年12月23日、佐藤俊美副社長を次期社長兼CEOとする人事を発表した。2025年4月1日付で7年間社長を務めた蓮輪賢治氏から交代し、佐藤氏は創業家出身者を除けば同社初となる事務系出身の社長となった。蓮輪氏は会見で「この2〜3年で適切な交代時期を見極めてきた」[6]とし、業績回復と資本効率を意識した経営への評価を踏まえて交代に踏み切ったと説明した。

蓮輪氏は佐藤氏について「全体を俯瞰しながらマネジメントできる人間だ」と評し、経営と技術的な見識は別物であるとの考えを示した。佐藤氏自身は就任にあたり「事業領域を広げていく」[7]と述べ、国内建設以外の事業で同等以上の業績を生み出す事業体制の構築を目標に掲げた。財務部長・経営企画室長を歴任し北米駐在も経験した佐藤氏の起用は、海外M&Aとポートフォリオ多様化を加速させる布石であった。

M&A検討チームの設置と次期中計への布石

2025年5月14日の2025年3月期決算説明会で、佐藤氏は社長就任後の方針として「本社には、M&Aについて検討を進めるチームを立ち上げており、戦略的かつ体系的な市場分析を踏まえた上でM&Aを実施していく」[8]と表明した。あわせて北米事業の次のグランドデザインの策定や、オセアニアでの買収検討を進める考えを示し、案件を個別に積み上げるのではなく、地域戦略に沿ってM&Aを体系化する構えを鮮明にした。

同じ決算説明会では、自己資本1兆円水準の維持と機動的な株主還元を財務面の方針として掲げ、当事業年度に588万株・約120億円の自己株式取得を実施したのに続き、2年間で1,000億円規模の取得を予定どおり進める考えを示した。M&Aによる非建設・海外事業の拡大と、強固な自己資本を背景にした株主還元の両立を図る方針が、佐藤体制の初期の柱として据えられた[9]

結果

GCON・マルチプレックスと続くM&A

佐藤体制は就任後、実際のM&Aを積み重ねた。2025年10月17日には、傘下の米建設会社ウェブコーを通じ、アリゾナ州を拠点にデータセンターや半導体工場建設で実績を持つGCON社とその関連2社の全株式を取得すると発表した。生成AIの普及で需要が拡大するデータセンター・半導体関連施設の建設分野への本格参入を狙った案件で、買収額は数百億円規模とみられる[10]

さらに2026年6月18日には、豪州・英国・カナダで建築事業を展開するマルチプレックス社を約860億円で完全子会社化すると発表した。マルチプレックスは1962年設立で高層ビルや病院、データセンター建設に強みを持ち、2025年12月期の連結売上高は38億1,300万米ドルに達する。大林組はこれまで北米・東南アジアを中心としてきた海外事業のエリアを、シドニー五輪スタジアムで協業した実績のある同社の取り込みによって豪州・英国へ広げる構えを示した[11]

1兆円構想の輪郭と国内M&Aへの含み

買収の効果は数字にも表れ、2025年3月期の連結海外建設売上高は7,574億円と、2015年3月期の3,935億円からほぼ倍増した。とりわけMWHの寄与が大きい海外土木売上高は前期比2.2倍の2,586億円に達した。2025年9月のインタビューで佐藤氏は「市場が堅調に推移すれば今の体制でも、1兆円規模まで拡大できると考えている」と述べ、海外・非建設の積み上げによる連結売上高1兆円構想を語った[12]

2025年12月16日には、佐藤氏が「国内でもM&Aの可能性はある」と述べたとする日本経済新聞のインタビューが報じられた。同時点で大林組は米国のデータセンター建設に強い建設会社の買収にも着手しており、海外での事業エリア拡大と並行して、国内建設市場でのシェア拡大にもM&Aを選択肢とする考えを示した。本稿の時点(2026年7月)で、売上高1兆円構想の実現時期や国内M&Aの具体的な対象は明らかになっていない[13]

出典・参考