福島IGCCの事業会社へ出資(2016年・三菱重工業の決断)2016年 | 三菱重工業の決断

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何をなぜ決めたか:設備の納入と発電を兼ね、商用初号機の損失を両面で負う立場への移行

概要
概要

2016年10月20日、三菱重工業は三菱商事など4社と連名で、福島県の勿来と広野に54万kWの石炭ガス化複合発電(IGCC)を1基ずつ建設・運用する事業会社2社の設立を公表した。同社は両社の40%を出資し、同じ年度に発電設備も受注している。当時の社長は宮永俊一氏である。掲げた目的は福島復興で、設備の売り手が発電事業者を兼ねた。

この兼務により、損失の経路は2本になった。建設側では、試運転中の不適合の補修費と納期遅延の追加コストを、2021年2月公表の2020年度第3四半期決算で引き当てた。発電側では、稼働率の低下で生じた事業会社の損失を、2025年2月公表の2024年度第3四半期決算で持分法損失200億円として計上した。どちらの損失も同じプラントの不具合から生じる。

背景
背景

三菱重工業は出資の前から、この案件の設計に関わっていた。2014年9月にIGCCの設計業務を受注し、2015年8月19日に5社で基本合意を結んで、2020年代初頭の運転開始に向けた検討を始めた。2016年3月期の研究開発では、商用化が期待される500〜600MW級IGCCの信頼性と経済性の向上を課題に挙げている。出資の理由を同社の言葉で説明した記述は、公表資料に見当たらない。

同じ時期、三菱重工業は別の初物で損失を重ねていた。基本設計から手がけるプロトタイプの客船建造で2016年3月期に103,911百万円を繰り入れ、2016年10月に大型客船事業からの事実上の撤退を表明する。2017年3月期の連結売上高は3兆9,140億円、親会社株主に帰属する当期純利益は877億円だった。重工大手のIHIは2013年1月に造船子会社を合併させ、持分法適用関連会社へ移行していた。

内容
内容

総事業費は両地点で3,000億円を超え、資金は5社の出資とプロジェクトファイナンスで調達した。事業会社は資本金1億円の合同会社で、三菱商事パワーと三菱重工業が40%ずつを持ち、代表社員は三菱商事パワーが務めた。残りの持分は、勿来が三菱電機10%・東京電力HD5%・常磐共同火力5%、広野が三菱電機10%・東京電力HD10%である。運転開始の予定は勿来が2020年9月、広野が2021年9月だった。

設備は空気吹きのガス化炉とガスタービンを組み合わせ、送電端の熱効率は約48%、二酸化炭素の排出量は同規模の従来型より約15%少ない。地元には建設最盛期に1日最大2,000人規模の雇用と、1基あたり総額800億円の経済波及効果を見込んだ。この設備を含む2017年3月期のエネルギー・環境セグメントの受注高は1兆6,887億円である。ガス化技術については、のちに他社の追従が難しい競争力と説明している。

沿革:意思決定前後の出来事12件
考察:止められない初号機を自ら持つ
考察

考察:止められない初号機を自ら持つ

これは、新技術の初号機を売るメーカーが、買い手の事業リスクをどこまで負うかという問いへの答えである。三菱重工業は納入者と出資者を兼ね、建設と発電の両方で損失を負う型を選んだ。公表資料に出資の理由を語る記述は無く、掲げた目的は福島復興に限られる。54万kWの初号機では、メーカーが自ら損益を負わなければ事業会社の座組みが成り立たなかったとみられる。発電所を動かす点では目的を達した。しかし2026年度第2四半期に連結で700億円の損失を追加した時点で、収支の面では失敗である。

同じ社の初物と比べると、この選択の重さが分かる。三菱重工業はプロトタイプの客船で2016年3月期に103,911百万円を繰り入れ、2016年10月に大型客船事業からの撤退を表明し、2023年2月にSpaceJetの開発を中止した。どちらも止める判断ができた。IGCCは止められない。事業の持分と38,842百万円の信用保証があり、発電所の運営が続くからである。2024年12月の買取は、撤退とは逆の方向へ進む決断だった。

同業のIHIは2013年1月に造船子会社を合併させ、持分法適用関連会社へ移行した。祖業の損益を連結から切り離す動きである。三菱重工業は逆に、新規の事業で40%を持ち、90.8%・91.8%まで積み増した。違いの理由は技術の扱いにある。同社はガス化技術を、他社の追従が難しい競争力と位置づけた。ただし9割超を持っても合弁契約により持分法のままであり、持分の増加に見合う支配は得ていない。競争力の検証を損益で引き受けた結果が、675億円の引当である。

Yutaka Sugiura, 2026年11月

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数値:意思決定前後の事業数値3件

三菱重工業:開示されたIGCCの費用

IGCCの費用(億円)
(億円)IGCCの費用
2022年3月期400
2027年3月期700

金額を開示した期だけで2022年3月期400億円、2027年3月期700億円

三菱重工業:開示されたIGCCの費用
(億円)IGCCの費用備考
2022年3月期400通期で400億円弱。うち第2四半期が150億円
2027年3月期700上期の連結の一時費用。個別の製品保証費用は675億円
出所:三菱重工業 2021年度決算説明会 質疑応答(2022年5月12日) / 三菱重工業 2022年度決算説明会 質疑応答(2023年5月10日) / 三菱重工業 決算説明会資料 2024年度第3四半期(2025年2月4日) / 三菱重工業 決算説明会資料 2026年度第2四半期(2026年11月6日)
出所:三菱重工業 2021年度決算説明会 質疑応答(2022年5月12日) / 三菱重工業 2022年度決算説明会 質疑応答(2023年5月10日) / 三菱重工業 決算説明会資料 2024年度第3四半期(2025年2月4日) / 三菱重工業 決算説明会資料 2026年度第2四半期(2026年11月6日)

三菱重工業:発電事業会社2社への持分法投資

投資の帳簿価額(百万円)
(百万円)投資の帳簿価額三菱重工業持分の包括利益両社の売上収益
2024年3月期29,308△3,53365,353
2025年3月期64,171△17,25261,434
2026年3月期68,0433,87196,673

買取で帳簿価額は29,308百万円から64,171百万円へ増加

三菱重工業:発電事業会社2社への持分法投資
(百万円)投資の帳簿価額三菱重工業持分の包括利益両社の売上収益備考
2024年3月期29,308△3,53365,353持分は両社とも40%
2025年3月期64,171△17,25261,4342024年12月に持分を90.8%・91.8%へ引き上げ
2026年3月期68,0433,87196,673信用保証は38,842
出所:三菱重工業 有価証券報告書 第206期(2025年3月期)【連結財務諸表注記】 / 三菱重工業 有価証券報告書 第207期(2026年3月期)【連結財務諸表注記】
出所:三菱重工業 有価証券報告書 第206期(2025年3月期)【連結財務諸表注記】 / 三菱重工業 有価証券報告書 第207期(2026年3月期)【連結財務諸表注記】

三菱重工業:全社の売上と当期利益

売上高・売上収益(百万円)当期利益率(%)
(百万円)売上高・売上収益親会社に帰属する当期利益
2012年3月期2,820,93224,540
2013年3月期2,817,89397,330
2014年3月期3,349,598160,428
2015年3月期3,992,110110,412
2016年3月期4,046,81063,834
2017年3月期3,914,01887,720
2018年3月期4,085,679△7,320
2019年3月期4,078,344110,271
2020年3月期4,041,37687,123
2021年3月期3,699,94640,639
2022年3月期3,860,283113,541
三菱重工業:全社の売上と当期利益
(百万円)売上高・売上収益親会社に帰属する当期利益備考
2012年3月期2,820,93224,540日本基準
2013年3月期2,817,89397,330日本基準
2014年3月期3,349,598160,428日本基準
2015年3月期3,992,110110,412日本基準
2016年3月期4,046,81063,834日本基準
2017年3月期3,914,01887,720日本基準。事業会社2社に出資し、発電設備を受注
2018年3月期4,085,679△7,320IFRS。ここから基準が変わる
2019年3月期4,078,344110,271IFRS
2020年3月期4,041,37687,123IFRS
2021年3月期3,699,94640,639IFRS。IGCCの不適合で引当
2022年3月期3,860,283113,541IFRS。IGCCの費用は400億円弱
出所:三菱重工業 有価証券報告書 第197期(2016年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 三菱重工業 有価証券報告書 第198期(2017年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 三菱重工業 有価証券報告書 第203期(2022年3月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:三菱重工業 有価証券報告書 第197期(2016年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 三菱重工業 有価証券報告書 第198期(2017年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / 三菱重工業 有価証券報告書 第203期(2022年3月期)【主要な経営指標等の推移】
参考文献

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