三菱日立パワー合弁を解消(2019年・三菱重工業の決断)

更新:
論点 損失負担の係争下で合弁を続けるか
三菱重工業:業績の推移
売上高(億円)税引前利益率(%)
火力発電事業の合弁からの離脱と、単独運営への切り替え

何をなぜ決めたか:火力発電事業の合弁からの離脱と、単独運営への切り替え

概要

2014年に三菱重工65%・日立35%の出資で発足した三菱日立パワーシステムズ(MHPS)から日立が退き、2020年9月1日に三菱重工の完全子会社となった。議決権所有割合は65.0%から100%へ上がり、同じ日にMHPSは三菱パワー株式会社へ商号を変更している。日立の持分が動いた直接の理由は、統合の一環で引き継いだ南アフリカのボイラ建設プロジェクトの損失負担をめぐる係争であった。

背景

統合の一環として、南アフリカ共和国で日立の子会社が2007年に受注したMedupi及びKusile両火力発電所向けボイラ建設プロジェクトの資産・負債と契約上の地位を、三菱重工側の子会社が譲り受けた。譲渡契約では、分割効力発生日時点に遡って工程と収支見積りを精緻化し、最終譲渡価格と暫定価格の差額を調整すると合意していた。

この差額——譲渡価格調整金等——の支払いが決着せず、2017年7月31日、三菱重工は約90,779百万南アフリカランド(1ランド=8.53円換算で約7,743億円)の支払義務の履行を求め、日本商事仲裁協会に仲裁を申し立てた。

内容

2019年12月18日の和解で日立が負ったのは、MHPS株式35%の全部を引き渡すことと、現金2,000億円を2020年3月に支払うことである。三菱重工の側は、日立が持つMHPSアフリカへの債権700億円を同額で譲り受け、株式譲渡と支払いの完了後に仲裁事件の請求を取り下げ、南アプロジェクトの承継に関して日立に対して有するその他の債権を放棄する。株式譲渡には複数の国の独占禁止法当局の認可が要るため、両社は仲裁手続の停止を共同で申し立てた。

含意

和解契約の締結によりMHPSの全経済持分を取得したため、2020年3月期に日立の持分257,425百万円を非支配持分から減らし、連結上の簿価とMHPS株式の公正価値との差額150,374百万円を資本剰余金等から減額した。これで重要性のある非支配持分を持つ子会社はなくなった。日立から受け取る残りは南アフリカプロジェクトに係る補償資産4,078億円として立ち、株式が移転した2020年9月1日に全額回収されている。

いつ何が起きたか 6件
当時の取締役 11名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

考察:条件面の溝が合弁を解く
考察

考察:条件面の溝が合弁を解く

MHPSの解消は、シナジーや市場シェアといった統合の"成果"よりも、引き継いだ過去の損失をどちらがどこまで負うのかという"条件面"が、合弁の存続を左右しうることを示している。分割効力発生日に遡って工程と収支見積りを精緻化し、最終譲渡価格と暫定価格の差額を調整する——譲渡契約に置かれたこの一文が、約7,743億円の支払いを求める仲裁申立てにまで膨らんだ。発足時に仕掛かり案件のリスク分担を詰め切らないまま統合に踏み切れば、想定を超える損失が顕在化したとき、親会社同士の利害は鋭く対立する。合弁という枠組みの強さは、好調期ではなく、想定外の損失に直面したときに試されるのだろう。

同時にこの解消は、火力発電という事業そのものの潮目の変化を映してもいる。脱炭素の潮流が強まるなか、日立は株式35%と現金2,000億円を手放して火力から身を引き、三菱重工は火力を一手に引き受ける側に回った。2021年10月には三菱パワーの火力発電システム事業等を吸収分割で本体へ取り込み、水素やアンモニアへの転換を自らの事業として抱えている。同じ事業を分け持った2社が、係争を契機に正反対の方向へ歩み出したともいえる。成立した統合であっても、引き継いだリスクと事業環境の変化次第では数年で解消に転じうる——統合の成否は、その後の経営環境と当事者の戦略観によって絶えず問い直される。

数字で見る 3表

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図と表

三菱重工業:日立持分の解消と非支配持分の推移

非支配持分(百万円)
三菱重工業:日立持分の解消と非支配持分の推移
(百万円) 非支配持分 備考
2018年3月期 298,327
2019年3月期 317,943 MHPSの非支配持分の累積額は257,286で、持分の割合は32.41%
2020年3月期 71,732 和解契約の締結で日立のMHPS持分257,425を非支配持分から減額した
2021年3月期 73,047 9月1日に日立所有株式が移転。減額は前期に済んでおり非支配持分の変動はない
2022年3月期 85,918
2023年3月期 93,010
2024年3月期 116,034
2025年3月期 123,121
出所:三菱重工業 有価証券報告書 第200〜206期(連結財政状態計算書)
出所:三菱重工業 有価証券報告書 第200〜206期(連結財政状態計算書)

三菱重工業:パワー・エナジー部門の売上収益とセグメント利益

パワー・エナジー部門 売上収益(百万円)パワー・エナジー部門 セグメント利益率(%)
三菱重工業:パワー・エナジー部門の売上収益とセグメント利益
(百万円) パワー・エナジー部門 売上収益パワー・エナジー部門 セグメント利益 備考
2018年3月期 1,465,130108,980 この期からパワーが報告セグメントとなる
2019年3月期 1,514,804132,897
2020年3月期 1,579,397144,383 期中の2019年12月18日に和解が成立
2021年3月期 1,533,380127,699 この期からエナジーへ区分を改称。プラント・インフラ等を分けている
2022年3月期 1,643,37486,268
2023年3月期 1,731,44485,160
2024年3月期 1,752,569141,570 翌期の有報では前期欄が1,714,615・149,865へ組み替えられている
2025年3月期 1,803,878205,356
出所:三菱重工業 有価証券報告書 第199〜206期(セグメント情報。各期の当期欄で統一)
出所:三菱重工業 有価証券報告書 第199〜206期(セグメント情報。各期の当期欄で統一)

和解と持分移転の条件

和解と持分移転の条件
科目 概要 備考
仲裁の申立て 2017年7月31日 日本商事仲裁協会へ。南ア資産譲渡の譲渡価格調整金等の支払義務の履行を求めた
請求した金額 約90,779百万南アフリカランド 1ランド=8.53円換算で約7,743億円
和解の成立 2019年12月18日 最終譲渡価格と暫定価格の差額の支払いをめぐる係争が決着した
日立が引き渡す株式 MHPS株式の35%すべて 両社が持分を有する火力発電システムを主体とする事業会社の日立所有株式
日立が支払う現金 2,000億円 2020年3月に支払う
当社が譲り受ける債権 700億円 日立が有するMHPSアフリカに対する債権を、2020年3月に同額で譲り受ける
当社が取り下げるもの 仲裁事件の請求 支払いと株式譲渡の完了後速やかに。南アPJ承継に関するその他の債権も放棄する
株式譲渡の前提 複数の国の独占禁止法当局の認可 認可取得が必要なため、両社は仲裁手続の停止を共同で申し立てた
非支配持分の減額 257,425百万円 和解契約締結時点(2019年12月)の日立のMHPSに対する持分の連結上の簿価
資本剰余金等からの減額 150,374百万円 日立持分の連結上の簿価とMHPS株式の公正価値との差額
補償資産の残高 4,078億円 2020年3月期末。日立から受け取った2,000億円を差し引いた額
株式移転の完了 2020年9月1日 議決権所有割合は65.0%から100%へ。補償資産4,078億円は全額回収された
商号の変更 三菱パワー株式会社 2020年9月1日付でMHPSから変更。2021年10月に火力事業を当社本体へ吸収分割
出所:三菱重工業 有価証券報告書 第201期(2020年3月期)・第202期(2021年3月期)(南アフリカプロジェクトに係る補償資産/子会社/重要な訴訟事件等)
出所:三菱重工業 有価証券報告書 第201期(2020年3月期)・第202期(2021年3月期)(南アフリカプロジェクトに係る補償資産/子会社/重要な訴訟事件等)
当時の取締役 11名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 三菱重工業 ニュースリリース「三菱日立パワーシステムズのグループ会社について 国内9社、海外49社、計58社のグループが発足」
  • 日立製作所 ニュースリリース「MHPSの南アフリカプロジェクトに関する協議状況について」
  • 日立製作所 ニュースリリース「MHPSの南アフリカプロジェクトに係る和解ならびに個別決算における特別損失および連結決算におけるその他の費用の計上に関するお知らせ」
  • 三菱重工業 ニュースリリース「三菱日立パワーシステムズ(MHPS)が「三菱パワー」へ社名を変更」
  • 三菱重工業 有価証券報告書「第201期(2020年3月期)【南アフリカプロジェクトに係る補償資産】【子会社】【重要な訴訟事件等】」
  • 三菱重工業 有価証券報告書「第202期(2021年3月期)【南アフリカプロジェクトに係る補償資産】【子会社】【重要な後発事象】」

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