IHIジャパンマリンユナイテッド発足:造船子会社をユニバーサル造船と合併させ、祖業を持分法適用会社へ移した選択

更新:

時期 2012年1月
当時の社長 釡和明
論点 分社した造船事業の規模と、連結に抱え続けるかどうか
概要

2012年1月30日、IHIは連結子会社のIHIマリンユナイテッドを、JFEホールディングス傘下のユニバーサル造船と合併させる統合基本合意書を締結した。同年8月27日にJFEホールディングスとの間で最終的に合意し、2013年1月1日、ユニバーサル造船を存続会社とする合併でジャパン マリンユナイテッドが発足した。IHIの持株比率は45.93%で、2002年に本体から切り出した祖業の造船は、連結子会社から持分法適用関連会社へ退いた。

背景

分社してからの10年で、造船の規模は伸び悩んでいた。船舶・海洋セグメントの外部顧客に対する売上高は2010年3月期の2,121億円を山に、2012年3月期は1,696億円へ減少している。営業利益も2011年3月期の110億円から79億円へ細った。統合の理由に挙げたのは、両社の設計能力を結集した開発力の強化と、造船所の特性を最大限に活かした最適生産体制の追求である。単独の造船所を抱えたままでは、新造商船で総合力業界トップの地位には届かなかった。

内容

方式はユニバーサル造船を存続会社とする合併で、両社は対等の精神に基づいて統合を行なうものとした。統合新会社の商号はジャパン マリンユナイテッド、資本金250億円、本店は東京都港区芝。会長にIHIマリンユナイテッド社長の蔵原成実氏、社長にユニバーサル造船社長の三島愼次郎氏が就任した。持株比率はIHIとJFEホールディングスが各45.93%、日立造船が8.15%。両社の事業所と工場はすべて引き継ぎ、従業員も効力発生日現在の陣容をそのまま承継した。

含意

連結の外へ出た代わりに、2013年3月期の特別利益へ持分変動利益118億円が立ち、当期純利益は333億円へ伸びた。同じ期の連結損益計算書にはIHIマリンユナイテッドの9か月分として売上高1,151億円が残り、翌期から船舶・海洋は報告セグメントごと姿を消す。

統合新会社は2016年3月期に売上高3,327億円まで伸ばしたが、2018年3月期には当期純損失698億円を出し、純資産は1,349億円から655億円へ半減した。2020年3月末の今治造船との資本業務提携に伴う第三者割当増資で、IHIの議決権所有割合は35.0%まで下がっている。

筆者の見解

連結の外へ出した造船

この統合が決めたのは造船の規模ではなく、造船とIHIの距離であった。対等の精神という言葉どおり、持株比率はJFEホールディングスと同じ45.93%で、どちらも過半を持たない。過半を握らないということは、造船所の統廃合も設備投資の順番も、IHIが単独では決められないということである。2002年の分社でいったん本体の外へ出した祖業を、今度は連結の外へ出す。持分変動利益118億円はその対価として立った会計上の数字にすぎず、実質は、造船の浮き沈みを損益計算書の一行に畳み込む取り替えであったとみられる。

もっとも、畳み込んだ一行はその後も静かではなかった。統合新会社の売上高は2016年3月期に3,327億円まで伸びたが、2018年3月期には当期純損失698億円を出し、純資産は1,349億円から655億円へ減少している。持分法であっても損失は取り込まれ、IHIは出資者割当増資の引き受けで支え直した。造船の技術者を持たない会社が造船会社の株主として何を担えるのか、という問いは、今治造船との提携で議決権が35.0%へ下がり、さらに20%まで引く方針が示された現在も、答えが出きってはいない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経営統合の条件

科目 概要 備考
結合企業 ユニバーサル造船 JFEホールディングス傘下。船舶の設計・製造・販売及び修繕、浮体式石油貯蔵施設等の鋼構造物
被結合企業 IHIマリンユナイテッド 2012年12月31日までIHIの連結子会社。船舶・艦艇・海洋浮体・舶用機器等の設計、製造、修繕
統合基本合意書の締結日 2012年1月30日 この時点の効力発生日は2012年10月1日の予定で、割当ての内容は最終契約書で決めるとした
最終合意日 2012年8月27日 IHIとJFEホールディングスが最終的に合意し、両当事会社間で合併契約を締結した
企業結合日 2013年1月1日 関係当局の認可及び両当事会社の株主総会の承認を条件としていた
法的形式を含む取引の概要 ユニバーサル造船を存続会社とする合併 両社は対等の精神に基づいて経営統合を行なうものとした
統合新会社の商号 ジャパン マリンユナイテッド 英文名Japan Marine United Corporation。本店は東京都港区芝五丁目、決算期は3月31日
統合新会社の資本金 25,000百万円 2021年3月期の関係会社の状況では67,500百万円まで増えている
統合新会社の純資産 131,718百万円 2013年1月1日現在。総資産は323,441百万円
統合新会社の代表者 代表取締役社長 三島愼次郎氏 会長は蔵原成実氏(IHIマリンユナイテッド前社長)、代表取締役に太田垣由夫氏
IHIの持株比率 45.93% JFEホールディングス45.93%、日立造船8.15%。四捨五入のため合計は100%を超える
会計上の取扱い 持分法適用関連会社 IHIマリンユナイテッド及びその子会社3社が連結子会社に該当しなくなった
会計処理の根拠 事業分離等に関する会計基準 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針に基づいて処理した
持分変動利益 11,848百万円 IHIマリンユナイテッドへの投資に係る持分変動利益。2013年3月期の特別利益に計上
連結に取り込んだ損益 売上高115,177百万円 2013年3月期の連結損益計算書に計上したIHIマリンユナイテッド分。営業損益は6,535百万円

出所:株式会社IHI 有価証券報告書 第195期(2012年3月期)【重要な後発事象】【経営上の重要な契約等】・第196期(2013年3月期)【企業結合等関係】

IHI:船舶・海洋セグメントの売上高と営業利益

(百万円) 売上高営業利益 備考
2008年3月期 159,5692,411 事業の種類別セグメントの船舶・海洋事業。外部顧客に対する売上高
2009年3月期 178,6582,869
2010年3月期 212,1001,094
2011年3月期 185,91910,996 報告セグメントへ区分を改めた初年度。外部顧客への売上高で、区分の定義が前期までと異なる
2012年3月期 169,6137,932 IHIマリンユナイテッドを連結子会社として通期で含んだ最後の期
2013年3月期 1月1日の統合で船舶・海洋は報告セグメントから消えた。連結に残る9か月は売上高115,177
2014年3月期 持分法適用となり、報告セグメントは社会基盤・海洋へ再編された
2015年3月期
2016年3月期
2017年3月期
2018年3月期
船舶・海洋セグメントの売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:株式会社IHI 有価証券報告書 第191〜195期(2008年3月期〜2012年3月期)【セグメント情報】

IHI:ジャパン マリンユナイテッドの業績と純資産

(百万円) 売上高当期純利益純資産 備考
2008年3月期 統合前。IHIマリンユナイテッドはIHIの連結子会社
2009年3月期
2010年3月期
2011年3月期
2012年3月期
2013年3月期 71,8433,885136,935 発足した1月1日から3月31日までの3か月。1月1日現在の純資産は131,718
2014年3月期 270,8976,574143,564 統合後で最初の通期
2015年3月期 283,7125,786146,140
2016年3月期 332,7491,134145,408 売上高は統合後の最高。当期純利益は11億円まで縮んだ
2017年3月期 303,927△9,560134,973
2018年3月期 286,107△69,81065,477 建造工程の混乱で多額の損失を計上し、純資産は前期の半分以下へ
ジャパン マリンユナイテッドの売上高と当期純利益率
売上高(百万円)当期純利益率(%)

出所:株式会社IHI 有価証券報告書 第197〜201期(2014年3月期〜2018年3月期)【関連会社の要約財務諸表】

同じ問いに直面した会社

祖業の売却2002年ABCマート祖業である卸売を畳んでの小売専業への一本化と、業態そのものの転換主力事業の転換と法人再編
2002年カナデビア祖業・造船の分社化と環境企業への転身事業構造の転換
2001年住友電工創業以来の高圧電力ケーブルを日立電線との折半会社へ移した祖業の切り出し祖業である高圧・特別高圧電力ケーブルの抱え方
2000年日本ゼオン水島工場での塩化ビニル生産の打ち切りによる祖業からの撤退祖業・塩化ビニル事業の存廃
2015年東京電力ホールディングス燃料調達まで含めて中部電力との合弁へ委ねた発電資産の切り出し火力事業の担い手と燃料調達力
出典・参考
  • IHI 有価証券報告書「第195期(2012年3月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
  • IHI 有価証券報告書「第196期(2013年3月期)【企業結合等関係】」
  • IHI 有価証券報告書「第197〜201期(2014年3月期〜2018年3月期)【関連会社の要約財務諸表】」
  • IHI 有価証券報告書「第203期(2020年3月期)【対処すべき課題】【事業等のリスク】」
  • IHI 有価証券報告書「第204期(2021年3月期)【関係会社の状況】」
  • IHI 決算説明会資料「2025年度第2四半期決算説明会 質疑応答」

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