東京電力ホールディングス火力発電と燃料調達を中部電力との合弁JERAへ移し、自社の火力発電所を手放す

売上の大半を生んできた事業を他社との合弁へ出したとき、東京電力に何が残ったか

時期 2015年4月
意思決定者(推定) 東京電力 東京電力 経営陣・中部電力
論点 火力事業の担い手と燃料調達力
概要
2015年4月に燃料・火力発電、送配電、小売電気の3つの分割準備会社を設立し、同年10月には中部電力との合弁会社JERAが燃料輸送事業と燃料トレーディング事業を承継した。2016年7月に既存の燃料上流・調達事業と海外火力IPP事業、2019年4月には既存火力発電事業が移り、東京電力は自社の火力発電所を持たない電力会社になった。
背景
事故後の東京電力は総合特別事業計画のもとで賠償と廃炉の原資を捻出する立場にあり、数千億円規模の燃料調達交渉や海外投資を単独で賄う余力を欠いていた。2016年4月の持株会社化と発送電分離を控え、発電と小売を分けて競争にさらす設計が国の再建計画の柱に据えられたことも重なった。
内容
燃料・火力発電事業を段階的に切り出し、中部電力と折半出資するJERAへ移した。移管は燃料輸送・トレーディング(2015年10月)、燃料上流・調達と海外火力IPP(2016年7月)、燃料受入・貯蔵・送ガスと既存火力発電(2019年4月)の3段階で進み、火力の設備と燃料の調達機能がまとめて合弁側へ集まった。
含意
単独では届かない調達規模を、国内2社の統合で作り出す試みだった。JERAはLNGの取扱規模で世界最大の買い手となり、2030年度の純利益を2800億円と見込んだ。他方で東京電力の火力事業の損益は連結の持分を通じて入るようになり、自社で発電所を回して稼ぐ構造からは離れた。
筆者の見解

規模を外へ出すという選択

火力を手放す判断は、事業の不振によるものではなかった。火力は長く売上の大半を生んできた事業であり、切り出しの理由は収益性ではなく規模にある。数千億円規模の燃料調達交渉で海外のメジャーと渡り合うには、東京電力単独の購買量では足りない。国内2位の中部電力と束ねてはじめて世界最大の買い手になる、という算段が合弁の中身だった。垂直統合を前提としてきた電力会社が、規模の必要な機能だけを社外へ出して共同で持つ形へ移った点で、地域独占の時代の会社の形からは明確に離れている。

ただし規模を外へ出せば、損益も外へ出る。移管後のフュエル&パワーは従業員0名で売上高40億円未満のセグメントとなり、そこに1749億円の利益が立つ期もあれば30億円の損失が立つ期もある。自社で発電所を回して積み上げる利益ではなく、合弁の成績を持分で受け取る利益に変わったためである。同時に、調達コストの変動リスクは小売のエナジーパートナーへ寄った。FY22の3282億円の損失は、発電と小売を分けた設計が、価格変動をどこで受け止めるかまで決めていたことを示している。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

競争で稼ぐことを求められた再建計画

実質国有化のもとで東京電力に求められたのは、地域独占による利益確保ではなく競争のなかで稼ぐ力だった。新・総合特別事業計画は競争による収益力の強化を掲げ、その方策として発送電分離と発電・販売の分離が据えられた。2016年4月に持株会社および燃料・火力発電、送配電、小売の3子会社を新設し、業界に先駆けて発送電分離へ踏み切った。持株会社の下では東京電力フュエル&パワーと東京電力エナジーパートナーの間で電力取引契約が結ばれ、社内の部門間ではなく会社間の契約関係へ変わった[1][2]

燃料の調達では、中部電力が大阪ガスとともに進めていた米国テキサス州フリーポートのプロジェクトが合弁の土台にあった。狙いは調達先の多様化と価格形成の多様化の2つで、東南アジアや中東に偏っていた調達先に米国が加わり、原油連動ではないヘンリーハブ指標が入る。フリーポートからの購入には仕向地制限がなく、国内のLNG価格が相対的に高い場合は日本へ、差が小さい場合は他地域へ出荷できた。原油連動でない指標を導入することが重要だったと、JERAの垣見祐二社長は述べている[3][4]

決断

3段階に分けた移管

2015年4月、東京電力は燃料・火力発電、送配電、小売電気の3つの分割準備会社を設立した。同年6月に燃料輸送事業と燃料トレーディング事業を燃料・火力発電の準備会社へ継承させ、10月には中部電力との合弁会社JERAがこの両事業を吸収分割により承継した。2016年4月に東京電力ホールディングス株式会社へ商号を変更し、燃料・火力発電を東京電力フュエル&パワー、送配電を東京電力パワーグリッド、小売電気を東京電力エナジーパートナーへ承継させた[5][6]

移管はここで終わらなかった。2016年7月にはJERAが東京電力フュエル&パワーの既存燃料事業(上流・調達)と既存海外火力IPP事業を吸収分割により承継し、2019年4月には燃料受入・貯蔵・送ガス事業と既存火力発電事業等も承継した。これに伴い東電フュエルと東京臨海リサイクルパワーは関係会社から外れた。東京電力は自社の火力発電所を持たない電力会社となり、送配電・小売・原子力・再生可能エネルギーが手元に残った[7][8]

結果

世界最大の買い手と、残された事業

JERAは事業統合の当初からLNGの取扱規模で世界最大の買い手となり、2030年度の目標として国内外の発電事業を合わせた純利益2800億円を掲げた。取扱規模は2030年度も3000万〜4000万トンと大きく変わらないものの、長期契約が主体だった構成をスポット契約などを含む柔軟なものへ半分以上組み替える計画である。リスクを自社で負うFOB船の運行管理には東京電力のノウハウがあり、トレーディング機能と輸送船団を自前で持つ体制が柔軟な運用を支えた[9][10][11]

移管後のセグメントの姿は数字に表れた。FY22(2023年3月期)のフュエル&パワーは売上高39億円に対し30億円の損失、FY23(2024年3月期)は売上高38億円で1749億円の利益と、売上とは無関係に持分の損益が振れる構造になった。従業員数は0名である。一方で燃料価格の高騰を受けたFY22には、電力を市場やJERAから調達する小売のエナジーパートナーが3282億円の損失を計上し、調達コストの変動リスクは小売側に集まった[12][13]

出典・参考
  • 週刊東洋経済 2016年3月4日号「深層リポート 東京電力 再生の虚実 検証 震災5年、日本の電力[前編]」
  • 週刊東洋経済 2016年3月4日号「深層リポート 東京電力 再生の虚実 燃料・火力発電 巨大ビジネス狙うJERA(ジェラ)の野心」
  • 東京電力ホールディングス 有価証券報告書【沿革】
  • 東京電力ホールディングス 有価証券報告書(連結セグメント情報)
  • 東京電力ホールディングス 有価証券報告書【主要な経営指標等の推移】

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