常石造船へ株式譲渡(2021年・三井E&Sの決断)

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論点再生のため創業事業の造船を譲渡するか
三井E&S:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
造船事業からの撤退と、舶用エンジン・港湾クレーンへの集約

何をなぜ決めたか:造船事業からの撤退と、舶用エンジン・港湾クレーンへの集約

概要

2019年5月に策定した三井E&Sグループ事業再生計画のもと、2021年3月29日の取締役会で三井E&S造船の艦艇事業等を吸収分割で新会社へ承継したうえ、その全株式を三菱重工業へ譲渡することを決議した。

2021年10月1日、艦艇事業の譲渡と同時に、商船事業を主な事業とする三井E&S造船の株式49%を常石造船へ譲渡した。2022年10月3日には17%を追加譲渡して持分は34%となり、同社と新潟造船・MES由良ドックは連結の範囲から外れて持分法適用関連会社となった。

背景

インドネシア向け火力発電所土木建築工事で大規模な損失が連続して発生し、2019年3月期の営業損失は前期より638億95百万円悪化した。2020年3月期の営業損失は620億79百万円で、3期連続の営業損失となった。

2020年3月期末の純資産は1年で1,748億84百万円減少して1,053億55百万円、資産合計も1,587億20百万円減少して8,403億80百万円まで縮んだ。自己資本の回復と資金の確保が急務となり、2019年11月には資産売却や固定費削減を拡大・加速するかたちで事業再生計画を一部見直した。

内容

艦艇事業で移転した資産は17,861百万円、負債は15,286百万円で、譲渡価額は譲渡先との契約による守秘義務を理由に開示されていない。譲渡株式の連結上の帳簿価額と売却額との差額は関係会社株式売却益として特別利益に計上された。

商船事業の49%譲渡は連結の範囲の変更を伴わない一部譲渡として処理され、非支配株主との取引によって資本剰余金が890百万円減少した。艦艇事業の建造と修繕は譲渡後も玉野事業場で続く。

含意

船舶セグメントの売上高は2016年3月期の128,803百万円から2022年3月期の28,088百万円へ、セグメント資産は140,156百万円から15,071百万円へ縮んだ。2023年3月期には報告セグメントそのものが組み替えられ、舶用推進システム・物流システム・成長事業推進・周辺サービスの4つになった。

連結の営業損益は2020年3月期の620億79百万円の損失から2023年3月期には94億円の黒字へ転じ、1株当たり3円の復配に至った。残した舶用ディーゼル機関はMAN B&W機関とWinGD機関のダブルライセンス体制で、港湾クレーンとともに造船から派生した事業である。

いつ何が起きたか8件
当時の取締役6名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

  • 岡良一:社長
  • 松原圭吾:副社長
  • 田口昭一:CCO
  • 田中稔一:取締役
  • 松村竹実:CISO
  • 芳賀義雄:取締役
考察:残ったものを見て決めた撤退
考察

考察:残ったものを見て決めた撤退

巨額損失に追い込まれての切り売りという説明は、この撤退の半分しか捉えていない。艦艇事業で移転した資産は17,861百万円、商船の49%譲渡で動いた資本剰余金は890百万円にとどまり、いずれも財務を一気に立て直す規模の取引ではなかった。切る線は目先の資金繰りではなく、どの技術で稼ぐかで引かれていただろう。撤退したのは船体の建造で、残したのは舶用ディーゼル機関と港湾クレーンであった。いずれも造船から派生し、船をつくらなくても維持できる事業である。

もっとも、この整理を経営の目利きとだけ読むのは経緯から離れる。3期連続の営業損失を招いたのはエンジニアリング事業の海外発電土木工事であって、造船ではなかった。川崎重工業との統合が2013年に破談したあと単独での改革を選んだ会社が、それを実際に進めたのは純資産が1,053億55百万円まで減少してからであった。船舶セグメントの損益は2016年3月期以降ずっと赤字で、撤退を決める材料は早くから揃っていた。踏み切る条件は、多くの場合、外から与えられるものだといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

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図と表

三井E&S:船舶セグメントの推移

売上高(百万円)
三井E&S:船舶セグメントの推移
(百万円)売上高セグメント損益セグメント資産備考
2016年3月期128,803△18,678140,156
2017年3月期126,690△9,753159,911
2018年3月期112,472△15,228131,056
2019年3月期96,879△8,112109,077
2020年3月期115,111△2,859108,234インドネシア案件の損失はエンジニアリング事業に計上されている
2021年3月期60,082△1,91643,406千葉事業所での新造船事業を終え、艦艇事業の譲渡を決議した期
2022年3月期28,088△43815,07110月1日に艦艇事業を譲渡し、三井E&S造船株式の49%を売却した
出所:三井E&Sホールディングス・三井E&S 有価証券報告書 第114〜122期【セグメント情報】
出所:三井E&Sホールディングス・三井E&S 有価証券報告書 第114〜122期【セグメント情報】

三井E&S:有利子負債と総資産

三井E&S:有利子負債と総資産
(百万円)有利子負債合計総資産自己資本備考
2016年3月期158,7461,094,042235,008
2017年3月期162,5431,096,735250,606
2018年3月期142,3521,029,222239,377
2019年3月期115,555999,100159,751
2020年3月期93,689840,38064,553資産合計は1年で1,587億20百万円減少し、純資産は1,053億55百万円となった
2021年3月期108,816759,02964,308
2022年3月期114,272409,15057,216三井海洋開発の持分法適用関連会社化もあり、総資産が大きく縮んだ
2023年3月期127,172439,959106,5381株当たり3円の復配。2022年6月に第三者割当増資を実施した
2024年3月期160,602467,140142,099
2025年3月期91,683449,212169,851
2026年3月期86,489494,554229,105
出所:三井E&Sホールディングス・三井E&S 有価証券報告書 第114〜122期(連結貸借対照表)
出所:三井E&Sホールディングス・三井E&S 有価証券報告書 第114〜122期(連結貸借対照表)

事業分離の条件

事業分離の条件
科目概要備考
分離した事業の内容(艦艇)政府機関・在日駐留米軍の艦船等の設計、製作、建造、修理水上航走体・水中航走体に関する設計、エンジニアリング、建設・据付を含む
分離先企業(艦艇)三菱重工業株式会社承継した新会社は2021年10月1日付で三菱重工マリタイムシステムズへ商号変更
事業分離日(艦艇)2021年10月1日2021年3月29日の取締役会で決議し、同日付で株式譲渡契約を締結した
受取対価(艦艇)現金等の財産のみとする株式譲渡売却価額は譲渡先との契約による守秘義務を理由に開示されていない
移転した資産・負債(艦艇)資産17,861百万円/負債15,286百万円資産は流動16,529・固定1,332、負債は流動12,581・固定2,704
分離した事業に係る損益(艦艇)売上高13,231百万円/営業損失133百万円2022年3月期の連結損益計算書に計上された概算額
分離した事業の内容(商船)船舶及び関連機器・装置などの設計、製作、建造艦艇事業等を除く商船事業と、新潟造船・MES由良ドック・江蘇揚子三井造船
分離先企業(商船)常石造船株式会社2021年4月23日付で株式譲渡契約を締結した
譲渡した株式の比率(商船)49%2021年10月1日付。連結の範囲の変更を伴わない非支配株主への一部譲渡
資本剰余金の減少(商船49%譲渡)890百万円譲渡価額は株式譲渡契約で規定された条件に基づいて最終決定される
追加譲渡と分離後の持分17%を追加譲渡し、持分は34%2022年10月3日付。特定子会社から外れ、持分法適用関連会社となった
移転した資産・負債(追加譲渡)資産12,862百万円/負債8,089百万円資産は流動7,097・固定5,765、負債は流動7,723・固定366
分離した事業に係る損益(追加譲渡)売上高6,598百万円/営業利益85百万円2023年3月期の連結損益計算書に計上された概算額
分離した事業が含まれていた報告セグメント船舶艦艇・商船とも同じセグメントに属していた
出所:三井E&Sホールディングス 有価証券報告書 第119期(2022年3月期)【企業結合等関係】、三井E&S 有価証券報告書 第120期(2023年3月期)【企業結合等関係】
出所:三井E&Sホールディングス 有価証券報告書 第119期(2022年3月期)【企業結合等関係】、三井E&S 有価証券報告書 第120期(2023年3月期)【企業結合等関係】
当時の取締役6名

当時の取締役(2020年6月株主総会決議)

  • 岡良一:社長
  • 松原圭吾:副社長
  • 田口昭一:CCO
  • 田中稔一:取締役
  • 松村竹実:CISO
  • 芳賀義雄:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • 三井E&Sホールディングス 有価証券報告書「第117期(2020年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
  • 三井E&Sホールディングス 有価証券報告書「第118期(2021年3月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 三井E&Sホールディングス 有価証券報告書「第119期(2022年3月期)【企業結合等関係】」
  • 三井E&S 有価証券報告書「第120期(2023年3月期)【企業結合等関係】【配当政策】」
  • 三井E&S 有価証券報告書「第120期(2023年3月期)【セグメント情報】」

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