Jamieson Wellnessを買収(2026年・キリンHDの決断)

更新:
論点 北米のサプリメント市場へ買収で進出するか
キリンHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
カナダのサプリメント首位の全株取得と北米市場への進出

何をなぜ決めたか:カナダのサプリメント首位の全株取得と北米市場への進出

概要

2026年8月7日、キリンホールディングスが北米を中心にビタミン・ミネラル・サプリメント(VMS)を製造・販売するカナダのJamieson Wellness Inc.の発行済株式の100%を取得し、完全子会社とする手続きの開始を決めた経営判断。カナダ会社法に基づくPlan of Arrangementで全株主の株式を現金で取得する仕組みで、両社の取締役会の決議を経て同日にArrangement Agreementを結んだ。取得の対価は1,898百万カナダドル、異動は2026年10月以降を予定する。

背景

キリンは2019年にファンケルへ資本参加し、2023年8月に豪州のBlackmoresを、2024年9月にファンケルを子会社とした。ヘルスサイエンス事業は2025年12月期に売上収益2,514億円、事業利益111億円と黒字化を果たし、2026年にはKirin Health Science Internationalを設け、海外の事業を統合して運用する体制へ移った。

もっとも足場はアジア・オセアニアに偏り、2025年8月の決算説明会の質疑では 『ヘルスサイエンス事業において近年 M&A が続きバランスシートが膨れてきたため、その最適化を図る必要がある』 と、膨らんだ資産の最適化を課題に挙げていた。

内容

Jamieson Wellnessはトロントに本社を置き、カナダのサプリメント市場で高いブランド認知と市場シェア首位の地位を持つ。研究開発から製造・販売までを自社で担い、北米を中心に販売網を築いてきた。連結売上高は2023年12月期の676百万カナダドルから2025年12月期に822百万カナダドルへ伸び、営業利益は118百万カナダドル。製造子会社のJamieson Laboratoriesと米国事業を管理するJamieson Health Products USAも、資本金の規模からキリンの特定子会社となる。

含意

取得の狙いは、世界最大規模のサプリメント市場である北米に事業基盤を築くことにある。販売網の相互活用による展開地域と顧客接点の拡大、発酵・バイオテクノロジーに基づく高付加価値素材を使った商品展開、研究開発の強化、共同調達による効率化を見込む。2026年3月末のJamieson Wellnessの純資産は538百万カナダドル、総資産は1,200百万カナダドルで、対価はその純資産の3倍を超える。のれんと無形資産の額は、取得の完了と取得原価の配分を待って決まる。

いつ何が起きたか 6件
当時の取締役 12名

当時の取締役(2026年3月株主総会決議)

考察:膨らんだ帳簿に、もう一段を積む
考察

考察:膨らんだ帳簿に、もう一段を積む

キリンのヘルスサイエンスは、豪州と日本で買ったブランドをアジアへ広げる構図で組まれてきた。Jamiesonの取得は、その地図の外にある北米へ、カナダ首位のブランドと製造から販売までの機能をまとめて持ち込む判断だったと読める。発酵由来の素材を自前で持つ会社にとって、欲しかったのは素材を載せて売る棚と、その棚を握るブランドだったのだろう。営業利益率14%台を3期続けてきた相手を選んだのも、育てる時間ではなく、すでに回っている事業を買う意図の表れと思われる。

もっとも、のれんは2025年12月期で5,333億円と、2021年12月期の2倍に膨らんでいる。その1年前には、M&Aで膨れたバランスシートの最適化を自ら課題に挙げていた。対価1,898百万カナダドルは相手の純資産の3倍を超え、払う額の大半は再び、のれんとブランドとして帳簿に積み上がるはずである。事業の売却で身を軽くしながら次の買収を重ねるこの順序が投下資本の効率を上げるのかどうかは、取得原価の配分が出る2026年12月期以降の有報で問われることになる。

Yutaka Sugiura, 2026年10月
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図と表

キリンHD:Jamieson Wellnessの業績の推移

売上高(百万カナダドル)営業利益率(%)

2025年12月期の売上高は822百万カナダドル、営業利益率は14.4%

キリンHD:Jamieson Wellnessの業績の推移
(百万カナダドル) 売上高営業利益当期純利益 備考
2023年12月期 6769548 当期純利益は親会社株主に帰属する額
2024年12月期 73410652
2025年12月期 82211862
出所:キリンホールディングス 臨時報告書(2026年8月7日提出、取得対象子会社の最近3年間に終了した各事業年度の売上高・営業利益・純利益)
出所:キリンホールディングス 臨時報告書(2026年8月7日提出、取得対象子会社の最近3年間に終了した各事業年度の売上高・営業利益・純利益)

キリンHD:キャッシュ・フローの推移

営業CF(百万円)投資CF(百万円)財務CF(百万円)

2025年12月期の営業CFは2,954億円で、3期続けて投資CFが大きく出ている

キリンHD:キャッシュ・フローの推移
(百万円) 営業CF投資CF財務CF 備考
2021年12月期 219,303△56,408△180,463
2022年12月期 135,562△10,399△167,835
2023年12月期 203,206△226,09135,909 Blackmoresを8月に完全子会社化
2024年12月期 242,844△329,37558,125 ファンケルを9月に連結子会社化
2025年12月期 295,428△185,019△110,524
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第187期(2025年12月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第187期(2025年12月期)【主要な経営指標等の推移】

キリンHD:のれんと無形資産の推移

のれん(百万円)無形資産(百万円)

2025年12月期ののれんは5,333億円、親会社所有者帰属持分の約4割

キリンHD:のれんと無形資産の推移
(百万円) のれん無形資産親会社所有者帰属持分 備考
2021年12月期 264,225196,341894,179 無形資産はのれんを含まない額
2022年12月期 289,526200,900980,022
2023年12月期 390,568303,5401,132,581 Blackmoresを取得
2024年12月期 501,480659,5611,181,525 ファンケルを取得
2025年12月期 533,321694,6681,286,991
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第183期〜第187期(連結財政状態計算書、主要な経営指標等の推移)
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第183期〜第187期(連結財政状態計算書、主要な経営指標等の推移)

キリンHD:アメリカの売上収益の推移

アメリカ(百万円)

アメリカの売上収益は2025年12月期に6,575億円、全体の27%

キリンHD:アメリカの売上収益の推移
(百万円) アメリカ売上収益 備考
2021年12月期 318,2211,821,570 顧客の所在地で分けた売上収益
2022年12月期 459,3461,989,468
2023年12月期 539,0762,134,393
2024年12月期 631,0402,338,385
2025年12月期 657,4902,433,363
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第183期〜第187期(地域別に関する情報、売上収益)
出所:キリンホールディングス 有価証券報告書 第183期〜第187期(地域別に関する情報、売上収益)
当時の取締役 12名

当時の取締役(2026年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • キリンホールディングス 臨時報告書「臨時報告書(子会社取得の決定・特定子会社の異動)」
  • キリンホールディングス 決算説明会資料「2025年12月期第2四半期 投資家・アナリスト向け説明会 質疑録」
  • キリンホールディングス ファクトブック「ファクトブック 2026」
  • キリンホールディングス 有価証券報告書「第183期〜第187期(2021年12月期〜2025年12月期)」

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