塩野義製薬 米IntraBioを買収 希少神経疾患薬AQNEURSAの全権利と、エダラボンに続く米国希少疾患事業の拡張

更新:

時期 2026年10月
当時の社長 手代木功
論点 感染症に続く成長領域としての希少疾患事業の確立
何をなぜ決めたか
概要

2026年10月5日、塩野義製薬が取締役会で、米国グループ会社Shionogi Inc.による米IntraBio Inc.の買収契約の締結を決議した経営判断。発行済株式のすべてを取得し、株主へ20億米ドル(1米ドル157.78円換算で3,155億6,000万円)を支払う。実行は各国競争法の待機期間の満了と規制当局の承認を条件に、2026年11月から12月を予定する。

背景

塩野義は感染症以外の重点領域として希少疾患の強化に取り組み、2025年12月に田辺ファーマからALS治療薬エダラボンの日米を含むグローバルでの全権利を獲得する契約を結んだ。2026年4月に承継を終え、米国で販売するRadicava事業会社が従業員143名で事業を始めている。田辺ファーマによる米国のRadicavaの売上収益は、2025年3月期に944億9,100万円であった。

内容

IntraBioはテキサス州オースティンに本社を置く2015年設立のバイオ医薬品企業で、希少な神経変性疾患と遺伝性神経疾患の低分子医薬品に特化する。取得するのはAQNEURSA(一般名レバセチルロイシン)と関連化合物の知的財産・販売権を含むグローバルでの全権利で、同剤はニーマン・ピック病C型の神経学的症状の治療薬として欧米で承認され、2026年9月18日には毛細血管拡張性運動失調症(A-T)に対する世界初の治療薬として米FDAの承認を得た。

含意

IntraBioの2025年12月期の連結売上高は6,786万7,000米ドル、連結営業損益は3,529万2,000米ドルの損失で、連結純資産は1億4,454万9,000米ドルにとどまる。取得価額は純資産の約14倍にあたり、承認を得たばかりの適応拡大と希少疾患に精通した人材への値付けとなる。

塩野義はRadicavaで築いた米国の事業基盤でAQNEURSAを届け、脆弱X症候群・Jordan症候群・ポンペ病などの自社開発品の研究開発も加速させる構えで、2027年3月期の連結業績への影響は精査中としている。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

一品目の販売網に二品目めを載せる

この買収の芯は、AQNEURSAという薬そのものより、半年前に手に入れたRadicavaの販売網の使い道にあると思われる。ALSの治療薬1本で米国に立てた事業会社は、品目が増えなければ固定費を薄められず、後発品との特許係争という一品目ゆえの危うさも抱えたままになる。同じ神経内科の医師へ届く希少神経疾患の薬を足せば、143名の組織が1人あたりに扱う売上は厚くなる。エダラボンの承継から半年でIntraBioに手を伸ばしたのは、販売網を先に買い、そこへ載せる品を後から揃える順序を意図して踏んでいるとみられる。

もっとも、値付けの重さは隠せない。直近の年間売上高が7,000万米ドルに満たず営業赤字の会社に20億米ドルを払う以上、回収はA-Tという承認されたばかりの適応がどこまで伸びるかに懸かる。しかも2025年度から1年余りのうちに、JT医薬事業と鳥居薬品、エダラボン、そしてIntraBioと大型の取得が3件重なった。感染症で積み上げた手元資金を希少疾患へ振り向ける構図ははっきりしたが、その成否が数字に表れるのは、統合を終えた数期先のことになる。

Yutaka Sugiura, 2026年10月

業績の推移
のれんと無形資産の推移

塩野義製薬:のれんと無形資産の推移

(百万円) のれん無形資産総資産 備考
2022年3月期 9,63881,2231,150,601
2023年3月期 9,81996,3091,311,800
2024年3月期 15,287117,6211,416,918 2023年7月に米Qpex Biopharmaを買収
2025年3月期 15,748143,6521,535,349
2026年3月期 35,061173,5532,576,870 JT医薬事業等の取得でのれん23,060増、減損3,946。総資産はViiV持分法投資を含む
のれんと無形資産
のれん(百万円)無形資産(百万円)

出所:塩野義製薬 有価証券報告書 第158期〜第161期(連結財政状態計算書、連結財務諸表注記「のれん」)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考

免責事項およびポリシー