米サイエルをTOBで買収(2008年・塩野義製薬の決断)

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論点 米国の販売網を買収で得るか
塩野義製薬:業績の推移
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
完全子会社化によって獲得した初の本格的な米国販売基盤

何をなぜ決めたか:完全子会社化によって獲得した初の本格的な米国販売基盤

概要

企業結合日は同年10月9日、取得原価は14億4600万ドル、株式の取得価額は1,566億13百万円で、議決権の100%を現金で取得した。同年4月に社長へ就任した手代木功氏の主導による、初の本格的な米国事業基盤の獲得であった。

背景

塩野義は自社の海外販売網を持たず、主力の高脂血症薬クレストールを英アストラゼネカへ導出してライセンス料で稼ぐ構造にとどまっていた。そのクレストールが数年後に特許切れを控える一方、抗エイズ薬や肥満治療薬など新薬候補群が育ちつつあり、自前の販売網を築くべき時期に差しかかっていた。

内容

有価証券報告書は、サイエルの事業を医薬品の研究開発・販売と記す。企業結合が期首に完了していたと仮定した場合の2009年3月期への影響は、売上高404百万ドル・営業利益80百万ドルと概算された。連結に取り込んだのは2008年10月10日から12月31日までで、同期の北米売上高98億85百万円のうち92億12百万円がサイエルの分であった。

含意

クレストール1品目のみで欧米へ独自進出するリスクは大きすぎるとの認識が、既存の販売網ごと取り込むTOBという手段を選ばせた。買収したサイエルは2010年1月11日付でシオノギファーマ,INC.へ商号を変更したが、2013年3月期には米国事業の経営リソースの再配分を機にのれん263億71百万円と販売権等144億64百万円、合わせて408億35百万円の減損損失が計上された。

いつ何が起きたか 6件
考察:販売網を買収するという選択の意味
考察

考察:販売網を買収するという選択の意味

この決断の核心は、海外販売網という時間のかかる資産を、自前で積み上げる代わりに既存の会社ごと買って一挙に獲得した点にある。国内中堅の売上規模で米国の領域別営業組織をゼロから築くのは非現実的であり、社長就任直後の手代木氏は、1,566億円という大きな対価と引き換えに、動いている営業組織と販路を時間ごと取り込む道を選んだ。クレストール1品目での単独進出を避けるという守りの発想が、既存販売網の買収という攻めの手段に結びついた点に、この判断の設計がうかがえる。

その後の展開は、買収の意義が当初の想定どおりには進まないことも示している。2013年3月期には、抗HIV薬をめぐるViiV社との契約締結を機に米国事業の経営リソースの再配分が検討され、のれんと販売権等に408億35百万円の減損損失が計上された。取得時に積んだのれん796億円のうち、およそ3分の1がここで減少した計算になる。自社販売でトップラインを伸ばすという絵姿は、HIVロイヤリティを軸とする軽量な利益モデルの前に背景へ退き、サイエルを土台とする米国拠点は感染症特化戦略のなかで役割を定め直された。それでも、海外を導出頼みで通してきた会社が初めて自前の販売基盤を持った意味は小さくない。販売網を買うという選択が長い目でどう生きたかは、塩野義が感染症で世界と戦う体制を固めていく過程のなかで測られていくと推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

塩野義製薬:のれんと販売権、総資産の推移

のれん(百万円)販売権(百万円)
塩野義製薬:のれんと販売権、総資産の推移
(百万円) のれん販売権総資産 備考
2004年3月期 −−376,160 無形固定資産の内訳を掲げた連結貸借対照表は第141期以降しか手元にない
2005年3月期 162−396,998 当時の科目名は連結調整勘定。販売権の区分掲記はない
2006年3月期 0−427,682
2007年3月期 0−429,569 無形固定資産合計は6,135。のれんも販売権も区分掲記がない
2008年3月期 00413,703 無形固定資産合計は5,618。買収前は海外に販売会社を持たない
2009年3月期 71,62542,152501,852 連結開始時ののれん79,664から906を償却。総資産は1年で881億円増えた
2010年3月期 69,87440,719540,761
2011年3月期 58,83034,255523,242 円高による為替換算の影響を含む
2012年3月期 63,57236,663522,161
2013年3月期 40,29324,048574,882 のれん26,371と販売権等14,464を減損。特別損失は40,835
2014年3月期 42,87824,355580,566
出所:塩野義製薬 有価証券報告書 第141期〜第149期(連結貸借対照表、主要な経営指標等の推移)
出所:塩野義製薬 有価証券報告書 第141期〜第149期(連結貸借対照表、主要な経営指標等の推移)

塩野義製薬:北米の売上高と連結売上高

北米(百万円)
塩野義製薬:北米の売上高と連結売上高
(百万円) 北米連結売上高 備考
2004年3月期 −200,485 北米に販売会社を持たず、所在地別セグメントは日本・欧州・その他の3区分
2005年3月期 −199,364
2006年3月期 −196,388
2007年3月期 −199,759
2008年3月期 −214,268
2009年3月期 9,885227,511 10月10日からの分。うちサイエルが9,212。北米の営業損失は7,933
2010年3月期 38,642278,502 シオノギファーマ,INC.単体の売上高も38,642、経常利益は3,020
2011年3月期 34,246282,350 この期から顧客の所在地を基礎とする地域ごとの情報に変わる
2012年3月期 11,358267,275
2013年3月期 22,959282,903
2014年3月期 24,731289,717
出所:塩野義製薬 有価証券報告書 第143期〜第149期(所在地別セグメント情報、地域ごとの情報、主要な経営指標等の推移)
出所:塩野義製薬 有価証券報告書 第143期〜第149期(所在地別セグメント情報、地域ごとの情報、主要な経営指標等の推移)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業の名称 サイエルファーマ,INC. 米国ジョージア州アトランタ。事業の内容は医薬品の研究開発・販売
企業結合を行った主な理由 米国における販売体制の整備はもとより 米国でのプレゼンスを更に確立させ、自社開発品の価値を十分に実現し、長期的な成長をより確実にするため
企業結合日 2008年10月9日 連結損益に取り込んだのは2008年10月10日から12月31日までの期間
企業結合の法的形式 現金を対価とする株式取得 結合後企業の名称はサイエルファーマ,INC.のまま
取得した議決権比率 100% 2010年1月11日付でシオノギファーマ,INC.へ商号変更
取得原価 1,446百万米ドル 全額が現金による取得。株式の取得価額は156,613百万円
取得のための支出(純額) 146,766百万円 取得価額から同社の現金及び現金同等物9,846百万円を差し引いた額
受け入れた資産の額 1,534百万米ドル 流動資産270、固定資産1,264。引き受けた負債の額は185
のれんの金額 718百万米ドル 連結開始時の計上額は79,664百万円。20年間にわたる均等償却
無形固定資産(販売権)への配分 445百万米ドル 償却期間は3年から12年
仕掛研究開発費の費用処理 96百万米ドル 9,669百万円を2009年3月期の研究開発費として一括処理
通期換算の業績影響 売上高404百万米ドル 営業利益80百万米ドル、税金等調整前当期純利益73百万米ドル。監査証明は受けていない
買収資金 借入による調達 2009年3月期の財務活動によるキャッシュ・フローは1,052億93百万円のプラス
のれんの減損(2013年3月期) 26,371百万円 販売権等14,464百万円と合わせ40,835百万円を減損損失に計上
公開買付価格・買付期間 記載なし 第144期の【経営上の重要な契約等】は技術導入等のみで、買付条件を記さない
取得関連費用 記載なし 第144期・第145期の【企業結合等関係】に区分した開示はない
出所:塩野義製薬 有価証券報告書 第144期(2009年3月期)・第145期(2010年3月期)・第148期(2013年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【減損損失】
出所:塩野義製薬 有価証券報告書 第144期(2009年3月期)・第145期(2010年3月期)・第148期(2013年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】【減損損失】
参考文献

参考文献

参考
  • 塩野義製薬 有価証券報告書 第143期〜第149期(沿革・役員の状況・企業結合等関係・減損損失・セグメント情報)

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