上場企業の経営論点

財務体質の改善

高度成長期の日本企業は、自己資本が薄くても借入で拡大できた。主力銀行は土地と設備を担保に融資し、担保の価値が上がり続けるかぎり追加の借入も可能だった。財務体質の良し悪しは、自己資本の厚さより、担保の余力と銀行との関係で決まっていた。1954年に会社更生法で再建したブルドックソースは、更生債務を一掃した後に無借金を守る体質を定着させた。

1990年代に資産価格が下落すると、この構造は逆に働いた。担保と自己資本が同時に減少し、銀行も不良債権を抱えて新規融資を絞った。東急は総額2兆円の投資計画を改め、有利子負債の削減へ転じた。長谷工コーポレーションは不良資産1,850億円を一括で処理し、伊藤忠商事は約3,950億円の特別損失を計上した。損失を毎年少しずつ落とすのではなく、一度に計上して含み損を後年へ残さない処理が選ばれた。

自力で損失を吸収できない会社は、債権者と外部の出資者に負担を求めた。兼松は取引金融機関から1,550億円の債務免除を受け、日商岩井は8行から6000億円の融資枠を得て資産の圧縮を約した。りそなHDは預金保険法102条の初適用で1兆9600億円の公的資金を受け入れ、三洋電機は転換可能優先株式3,000億円の第三者割当増資で議決権のほぼ半分を譲り渡した。日本航空は会社更生手続で全株式を消却し、企業再生支援機構の出資3,500億円を受けて再上場した。反対に、大和ハウス工業は販売用不動産の売却と含み損の処理で有利子負債ゼロを達成している。

2010年代以降、資本の出し手は主力銀行から市場と事業会社へ移った。シャープは鴻海精密工業の出資を受け、自己資本比率を△2.7%から16.6%へ戻した。コロナ禍では、ANAHDが約3,321億円の公募増資を、JR西日本がJRグループ初の公募増資を実施した。ユニチカはREVICの出資を受けて繊維から撤退し、ジャパンディスプレイは茂原工場の譲渡で債務超過の解消を図った。いま財務体質の改善は、銀行との交渉ではなく、新株の発行と資産の売却を株主にどう説明するかで成否が分かれる。

財務諸表のどこを見るか

貸借対照表の純資産と自己資本比率、有利子負債(短期借入金・長期借入金・社債)の推移を見る。損益計算書の特別損失に減損損失や評価損が、特別利益に債務免除益や固定資産売却益が現れる。継続企業の前提に関する注記があれば、債務超過や資金繰りの懸念が記される。優先株式の発行は「株式等の状況」の発行済株式の種類で確かめる。

財務体質の改善の事例

2026年ジャパンディスプレイ茂原工場の新光電気工業への譲渡国内量産拠点の売却による債務超過の解消2024年ユニチカREVIC支援下の繊維撤退祖業の繊維から高分子への集中と、外部資本の受け入れと経営陣の交代2023年三井海洋開発商船三井と業務提携14.86%の株式を持たせて結んだオフショア事業での連携2021年ロイヤルHD双日との資本業務提携主要取引行4行を割当先とする優先株式による資本増強2021年西日本旅客鉄道コロナ禍での資本増強JRグループ初の公募増資2786億円と「鉄道一本足」からの構造転換2020年武田薬品工業大衆薬をブラックストーンへ売却創業以来の一般用医薬品事業を投資ファンドへ譲渡する選択2020年ANAHDコロナ禍の公募増資で再建過去最大級の資本調達と事業構造改革による自力再建の選択2019年曙ブレーキ工業事業再生ADRの申請560億円の債権放棄を前提とした国内外の生産拠点の縮小2018年東芝東芝メモリ(現キオクシア)分離最大の収益源であった半導体メモリ事業の切り出しと売却2016年シャープ鴻海精密工業傘下での再建経営体制の入れ替えと、構造改革による自己資本の立て直し2014年双日10年がかりの債務圧縮有利子負債1兆5000億円の圧縮と旧二社の組織融合という10年の再建2012年オリンパスソニーとの資本業務提携大手からの資本の受け入れと、医療分野での合弁の立ち上げ2012年東京電力HD原子力損害賠償支援機構が出資1兆円の公的資金の受け入れと、議決権の過半の政府への移転2010年日本航空会社更生法による再建株式の消却と債務削減、京セラ創業者の下での部門別採算への転換2010年U-NEXT HOLDINGSインテリジェンスの譲渡米KKR系ファンドへの売却で区切りをつけた連続子会社譲渡2008年さくらインターネット双日への第三者割当増資商社を引受先に迎えて資本を入れ直すことによる債務超過の解消2006年三洋電機ゴールドマンら3,000億円増資転換可能優先株式3,000億円の第三者割当増資と、議決権のほぼ半分の譲り渡し2004年双日航空機ファイナンス損失処理総額2500億円に及ぶ一括処理と、手を付けてこなかった事業への切り込み2004年三菱自動車ダイムラー撤退後の自主再建三菱グループ各社の支援を軸とした自主再建体制への移行2003年りそなHD公的資金1.96兆円受入預金保険法102条の初適用と細谷英二会長のもとでのリテール再建2003年東京センチュリー東証二部上場設立から34年を経ての株式公開と、市場からの資金調達への道筋づくり2003年光通信OA機器販売への転換社債償還危機下の有利子負債圧縮と収益源の入れ替え2002年JVCケンウッド債務超過を脱する再建策債務超過に陥ったケンウッドの再建と業務用・車載への事業転換2002年丸紅勝俣宣夫の不良資産処理業績不振からの再建をめざした財務基盤の立て直しと不良資産の処理2001年パソナGナスダック・ジャパンへ上場新事業と旧事業を分離したうえでの本業回帰と株式公開2000年大和ハウス工業無借金経営への転換「有利子負債ゼロ」への転換2000年出光興産ムーディーズ格下げと増資設立以来初の外部資本導入と、会長の一声で白紙に戻った上場2000年新潟鐵工所経営再建計画「S-21計画」の策定事業部制からカンパニー制への移行と、原動機・エンジニアリングへの集中2000年伊藤忠商事不良資産3,950億円の処理特別損失約3,950億円の一括計上によるバブル期2000年ソフトバンクG資産圧縮と日債銀買収ネットバブル崩壊下の資産圧縮と銀行取得1999年兼松総合商社からの撤退1,550億円の債務免除を伴う「構造改革計画」1999年日商岩井三和銀行8行の融資枠受入6000億円の有利子負債1兆円の圧縮1999年マイカル中期5ヶ年経営計画による拡大路線の撤回出店と多角化の抑制、不採算店の閉鎖と有利子負債の圧縮への転換1999年名古屋鉄道名鉄グループ新中期経営計画と不採算事業整理赤字の観光・流通子会社からの撤退と損失の一括計上による財務再建1998年さくら銀行三井物産・トヨタへ増資要請公的資金に先立つ三井グループ各社への約3000億円の増資要請1996年長谷工コーポレーション不良資産1,850億円の一括処理毎年の赤字より一度に落とし、含み損を後年へ残さない決着1995年東急東急アクションプラン21の修正2兆円の投資を続ける拡大路線から、有利子負債の削減への転換1984年大日本製糖ニットーへ営業譲渡負債を残した営業全部の譲り渡しと、会社の解散1954年ブルドックソース会社更生法による再建法的整理による立て直しと、無借金・手元流動性を守る体質の定着