USEN-NEXT HOLDINGSインテリジェンスを米KKR系ファンドへ譲渡した連続子会社売却

有利子負債の圧縮を優先し、稼ぎ頭から順に手放した1年

時期 2010年6月
意思決定者(推定) 宇野康秀 社長
論点 有利子負債の圧縮と事業の絞り込み
概要
2010年6月18日、USENは取締役会で連結子会社インテリジェンスの全株式譲渡を決議し、同日付で株式譲渡契約を締結した。譲渡先はKohlberg Kravis Roberts & Co. L.P.の関連ファンドが実質的に全株式を保有する特別目的会社で、7月29日に株券の受渡が完了した。
背景
リーマン・ショック後の2009年8月期に連結純損失595億円を計上し、自己資本比率は1.2%まで低下していた。GyaO、ギャガ、BMB、ISP事業、UCOMと売却が続いており、インテリジェンスはそのなかで最大の資産であった。
内容
株式売却価額は317億98百万円、これに伴う移転損益(株式売却益)は162億99百万円。有価証券報告書は譲渡の理由を、音楽放送事業に経営資源を集中して業績と財務基盤の立て直しを図るためと記した。
含意
2010年8月期の連結売上高は1,462億円と前期比で3割減り、当期純利益11億円で黒字に戻った。同年12月、USENはテレビ向け映像配信事業を会社分割でU-NEXTへ承継させ、そのU-NEXT株式200株を1,000万円で宇野康秀氏へ譲渡している。
筆者の見解

値のつく順に売れば、最後に何が残るか

この売却には、事業を選び取った形跡があまり見当たらない。有価証券報告書が並べた理由は音楽放送への集中と有利子負債の圧縮で、シナジーは大きいと認めながら手放すと書いている。買い手がつき、まとまった額で売れる資産から順に現金へ換えていけば、残るのは値のつかないものになる。2010年のUSENで最後まで買い手が現れなかったのが、動画配信のU-NEXTであった。

数字で並べると差は極端になる。インテリジェンスの株式売却価額は317億98百万円、同じ年の12月に宇野康秀氏がUSENから買い取ったU-NEXT株式200株の価額は10百万円であった。その1,000万円の会社は2014年12月に東証マザーズへ上場し、2017年12月には売り手であったUSENを吸収合併して持株会社の存続会社になる。売却の値札は、その時点の買い手の評価を写したものにすぎなかった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

買い集めた4年と、2009年8月期の595億円

USENは2006年7月にインテリジェンスを連結子会社とし、2008年9月30日には株式交換で完全子会社にした。この株式交換のために発行した普通株式は50,536,920株にのぼる。有線音楽放送を祖業とする同社は、そのころ映画配給のギャガ・コミュニケーションズ、カラオケのBMB、業務用システムのアルメックスを相次いで傘下に収め、2005年4月に始めた無料動画配信GyaOを含めて、連結売上高は2007年8月期に3,012億円へ達していた[1]

完全子会社化の直後にリーマン・ショックが起きた。2008年8月期に2,815億円だった連結売上高は2009年8月期に2,102億円へ落ち、同期の連結純損失は595億円に達した。自己資本比率は前期の13.8%から1.2%へ下がり、純資産額は25億円まで縮んだ。動画配信とブロードバンドへの先行投資は、需要が立ち上がる前に評価損の対象へ変わった[2]

売れるものから順に

2009年から2010年にかけて、USENは子会社と事業を続けて手放した。2009年4月にGyaOの発行済株式51%をヤフーへ譲渡し、同年7月に映画配給のギャガ・コミュニケーションズ、2010年1月にカラオケのBMBをエクシングへ、2010年2月にはインターネット接続事業をソネットエンタテインメントへ移した。同年5月にはUCOMの持分全株式を投資ファンド群へ譲り、この譲渡では特別利益1億23百万円が生じている[3]

資金を貸す側との関係も細かい条件で縛られていた。同社はシンジケートローンの参加金融機関と借入条件の変更で合意し、2010年11月29日付で変更契約を締結した。2010年8月期末の時点では、契約に定められた財務制限条項の一部に抵触しており、この変更契約でその状態が解消されたと有価証券報告書は記している。売却の順序と時期は、この制約のなかで決められていった[4]

決断

2010年6月18日の譲渡決議

2010年6月18日、USENは取締役会でインテリジェンスの全株式譲渡を決議し、同日付で株式譲渡契約を結んだ。譲渡先はKohlberg Kravis Roberts & Co. L.P.の関連者である投資ファンドが実質的に全株式を保有する特別目的会社で、沿革には譲渡先として㈱メティスの名が記されている。株券の受渡は7月29日に完了した。同時代の日本経済新聞は売却額を約325億円としているが、有価証券報告書に記載された株式売却価額は317億98百万円で、売却による収入は290億82百万円であった[5][6][7]

譲り渡した会社の中身は小さくない。移転した事業の資産は196億78百万円、負債は104億31百万円で、のれんは62億36百万円が乗っていた。インテリジェンスは正社員領域の人材紹介とパート・アルバイト領域の求人情報サービスで業界第2位を占め、収益性の高いITソリューション事業を中心とする派遣アウトソーシングを営んでいた。連結の人材関連事業はこの1社が担っており、その除外が翌期の売上を1,000億円規模で押し下げる[8]

音楽放送への集中という説明

有価証券報告書は譲渡の理由を二つ並べている。ひとつは、同社が音楽放送事業に経営資源を集中することで業績と財務基盤の立て直しを図っており、事業の選択と集中を進めていること。もうひとつは、インテリジェンスが譲渡先の経営資源のもとでさらに発展でき、USEN側は有利子負債の大幅な圧縮による財務改善が見込めることであった。両社のシナジーによる効果は大きいと認めたうえで、それでも譲ると書いている[9]

譲る側の事情は、経営者の言葉にも残っている。宇野康秀氏は後年のインタビューで、この時期の事業売却について「事業売却に身を切られる思い[10]」と述べている。インテリジェンスは同氏が1989年6月にリクルート出身の鎌田和彦氏、島田亨氏らと設立し、社長を務めた会社であった。売り先の選択でも売却額でもなく、どの順番で何を残すかだけが判断の余地として残っていた。

結果

3割縮んで、黒字に戻る

2010年8月期の連結売上高は1,462億円で、前期の2,102億円から3割減った。一方で経常利益は23億57百万円、当期純利益は10億52百万円となり、5期ぶりに黒字へ戻っている。総資産は前期末の2,017億円から1,018億円へほぼ半減し、自己資本比率は1.2%から3.3%へ回復した。財務活動によるキャッシュ・フローは745億97百万円のマイナスで、売却で得た資金の大部分が借入金の返済へ充てられたことを示している[11]

人が減る速さも同じであった。連結従業員数は2009年8月期末の8,238人から3,468人へ、提出会社単体でも3,416人から2,959人へ減っている。有価証券報告書は減少の理由を、グループ会社およびグループ外への転籍、BMBとインテリジェンス株式の売却、新入社員数の減少と記した。祖業の音楽放送を中心とする規模まで、会社は数年で戻された[12]

手元に残った200株

売却が一巡した2010年秋、経営体制も入れ替わった。2010年11月26日の定時株主総会と同日の臨時取締役会により、中村史朗氏がUSENの取締役および代表取締役に就任し、宇野康秀氏は取締役および代表取締役を退任した。退任時点で同氏はUSEN株式64,400,502株、所有割合31.13%を保有する筆頭株主であった。有価証券報告書は、この人事を後述の取引の実行日に先立つものとして記している[13]

その取引が、U-NEXTの譲渡であった。USENは2010年11月15日の取締役会で吸収分割契約を結び、12月22日を効力発生日として、テレビ向け有料映像配信事業と個人向け光回線の販売代理店事業をU-NEXTへ承継させた。同日、保有するU-NEXT株式200株のすべてを宇野康秀氏へ譲渡している。譲渡価額は10百万円であった。宇野氏は後年、この時期を振り返って「唯一、誰も買い手がつかなかったU-NEXT[15]」と述べている[14]

出典・参考

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