伊藤忠商事会長CEO・社長COO体制への移行:8年ぶりの社長交代を、最高経営責任者と最高執行責任者の分離として設計した

更新:

時期 2018年1月
当時の社長 岡藤正広
論点 最高益を更新し続ける経営の連続性と、事業モデルの転換の両立
概要

2018年1月18日の取締役会は、同年4月1日付で会長が最高経営責任者(CEO)を、社長が最高執行責任者(COO)を兼務する経営体制へ移行することを決議した。岡藤正広前社長が会長CEOに、情報・金融カンパニープレジデントだった鈴木善久氏が社長COOに就任している。8年ぶりの社長交代であり、CEO・COO体制は総合商社では初めての試みだった。

岡藤正広会長CEOは主要事業会社やグループ全体の経営戦略と経営計画の策定、重要客先との関係の維持を担い、鈴木善久社長COOはその戦略に基づく執行全般を統括する役割を負った。

背景

岡藤正広氏は2010年4月の社長就任以来、業績を最高益で更新し続けていた。その連続性を保ちながら、情報・通信の技術が商いの形そのものを変えていく変化にも応じなければならず、両立の答えとして選ばれたのが役割の分割だった。

鈴木善久氏は理系出身で新しい技術への造詣が深く、40代で執行役員となる一方、米国現地法人の社長時代にはリーマン・ショックを経験している。55歳で移った航空機内装メーカーのジャムコでは、東日本大震災で被災した同社を立て直し、東京証券取引所第一部への指定に導いた。

内容

岡藤正広氏は 『悩みに悩んだ末に、当社として初めて会長兼最高経営責任者(CEO)を設け、私が引続き最高経営責任を担い、情報・金融カンパニープレジデントであった鈴木善久が、社長兼最高執行責任者(COO)に就く新経営体制を指名委員会に提案し、鈴木と面談を重ねた同委員会がそれを承諾しました』 と、この体制を自ら指名委員会へ諮った経緯を述べている。取締役会の決議に先立ち、ガバナンス・報酬委員会での議論に加えて指名委員会が計5回開かれた。

指名委員会ではかねて後継者計画が議論されており、社長のあるべき姿について議論を重ねたうえで、社長交代の是非を前社長を除いたメンバーで議論する場も設けられている。社外役員が経営陣幹部と面談し、現状の課題や将来の方向性についての考えを聞く機会も置かれた。

含意

この移行は、2015年の指名委員会・ガバナンス・報酬委員会の設置、2016年の委員長の社外取締役化、2017年のモニタリング重視型取締役会への移行という積み重ねの上にある。同じ2018年には相談役・顧問制度が廃止され、社外取締役の比率は3分の1以上が維持された。

体制は中期経営計画「Brand-new Deal 2020」の始動と重なり、鈴木善久氏は計画期間の3年を務めて2021年3月に退いた。後任の石井敬太氏も社長COOとして就任しており、会長CEOと社長COOの二層は交代後も残っている。

筆者の見解

譲らずに譲る形

この決断は、社長交代でありながら最高経営責任者は交代していない。会長CEOという役職を新たに設けたことで、岡藤正広氏は社長の座を譲りながら経営の最終責任を手元に残した。連続する最高益という実績が交代の必要を薄めるなかで、それでも次の世代へ渡す道筋をつけるには、渡すものと渡さないものを分けるほかなかったのだろう。総合商社で初めてと記されたこの形は、革新というより、ひとりの経営者が長く担ってきた役割を解きほぐす作業だったとみられる。

もっとも、指名委員会の関与の仕方は形式にとどまっていない。新体制の案は社長から委員会へ提案され、委員会は後任候補と面談を重ねたうえでこれを承諾している。社長交代の是非そのものを前社長抜きで議論した場も設けられた。提案する側と選ぶ側が同じにならない手続きをどこまで実質化できるかは、社外役員の側の姿勢に依るところが大きい。鈴木善久氏が3年で退き、後任も社長COOとして就任したことは、この二層構造が一度きりの仕掛けではなかったことを示している。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

経緯と対応

科目 概要 備考
決議 2018年1月18日 取締役会。会長がCEO、社長がCOOを兼務する経営体制への移行を決めた
移行日 2018年4月1日 中期経営計画「Brand-new Deal 2020」の初年度と重なる
会長CEO 岡藤正広(前社長) 2010年4月の社長就任から8年。役員の状況の略歴では2018年4月に現職就任と記す
社長COO 鈴木善久(前情報・金融カンパニープレジデント) 1979年入社。社長の交代は8年ぶりとなった
会長CEOの担当 経営戦略・経営計画の策定と重要客先 主要事業会社やグループ全体を対象とする。最高経営責任者として引き続き担う
社長COOの担当 執行全般の統括 情報・通信分野の知見を活かし、商いの次世代化を進めることに注力する
位置づけ 総合商社で初めての試み 経営の継続性と急激な世の中の変化への対応の双方を満たす体制と説明する
指名委員会の開催 計5回 取締役会の決議に先立つ。ガバナンス・報酬委員会での議論もこれとは別に行った
委員会での審議 前社長を除いた議論の場を設置 社長のあるべき姿を重ねて議論し、社長交代の是非そのものを検討した
社外役員の面談 経営陣幹部との個別面談 現状の課題や将来の方向性についての考えを聞く機会として設けられた
提案の経路 社長が指名委員会へ提案 委員会は後任候補と面談を重ねたうえでこれを承諾した
同時に行った施策 相談役・顧問制度の廃止 社外取締役の多様性を高め、社外取締役比率は引き続き3分の1以上を保った
在任 2018年4月から2021年3月まで 鈴木善久氏は中期経営計画の3年を務め、後任の石井敬太氏も社長COOに就任した

出所:伊藤忠商事 統合レポート2018・有価証券報告書 第94期(2018年3月期)【役員の状況】【コーポレート・ガバナンスの状況等】

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出典・参考

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