レゾナックHD クラサスケミカルのスピンオフ 売上の2割を占める石油化学の、売却ではなく株主への現物配当による切り離しと、20%未満の持分の継続保有

更新:

時期 2026年8月
当時の社長 髙橋秀仁
論点 半導体・電子材料への集中と、石油化学事業の持続的な運営
何をなぜ決めたか
概要

2026年8月25日、レゾナック・ホールディングスの取締役会は、石油化学事業を営む完全子会社クラサスケミカルのパーシャル・スピンオフを10月1日付で実行すると決議した。同社株式の80%超を、レゾナック・ホールディングス株式1株につき1株の割合で株主へ現物配当し、残りの20%未満だけを持ち続ける。上場前の公募・売出しを行わないダイレクトリスティングで東証スタンダード市場へ上場させたうえで、10月1日の効力発生をもって連結子会社からも持分法適用からも外した。

背景

石油化学は2023年12月期の売上高3,163億円・営業利益87億円(概算)で、連結売上高の約20%を占める「安定収益事業」だった。一方でグループは、2020年12月の長期ビジョン以来、半導体・電子材料へ経営資源を集めてきた。大分コンビナートのグリーン・トランスフォーメーションに要る投資を、半導体材料と同じ資本の配分のなかで賄い続けるのは難しかったとみられる。

売却でなくこの形を選んだ背景を、2024年2月の決算説明会の質疑では 『従業員の幸せと社会的責任と株主様の利益のバランスをどうやって取るのかを葛藤した中で、当社が20%弱の株式を保有し、研究開発分野を含めたレゾナックのリソースを使えるスキームにすることが重要だと考えたことが背景にある』 と答えている。

内容

2024年2月14日に検討開始を公表し、8月1日に分割準備会社クラサスケミカルを設立した。2025年1月1日、レゾナック・ホールディングスとレゾナックから石油化学事業を吸収分割で移し、承継する資産は1,830億円、負債は1,130億円と見込んだ。

2026年3月の定時株主総会は、取締役会決議で現物配当できるよう定款を改める議案を賛成率97.83%で可決した。6月12日に産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受け、税制適格の株式分配として行う。配当財産の帳簿価額は2026年7月末の概算で37,789百万円(1株199.02円)で、利益剰余金から減額する。

含意

クラサスケミカルセグメントの売上収益は2024年12月期3,297億円、2025年12月期3,003億円で、連結売上収益の2割強を占めていた。2026年度第3四半期から非継続事業として区分し、効力発生時に支配の喪失に伴う会計処理を行う。持ち続ける株式は公正価値で測り直し、帳簿価額との差額を非継続事業の損益に計上するが、連結業績への影響額は10月1日時点でも精査中である。

兼任役員は置かず、取引も原則として解消する。そのうえでカーボンニュートラル施策や共同研究開発では、一定のリソースを分け合う関係を残した。

いつ何が起きたか 12件
筆者の見解
筆者の見解

売却せずに配った安定収益

連結売上の2割を占める事業を手放すなら、ふつうは売却して代金を半導体材料へ回す。レゾナック・ホールディングスはそうせず、石油化学を株主へ配り、代金を1円も受け取らなかった。この判断の芯は、資本の配分から石油化学を外すことにあり、現金化は目的に入っていなかったと思われる。大分コンビナートのグリーン・トランスフォーメーションに要る投資を、半導体材料と取り合わずに済む独立した上場会社へ移し、それでも20%弱の持分と研究開発の共有で縁を残す。日立化成の買収から続いた半導体・電子材料への寄せは、この一手で売上の構成としても完結した。

もっとも、残したものは軽くない。クラサスケミカルのコア営業利益は2025年12月期に47億円まで細り、EBITDAマージンは3.5%にとどまる。独り立ちした同社が、DOE5%の配当を続けながら脱炭素の投資を賄えるかは、20%弱を持ち続ける側にも跳ね返る。支配の喪失に伴う損益の額は効力発生の日にもまだ確定しておらず、公正価値の測り直しで利益が出るのか損失が出るのかも示されていない。切り離しの成否が数字で出るのは2026年12月期の決算からになる。

Yutaka Sugiura, 2026年10月

業績の推移
石油化学事業の売上高と連結売上高

レゾナックHD:石油化学事業の売上高と連結売上高

(億円) 石油化学の売上高(日本基準)クラサスケミカルの売上収益(IFRS)連結売上高(日本基準)連結売上収益(IFRS) 備考
2021年12月期 2,777−14,196− 石油化学はケミカルセグメントの内訳。決算説明資料の値
2022年12月期 3,247−13,926− 4年に一度の大型定修を実施したが、ナフサ高による価格上昇で増収
2023年12月期 3,163−12,889− 日本基準最後の期。IFRSへ組み替えた連結売上収益は12,954
2024年12月期 −3,297−13,915 IFRS初年度。セグメント新設後の区分へ遡って組み替えた値
2025年12月期 −3,003−13,471 クラサスケミカルが事業を始めた期。ナフサ安で販売価格が下落
石油化学事業の売上高(会計基準別)
石油化学の売上高(日本基準)(億円)クラサスケミカルの売上収益(IFRS)(億円)

出所:レゾナック・ホールディングス 2022年・2023年 決算説明資料(セグメント別:ケミカル内訳の石油化学) / レゾナック・ホールディングス 有価証券報告書 第115期〜第117期(主要な経営指標等の推移・セグメント情報)

クラサスケミカルセグメントの損益と投資

レゾナックHD:クラサスケミカルセグメントの損益と投資

(百万円) 外部顧客への売上収益コア営業利益減価償却費及び償却費有形固定資産及び無形資産の増加額 備考
2024年12月期 329,6808,6145,6366,562 第117期で新区分へ組み替えて開示された前期の値
2025年12月期 300,3024,6985,8486,170 市況下落と在庫受払差の悪化でコア営業利益が45%減
クラサスケミカルセグメントの売上収益とコア営業利益率
外部顧客への売上収益(百万円)コア営業利益率(%)

出所:レゾナック・ホールディングス 有価証券報告書 第117期(2025年12月期)【セグメント情報】

切り離した石油化学事業の資産と純資産

レゾナックHD:切り離した石油化学事業の資産と純資産

(百万円) 総資産負債純資産 備考
吸収分割で承継(2025年1月1日見込み) 183,000113,000− 資産1,830億円・負債1,130億円の億円単位の見込額
クラサスケミカル単体 2025年12月期 157,557−62,337 日本基準。単体売上高264,648、当期純利益1,694
クラサスケミカル連結 2025年12月期 191,166−74,649 日本基準。連結売上高303,926、営業利益4,211

出所:レゾナック・ホールディングス 有価証券報告書 第116期(2024年12月期)【重要な後発事象】・第117期(2025年12月期)【関係会社の状況】 / レゾナック・ホールディングス「クラサスケミカル(石油化学事業)のパーシャル・スピンオフの実行に関する決議のお知らせ」(2026年8月25日)

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参考文献
出典・参考

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