レゾナックHD SGL黒鉛電極事業買収 4期続けて営業損失の事業の市況の底での世界規模への拡大と、負ののれん71億円の計上

更新:

時期 2016年10月
当時の社長 市川秀夫
論点 黒鉛電極の世界シェアと収益安定
何をなぜ決めたか
概要

2016年10月20日、昭和電工は独SGL Carbon SEの完全子会社で黒鉛電極事業を営むSGL GE Holding GmbHの全株式を取得することをSGL Carbonと合意し、同日の取締役会の承認を得て株式売買契約を締結した。事業価値は350百万ユーロとされた。決議したのは市川秀夫社長で、企業結合日の2017年10月2日に取得を実行したのは同年1月に就任した森川宏平社長である。取得原価は19,291百万円であった。

背景

黒鉛電極は電炉で鉄スクラップを溶かす消耗品である。有価証券報告書は買収の理由を、世界の鉄鋼需要について年率1%程度の低成長が続くと予想されるなか「需要の低迷と競争の激化」により厳しい事業環境が続いていたためと書く。黒鉛電極を含む無機セグメントは2013年12月期から2016年12月期まで4期続けて営業損失で、決議した2016年12月期の損失57億58百万円がその最大であった。連結中期経営計画「Project 2020+」は黒鉛電極を「基盤化事業」に置き、市況変動に対する抵抗力の向上を課題としていた。

内容

欧州・米国・東南アジアに製造拠点を持つSGL GEを100%子会社化し、結合後の名称を昭和電工カーボン・ホールディングGmbHとした。米国競争当局の承認は米国事業を第三者へ譲渡することを付帯条件としており、SGL GE Carbon Holding LLCの全株式を東海カーボンの100%子会社へ13,945百万円で譲渡している。受け入れた資産合計58,510百万円が取得原価と引き受けた負債合計36,103百万円を上回り、負ののれん発生益が生じた。

含意

買収の翌期、中国の環境政策の厳格化に伴う電炉鋼生産の拡大などで黒鉛電極の国際市況が大きく上昇し、無機セグメントの営業利益は2018年12月期に1,324億45百万円へ達した。連結でも営業利益1,800億円・親会社株主に帰属する当期純利益1,115億円と過去最高を記録した。ただし2020年12月期には市況の軟化と棚卸資産の簿価切り下げにより同セグメントは323億円の営業損失に転じている。

いつ何が起きたか 9件
筆者の見解
筆者の見解

逆張りは再現できるのか

この決断の含みは、4期続けて営業損失を計上していた事業を、市況の底で欧州・東南アジアへ広げた点にある。ただし有価証券報告書が挙げた理由は、SGL Carbonの黒鉛電極事業を買収してそのコスト競争力を取り込み、既存の事業と統合して効果を出すことであり、市況の反転を当て込んだ説明にはなっていない。2018年12月期の過去最高益をもたらしたのは、中国の環境政策の厳格化に伴う電炉鋼生産の拡大という外からの変化であった。買収の狙いとして書かれたものと、実際に利益をもたらしたものは、同じではないとみられる。

買い方そのものは軽い。取得原価19,291百万円に対して受け入れた資産は58,510百万円、引き受けた負債は36,103百万円で、差額は負ののれん発生益として計上された。暫定値の3,115百万円は翌期の確定で7,141百万円へ増えている。のれんの償却負担を負わずに生産拠点を得た形で、この点はのれん3,651億円を背負った2020年の日立化成の買収と対照をなす。ただし規模を得たことが市況の振れを吸収したとまでは言えず、2020年12月期には需給の軟化と棚卸資産の簿価切り下げで同じセグメントが323億円の営業損失を計上した。会社自身も買収の翌期の長期ビジョンで、黒鉛電極を、技術と品質の優位を足場に国内外の顧客との取引を深め、世界首位をめざす事業として記している。買収によって首位に立ったのではなく、なお首位を目指す段階にあるという位置づけであった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 SGL GE Holding GmbH(ドイツ) 黒鉛電極の製造、研究、開発、販売。SGL Carbon SEの完全子会社
被取得企業の規模 売上高375百万ユーロ 2015年12月期の参考値。資本金は25,002ユーロ
株式売買契約の締結 2016年10月20日 同日の取締役会で承認。事業価値を350百万ユーロとすることで合意
企業結合日 2017年10月2日 連結損益に含めたのは2017年10月1日から12月31日までの3か月
企業結合の法的形式 現金を対価とする株式の取得 取得と同時に昭和電工カーボン・ホールディングGmbHへ名称変更
取得した議決権比率 100% 取得株式数25,002株。全株をSGL CARBON GmbHから取得
公表時の取得価額(概算) 156億円 2016年10月時点。1ユーロ115円で換算し、アドバイザリー費用等を含む
取得原価 19,291百万円 対価は全額現金。2017年12月期末の時点では暫定値
取得関連費用 2,594百万円 アドバイザリー費用等
受け入れた資産及び負債 資産合計58,510百万円、負債合計36,103百万円 流動資産23,233・固定資産35,276、流動負債27,514・固定負債8,589
負ののれん発生益 7,141百万円 取得時の暫定値は3,115百万円。翌期の確定で4,026百万円増えた
米国事業の譲渡価額 13,945百万円 米国競争当局の承認の付帯条件。東海カーボンの子会社へ全株式を譲渡
通期換算した業績への影響 売上高28,093百万円 経常利益48百万円、親会社株主に帰属する当期純利益△110百万円
取得資金の調達 手元資金及び借入 2018年3月の海外募集約260億円のうち約160億円を返済等に充当

出所:昭和電工 有価証券報告書 第108期(2016年12月期)【追加情報】・第109期(2017年12月期)・第110期(2018年12月期)【企業結合等関係】

黒鉛電極を含む報告セグメントの業績

レゾナックHD:黒鉛電極を含む報告セグメントの業績

(百万円) 外部顧客への売上高セグメント損益 備考
2012年12月期 57,1912,954
2013年12月期 57,412△838 営業損失の1期目
2014年12月期 58,779△300
2015年12月期 55,223△1,249
2016年12月期 43,776△5,758 買収を決議した期。4期続いた営業損失のうち最大
2017年12月期 65,1996,979 10月にSGL GEを子会社化し第4四半期から連結。当初計上は7,089
2018年12月期 257,525132,445 国際市況の上昇と統合効果の通期寄与で前期比1,254億66百万円の増益
2019年12月期 221,45389,256
2020年12月期 77,158△32,300 需給軟化による数量減と、市況低下に伴う棚卸資産の簿価切り下げ
黒鉛電極を含むセグメントの売上高と損益率
外部顧客への売上高(百万円)セグメント利益率(%)

出所:昭和電工 有価証券報告書 第104〜112期(セグメント情報、報告セグメントごとの外部顧客への売上高・利益又は損失) / 昭和電工 有価証券報告書 第114期(2022年12月期)【セグメント情報】報告セグメントの概要

連結業績の推移

レゾナックHD:連結業績の推移

(百万円) 売上高経常利益親会社株主に帰属する当期純利益 備考
2012年12月期 739,67523,4489,368
2013年12月期 847,80323,4889,065
2014年12月期 872,78521,7312,929
2015年12月期 775,73232,050921
2016年12月期 671,15938,69012,305 買収を決議した期
2017年12月期 780,38763,85137,404 第109期有報の当初計上は経常利益63,962・純利益33,470
2018年12月期 992,136178,804111,503 過去最高益。営業利益は180,003
2019年12月期 906,454119,29373,088
2020年12月期 973,700△43,971△76,304 黒鉛電極の市況軟化と、日立化成の取得に伴う一過性の費用が重なる
2021年12月期 1,419,63586,861△12,094
2022年12月期 1,392,62159,36730,793
売上高と経常利益率
売上高(百万円)経常利益率(%)

出所:昭和電工 有価証券報告書 第108期・第110期・第114期【主要な経営指標等の推移】 / 昭和電工 有価証券報告書 第109期(2017年12月期)連結損益計算書

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 昭和電工 有価証券報告書 第108期(2016年12月期)【追加情報】
  • 昭和電工 有価証券報告書 第109期(2017年12月期)【企業結合等関係】【重要な後発事象】【対処すべき課題】
  • 昭和電工 有価証券報告書 第110期(2018年12月期)【企業結合等関係】【セグメント情報】
  • 昭和電工 有価証券報告書 第112期(2020年12月期)【セグメント情報】
  • 昭和電工 有価証券報告書「第108期(2016年12月期)【追加情報】2. SGL Carbon SE黒鉛電極事業子会社の株式取得」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第109期(2017年12月期)【企業結合等関係】」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第110期(2018年12月期)【企業結合等関係】企業結合に係る暫定的な会計処理の確定」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第109期(2017年12月期)【重要な後発事象】海外募集による自己株式の処分」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第109期(2017年12月期)【対処すべき課題】連結中期経営計画「Project 2020+」」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第110期(2018年12月期)長期ビジョン・【セグメント情報】」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第112期(2020年12月期)【セグメント情報】」

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