日立化成の買収(2019年・レゾナックHDの決断)

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論点 自社より大きい相手を買収するか
レゾナックHD:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
自社より大きい相手を取り込み、レゾナックが生まれる

何をなぜ決めたか:自社より大きい相手を取り込み、レゾナックが生まれる

概要

2019年12月18日、昭和電工が日立製作所の上場子会社・日立化成を1株4,630円の公開買付けで完全子会社化すると決め、2020年4月28日に支配を獲得した案件。取得原価は9,640億円で、半導体・電子材料を一気に取り込んだ。半導体・電子材料セグメントは2024年下期にEBITDAマージン30%程度へ届き、買った事業のうち自動車成形部材は2025年に譲渡が決まった。

背景

日立がIoT・デジタルへの選択と集中で"御三家"の日立化成を売却する一方、総合化学の昭和電工は5GやEVをにらむ先端材料の取り込みを狙った。売り手と買い手の思惑が一致した友好的買収であった。会社は、川中の素材技術と川下のアプリケーション技術を併せ持つ企業になることを統合の狙いに掲げた。

内容

親会社日立が保有する全株を含む発行済株式を対象に、2020年3月24日から4月20日まで公開買付けを実施し、4月28日に支配を獲得。公開買付けと同年10月15日の端数株式の取得は一体の取引として処理され、取得した議決権比率は100%となる。買収資金はみずほ銀行からの借入と優先株でほぼ全額を賄った。経営体制の一本化は2022年1月で、社長以下12名の共通の執行役員を置く実質統合を予定より1年早く実現した。買収後の統合費用は2021年72億円・2022年53億円、借入利息と優先株配当を含めた買収に伴う負担は2021年281億円・2022年233億円にのぼる。

含意

上場子会社の解消とガバナンス改革、総合化学の高付加価値シフトが交差した買収。取得原価9,640億円のうち3,651億円をのれん、2,159億円をのれん以外の無形固定資産に配分し、のれんは償却と2021年・2025年の減損を経て2025年末に2,755億円へ減った。減損はいずれも買った事業の一部を譲渡する決断に伴って出ている。2025年末に重要なものとして開示されるのれんの配分先は、エレクトロニクス事業本部2,319億円、モビリティ事業本部186億円、機能材料事業本部173億円、蓄電摺動材料統括部67億円。日立化成は昭和電工マテリアルズを経て、2023年発足のレゾナックの中核事業となった。

いつ何が起きたか 9件
当時の取締役 8名

当時の取締役(2019年3月株主総会決議)

考察:「小が大を飲む」買収が残したもの
考察

考察:「小が大を飲む」買収が残したもの

昭和電工による日立化成の買収は、二つの大きな潮流が交差した案件として読み解ける。一つは、日立製作所に代表される日本の大企業が、上場子会社という独特の構造を解消し、選択と集中とコーポレートガバナンスの両面から事業を組み替えていく流れである。御三家と呼ばれた中核子会社さえ売却対象となったことは、親会社と少数株主の間に利益相反を抱える上場子会社のあり方が、もはや維持しがたくなっていたことを物語る。もう一つは、景気変動に左右されやすい総合化学が、半導体・電子材料という高付加価値領域へ軸足を移そうとする業界再編の流れである。日立化成は、その双方の思惑が出会う格好の対象であった。

一方で、自己資本を大きく上回る規模の買収を外部資金に依存して成立させたことは、相応の代償を伴った。取得原価9,640億円のうち3,651億円はのれんであり、20年の均等償却に加えて、2021年には蓄電デバイス・システム事業の譲渡を決めた分、2025年にはモビリティの分が減損され、残高は2,755億円まで下がった。買った事業のどこが残り、どこの価値が低下したかは、のれんの残高にそのまま出る。2023年に誕生したレゾナックは、川上から川下までを垂直統合する新たな化学企業の形を体現したが、"小が大を飲む"買収は、決断の大胆さと、その後に背負う統合の難しさを、同時に映し出す事例だといえる。

数字で見る 3表

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図と表

レゾナックHD:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
レゾナックHD:のれんと無形固定資産の推移
(百万円) のれん無形固定資産合計総資産 備考
2015年12月期 −12,268940,494 のれんの区分掲記なし。無形固定資産の「その他」に含む
2016年12月期 −11,712932,698 のれんの区分掲記なし。無形固定資産の「その他」に含む
2017年12月期 −12,8171,026,999 のれんの区分掲記なし。無形固定資産の「その他」に含む
2018年12月期 −14,9501,074,983 のれんの区分掲記なし。無形固定資産の「その他」に含む
2019年12月期 3,34622,6501,076,381 買収前の最終期。のれんは第112期有報で「その他」から組み替えた額
2020年12月期 359,200598,4432,203,606 日立化成を子会社化。のれん365,123と無形固定資産215,918が発生
2021年12月期 311,766522,4892,142,390 償却17,596に加え、蓄電デバイス事業の譲渡決定でのれん21,251を減損
2022年12月期 295,355493,6892,093,744 減少は20年均等償却のみ。第115期有報の遡及適用後の数値
2023年12月期 285,199470,5892,031,953 日本基準。第115期有報の当期。のれんは償却のみで減損なし
2023年12月期 286,926461,4222,054,594 IFRS。第116期有報の比較情報。のれんは非償却へ
2024年12月期 287,005442,4172,172,626 IFRS。無形資産はのれんを含む合計。日本基準要約の総資産は2,124,966
2025年12月期 275,520410,7162,106,723 IFRS。モビリティセグメントでのれん12,067を減損
出所:昭和電工 有価証券報告書 第107〜115期(連結貸借対照表。日本基準) / レゾナック・ホールディングス 有価証券報告書 第116期・第117期(連結財政状態計算書、注記「のれん及び無形資産」。IFRS) / 昭和電工 有価証券報告書 第113期(2021年12月期)【減損損失】【報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報】
出所:昭和電工 有価証券報告書 第107〜115期(連結貸借対照表。日本基準) / レゾナック・ホールディングス 有価証券報告書 第116期・第117期(連結財政状態計算書、注記「のれん及び無形資産」。IFRS) / 昭和電工 有価証券報告書 第113期(2021年12月期)【減損損失】【報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報】

レゾナックHD:日立化成由来の事業の業績(報告セグメント)

売上高(百万円)セグメント利益率(%)
レゾナックHD:日立化成由来の事業の業績(報告セグメント)
(百万円) 売上高セグメント利益のれん償却額 備考
2020年12月期 302,687△6,3039,128 セグメント新設。損益はみなし取得日後の7〜12月の半年分
2021年12月期 634,79220,31617,596 通期を連結した唯一の期。セグメント資産1,132,158
出所:昭和電工 有価証券報告書 第112期・第113期(セグメント情報) / 昭和電工 有価証券報告書 第114期(2022年12月期)【セグメント情報】1 報告セグメントの概要
出所:昭和電工 有価証券報告書 第112期・第113期(セグメント情報) / 昭和電工 有価証券報告書 第114期(2022年12月期)【セグメント情報】1 報告セグメントの概要

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 日立化成株式会社 機能材料及び先端部品・システムの製造・加工及び販売
商号変更 2020年10月1日 昭和電工マテリアルズ株式会社へ変更
取得の法的形式 現金を対価とする株式の取得 公開買付け。買付主体は連結子会社のHCホールディングス㈱
公開買付期間 2020年3月24日〜4月20日 20営業日。決済の開始日は2020年4月28日。取得後の持分比率は100%の予定
買付価格 1株につき4,630円 買付予定数208,218,230株(上限なし)、下限138,812,200株
企業結合日 2020年4月28日 支配獲得日。みなし取得日は2020年6月30日
連結に含めた業績の期間 2020年7月1日〜12月31日 みなし取得日以降の半年分
取得した議決権比率 100% 取得日前は-%。公開買付けと追加取得を一体の取引として処理
取得原価 964,040百万円 対価の種類は現金
取得関連費用 5,030百万円 アドバイザリー費用等
受け入れた資産・負債 資産合計919,511百万円、負債合計312,261百万円 資産は流動315,505・固定604,006、負債は流動159,969・固定152,292
のれん 365,123百万円 20年の均等償却。第112期末に取得原価の確定及び配分が完了
のれん以外の無形固定資産 215,918百万円 顧客関連154,917(20年)・技術関連57,138(7年)・商標権3,863(20年)
完全子会社化 2020年10月15日 2020年6月23日効力発生の株式併合で生じた端数株式を取得
みずほ銀行からの借入 295,000百万円 HCホールディングス㈱の普通株式2,950億円の引受資金。借入期間7年
優先株式による調達 275,000百万円 HCがみずほ銀行・日本政策投資銀行を引受先に第三者割当で発行
タームローン契約額 400,000百万円 HCがみずほ銀行と締結。5年。別に900億円のコミットメントライン
担保・財務制限条項 日立化成の普通株式等を担保に提供 純資産維持条項・利益維持条項等が付されている
通期換算した影響額 売上高278,231百万円、営業損益△6,572百万円 連結会計年度開始日に完了と仮定した概算額。監査証明を受けていない
通期換算した純損益への影響額 △15,624百万円 経常損益は△7,760百万円。同じ仮定による概算額
出所:昭和電工 有価証券報告書 第111期(2019年12月期)【経営上の重要な契約等】・第112期(2020年12月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】
出所:昭和電工 有価証券報告書 第111期(2019年12月期)【経営上の重要な契約等】・第112期(2020年12月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】
当時の取締役 8名

当時の取締役(2019年3月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • レゾナック・ホールディングス(旧昭和電工) ニュースリリース「2023年1月1日、統合新会社「レゾナック」が誕生します」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第111期(2019年12月期)【経営上の重要な契約等】2. 日立化成株式会社に対する公開買付けに係る公開買付応募契約」
  • 日立化成 有価証券報告書「第71期(2020年3月期)【沿革】【株式等の状況】【従業員の状況】【セグメント情報】」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第112期(2020年12月期)【企業結合等関係】」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第112期(2020年12月期)【経営上の重要な契約等】2. 新株の発行及び資金の借入について」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第112期(2020年12月期)【セグメント情報】」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第113期(2021年12月期)【減損損失】【事業構造改善費用】」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第113期(2021年12月期)【重要な会計上の見積り】」
  • レゾナック・ホールディングス 有価証券報告書「第114期(2022年12月期)【セグメント情報】1 報告セグメントの概要」
  • 昭和電工 決算説明会資料(2022年12月期)「2022年12月期 決算説明資料」
  • 昭和電工 統合報告書「SHOWA DENKO Integrated Report 2022」
  • レゾナック・ホールディングス 有価証券報告書「第117期(2025年12月期)【事業等のリスク】【重要な無形資産】【のれんの減損】【減損損失】」
  • 昭和電工 有価証券報告書「第113期(2021年12月期)【経営上の重要な契約等】6. 蓄電デバイス・システム事業の譲渡に関する契約の締結/【事業分離】」
  • レゾナック・ホールディングス 決算説明会Q&A要旨「2023年1Q 決算説明会 Q&A要旨」
  • レゾナック・ホールディングス 決算説明会Q&A要旨「2023年3Q 決算説明会 Q&A要旨」
  • レゾナック・ホールディングス 決算説明会Q&A要旨「2023年通期 決算説明会 Q&A要旨」
  • レゾナック・ホールディングス 決算説明会Q&A要旨「2024年2Q 決算説明会 Q&A要旨」
  • レゾナック・ホールディングス 決算説明会Q&A要旨「2024年3Q 決算説明会 Q&A要旨」
  • レゾナック・ホールディングス 決算説明会Q&A要旨「2024年通期 決算説明会 Q&A要旨」
  • レゾナック・ホールディングス 決算説明会資料(2025年12月期)「2025年12月期 決算説明資料」

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