ヤマハ発動機 浜北工場の閉鎖 創業地・国内二輪生産の本社工場への集約

更新:

時期 2021年2月
当時の社長 日髙祥博
論点 国内二輪生産の集約と構造改革
何をなぜ決めたか
概要

2021年2月12日、創業の地である浜北工場(浜松市)と中瀬工場の二輪車生産機能を磐田市の本社工場へ集約し、浜北工場を移管完了後に閉鎖・売却する方針を、2020年12月期決算とあわせて発表した。

移管の対象となった浜北工場は、2020年12月末時点で従業員540人、土地面積115,464㎡、帳簿価額8,315百万円。中瀬工場は従業員139人、帳簿価額1,580百万円で、いずれもランドモビリティ事業の輸送用機器部品を製造していた。

背景

先進国の二輪車事業は需要の成熟と変動の大きさから収益改善が課題となり、静岡県内に分散した生産拠点の非効率が重荷になっていた。2020年12月期のランドモビリティ事業は売上収益946,476百万円・事業利益18,457百万円で、前期の1,119,840百万円・41,641百万円から大きく減少していた。

同じ期には、イタリアで二輪車エンジンを製造するグループ会社の固定資産について減損損失2,792百万円を認識し、関連する事業整理費用1,438百万円と合わせて事業構造改善費用4,231百万円を計上している。生産体制の組み替えは国内に限った話ではなかった。

内容

浜北工場の二輪車・マリンエンジン向け鉄物部品加工と、中瀬工場の樹脂塗装を磐田本社工場および周辺工場へ再配置する。2022年に着手して2024年中の完了を予定し、本社周辺の二輪車・マリンエンジン生産拠点を6サイトから5サイトへ集約する計画で、機能移転費用は約45億円を見込んだ。

浜北工場の従業員数は発表前の2020年12月末の540人から2025年12月末には459人へ減り、集約先である本社及び磐田本社工場は6,646人から7,251人へ増えた。

含意

完成車を組み立てる本社工場に工程を取り込むことでリードタイム短縮と自動化を図る一方、閉鎖の対象は1955年の創業時に最初の本社となった発祥の地であった。

2025年3月14日、大型船外機の部品製造を継続するため、浜北工場の操業終了時期は2031年をめどに延期された。二輪の集約という当初の枠組みは、成長するマリン事業の生産要請によって書き換えられている。

いつ何が起きたか 7件
筆者の見解
筆者の見解

効率の論理と、創業地という記憶

この決断の中心にあるのは、成熟した先進国二輪という事業を、分散した国内生産のまま抱え続けることの重さである。静岡県内に散らばる工程を本社工場へ集め、輸送と滞留を削減し、需要の変動に追従できるラインへ組み替える——集約それ自体は、売上収益が946,476百万円まで減少した2020年12月期のランドモビリティ事業にとって、理にかなった選択であっただろう。ただ、その対象が創業の地であったために、この判断は単なる工場再編を超えて、会社が自らの来歴とどう折り合うかを問う場面にもなった。好調なうちにではなく、収益に追われるなかで発祥の地に手を入れた点に、前段の経営判断とは異なる緊張感がうかがえる。

もっとも、その後の展開は、効率の論理だけでは経営が動かないことも示している。浜北工場の従業員数は540人から459人へ減り、本社及び磐田本社工場は6,646人から7,251人へ増えた。人の流れだけを見れば集約は進んだ。それでも閉じるはずだった創業地は、マリンという成長事業の要請によって操業を2031年めどまで延ばされ、二輪の構造改革の象徴という当初の意味づけは背景に退いた。ひとつの決断が、別の事業の伸びによって輪郭を書き換えられていく——多角化した事業構成では、ある領域の合理化がそのまま完結するとは限らない。創業地の行方は、二輪とマリンという二つの柱の力関係のなかで、なお揺れているとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
集約・再配置の条件

集約・再配置の条件

科目 概要 備考
発表日 2021年2月12日 2020年12月期の決算発表とあわせて公表した
対象拠点 浜北工場・中瀬工場(浜松市) いずれもランドモビリティ事業向けの輸送用機器部品製造設備
移管する機能 鉄物部品加工と樹脂塗装 浜北工場の二輪車・マリンエンジン向け鉄物部品加工と、中瀬工場の樹脂塗装
移管先 磐田本社工場および周辺工場 完成車を組み立てる本社工場に工程を取り込む
拠点数 6サイトから5サイトへ 本社周辺の二輪車・マリンエンジン生産拠点が対象
機能移転費用 約45億円
着手と完了予定 2022年着手・2024年中に完了 移管完了後に浜北工場を閉鎖・売却する方針であった
浜北工場の規模 従業員540人・帳簿価額8,315百万円 2020年12月末。土地面積115,464㎡、うち土地3,707・機械装置及び運搬具2,889百万円
中瀬工場の規模 従業員139人・帳簿価額1,580百万円 2020年12月末。土地面積47,526㎡
操業終了時期の変更 2031年めどへ延期(2025年3月14日) 大型船外機の部品製造を継続するため

出所:ヤマハ発動機 広報発表資料 2021年2月12日「本社および周辺工場の生産拠点集約・再配置について」/有価証券報告書 第86期(2020年12月期)【設備の状況】/ニュースリリース 2025年3月14日「浜北工場操業終了時期の延期について」

浜北・中瀬両工場と集約先の本社工場の従業員数

ヤマハ発動機:浜北・中瀬両工場と集約先の本社工場の従業員数

(人) 浜北工場中瀬工場本社及び磐田本社工場 備考
2016年12月期 622−6,871 中瀬工場は主要な設備の状況に記載がない
2017年12月期 599−6,854
2018年12月期 5941616,851
2019年12月期 5651546,817
2020年12月期 5401396,646 集約を発表した2021年2月時点の規模にあたる期末
2021年12月期 5021366,500
2022年12月期 4961416,513 移管の着手年
2023年12月期 4771496,632
2024年12月期 4701616,856 当初の完了予定年。浜北工場の操業は続いている
2025年12月期 4591717,251 3月に操業終了時期を2031年めどへ延期した
浜北・中瀬の従業員数と本社工場
浜北工場(人)中瀬工場(人)本社及び磐田本社工場(人)

出所:ヤマハ発動機 有価証券報告書 第82〜91期(主要な設備の状況・提出会社)

ランドモビリティ事業の業績と減損損失

ヤマハ発動機:ランドモビリティ事業の業績と減損損失

(百万円) 売上高事業利益減損損失 備考
2016年12月期 930,11235,962207 日本基準。セグメント名は「二輪車」で、利益はセグメント利益
2017年12月期 1,045,21168,834496 日本基準・「二輪車」セグメント
2018年12月期 1,117,75548,688183 日本基準。この期から「ランドモビリティ」へ区分を変更
2019年12月期 1,119,84041,641238 日本基準
2020年12月期 946,47618,4573,947 IFRSへ移行。減損3,947のうち2,792はイタリアのエンジン製造子会社
2021年12月期 1,179,73668,727653
2022年12月期 1,468,24487,409661
2023年12月期 1,585,304127,51987
2024年12月期 1,609,568103,8114,506
2025年12月期 1,615,138108,6931,021

出所:ヤマハ発動機 有価証券報告書 第82〜91期(セグメント情報・報告セグメントごとの固定資産の減損損失に関する情報)

浜北工場の帳簿価額

ヤマハ発動機:浜北工場の帳簿価額

(百万円) 土地建物及び構築物機械装置及び運搬具合計 備考
2016年12月期 3,7071,0712,4097,358
2017年12月期 3,7071,2832,4177,559
2018年12月期 3,7071,4992,5207,874
2019年12月期 3,7071,5952,4597,923
2020年12月期 3,7071,5352,8898,315
2021年12月期 3,7071,2573,0118,142
2022年12月期 3,7079392,9227,703
2023年12月期 3,7076843,1407,676
2024年12月期 1,5605182,7494,959 この期からIFRSに基づく帳簿価額で記載。土地の減少は基準の切り替えによる
2025年12月期 1,5646524,0096,409 IFRSに基づく帳簿価額。機械装置及び運搬具が増えている

出所:ヤマハ発動機 有価証券報告書 第82〜91期(主要な設備の状況・提出会社)

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • ヤマハ発動機 広報発表資料「本社および周辺工場の生産拠点集約・再配置について ~生産性向上と市場追従性向上を目指す~」
  • ヤマハ発動機 有価証券報告書「第86期(2020年12月期)【設備の状況】【セグメント情報】」
  • ヤマハ発動機 有価証券報告書「第87〜91期(2021〜2025年12月期)【設備の状況】【セグメント情報】」
  • ヤマハ発動機 ニュースリリース「浜北工場操業終了時期の延期について」

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