第6章 年〜年

味の素:減損後のROIC導入とパリサーの価値向上プラン

2019年〜346億円の減損と六つの重点事業、特別転進支援とROIC13%の目標

2019年3月期、味の素は北米とトルコの子会社ののれんと、プロマシドール・ホールディングス社への投資と商標権を減損した。減損は営業利益を346億円、親会社の所有者に帰属する当期利益を312億円押し下げた。会社は原因を、二つの中期経営計画で食品事業の品目を広げた結果、戦力が分散し重点分野への投資が薄まった点に求めた。5月の決算説明会では調味料や電子材料など六つの重点事業を示し、1,000億円規模の資産圧縮を最低限の規模とした。その時点の重点事業の比率は、売上高でも資産でもおよそ60%にとどまった。西井孝明社長の覚悟を問われた会社側は、『組織として、味の素グループがこれを受け止められなければ駄目になると思っているので、その覚悟でやっていきたい。』と答えた。規模の拡大を追った数年間を、資本の配り方から問い直す出発点だったといえる。

  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第141期(2019年3月期)【経営成績等の状況の概要】
    • [1]2019年3月期に味の素フーズ・ノースアメリカ社とイスタンブール味の素食品社ののれん、プロマシドール・ホールディングス社への投資と商標権に減損を計上
    • [2]減損損失が営業利益を346億円、親会社の所有者に帰属する当期利益を312億円押し下げた
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第142期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [3]2014-2016・2017-2019中期経営計画で進めた食品事業のポートフォリオ拡大が戦力の分散と重点分野への投資の希薄化を招いたと総括
  • 味の素 2019年3月期 決算説明会主要Q&A(2019年5月14日)
    • [4]調味料・アジアン冷凍食品・QN・おいしさソリューション・ヘルスケア・ライフサポート(電子材料)の六つを重点領域に定め、資産圧縮1,000億円規模を最低限必要と決めた
    • [5]重点事業の比率は売上高ベース・資産ベースともおおよそ60%
    • [6]西井社長の覚悟と構造改革の痛みを問う質問に、経営陣は覚悟しており冷凍食品事業では浸透してきていると回答

2019年度上期には、飼料用アミノ酸を扱う動物栄養事業でも大きな減損を計上した。会社側はブラジルとタイで生産を続けていれば赤字はさらに膨らんだと説明したうえで、『2020年度自社生産比率50%以下という目標で何とかなると思っていたところが甘いところであり、そこは猛烈に反省している。』と述べた。この時点で非重点と名指しされたのは、グローバル冷凍食品、加工用調味料、動物栄養の3事業で、事業資産の圧縮額は約400億円と見積もられた。北米の冷凍食品では、止めた工場やメキシカン・イタリアンの工場を、ギョーザやチャーハンなどアジアンの品目へ振り替えるとした。2019年11月28日には、取締役会が基幹職を対象とする特別転進支援施策を決議し、2020年3月期に関連費用65億円を計上した。人員の見直しにまで踏み込み、改革の対象は資産から組織の固定費へ広がったとみられる。

  • 味の素 2020年3月期 中間決算説明会主要Q&A(2019年11月8日)
    • [7]2019年度上期決算で動物栄養事業に大きな減損損失を計上
    • [8]ブラジルとタイでの生産を2019年度も続けていれば赤字幅はさらに膨らんでいたとし、自社生産比率の目標設定の甘さを反省すると回答
    • [9]非重点事業はグローバル冷凍食品・加工用調味料・動物栄養の3事業で、アセットライト等による事業資産圧縮額は約400億円
    • [10]北米で停産した工場やメキシカン・イタリアンカテゴリーの工場をアジアンカテゴリーに転換する
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第142期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [11]2019年11月28日の取締役会で基幹職を対象とする特別転進支援施策を決議し、2020年3月期に関連費用65億円を計上

2020年2月の2020-2025中期経営計画は、2030年の構造目標をROIC13%超とオーガニック成長率5%に置いた。2020〜2022年度を構造改革、2023〜2025年度を再成長の段階とし、ROICの目標を8%、10〜11%と刻んだ。2019年度の実績は3.0%にとどまった。役員の中期業績連動型株式報酬も、2020年度からの3事業年度は評価の60%をROIC達成率に割り当てた。新型コロナで非重点事業の縮小は6カ月ほど止まったが、2020年11月には動物栄養とMSGの一部で交渉を再開した。各部門の業務とROICの関係を示すROICツリーも作り、売上高の約85%を占める16社で2021年度から運用するとした。指標を報酬と現場の双方へ結びつけ、目標を掛け声で終わらせない仕組みを整えたのだろう。

  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第142期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [12]2020-2025中期経営計画で2030年の構造目標をROIC13%超・オーガニック成長率5%とした
    • [13]2020-2022年を構造改革フェーズとしてROIC8%、2023-2025年を再成長フェーズとして10-11%を目標とした
    • [15]2020年度からの3事業年度の中期業績連動型株式報酬で評価ウエイトの60%をROIC達成率とした
  • 味の素グループ 統合報告書 2021「社長メッセージ」(西井孝明)
    • [14]2019年度(FY19)実績のROICは3.0%
  • 味の素 2020年3月期 決算説明会主要Q&A(2020年5月26日)/味の素 2021年3月期 中間決算説明会主要Q&A(2020年11月6日)
    • [16]COVID-19で非重点事業の縮小・撤退のプロセスを6カ月程度凍結したが、2020年11月時点で動物栄養(コモディティ)とMSGの一部について交渉を再開
  • 味の素 2021年3月期 中間決算説明会主要Q&A(2020年11月6日)
    • [17]タスクフォースがROICツリーを作成し、味の素単体とJ-SOX対象の計16社、売上高構成比85%程度の法人で2021年度から運用開始を見込む
参考文献[1]-[17]
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第141期(2019年3月期)【経営成績等の状況の概要】
    • [1]2019年3月期に味の素フーズ・ノースアメリカ社とイスタンブール味の素食品社ののれん、プロマシドール・ホールディングス社への投資と商標権に減損を計上
    • [2]減損損失が営業利益を346億円、親会社の所有者に帰属する当期利益を312億円押し下げた
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第142期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [3]2014-2016・2017-2019中期経営計画で進めた食品事業のポートフォリオ拡大が戦力の分散と重点分野への投資の希薄化を招いたと総括
    • [11]2019年11月28日の取締役会で基幹職を対象とする特別転進支援施策を決議し、2020年3月期に関連費用65億円を計上
    • [12]2020-2025中期経営計画で2030年の構造目標をROIC13%超・オーガニック成長率5%とした
    • [13]2020-2022年を構造改革フェーズとしてROIC8%、2023-2025年を再成長フェーズとして10-11%を目標とした
    • [15]2020年度からの3事業年度の中期業績連動型株式報酬で評価ウエイトの60%をROIC達成率とした
  • 味の素 2019年3月期 決算説明会主要Q&A(2019年5月14日)
    • [4]調味料・アジアン冷凍食品・QN・おいしさソリューション・ヘルスケア・ライフサポート(電子材料)の六つを重点領域に定め、資産圧縮1,000億円規模を最低限必要と決めた
    • [5]重点事業の比率は売上高ベース・資産ベースともおおよそ60%
    • [6]西井社長の覚悟と構造改革の痛みを問う質問に、経営陣は覚悟しており冷凍食品事業では浸透してきていると回答
  • 味の素 2020年3月期 中間決算説明会主要Q&A(2019年11月8日)
    • [7]2019年度上期決算で動物栄養事業に大きな減損損失を計上
    • [8]ブラジルとタイでの生産を2019年度も続けていれば赤字幅はさらに膨らんでいたとし、自社生産比率の目標設定の甘さを反省すると回答
    • [9]非重点事業はグローバル冷凍食品・加工用調味料・動物栄養の3事業で、アセットライト等による事業資産圧縮額は約400億円
    • [10]北米で停産した工場やメキシカン・イタリアンカテゴリーの工場をアジアンカテゴリーに転換する
  • 味の素グループ 統合報告書 2021「社長メッセージ」(西井孝明)
    • [14]2019年度(FY19)実績のROICは3.0%
  • 味の素 2020年3月期 決算説明会主要Q&A(2020年5月26日)/味の素 2021年3月期 中間決算説明会主要Q&A(2020年11月6日)
    • [16]COVID-19で非重点事業の縮小・撤退のプロセスを6カ月程度凍結したが、2020年11月時点で動物栄養(コモディティ)とMSGの一部について交渉を再開
  • 味の素 2021年3月期 中間決算説明会主要Q&A(2020年11月6日)
    • [17]タスクフォースがROICツリーを作成し、味の素単体とJ-SOX対象の計16社、売上高構成比85%程度の法人で2021年度から運用開始を見込む

2021年〜指名委員会等設置会社への移行と藤江太郎の社長就任、3ヵ年中計の廃止

2021年の統合報告書で西井社長は、2020年度の事業利益が過去最高を更新したと報告した。ROICは前年度の3.0%から6.9%へ上がり、従業員エンゲージメントスコアも55%から64%へ上がった。一方で、役員と次世代の経営陣約70人の研修では、過去の中期経営計画の目標未達について、社長を含む経営陣の反省を語り合ったと明かした。収益の管理も、短期の損益を積み上げる方式から、ROICとオーガニック成長を重んじる方式へ移したと位置づけた。そのうえで『私には、現状のままでは、いずれ新興企業にディスラプトされてしまうという強い危機感があります。』と記し、創業時の開拓者精神を取り戻すことを自らの使命に挙げた。業績が戻った年にあえて危機感を前に出したのは、回復を改革の完了と受け取らせないためだったと思われる。

  • 味の素グループ 統合報告書 2021「社長メッセージ」(西井孝明)
    • [18]2020年度の事業利益は過去最高を更新
    • [20]従業員エンゲージメントスコアはFY19実績55%、FY20実績64%
    • [21]全役員と次世代経営陣約70人が参加する約3カ月のオンライン研修で、過去の中期経営計画の目標未達に対する経営陣の反省や経営課題を話し合った
    • [22]収益に関するマネジメントポリシーを短期PL経営からROICとオーガニック成長を重視する経営へ変更
    • [23]創業時のような開拓者精神を取り戻すことを自らの使命とした
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第143期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [19]2020年度のROICは6.9%

2021年6月23日、味の素は定時株主総会の決議で監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移った。取締役会議長に就いた社外取締役の岩田喜美枝氏は、この移行について『率直に申し上げて、西井社長がよく決断されたと感じたのは、社外取締役を中心とする指名委員会にCEOの選解任を委ねる形になったことです。』と語った。西井社長も、執行側への権限委譲により、取締役会に諮る議案を約半分に絞れる見込みを示した。2022年4月1日には、この指名委員会の決議を経て藤江太郎氏が代表執行役社長に就き、会社は交代を中期経営計画の途中での引き継ぎと位置づけた。藤江氏は西井氏と同じくブラジル味の素社の社長を経験していた。のちに藤江氏は2019年ごろの業績悪化を振り返り、『私も当時経営会議メンバーとして業績悪化への責任を痛感していましたし、その当時の苦労や心配を従業員や関係者の皆様に二度とさせてはならないと強く心に誓っています。』と記した。社長の選任を社外の委員会へ移しつつ、減損の時期を経営会議で過ごした世代に改革の続きを託した形である。

  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第145期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】
    • [24]2021年6月23日の第143回定時株主総会の決議で監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移行
    • [28]西井孝明氏は2013年8月、藤江太郎氏は2015年6月にブラジル味の素社の社長に就任
  • 味の素グループ 統合報告書 2021「取締役会議長と社長の対談」
    • [25]新たに取締役会議長に就任した岩田喜美枝氏が、指名委員会等設置会社への移行について西井社長と対談
    • [26]執行側への権限委譲により取締役会に諮る議案数を約半分に絞り込める見込み
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第144期(2022年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [27]2022年4月1日に藤江太郎氏が代表執行役社長最高経営責任者に就任し、中期経営計画の途中でのバトンタッチと位置づけた
  • 味の素グループ 統合報告書「ASVレポート 2024」社長メッセージ(藤江太郎)
    • [29]2019年頃に業績が悪化し株価を含む企業価値が低迷、社内外から批判を受け、当時の西井CEOが生まれ変わることを宣言した

2023年2月28日、味の素は3年分の数値を積み上げる中期経営計画の策定をやめ、「中期ASV経営2030ロードマップ」を公表した。構造改革では2022年度までに約1,300億円の事業資産を圧縮し、約800億円を再配分していた。廃止の理由は、3年先の数値の作り込みに力が向き、挑戦や成長が不十分になった点にあった。新しい目標としては、2030年に2022年度比でEPS3倍・ROIC約17%を据え、同じ2030年までに約1,000億円を人財へ投じる計画も打ち出した。志の文言も、アミノ酸の科学を土台に人と社会と地球の健やかさへ資する方向へ書き改めた。3ヵ年計画を毎年改める方針は西井社長が2021年の時点ですでに示しており、数値計画を外して指標だけを残したのは、ROICでの管理が社内に定着したとの判断によるものとみられる。

  • 味の素 適時開示「中期ASV経営2030ロードマップに関するお知らせ」(2023年2月28日)
    • [30]2023年2月28日 従来型の中期経営計画の策定を廃止し、中期ASV経営2030ロードマップを公表
    • [34]志(パーパス)を「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」から「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」へ進化させた
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第145期(2023年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [31]2022年度までの構造改革で約1,300億円規模の事業資産圧縮と約800億円規模の資源再配分を実施
    • [32]不透明な3年先の経営数値を精緻に作り込むことに主眼が置かれ、挑戦的な取組みや成長が不十分になるという課題があった
    • [33]2030年の目標を2022年度比EPS3倍・ROIC約17%とし、2030年までに約1,000億円の人財投資を行う
  • 味の素グループ 統合報告書 2021「社長メッセージ」(西井孝明)
    • [35]一度策定した計画を3年間そのまま進めるのではなく、より良いものに変えていくサイクルが大切とし、2020年作成の3ヵ年計画の修正と毎年の更新を始めた
参考文献[18]-[35]
  • 味の素グループ 統合報告書 2021「社長メッセージ」(西井孝明)
    • [18]2020年度の事業利益は過去最高を更新
    • [20]従業員エンゲージメントスコアはFY19実績55%、FY20実績64%
    • [21]全役員と次世代経営陣約70人が参加する約3カ月のオンライン研修で、過去の中期経営計画の目標未達に対する経営陣の反省や経営課題を話し合った
    • [22]収益に関するマネジメントポリシーを短期PL経営からROICとオーガニック成長を重視する経営へ変更
    • [23]創業時のような開拓者精神を取り戻すことを自らの使命とした
    • [35]一度策定した計画を3年間そのまま進めるのではなく、より良いものに変えていくサイクルが大切とし、2020年作成の3ヵ年計画の修正と毎年の更新を始めた
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第143期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [19]2020年度のROICは6.9%
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第145期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】
    • [24]2021年6月23日の第143回定時株主総会の決議で監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移行
    • [28]西井孝明氏は2013年8月、藤江太郎氏は2015年6月にブラジル味の素社の社長に就任
  • 味の素グループ 統合報告書 2021「取締役会議長と社長の対談」
    • [25]新たに取締役会議長に就任した岩田喜美枝氏が、指名委員会等設置会社への移行について西井社長と対談
    • [26]執行側への権限委譲により取締役会に諮る議案数を約半分に絞り込める見込み
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第144期(2022年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [27]2022年4月1日に藤江太郎氏が代表執行役社長最高経営責任者に就任し、中期経営計画の途中でのバトンタッチと位置づけた
  • 味の素グループ 統合報告書「ASVレポート 2024」社長メッセージ(藤江太郎)
    • [29]2019年頃に業績が悪化し株価を含む企業価値が低迷、社内外から批判を受け、当時の西井CEOが生まれ変わることを宣言した
  • 味の素 適時開示「中期ASV経営2030ロードマップに関するお知らせ」(2023年2月28日)
    • [30]2023年2月28日 従来型の中期経営計画の策定を廃止し、中期ASV経営2030ロードマップを公表
    • [34]志(パーパス)を「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」から「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」へ進化させた
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第145期(2023年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [31]2022年度までの構造改革で約1,300億円規模の事業資産圧縮と約800億円規模の資源再配分を実施
    • [32]不透明な3年先の経営数値を精緻に作り込むことに主眼が置かれ、挑戦的な取組みや成長が不十分になるという課題があった
    • [33]2030年の目標を2022年度比EPS3倍・ROIC約17%とし、2030年までに約1,000億円の人財投資を行う

2022年〜国内外の価格改定と群馬のABF新工場、パリサーの価値向上プラン

藤江社長の就任後、味の素は原燃料と物流費の高騰に対し、国内外の家庭用製品の出荷価格を相次いで改定した。国内では2023年1月のうま味調味料を皮切りに、冷凍食品、マヨネーズ、コーヒー類、スープへと品目を広げた。藤江氏は2022年の統合報告書で、値付けを考える原点としてフィリピン駐在時の経験を挙げた。容量減で原料高を吸収する固定観念を改め、1袋1ペソの製品を2ペソへ上げて内容量を2倍以上にし、支持と利益を同時に得たという。2023年3月期の単価は国内104%、海外108%となり、売上高・事業利益・当期利益はIFRS導入後の最高を更新した。ただし国内の数量は96%にとどまり、単価の上昇で数量の減少を補う形だった。価格を上げても選ばれ続けるかは、地域と品目で差が出たといえる。

  • 味の素 決算説明会資料「2024年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み」(2023年5月11日)
    • [36]原燃料・物流費の高騰を受け、2022年から2023年にかけて日本と海外主要国で家庭用製品の出荷価格を改定
    • [40]2023年3月期の単価は日本国内104%・海外108%(現地通貨ベース)、売上高・事業利益・当期利益はIFRS導入後の最高
    • [41]2023年3月期の日本国内は単価104%・数量96%・売上高101%
  • 味の素 ニュースリリース「家庭用「味の素®」「うま味だし・ハイミー®」およびアミノ酸含有食品「アミノバイタル®」の一部製品の出荷価格改定について」(2022年10月3日)/味の素 決算説明会資料「2024年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み」(2023年5月11日)
    • [37]家庭用うま味調味料等を2023年1月に約2〜16%改定、以降冷凍食品・マヨネーズ・コーヒー類・スープへ拡大
  • 味の素グループ 統合報告書「ASVレポート 2022」社長メッセージ(藤江太郎)
    • [38]フィリピン駐在時の経験を、トレードオンの取り組みを推進したいという思いを強くするきっかけとして紹介
    • [39]原材料価格高騰時は容量減等で対応する固定観念を改め、1袋10gの「味の素®」を1ペソから2ペソに値上げしつつ内容量を2倍以上に増やし、消費者の評価と利益を得た

利益のもう一つの柱は、半導体パッケージ基板の層間絶縁材ABFを軸とする電子材料だった。ABFは発売以来95%超のシェアを保ち、会社はその源を顧客の開発初期から需要を読む高速開発システムに求めた。2023年度は市場の在庫調整で落ち込んだが、第4四半期から生成AI向けを中心に回復の兆しが出た。2025年には約100億円を投じて群馬工場に最先端向けの新工場を設け、2023〜2030年に250億円の投資枠を置いた。2025年2月に社長となった中村茂雄氏は、ABF事業の立ち上げと成長を牽引した実績を選任の理由に挙げられた。2026年3月期のファンクショナルマテリアルズは売上高1,007億円、事業利益546億円に達した。食品を祖業とする会社の利益が、一つの電子材料に大きく左右される構造へ移ったとみられる。

  • 味の素 電子材料事業説明会資料「電子材料事業の成長戦略」(2026年6月30日)/味の素 第148回定時株主総会 事前質問に対するご説明(2026年7月3日)
    • [42]ABFは主要な半導体パッケージ基板の層間絶縁材で、電子材料等はファンクショナルマテリアルズとして開示
  • 味の素 電子材料事業説明会資料「電子材料事業の成長戦略」(2026年6月30日)
    • [43]ABFは発売以来95%超のシェアを維持し、高速開発システムで顧客の製品開発初期からニーズを先読みして競争優位を構築
    • [45]2025年に約100億円を投じて群馬工場に最先端向けワニス製造の新工場を設立、2023〜2030年の投資枠は250億円
  • 味の素 第146回定時株主総会 事前質問に対するご説明(2024年7月9日)
    • [44]2023年度はヘルスケア等が市場の在庫調整で計画から大きく乖離したが、第4四半期から電子材料などに回復の兆しがあり、生成AI向けの需要拡大が続くと見込んだ
  • 味の素 第147回定時株主総会 招集ご通知(2025年)
    • [46]2025年2月3日に中村茂雄氏が代表執行役社長に就任。取締役候補者とした理由に、ABFを軸とする事業の立ち上げと成長の牽引を挙げた
  • 味の素 決算説明会資料「2026年3月期 決算概要」(2026年5月7日)
    • [47]2026年3月期のファンクショナルマテリアルズは売上高1,007億円・事業利益546億円

2026年3月31日、英国のパリサー・キャピタルが味の素株の取得を明かし、価値向上プランを公表した。プランは味の素を、最も収益化が遅れたAIインフラの独占者と位置づけた。そのうえでABFの30%超の値上げ、ファンクショナルマテリアルズの独立セグメント化、冷凍食品のROICを8%超へ上げる再編を求めた。会社は6月30日の説明会で、ABFの価格は開発初期から性能と同時に顧客と詰めていると示し、値上げには触れなかった。7月には冷凍食品を成長の牽引役とし、電子材料は開示済みだと答えた。6月19日の総会に株主提案はなく、取締役10名の賛成率は95.77〜98.18%だった。2025年度のROICは11.8%と、2020年の段階目標を上回った。資本効率の目標に届いた後、株主の問いは稼ぎ方そのものへ移ったといえる。

  • パリサー・キャピタル プレスリリース「パリサー・キャピタルは味の素価値向上プランを公表します」(2026年3月31日)
    • [48]2026年3月31日 パリサー・キャピタルが味の素株の取得を明らかにし、価値向上プランを公表
    • [49]味の素を最も収益化が遅れているAIインフラの独占者と位置付けた
    • [50]ABF価格の30%超の引き上げ、ファンクショナルマテリアルズの独立セグメント化、冷凍食品を再編してROIC8%超とすることを要求
  • 味の素 電子材料事業説明会資料「電子材料事業の成長戦略」(2026年6月30日)
    • [51]ABFは顧客ごとにカスタマイズで製造し、開発初期から性能を価格と同時にすり合わせて設計すると説明
  • 味の素 第148回定時株主総会 事前質問に対するご説明(2026年7月3日)
    • [52]冷凍食品事業を今後も成長ドライバーとして貢献できる事業とし、電子材料事業は決算関連資料等でファンクショナルマテリアルズとして開示していると回答
  • 味の素 臨時報告書 第148回定時株主総会における議決権行使結果(2026年6月22日)
    • [53]第148回定時株主総会(2026年6月19日)は会社提案3議案のみを付議して可決、取締役10名の賛成率は95.77〜98.18%
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第148期(2026年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [54]2025年度のROICは11.8%
参考文献[36]-[54]
  • 味の素 決算説明会資料「2024年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み」(2023年5月11日)
    • [36]原燃料・物流費の高騰を受け、2022年から2023年にかけて日本と海外主要国で家庭用製品の出荷価格を改定
    • [40]2023年3月期の単価は日本国内104%・海外108%(現地通貨ベース)、売上高・事業利益・当期利益はIFRS導入後の最高
    • [41]2023年3月期の日本国内は単価104%・数量96%・売上高101%
  • 味の素 ニュースリリース「家庭用「味の素®」「うま味だし・ハイミー®」およびアミノ酸含有食品「アミノバイタル®」の一部製品の出荷価格改定について」(2022年10月3日)/味の素 決算説明会資料「2024年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み」(2023年5月11日)
    • [37]家庭用うま味調味料等を2023年1月に約2〜16%改定、以降冷凍食品・マヨネーズ・コーヒー類・スープへ拡大
  • 味の素グループ 統合報告書「ASVレポート 2022」社長メッセージ(藤江太郎)
    • [38]フィリピン駐在時の経験を、トレードオンの取り組みを推進したいという思いを強くするきっかけとして紹介
    • [39]原材料価格高騰時は容量減等で対応する固定観念を改め、1袋10gの「味の素®」を1ペソから2ペソに値上げしつつ内容量を2倍以上に増やし、消費者の評価と利益を得た
  • 味の素 電子材料事業説明会資料「電子材料事業の成長戦略」(2026年6月30日)/味の素 第148回定時株主総会 事前質問に対するご説明(2026年7月3日)
    • [42]ABFは主要な半導体パッケージ基板の層間絶縁材で、電子材料等はファンクショナルマテリアルズとして開示
  • 味の素 電子材料事業説明会資料「電子材料事業の成長戦略」(2026年6月30日)
    • [43]ABFは発売以来95%超のシェアを維持し、高速開発システムで顧客の製品開発初期からニーズを先読みして競争優位を構築
    • [45]2025年に約100億円を投じて群馬工場に最先端向けワニス製造の新工場を設立、2023〜2030年の投資枠は250億円
    • [51]ABFは顧客ごとにカスタマイズで製造し、開発初期から性能を価格と同時にすり合わせて設計すると説明
  • 味の素 第146回定時株主総会 事前質問に対するご説明(2024年7月9日)
    • [44]2023年度はヘルスケア等が市場の在庫調整で計画から大きく乖離したが、第4四半期から電子材料などに回復の兆しがあり、生成AI向けの需要拡大が続くと見込んだ
  • 味の素 第147回定時株主総会 招集ご通知(2025年)
    • [46]2025年2月3日に中村茂雄氏が代表執行役社長に就任。取締役候補者とした理由に、ABFを軸とする事業の立ち上げと成長の牽引を挙げた
  • 味の素 決算説明会資料「2026年3月期 決算概要」(2026年5月7日)
    • [47]2026年3月期のファンクショナルマテリアルズは売上高1,007億円・事業利益546億円
  • パリサー・キャピタル プレスリリース「パリサー・キャピタルは味の素価値向上プランを公表します」(2026年3月31日)
    • [48]2026年3月31日 パリサー・キャピタルが味の素株の取得を明らかにし、価値向上プランを公表
    • [49]味の素を最も収益化が遅れているAIインフラの独占者と位置付けた
    • [50]ABF価格の30%超の引き上げ、ファンクショナルマテリアルズの独立セグメント化、冷凍食品を再編してROIC8%超とすることを要求
  • 味の素 第148回定時株主総会 事前質問に対するご説明(2026年7月3日)
    • [52]冷凍食品事業を今後も成長ドライバーとして貢献できる事業とし、電子材料事業は決算関連資料等でファンクショナルマテリアルズとして開示していると回答
  • 味の素 臨時報告書 第148回定時株主総会における議決権行使結果(2026年6月22日)
    • [53]第148回定時株主総会(2026年6月19日)は会社提案3議案のみを付議して可決、取締役10名の賛成率は95.77〜98.18%
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第148期(2026年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
    • [54]2025年度のROICは11.8%

2019年〜2026年の業績

決算期 区分 売上高 営業利益純利益 主な投資
億円 YoY 億円 億円 利益率
2019年03月期 連結 11,143 n/a 536 296 2.7% n/a
2020年03月期 連結 11,000 ▲1.3% 488 188 1.7% n/a
2021年03月期 連結 10,714 ▲2.6% 1,011 594 5.5% n/a
2022年03月期 連結 11,493 +7.3% 1,246 757 6.6% n/a
2023年03月期 連結 13,591 +18.3% 1,489 940 6.9% n/a
2024年03月期 連結 14,392 +5.9% 1,467 871 6.1% n/a
2025年03月期 連結 15,305 +6.3% 1,140 702 4.6% n/a
2026年03月期 連結 15,837 +3.5% 1,994 1,347 8.5% n/a

出所:有価証券報告書

出典・参考

26件
出典・参考
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第141期(2019年3月期)【経営成績等の状況の概要】
  • 味の素 2019年3月期 決算説明会主要Q&A(2019年5月14日)
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第142期(2020年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • 味の素 2020年3月期 中間決算説明会主要Q&A(2019年11月8日)
  • 味の素 2020年3月期 決算説明会主要Q&A(2020年5月26日)/味の素 2021年3月期 中間決算説明会主要Q&A(2020年11月6日)
  • 味の素グループ 統合報告書 2021「社長メッセージ」(西井孝明)
  • 味の素 2021年3月期 中間決算説明会主要Q&A(2020年11月6日)
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第143期(2021年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • 味の素グループ 統合報告書 2021「取締役会議長と社長の対談」
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第144期(2022年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • 味の素 ニュースリリース「家庭用「味の素®」「うま味だし・ハイミー®」およびアミノ酸含有食品「アミノバイタル®」の一部製品の出荷価格改定について」(2022年10月3日)/味の素 決算説明会資料「2024年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み」(2023年5月11日)
  • 味の素グループ 統合報告書「ASVレポート 2022」社長メッセージ(藤江太郎)
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第145期(2023年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第145期(2023年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • 味の素グループ 統合報告書「ASVレポート 2024」社長メッセージ(藤江太郎)
  • 味の素 決算説明会資料「2024年3月期業績予想および企業価値向上に向けた取組み」(2023年5月11日)
  • 味の素 決算説明会資料「2026年3月期 決算概要」(2026年5月7日)
  • パリサー・キャピタル プレスリリース「パリサー・キャピタルは味の素価値向上プランを公表します」(2026年3月31日)
  • 味の素株式会社 有価証券報告書 第148期(2026年3月期)【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
  • 味の素 第146回定時株主総会 事前質問に対するご説明(2024年7月9日)
  • 味の素 第147回定時株主総会 招集ご通知(2025年)
  • 味の素 電子材料事業説明会資料「電子材料事業の成長戦略」(2026年6月30日)/味の素 第148回定時株主総会 事前質問に対するご説明(2026年7月3日)
  • 味の素 電子材料事業説明会資料「電子材料事業の成長戦略」(2026年6月30日)
  • 味の素 第148回定時株主総会 事前質問に対するご説明(2026年7月3日)
  • 味の素 臨時報告書 第148回定時株主総会における議決権行使結果(2026年6月22日)
  • 味の素 適時開示「中期ASV経営2030ロードマップに関するお知らせ」(2023年2月28日)

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