日立製作所ガス絶縁開閉装置の課徴金取消訴訟:欧州委員会の納付命令を受け入れず4年8か月争い、棄却されて納付した選択
更新:
- 概要
-
2007年1月、欧州委員会は日立製作所と関連会社に対して、変電設備に用いるガス絶縁開閉装置(GIS)に関する欧州独占禁止法違反を理由とする課徴金の納付を命令した。日立は違反を認めず、同年4月に欧州第一審裁判所へ課徴金納付命令の取消しを求めて提訴した。
2007年3月期に課徴金の合理的な見積額を引当計上したうえで審理に臨んだが、2011年7月に欧州一般裁判所は訴えを棄却し、同年9月に課徴金が納付された。命令から納付まで4年8か月を要している。
- 背景
-
調査は製品を替えて広がった。2006年12月に液晶ディスプレイ、2007年6月にDRAM、同年11月にブラウン管、2008年12月に変圧器、2009年6月に光ディスクドライブと、通知を受けた製品は5年足らずで6分野に及ぶ。当局も欧州委員会、米国司法省反トラスト局、公正取引委員会、カナダ産業省競争局と複数の法域にまたがった。
2007年3月期の売上高は10,247,903百万円と前期比8%増だったが、営業利益は29%減の182,512百万円、当期純損益は32,799百万円の損失へ転じている。対応が重なったのは、売上高が過去最高を更新しながら最終損益が赤字に転落した年度だった。
- 内容
-
案件ごとに帰結は分かれた。変圧器は2009年10月の納付命令に対して2010年1月に、DRAMは2010年5月の命令に対して同年8月に納付しており、争わずに支払った案件もある。液晶ディスプレイでは2008年12月に日本の子会社が公正取引委員会から排除措置命令を受けたが、課徴金納付命令は受けていない。
争ったのはGISだけだった。その後も2011年7月に高圧電力ケーブルと自動車用部品、2014年6月にコンデンサで調査を受け、高圧電力ケーブルは2014年4月の納付命令に対して6月に納付している。
- 含意
-
課徴金の額は有価証券報告書に記載がない。GISについて会社が書いたのは「合理的な見積額を引当計上」という一行で、金額も、連結業績への影響も数字では示されていない。読者が金額の裏を取れる形で残っているのは、命令と提訴と棄却と納付の日付だけである。
米国及びカナダでは集団代表訴訟を含む民事訴訟が起こされ、その一部についても合理的に見積可能な金額を引当計上している。競争法対応は一度の納付で終わらず、事業を替えながら10年近く続いた。
認めない、という一行
この提訴は金額を値切る交渉ではなく、違反を認めないという立場を4年8か月にわたって保つための選択だったとみられる。争わずに納めた案件もある。変圧器は命令から3か月、DRAMは3か月で支払っており、日立は「命令が出たら払う」会社ではなかったわけでも、「常に争う」会社でもなかった。分けたのは金額の大小ではなく、事実認定を受け入れられるかどうかだったのだろう。GISは変電設備という日立の本業中の本業で、ここで違反を認めることは、電力会社を顧客とする事業そのものの信用に触れる話だった。
もっとも、争った結果は棄却である。そして訴訟が続いた4年半の間に、調査の対象は液晶ディスプレイ、DRAM、ブラウン管、変圧器、光ディスクドライブ、高圧電力ケーブル、自動車用部品、コンデンサへと広がった。一件を争い抜く体力があっても、次々に開く戦線そのものは止められない。個別に争うか納めるかの判断より、こうした調査が続けて起きる構造をどう断つかが問われていたのではないか。日立が2009年以降に進めた事業の入れ替えは、結果としてこれらの製品分野の多くを手元から外していった。
Yutaka Sugiura, 2026年9月
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| 課徴金納付命令 | 2007年1月 | 欧州委員会が当会社及び関連会社に対して納付を命令した |
| 対象となった製品 | 変電設備に用いるガス絶縁開閉装置(GIS) | 命令の理由は欧州独占禁止法違反 |
| 取消訴訟の提起 | 2007年4月 | 欧州第一審裁判所(現 欧州一般裁判所)へ課徴金納付命令の取消しを求めた |
| 課徴金の引当計上 | 2007年3月期 | 合理的な見積額を引当計上した。課徴金の額は有価証券報告書に記載がない |
| 判決 | 2011年7月 | 欧州一般裁判所は訴えを棄却した |
| 課徴金の納付 | 2011年9月 | 命令から4年8か月を経て納付した |
| 液晶ディスプレイの調査 | 2006年12月 | 欧州委員会、米国司法省反トラスト局、公正取引委員会から通知を受けた |
| 排除措置命令 | 2008年12月 | 日本の子会社が公正取引委員会から受けた。課徴金納付命令は受けていない |
| 液晶ディスプレイの罰金 | 2009年6月 | 日本の子会社(当時)が米国司法省反トラスト局の調査に関し支払った |
| 変圧器の課徴金 | 2009年10月 | 欧州委員会が納付を命令し、2010年1月に支払った |
| DRAMの課徴金 | 2010年5月 | 欧州委員会が納付を命令し、2010年8月に支払った |
| 光ディスクドライブの罰金 | 2011年11月 | 日本の子会社が米国司法省反トラスト局の調査に関し支払った |
| 高圧電力ケーブルの課徴金 | 2014年4月 | 欧州委員会が納付を命令し、日本の子会社が同年6月に支払った |
| 民事訴訟 | 集団代表訴訟を含む | 米国及びカナダで起こされ、一部に合理的に見積可能な金額を引当計上している |
出所:日立製作所 有価証券報告書 第138期(2007年3月期)・第140期(2009年3月期)・第141期(2010年3月期)・第143期(2012年3月期)・第146期(2015年3月期)【事業等のリスク】及び連結財務諸表注記
同じ問いに直面した会社
- 日立製作所 有価証券報告書「第138期(2007年3月期)【事業等のリスク】及び連結財務諸表注記」
- 日立製作所 有価証券報告書「第140期(2009年3月期)連結財務諸表注記」
- 日立製作所 有価証券報告書「第141期(2010年3月期)連結財務諸表注記」
- 日立製作所 有価証券報告書「第143期(2012年3月期)連結財務諸表注記」
- 日立製作所 有価証券報告書「第146期(2015年3月期)連結財務諸表注記」