日立製作所 三菱日立パワーシステムズ解消 合弁関係の清算と、火力発電事業からの全面撤退

更新:

時期 2019年12月
当時の社長 東原敏昭
論点 エネルギー事業の再編と損失処理
何をなぜ決めたか
概要

2014年2月に三菱重工業と火力発電システム事業を統合してつくった合弁・三菱日立パワーシステムズについて、南アフリカのボイラ建設プロジェクトの譲渡価格をめぐる仲裁を2019年12月18日の和解で終わらせ、保有する全普通株式を三菱重工業へ譲渡した判断。

和解に伴う損失375,967百万円をエネルギーセグメントで計上し、2020年9月1日に株式の移転が完了して火力発電から退いた。

背景

2007年に子会社のHitachi Power Africaなどが受注したMedupi・Kusile火力発電所向けのボイラ建設は、2014年2月1日の事業統合にあわせて合弁側のMHPSアフリカへ移された。移管の契約は、分割効力発生日より前の事象に起因する偶発債務を日立側が持ち、以降の事業遂行を合弁側が持つと定め、分割時点の工程と収支の見通しをもとに最終譲渡価格を決めて暫定価格との差額を調整することにしていた。

工期の遅れが差額を膨らませ、譲渡価格調整金等の請求は2016年3月の48,200百万南アフリカランドから2017年1月に89,700百万ランドへ拡張された。

内容

三菱重工業は2017年7月31日、譲渡価格調整金等として90,779百万南アフリカランド、1ランド8.53円換算で約7,743億円の支払いを求め、日本商事仲裁協会へ仲裁を申し立てた。

2019年12月18日の取締役会が経済合理性及び事業戦略上の観点等から合意を決め、同日和解契約を締結。全普通株式の譲渡とあわせ、和解金200,000百万円からMHPSアフリカ向け貸付金70,000百万円の債権譲渡額を控除した130,000百万円を2020年3月30日に支払った。

含意

祖業に連なる火力からの退出であり、送配電のABBパワーグリッド取得と対をなすエネルギー事業の組み替えでもあった。持分法で会計処理されている投資は2019年3月期末の724,461百万円から2020年3月期末に480,375百万円へ減り、エネルギーセグメント分は307,057百万円から22,819百万円へ減少した。

単独で受注した案件を合弁へ移す構図が損失の帰属を曖昧にした点に、リスク分担の難しさがうかがえる。

いつ何が起きたか 9件
筆者の見解
筆者の見解

合弁というリスク分担の残したもの

この判断の核心は、財務上の損失処理であると同時に、合弁というリスク分担の形そのものを問い直した点にあるとみられる。単独で受注した案件を合弁へ持ち込めば、損失が生じたときに責任の所在が曖昧になりやすい。分割効力発生日より前の事象は日立が、以降の事業遂行は合弁が持つという線引きは、契約の文面としては明快でも、工程の遅れが何に起因するかを事後に切り分ける作業を残していた。和解に伴う損失375,967百万円という代償は、その構造から生じた面が小さくないと推察される。

もっとも、火力を畳んでグリッドを買うという入れ替えは、脱炭素という時代の要請を先取りする賭けでもあった。発電の川上から送配電へ、二酸化炭素を出す領域から送り届ける領域へと、エネルギー主力事業を移す判断が、Hitachi Energy を軸とする今日の構成につながっている。祖業に連なる火力をあえて手放した選択が次の成長をどこまで支えるかは、Hitachi Energy が今後どれだけ稼ぎ手に育つかに映し出されていく。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
譲渡と和解の条件

譲渡と和解の条件

科目 概要 備考
分離した事業の内容 火力発電システム事業等 受取対価を分離先企業の株式のみとする吸収分割。移転損益は認識していない
事業分離日 2014年2月1日 2013年7月31日に三菱重工業と吸収分割契約を締結。同社が設立した統合会社へ承継
移転した資産・負債 資産264,339百万円・負債115,906百万円 流動資産125,730・固定資産138,608・流動負債111,577・固定負債4,328
合弁への出資比率 35.0% 三菱日立パワーシステムズの議決権所有割合。資本金は100,000百万円
南アフリカ案件の受注 2007年 Medupi及びKusile火力発電所向けボイラ建設。子会社が受注し合弁側へ移管
三菱重工業の請求額 90,779百万南アフリカランド 1ランド8.53円換算で約7,743億円。2017年7月31日に日本商事仲裁協会へ仲裁を申立て
和解の決議日 2019年12月18日 取締役会が経済合理性及び事業戦略上の観点等から決定し、同日に和解契約を締結
譲渡した持分 三菱日立パワーシステムズの全普通株式 譲渡後の所有持分は0%となり、関連会社ではなくなった
和解金 200,000百万円 MHPSアフリカ向け貸付金70,000百万円の債権譲渡額を控除した130,000百万円を支払い
和解金の支払日 2020年3月30日 貸付金70,000百万円の三菱重工業への譲渡も同日に実施
株式の譲渡に係る引当金 273,272百万円 その他の流動負債に計上し、2020年9月1日の譲渡完了にあわせて取崩
取り崩した引当金 105,041百万円 和解契約の締結前に計上していた譲渡価格調整金等に係る引当金
和解に伴う損失 375,967百万円 エネルギーセグメントで計上し、連結損益計算書のその他の費用に含まれる
売却目的保有資産への振替 333,614百万円 MHPS株式とMHPSアフリカ向け貸付金の合計。IFRS第5号の要件を満たす
株式の移転完了日 2020年9月1日 売却目的保有資産に分類していたMHPS株式263,614百万円の全部を譲渡
仲裁手続の終了 2020年9月14日 日本商事仲裁協会から手続終了の決定を受領。合弁は同日付で三菱パワーへ商号変更
分離した事業が含まれていた報告セグメント エネルギー 事業分離を行った2014年3月期の報告セグメントは電力システム

出所:日立製作所 有価証券報告書 第145期(2014年3月期)【事業分離等関係】・第149期(2018年3月期)【コミットメント及び偶発事象】・第151期(2020年3月期)・第152期(2021年3月期)【事業再編等】

持分法で会計処理されている投資と持分法による投資損益の推移

日立製作所:持分法で会計処理されている投資と持分法による投資損益の推移

(百万円) 持分法で会計処理されている投資持分法による投資損益 備考
2015年3月期 681,62346,657 IFRSの初度適用年度。移行日は2013年4月1日で、それ以前は米国会計基準
2016年3月期 676,960156
2017年3月期 691,251△47,186 米国の持分法適用会社が取り組むウラン濃縮事業の減損損失を計上
2018年3月期 743,40762,483
2019年3月期 724,461△15,016 エネルギーセグメントの持分法投資は307,057、持分法損益は△45,096
2020年3月期 480,37543,639 MHPS株式を売却目的保有資産へ振替。エネルギー分は307,057から22,819へ
2021年3月期 472,10538,864 2020年9月1日にMHPS株式263,614百万円の移転が完了
2022年3月期 411,20140,485
2023年3月期 478,62052,847
2024年3月期 816,43475,284
2025年3月期 836,23158,320
持分法で会計処理されている投資
持分法で会計処理されている投資(百万円)

出所:日立製作所 有価証券報告書 第146〜156期(連結財政状態計算書・連結損益計算書)

エネルギーセグメントの売上収益とセグメント損益

日立製作所:エネルギーセグメントの売上収益とセグメント損益

(百万円) 売上収益合計セグメント損益持分法で会計処理されている投資 備考
2019年3月期 453,997△298,041307,057 セグメント損益は受取利息及び支払利息調整後税引前当期利益(EBIT)
2020年3月期 399,254△375,78122,819 和解に伴う損失375,967をこのセグメントで計上。持分法投資は284,238減
2021年3月期 1,107,986△55,56743,546 2020年7月に日立ABBパワーグリッドを連結したことで売上収益が増加

出所:日立製作所 有価証券報告書 第150〜152期(セグメント情報)

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参考文献
出典・参考
  • 日立製作所 有価証券報告書「第151期(2020年3月期)【事業再編等】」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第152期(2021年3月期)【事業再編等】」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第149期(2018年3月期)【コミットメント及び偶発事象】」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第145期(2014年3月期)【事業分離等関係】」
  • 日立製作所 有価証券報告書「第156期(2025年3月期)【沿革】」

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